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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第四章 一、白い獣(ニ)


    **


 ――霊獣や神獣とは、こういうモノを言うのだろう。


 人や動物が持つような、利己的な面が見えない。

 野生の無感情。というよりは、神聖な何かに見える。


 真っ白な長毛。真っ赤な瞳。青銀に淡く輝く虎柄。尾は長く美しい。

 愛嬌のある美猫の容貌。だけど横顔には、すでに威厳が見え隠れしている。

 寝そべる様な姿さえも、目の前の獣からは、気品や神性を思わせる。



 ――燃える様な紅い瞳。青銀のまつ毛が、その紅さを余計に引き立てている。

(自分以外の紅い瞳って、初めて見る。確かに、何か特別なものを感じちゃうのね)

 しかも、大きな白いトラ……というよりは、美猫。



「ねえエラ。あの子、飼えないかしら」

 わたしも騎士達も、最大の警戒でピリつく中……リリアナはそう言った。

 最初、その言葉の意味が分からないくらいに緊張していたので、「えっ?」と聞き返した。



「とっても可愛いじゃない。あんな猫、飼いたかったの」

「……何言ってるんですか。こっちは次の瞬間に、死んでいてもおかしくないんですよ」

 早くガラディオに戻ってきてほしい。

 それほどひっ迫した状態だというのに、リリアナはあの大きな猫? を見て、恐ろしくないのだろうか。



「とてもじゃないけど、飼えるとは思えません」

 わたしの言葉に、騎士達も「そうですよお嬢様。もっとお下がりください」と同意している。





 ――ガラディオが来るまで、持つだろうか。

 わたしが注意を引いている間に、皆だけでも逃がせられないだろうか。


 運良く、わたしのワガママで通りやすく作った即席の道は、走りやすく逃げやすい。もちろん、ガラディオ達が追い付くのにも役立つ。

(たまには、ワガママも言ってみるものね)

 こんな事になるとは、想像していなかったけれど。



「……リリアナ、皆さんと一緒に逃げてください。ガラディオが来るまで、わたしが殿(しんがり)を務めます」

 撤退戦だ。

 ただ……アレが執拗に追いかけてくるなら、どこかで迎え撃たなくてはいけない。



「エラ。あなたを置いて逃げるなんて、出来るわけないでしょう。それに、あの子に敵意はなさそうじゃない? エサか何かで、懐いてくれないかしら」

 リリアナは、まだそんな事を言う。



「ねえ、お願いよ。あの子が懐くかどうか、少しだけ様子を見ましょう。皆もほら、そう思うでしょ?」

 騎士達に同意を求めても、アレと対峙すれば分かる。懐くかどうかじゃなくて、人類の脅威と向き合ってなお、飼うだの何だのとは、とても思えないはずだから。



「ダメです」

 きつい言い方になってしまったけれど、アレは危険過ぎる。


「し……しかし、襲ってくる気配はなさそうですね。もしも戦わずに済むのであれば、その方が賢明かと進言します」

 すぐ後ろの騎士が、緊張に声を震わせながら言った。


「……わ、私も同じく、あれに敵意を感じません。戦う以外の手段がないか、検討する意義はあるかと!」

 もう一人も、そんな事を言う。

「あなた達……状況はそんな――」



「我々も、同じ意見です。エラ様」

 後ろからも、リリアナに同意する騎士達の声が上がった。

 ――何を悠長な。



 命を失っても、彼らは同じ事が言えるのだろうか。それも、リリアナの護衛騎士ともあろう者達が。

(……どうかしてる)

 わたしが、何とかしなければいけない。



 ――まるで、瞬間的に皆が洗脳されたみたいな……。

(……みたい。ではなくて、もしかして――)

 ――アレは、獣の古代種? 


 自分自身の可愛がられ方に、違和感を覚えていたけれど……なるほど、今ここで、全てが繋がった気がする。そういう事なら、辻褄が合う!


