表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/295

第三章 四、儚い現実 青い光(四)


「よくもまあ、毎度毎度勝手な行動が出来るもんだな」

 彼は怒っている。それはもう、怒られてもしょうがないとは思っているけれど。



「でも……でもね、リリアナに酷い怪我をさせたのよ? 許せないじゃない。それに――」

「――だからといって、護られるべきはお前もだと言っているだろうが」

 一度、お説教を全部聞いてからでないと、収まらないだろうか。そう思ったものの、こちらも言いたい事があるのだ。



「あの黒いトラは、私を狙ってたの。私が行かなきゃ、リリアナも侍女達も、駆け付けた騎士達も……みんな、殺されてたわ。だから、どうしようもなかったの」

「……はあ。状況の裏付けは後でしておこう。それでもだ。お前は、踏み込まなくてもいい所まで簡単に踏み込み過ぎだ」

 むう。と、わたしは口をつぐんだ。納得してでは、もちろんない。言っても聞いてくれないし、わたしにこれ以上、どうしろというのだと思って……つまりは、スネた。



「それより、少し回復したなら浮いてくれないか。さすがに重い」

「……失礼しちゃう」

 今、ガラディオは……翼の八十キロ以上の重さと、わたしと、そして剣の重さを抱えている。言われても仕方がないのは分かっているけれど、「重い」と言われたら少し傷つく。



「それよりも、一人で来たの?」

 ガラディオは、精鋭を率いていたはずだ。単騎で来る意味が分からなかった。


「ああ。獣達の中にトラが居たはずなのに、城壁の攻めには見なかった。それは他の場所に集めているからだろう。そして、お前が一人で獣を追いかけて行ったとあれば……繋がると思ったんだ」

「なら、なおさら……」



 どういう思考の末に、それらが繋がったのか分からなかった。わたしが獣に狙われる理由は無いはずだし、彼の勘なのか経験なのか……疲れているからそれは聞かない事にした。でも、単騎で来る理由は聞いておきたかった。


「……トラは手強くてな。精鋭達でも無傷では倒せない。数が居ればいいという問題でもない。誰かは間違いなく負傷、もしくは……死ぬ事もある。だが俺なら単騎で倒せる。だから一人で来たんだ」

 彼は、人の姿をした別の生物なのではないだろうか。精鋭達でさえ苦戦する獣を、単騎で倒せるものなのだろうか。



「今倒したトラ達で、全部だと思う?」

「お前が倒したのが四体。ここに来るまでに十体は倒したから、ほぼ全てだろう。報告でも、トラは多くて十五だと聞いている」

 なら、あいつを入れて、全部倒したのだろう。



「そうだ。黒いトラ……どうやって倒したの?」

「……まだ息はあるみたいだがな。もう動けんだろうが、止めを刺しに行くところだ」

「えっ?」



 お互いに向き合う形で抱えられているから、向かう先の黒いトラが、まだ息があるとは思っていなかった。彼が戦闘態勢を取っていないから、全て事切れているのだと。

 あいつにやられると思った時には、わたしは意識が途切れていた。だから、結局のところ何がどうなったのか分かっていなかった。



「そういえば、あなたのハルバードは? さっき、持っていなかったから焦ったのよ? 私がなんとかしなきゃ、あなたが死んじゃう。って」

 暗い上に遠目だったのに、よく視認できたと我ながら思う。



「確かに剣だけだと、危なかったかもしれん。助かったよ。まあ、それも回収しに来たんだが……まだ迂闊に近寄らん方が良さそうだな。お前も臨戦態勢を取れ」

 そう言われて、わたしはもう一度気力を振り絞った。ガラディオの後ろで、いつでも援護射撃が出来るように中空で様子を見る。いつもの布陣だ。



 ――……これをナげたのは、そのオトコか。

 頭に響く声は、弱々しかった。



 よく見ると、黒いトラの胸の辺りに、ガラディオのハルバードが深く突き刺さっている。おびただしい出血なのだろう。横たわるそいつの周りは、ぬらぬらと月の光を鈍く反射していた。

「そうみたいね。さすがのあなたも、避けられなかったのね」



 ――おマエをカれると、オゴったシュンカンをやられたようだ。

 その言葉も弱かったけれど、少し笑んでいるように聞こえた。



「エラ。何を独りで喋っている」

(そうか、彼には聞こえないんだ)

