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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第三章 四、儚い現実 青い光(二)


    **


「森に入るのを、黙って見ているわけないのよ。ごめんね」

 後ろから撃つからといって、躊躇(ためら)ってあげない。


 全力で斉射する。この次を考えている余裕はないのだから。今のわたしには、早期決着あるのみ。翼が持つ五十門の全てが、光の曲線を打ち出して黒いトラを追った。

 眩暈と吐き気は、まだ治まっていない。夕闇と森林に紛れられたら、勝ち目がさらに薄くなる。



「……倒せたかな?」

 この力に頼れば、普通なら無傷で勝てる。

 だから、この嫌な予感も、胸騒ぎも、杞憂でありますように。



 でも、森林が所々、揺らめいたように見えた。

 眩暈のせいだと思いたい。

 ――ズイブンと、ヒキョウなテをツカうじゃないか。



 頭に、痛みと共に響くのはトラの声だ。

「生きているんだ……ここで喋って、トラに聞こえるのかしら」

 ――おマエもネンじるといい。そうすれば、もっとキこえる。



「あら。テレパシーでも使えるっていうの? 超能力使いだったのね。そういうの、ありなんだ」

 ――おマエもツカっているくせに、ナニをイう。

(私も、使っている?)

「妙な事を……」



 ――コダイシュは、ミナツカっていたぞ。そうか、おマエはオソわらなかったのか。だから、ニンゲンとナカヨしなのだな。フ、フ。

「獣のあなたに、古代種について語られるなんてね」



 どこに隠れたのかを、妙な会話に付き合わされながら探しているけど見つからない。このまま上から見ていても、逃がしてしまうかもしれない。

 ――ワレのナカマになれば、オシえてやろうか。

 そんな事を言われるとは思いもよらず、中空に止まってしまった。



(そもそも、どうして人間の言葉を喋れるんだか……)

『高速飛行物接近、緊急回避』

 そのアナウンスが聞こえる最中、すでにその回避が始まっていて、視界がぐにゃりと歪んだ。



「うぅ」

 保護機能はどこにいったのか、眩暈がさらにさらに加算された。

 だが、そうしなければ、大木に体を吹き飛ばされていたかもしれない。横をすり抜けていったのは、生身で当たれば即死の、大きな木だった。



 ――イマのをヨけるか。ヤッカイだな、それは。

「そっちも不意打ちじゃないのよ! 森から出なさいよ卑怯者!」

 ――フ、フ。サキにしたのは、おマエだ。



 まるで楽しんでいるかのような言葉に、人間味を感じて気持ちが悪い。相対しているのは、果たしてトラ型の人間なのか、人間だった獣なのか。

 あいつは、わたしの目の前では誰も殺していない。もしかして……と、ありえないだろう事を考えてしまった。

 でも、もしもそうなら、無理に戦う必要はないのかもしれない。



「ねえ。あなた、人間を襲った事はあるの?」

 ……聞かなければよかった。どう答えようとも、それが真実である保証はないのだから。


 ――ナい。とイったら、おマエはタタカいをヤめるのか。

「……もし本当なら、あなたがこちら側に、仲間になればいいじゃない」

 ――フ、フ。……フハハハハハ!



「あまり大きな声を出さないで! その念の声は頭が痛いのよ!」

 殴られたのかという程の頭痛に、つい怒鳴ってしまった。

 ――そうだな、カンガえてもヨいぞ。



「え。本当に?」

 こんなに強い獣と戦うよりは、仲間にしてしまった方が、逆に心強いのではないだろうか。

 ――だが、ワレはタイショクカンだ。イチド、それでスてられたコトがある。



「飼われていた事があるの? だから言葉が分かるの?」

 純粋な興味なのか、負けたくないから仲間にしたいのか。詐欺師的な語り口調のそいつに――その言葉は真実ではないだろうという違和感の中にいるのに、聞いてしまった。



 人は、弱気な時にこそ、ずるずると悪い方へと流されやすい。

(……こいつは、きっと人類の敵でしかない。気を、強く持たないと…………)



 ――そうだな。どこでオボえたのか。それよりも、ハナシをするならば、オりてきてハナそうじゃないか。ムかいアえば、よりワかりアえるだろう。

 これはまるで、本当に人間のようにしか思えない。



(どう見ても、トラの獣だった。ありえない。人を人と思わない動きは、見ているはずなのに)

