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第一章 三、明日に繋がる糧(三)



   **



 そうして案内された湯殿は、広いお屋敷の一階にあった。


 単純にお屋敷が広いというだけではなく、細い通路を何度も曲がるものだから、方向が分からなくなってしまった。


 一回で覚えられる道順では無い。



「こんなに入り組んでるんですか? 道が分からなくなりました」


「そうなんですよ。一応、安心して入れるようにと、突然の敵襲にも備えて分かりにくくしてあるようです。私も最初は驚きました」


 シロエでも驚くのか。


 と、そこに驚いたが、本当に入り組んでいる。


 ダミーの行き止まり通路まで作ってあるという入念ぶりだ。



「さぁ、こちらですよ」


 そこには、頑丈そうな鉄扉があった。


 旅館の中の浴場のような、暖簾のある入り口を思い描いていたが、全く違った。


 入ると、竹材の敷物などではなく、見るからに高級なフカフカの絨毯が敷かれていた。


 脱衣所ではあるが、日本の銭湯や浴場とは大きく違っている。


「すごい……」



 とにかく、浴場でさえ豪華だ。


 そういえば、地球でもお風呂の床材が絨毯だという国があったように思う。


 乾燥しているから、普通に乾くのだそうだ。


 という事は、ここもかなり乾燥しているのだろう。


 気候を全く気にしていなかったというか、そこまで気が回っていなかった。



 入り口の鉄扉から絨毯までは数メートルのスペースがある。


 一段低くなっていて、椅子もいくつか置いてある。


 そこで靴や上着、コート類を脱ぐのだろう。シューズクロークだ。


(もしくは、侍女や執事に脱ぎ着させるスペースなんだろう)


 オレは履いていたミュールを脱ぎ、シューズボックスに置いた。


 ドキドキしながら踏みしめた絨毯は、見た目通りにフカフカで気持ちがいい。



「お一人で入られてはダメですよ?」


 ワンピースを脱ぎ始めた所で、シロエが言った。


「脱ぐのもお手伝いしますし、何よりも転倒するかもしれませんので、私もご一緒しますからお待ちください」



 シロエもブーツを脱いでおり、そしてエプロンを外して、いそいそとメイド服の腰帯を外し始めたところで、オレは慌てて声を掛けた。


「ストップ! 私……オレと一緒に入るんですか? 普通にダメですよ。ダメです」



「あ、またオレなどと仰って。エラ様はエラ様ですから、そういう事は気になさらないでください。それよりも、もしもの事があったら、私は一緒に入らなかった事を一生後悔します」


 一生ときたか。


「それは……たしかに、そうかもですけど。心の準備が……」



「心の準備をしながらで結構ですから、お待ちください」


 シロエは、お風呂の中が意外と危険な事を分かっているのだろう。オレが転倒などで何かあってはならないと、本気で心配しているのだ。


 とは言え、心の準備はどのようにしたら良いのだろうか。



「こ、興奮すると良くないので、シロエは何か羽織ってください。タオルとか無いんですか?」


「タオルは体を洗ったり、拭いたりするために使うんですよ。体を隠すために使うものではありません」


 星が違っても、銭湯や温泉に入るマナーは同じなのか。などと感慨にふけりかけていると、シロエの脱衣が終わってしまった。



 とても形の良い大きな胸に、目が釘付けになる。今のこの小さな手では、両手で片方の胸を包むことさえ出来ないだろう。


 しかし、男の時のような、舞い上がったり昂ったりといった、劣情が何も湧きあがらなかった。


 触ってみたいという好奇心はあるが、下心はどこへ行ってしまったのだろうか。


 それよりも、漠然とした敗北感のような、悲しい気持ちが胸の奥でくすぶっている。



「エラ様、そんなに見られると、さすがに少し恥ずかしいです」


 その奥ゆかしいセリフにも、ただただこちらも恥ずかしさを覚えるだけだった。


「す……すみません」



 オレは、何かを超越したのだろうか。精神がかき乱されない。


 美女の裸を見ても、心の水面(みなも)はほとんど波打っていないのだ。


「あ、あれ……」


「どうかしましたか? そろそろ中に入りましょう」


 そう言ってシロエはオレの手を取り、一緒に中に入ったのだった。



「エラ様、お風呂ですよ? さっきまで嬉しそうにされていたのに……気分がすぐれませんか?」


 シロエは屈んで、オレの顔をじっと見つめた。


「あ。エラ様もしかして、エッチな事を考えようとして、意外と何も感じなくて驚いているんですか?」


(思考が筒抜けている……?)