「頭に直接、響く様な声で話してくるの」



「……そうか」

 ガラディオは少し困惑しているけれど、黒いトラに敵意を感じないためか聞き流すつもりらしかった。そこから動く事なく、様子を静かに見守っている。



 ――ワレのテキよ。ドウシよ。

「……なぁに?」

 ――ワレのコらは、どうなった。



「ガラディオを襲ったトラなら、倒されたみたいよ」

 ――……そうか。

 真っ黒なその瞳が、少し潤んで光ったように見えた。



 ――ヒトツ、タノみがある。

「……なにかしら」


 ――モリのフカくに、まだコをカクしている。

「そういうの、困るわ」


 ――おマエに、ソダててホしい。

「困るってば!」



 ――ワレがコダイシュをナンドかタべたせいか、シロくウまれた。イきノコるのは、キビしい。

「あなた……やっぱり、人間を」

 ――ワレはニンゲンを、ニクんでいるからな。トウゼンだろう。だが……コは、チガう。

「だからほんとに、困るってば」



 ――おマエのチカラに、コオウしてナツくだろう。

「勝手にそんな事言われても、何もしてあげないから!」

 ――モリの、キタのハズれの、さらにフカくだ。……ネンじるだけで、デてクるだろう。



「獣なんて、飼えるわけないでしょ! あなたみたいにバカでかくなったら、どこに住まわせるのよ!」

 ――フ、フ。……タシかに、タノんだ。

「バカじゃないの? そんな事より、古代種の事とか色々教えなさいよ!」



 それは、今しがたまで確かにこちらを見ていたように思った。それなのに……その瞳からは、もう光を感じなくなった。

「エラ……死んだようだ」

 今の今まで様子を見守ってきたガラディオが、少し気遣うような声でそう告げた。



「……ガラディオ。森の北の、さらに奥に、行ってあげないとダメみたい」

「……何を話したんだ? それによる」

 馬から降りた彼は、おもむろに黒いトラに近寄りながら言った。



「信じられないかもだけど。……そこに、白いトラの子を、隠してるって」

 一瞬振り返った彼は、また視線を黒いトラに戻して、突き刺さっているハルバードに手をかけた。

「それで?」

 と、彼は問う。



「……見つけて、育てて欲しいって言われた」

 聞かなければよかったのに、どうして話を聞いてしまったんだろう。

「俺は知らんぞ。お前が決めろ。あとは、将軍の許しでも請うんだな」

 まるで、もうわたしが探しに行くと決めているような口ぶりだ。



「どうしたら、いいのかな」

「……知らん」

 彼はそんな事よりも、なかなか抜けないハルバードに集中したいようだった。



「一緒に考えてよ」

「知らんと言ってるだろうが。飼うのはお前だろう、エラ」

 これ見よがしに名前を言う。最近は「お前お前」と呼ぶくせに。



「はぁ~……。もういい。リリアナに相談する」

「そうしてくれ。これ以上、馬の上でも同じ事を聞いたら振り落としてやるからな」

 なんて冷たいんだろう。勝手な事をするから、きっとわたしの事が気に入らないのだ。



(……でも、乗せてくれるつもりでは、あるのね)

 冷たいのか、優しいのか……義務だからそう言うのか。

「……黙って乗っているから、また少し休ませてね」

 別にわたしは、おしゃべりがしたいわけではないのだから。



 本当は、もうこうして浮いているだけで、気力がごりごりと削れている。

「あぁ。黙っているなら乗せて帰ってやるさ」



 その言葉だけは、いつもの口調だった。

 ぶっきらぼうという程でもなく、怒っているわけでもない。

 彼の呆れたような声は、優しくされるよりも甘えやすくて……少しだけ気に入っている。



お読みいただきありがとうございます。

前回もブックマークありがとうございます!

相変わらず「おお!」と声が出るくらい喜んでおります!


読んで「面白い」と思って頂けたらば、ぜひとも他の人に紹介して頂いて、広めてくださると嬉しいです。

「つまらん!」という方も、こんなつまらん小説があると広めてもらえると幸いです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