 信じていいのか。

 信じたフリをして、近付いて撃ち抜くべきではないのか。



 ……分からない。

 ――マヨっているのか。ワレラはドウシかもしれないぞ。ハラをミせてネコロんでやればシンじるなら、してやろうぞ。

「……そういう未来があるなら、信じてみたいわ」



 対艦ミサイルに耐えるという翼を信じるなら、降りても負けはしないように思う。嘘なら、また上空に逃げればいい。

 ――さあ、クるがヨい。おマエがオりたトコロに、イってやろう。



 言葉をどうやって手にしたのか。

 軍勢を作ってまで襲ってきたのに、簡単にこちら側に付くのだろうか。

 人を襲った事が無いというのは、軍勢で襲ってきた時点であり得ない嘘に他ならないはず。



 ……それなのに。

 トラの言葉を、信じてみたいと思うのは、甘すぎるだろうか。

 翼と剣の力を、過信して判断がおかしくなっているのだろうか。

「少し……考えさせて」





    **


 一方、正門である城壁南は、激戦の最中にあった。


 獣達は総攻撃を仕掛け、オオカミの群れは一部、城壁の上端に届く勢いだった。

 クマは城壁を壊せないと割り切ったのか、オオカミ達の足場になっている。中には、オオカミを放り投げて城壁の中へと突入させている知恵者のクマも居る。



 城壁内。住民の避難済みの街では、時折降ってくるオオカミを、弓矢と弩弓で冷静に排除している。だが、城壁は大混戦であった。

 幾人かは死亡し、多数が重傷を負い、どんどん兵達が入れ替わっては、厳しい戦いを何とか制していた。



 早く制圧してしまいたい所だが、まだ城門を開いて突撃するタイミングではない。

 城壁の優位性を確保し続けていられるうちは、城門は軽々に開くべきではない。



「これが一番じれったいぜ……」

 城門のすぐ内側では、ガラディオが精鋭二百騎を率いて待機していた。それ以上の精鋭は割けないのと、他の雑兵が居ても死傷者を増やすだけだからだ。雑兵を盾に使う国もあるかもしれないが、それは口減らしすべき人口がある時だけだ。



 それに、状況を見誤っていなければ、この数で十分に制圧できるはずだった。

「もう少し獣の数を減らせば、出て頂けます!」

 伝令が頻繁に報告に来る。



 その伝は、『まだ待機』から、今の言葉に変わった。本当にもうすぐ出撃出来る。

「野郎ども! 俺達が出るからには、一匹残らず蹴散らすのが絶対条件だ! 俺に続けば何も問題はない! 俺に続け!」



 ガラディオが檄を飛ばしたその瞬間に、『ドンドンドンドン! ドンドンドン!』という出撃合図の太鼓が鳴った。

「武器を構えろ! 出撃!」



 飾り気のない言葉だが、ガラディオの部隊にとっては、いつものこの言葉こそが格別だった。

 それは、いつもと同じように出撃して、同じように帰還できる事を意味するからで、他の言葉は何も必要なかった。

『おおおおおおおおおおおおおお!』



 ガラディオが選んだ部隊は、精鋭の中の精鋭だった。士気も練度も非常に高い。

 その鬨の声は、大型のオオカミもクマも、獣達の全てが怯むほどの覇気を伴っていた。



「行くぞぉぉ!」

『うおおおおおおおおおおお!』

 それは、とても二百騎だけの勢いとは思えない程の、凄まじい突撃だった。



 五メートルを超える獣だろうと、建物ほどの巨大なクマだろうと、頭を削り取られ、足元から切り落とされ、「その騎兵の波」に触れた獣達は皆、肉塊に変わった。

 残酷とも凄惨とも見える一方的過ぎた戦闘は、瞬く間に獣達を全滅させた。



 先陣を切ったガラディオは、返り血を浴びない斬り方まで試した程に一方的だった。

「隊長……その斬り方、私に全部かかるんですけど……」

 二番手の騎士は、馬も自身も血でべとべとの姿でガラディオに具申した。もとい、クレームをつけた。



「あぁ~……。すまん」

 そのような戯言を、帰還中に言えるくらいの大勝利だった。

「お前は戻ったら、先に風呂に入る事を許可する。残りは……戻ったら怪我人の応急手当を手伝え! その次は破壊された場所の把握!」

『はっ!』



 戦闘だけをしていれば良いわけでは無い。事後処理まで全て行う。特に、王都近郊は破壊が酷いという。復興できるまで、何カ月掛かるだろうか。



「報告! 隊長、エラ様が先程、単騎で東の門上空から出撃されました!」

 それを聞いたガラディオは、全身から血の気が引いた。

「い、いつだ! 正確に!」



「つい! つい先ほどです! 城壁を一足で飛び越えたトラの獣を、追って行かれました!」

「くそっ! あのバカ野郎が!」

 そう吐き捨て、ガラディオは馬を急旋回させると同時に走らせて城門を出た。



 彼は、この戦いはまだ終わっていないと、ずっと考えていた。

 その考えの終着点が、これに違いない。

 部隊への指示は殆ど終わっていたとはいえ、何も言わずに飛び出したのは隊長らしからぬ事だった。

 が、それほどの危機的状況に、エラが陥っている可能性があると考えると、気が気ではなかった。



「獣を率いていたボスが居ない。それを、あいつが相手をしているに違いない」

 彼の勘は当たっていた。

 それ以外に考えられないと、確信を持っていた。

 疲れているのは分かっているが、馬に全速力を出させ、東の森へと飛ばした。



「甘い事考えてんじゃねぇぞ、嬢ちゃん」

 あの甘ったれの小娘は、絶対に他の事に気を取られて戦況を見誤る。と、彼は危惧していた。



 他にも脇の甘い所が沢山ある。教え切れていない事が山ほどある。それなのに一人で出撃するなど、死と隣り合わせの地獄行きに他ならない。

「急げ! 急げ! 急げ!」

 馬に、自分に、急げと念を込めるしか出来ないもどかしさの中、ガラディオは森へと馬を走らせ続けた。



お読みいただき、ありがとうございます。

前回投稿もブックマーク頂戴しまして、ありがとうございます。案外もらえないのですよね。

なので、もらえると「うぉ!」と、驚きで声が出ます(笑) そして喜びます。


読んで「面白い」と思って頂けたらば、ぜひとも他の人に紹介して頂いて、広めてくださると嬉しいです。

「つまらん!」という方も、こんなつまらん小説があると広めてもらえると幸いです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします。

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