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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第三章 四、儚い現実 青い光(三)


    **


 ――さあ、もうスコしだ。もうスコしオりてコい。

「待ってって言ってるでしょ。わたしは優柔不断なの」

 ――ナニをタメラう。ワレと、オちツいてハナしアおうではないか。フ、フ。



 胡散臭い。

 その言葉に誠実さは感じられないし、どこかあざ笑っているように感じる。

(だけど、古代種の力について聞き出せるなら……)



「ねえ。古代種の事、何か教えてよ。そしたら考えてもいいわ」

 ――ドウシのタメだ。ヨいだろう。コダイシュは……ネンをウマくツカう。


「ネン? が、よく分からないわ」

 ――おマエはスデにツカっているではないか。


「どうしたら使った事になるの?」

 ――ネンをツカうと、それにコオウするものがアオくヒカる。ネンじるコトが、コダイシュにとってのチカラだ。



「青く光る……あなたの虎柄の縁が光っていたのも、そういうこと? じゃあ、あなたは古代種のトラなの?」

 ――もっとシりたければ、オリてコい。スベてオシえてやろう。

「……なら、あなたは森から出て来る事ね。フェアに行きましょう?」

 ――おマエはウエからウてるが、ワレはナニもデキん。ネラいウちするキだろう。



「しないわ。さっき撃ったのは、侍女達に酷い事をしたお仕置きだもの。今は撃たない。それにね、これ以上危ない事をしたら、私は色んな人に怒られちゃうの。きっと泣いても許してもらえないわ。だから、あなたが妥協してくれないなら、この話は終わりよ」

 ――そうか。ならば、ドウシよ。コロアいだな。

 頃合い?



(……しまった。時間を稼がれた?)

 ――もっと、おシャベりがしたかったか?

 辺りはもう、真っ暗になっている。月は出ているけど、あんなに真っ黒なトラを目視するのは不可能だ。



『緊急回避』

 ぐん。と、意図しない方向に急加速されて眩暈が酷くなった。同時に、びゅう。と、大きな風切り音がした。おそらく大木が近くを飛んで行ったのだ。

 先程の斉射で、気力がごっそりと持っていかれたわたしには、もう闇雲に光線を撃つ事が出来ない。かといって、このままでは逃げる事しか出来ない。



「……森から出て来ないなら、森ごと焼き尽くしてやるけど。どうする?」

 ――やってみるがヨい。ワレはコマらんからな。


 まだ、近くには居るようだ。

『緊急回避』

 ぎゅうっと、脳が頭蓋骨の中で振り回されるような感覚が、何度か続いた。ごうごうと、巨木が何本も飛ばされてきたのが分かった。

(こっちは青く光ってるから、いい的になってる)



 かといって、適当に飛び回って動きを読まれたら、逆に回避が難しくなる。

 ここは、一旦引いた方がいいのかもしれない。そう思った矢先だった。

 ――ごぅるルるるルルアアア!

 頭の中の全てが、その咆哮に震えた。



 一瞬、意識が途切れたのが分かる。体の感覚が一度消えたからだ。そして今は、自由落下のどうしようもない加速とその風切り音を、体全部に受けている。

 ――もらったぞ。そのイノチ。



(ああ、今のは、あいつのとっておきの技だったんだ……やられちゃったなぁ……)

 きっともうすぐ、あのとてつもなく太い前足で、その爪で、わたしを仕留めるのだ。

(リリアナ。ごめんなさい)





『動力途絶。補助動力に切り替え、飛来物直撃に備え防御翼展開』

 アナウンスは、途中まで風切り音で聞き取れなかった。


「させるかああああああ!」

 これは、ガラディオの怒った声だ。

 ――ぐぶっ……。

 あいつの、頭に直接響く声は、何か重い液体が弾けたような、不快な音だった。



 それとほぼ同時に、がぎゃっ、という衝撃音と共に弾き飛ばされた感覚がした。

 戻りかけていた意識が、もう一度飛んだ。



「エラあああああ! 聞こえないのか! 飛べええええええ!」

 前にも、こんな事があった気がする。でも、今は真っ暗で、上も下も分からない。

「一丁前に諦めてんじゃねえぞ!」



 ……いつも、優しくないガラディオ。

 わたしは、褒められた方が……出来る子だと思うのに。

「くそガキがああああ!」

(――それは、あんまりだと思う)



『自動制御機能復元。予備動力、残量危険域。落下軽減アシストに切り替え』

 意識が、戻ったのだと思う。

 状況は理解しているつもりだった。翼のアナウンスも聞こえてはいた。



(落ちてる? これは――)

 重力を感じる事は出来ないけれど、落下している方向は、体が受けている風のお陰で分かった。

「浮け、飛べ、落ちないで……!」

 すーっと、空中で安定した事だけは分かった。ただそれが、浮いているのか、どの方向かに飛んでいるのかまでは分からなかった。



「てめぇ! 心配ばっかりさせやがって!」

 ガラの悪い言葉でわたしに叫んでいるのは、ガラディオだ。

 いや、呑気に彼を嫌がっている場合ではない。まだ、あいつを倒していないのに。



「どこなの?」

 知らずと声を出していた。

 先程聞こえた方向を見ると、うっすらと騎馬が一騎、暗闇の中でも見えたような気がした。

 その周囲に、うごめく影が数体。わたしは中空から見下ろす形だからこそ、弱い月明かりに浮かぶ黄色い獣が見えた気がした。



「ガラディオ! 敵です!」

 勘違いならそれでいい。でも、今は獣の軍に攻められている最中だ。どこにどんな獣が潜んでいてもおかしくはない。

「――なにっ?」



 彼は、私に集中し過ぎて、その影の存在に気付くのが遅れたのだ。

(ハルバードを持ってないの?)

 彼の陰影なら、長い槍斧――ハルバードが目立つはずなのに。それはどんなに目を凝らしても、見当たらなかった。



「――撃て。撃て撃て撃て!」

 無意識だった。わたしに出来うる事は何かと、揺れ続ける脳をフル回転させて、なんとか導き出した意味ある行動。



 青い光が幾筋も、ガラディオの体ぎりぎりに走った。その周囲にも。

 ぎゃう。があっ。という短い断末魔が聞こえた。

「ガラディオに当たったわけじゃ……ないですよね?」



 眩暈は治まっていない。それどころか、酷くなっている。頭も痛い。こんな状態で光線を撃っても、翼は自動で照準を合わせてくれるのか不安だった。

「……あぁ。……助けられたな」

 良かった。



 だからか、ガラディオは警戒を解いているようだった。

 姿はおぼろげにしか見えないけれど、大きな彼の、鎧姿のシルエットが分かる。そこには、戦陣に居るような覇気はない。

「もう、敵は居ないのですか?」



 目が霞む。だから、敵が他にいないのか、あいつ――黒いトラは逃げたのか、わたしには分からない。

「もう大丈夫そうだ。一応、警戒はしておくが」


 それなら……。

「うけ、とめて」

 気力はもう、限界だった。



 答えなど聞かずに、彼の胸へと飛び込んだ。ただ両手を広げて。

 しがみつけばもう、後は彼が上手く抱えてくれるだろう。

 



お読み頂き、ありがとうございます。

またもやブックマークを頂戴しまして、ありがとうございます!

複数増えたのが信じられなくて、しばらく思考停止していました(笑)

これからも頑張ります。


そしていつもの。

読んで「面白い」と思って頂けたらば、ぜひとも他の人に紹介して頂いて、広めてくださると嬉しいです。

「つまらん!」という方も、こんなつまらん小説があると広めてもらえると幸いです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします。

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