 ――そしてアレは……アルビノではなくて、古代種なのだ。

(人を魅了するなんて、厄介な事この上ないわね)





「ね、エラ。皆もこう言ってるんだし、あの子は保護しましょう。あんなに可愛いんだもの。きっと賢くて、言う事を聞いてくれるはずよ」

 黒いトラの言った事を信じるなら、アレはまだ子どもだ。


 三メートルはある巨体なのに、まだ成獣ではない。

 今でさえ脅威だと感じているのに、成長すれば……人の手に余る。



「聞いてる? ねえエラ、あの子を連れて帰りましょう!」

 ――ガラディオが来たとしても、同じような事になっては本末転倒だ。


「……だめです。アレは……ここで殺します」

「え?」

 ――反対される前に、有無を言わさず斬る。



 殺気を出せば、アレは絶対に感付く。

(横座りでくつろいでいる今が、好機だ)

 アレは視線だけをこちらに向けて、まだわたしの意図に気付いていない。



 わたしは木の葉が揺らめき落ちるように、そよ風が吹き抜けるように、心も気配も無くして無造作に近づいた。

 微動だにしない白い獣。


(――斬った!)





 ……はずだったのに、すでに刃の間合いにソレは居なかった。

 剣の間合いから少しの距離を取って、白い獣は悠然と立っている。

(いかに野生の獣と言えど、動体視力と反射神経だけで躱せるものではないのに)


 ともかく、ばれてしまっては殺気を隠す意味はない。

「エラ、やめて!」

 その言葉を聞くわけにはいかない。

 リリアナの声に反応したのか、わたしが出した殺気に反応したのか。ソレは耳をピクリとさせた。



 ――全力で斬る。



 縦の軌道を隠して、横薙ぎの形でフェイントを入れた。

(弧月の裏!)


 打ち下ろしと打ち上げを、同時に近い速度で振る。

 その刃先の描く軌跡が、月の弧のような突進の斬撃。

 初太刀を逃げても、追従する切り上げが喉下から斬り上がる。


 

 だが、それは初動から分かっていたかのように、すぐ横に避けられてしまった。

(次も用意している!)


 岩切流、角落としの裏。

 首を狙った横薙ぎの突進二閃。裏は、首と胴を狙う。こいつは四つ足だから、目とその奥の首を斬る。

 でも、これも躱されてしまった。



 こいつは、ほんの少し下がるだけで、わたしの踏み込みの数歩分を移動できる。

(森が燃えてはいけないと思ってたけど、無理かな……最後に、捨て身の斬り込みをして、それでもダメなら翼の光で撃とう)


 翼を使った突進での、捨て身の乱れ切り。わたしの歩幅を刷り込んだ今、翼の突進力には面食らうだろう。

 ――思惑通り。

 完全に懐に、頭の下にもぐり込んだ。



「これで終わりよ」

 チチッ。という、刃先が獲物を捕らえた音がした。

(くそっ。これでも浅い!)

 斬ったのは、あれの毛先を少し。



(これも躱すの? だめね。申し訳ないけど、翼を使う)

「撃――」

 撃てと、わたしは念じたはずだった。その瞬間にあの白い獣は、光に撃ち抜かれて絶命する。

 そのはずだったのに。



 ――念じるその、ほんの一瞬前に、わたしはあれに組み敷かれていた。

 完全に地面に倒され、翼の唯一の射程外である密接状態だ。剣も、太い前足でわたしの腕ごと、柄を抑えられている。

(……うそよ)



 翼を動かして弾き飛ばしたいのに、焦り過ぎているのか上手くコントロール出来ない。羽剣も出てくれない。

(やだ。いやだ、しにたくない)



 さすがに自分が噛み砕かれるのを見ていられない。わたしは諦めて、両目を固く閉じた。

 こんな時に限って、ガラディオは側に居ない。

 いや、来る前に何とかしないとって、思ったんだった。



 ……火災なんて気にせずに、最初から撃っていればよかった。成獣でもないのに、まさかここまで強いなんて。

「エラ! やだ……」


お読みいただき、ありがとうございます。


読んで「面白い」と思って頂けたらば、ぜひとも他の人に紹介して頂いて、広めてくださると嬉しいです。

「つまらん!」という方も、こんなつまらん小説があると広めてもらえると幸いです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします。

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