「いや……だって私、中身は男なのに……ここまで何も感じないなんて、どういう事なんでしょう。頭がおかしくなってしまったんじゃ……」


 フフフフフ。と、笑いを堪え切れないシロエは、笑顔のままふわりと抱きしめてくれた。


「えぇ?」


(なぜ抱きしめる?)



「おかしな事なんて無いですよ? だって、エラ様はエラ様だと言ったじゃないですか。そもそも、そのお姿で変態オヤジみたいな反応をする方がおかしいです。あまり悩まずに、そういうものなのかな~と、まずは受け止めてみてはいかがでしょう」



 受け止めきれないような現実の連続で、今は今で、美女に、それも裸で抱きしめられている。


 それを、そういうものなのかなぁと、何をどう受け止めれば良いのだろうか。


 自分の中では興奮待った無しの状況であるにも関わらず、頭もクリアなら心は凪いで居る。


 オレは、ついにストレスで不能になってしまったのではないだろうか。



「あの~? エラ様? 本当に大丈夫ですか? 体調が良くないならお風呂は止めておきましょう」


 お風呂を……やめる?


「いやです。お風呂には入ります」



 ここでようやく、意志がひとつに定まったような気がした。


 そう、オレはお風呂に入りたかったからここに来たのだ。


 予期せぬ混浴に混乱している場合ではない。


「うん。早く入ろう」



 そうして気を取り直し、未だ抱き付いているシロエを引き剥がして、浴場内を見渡した。


 全体的に丸いホールのような空間になっている。


 洗い場は数人が大の字に寝ても余裕があるくらいに、広く造ってある。


 洗い場も湯船も、オフホワイトの大理石で造られているようだ。


 壁から天井にかけてのドーム状の素材も、同じ大理石だろうか。


 湯船は一番奥にある。

 見た感じでは、大人が五人以上入っても、ゆったりと出来る広さがある。



「では、あちらで洗いましょうね」


 キョロキョロと観察しながら、シロエに手を引かれて湯船の前まで歩いた。まるで子供のようだ。


 床材も大理石だからひんやりとするかと思ったが、温度を感じなかった。


 つまり床の大理石は、体温ほどに温められているのだ。



「はい。それじゃあ掛け湯をいたしましょうね」


「掛け湯も同じなんだ?」


 こうした公衆文化が一致するのは、何とも感慨深いものがある。



「チキュウのお風呂もこのようにするのですか? 奇遇ですねぇ。はい、掛けますよ~」


 ザバーッと、シロエはオレの足もとにお湯を掛けた。


 お湯は熱い程ではなく、少し長湯できそうな温度らしい。


 掛けられたお湯が流れて熱を失うと、体温維持をお湯に頼ろうとするかのように、もっと掛けて欲しいという欲求が湧きあがる。


  

「きもちいい……。シロエ、もっと掛けて」


 妹が姉に甘えるかのように、自然とおねだりをしていた。


「ウフフ。そんな風に甘えて頂けると、シロエは嬉しくなってしまいます。それでは、少しずつ慣らしましょうね」


 そう言って、膝、腰、背中と来て、肩腕、そうして肩から前に流れるように、オレの体を撫でながら掛けてくれた。


 お湯の掛け方ひとつでも、慈しみを感じる。



「はぁぁ……。シロエは掛け湯も上手なんだね」


 なぜか、この場で甘える事に抵抗を感じなくなっていた。


「お褒めに預かり光栄です。さあエラ様、次は頭からお掛けしますよぉ」


 シロエもまんざらでもないような、いつもにも負けないくらいの優しい笑顔でいる。


「目をつむってからにしてね?」


 不思議と、今この少女の姿に似つかわしい話し方が、自然と出ていた。



(精神が退行してしまったかのようだ。でも、それも良いのかもしれない……)


 お湯の力だろうか、温もりで心がリラックスして、細かい事はもはやどうでも良いという気分になっていた。


「エラ様、準備は良いですか? いきますよ~」



 頭からお湯を浴びるのは、お湯が目や鼻にさえ入らなければ、これもまた何とも言えない心地よさがある。


 それも、何日ぶりだろうというお風呂なのだ。気持ち良い以外に無い。


「はぁ……」


 気持ちよさに、何度目かの息がもれた。



 たったひとつ気になるのは、前に流れてきた長い髪だ。


 顔に張り付くそれを無造作にかき上げようとすると、長髪にしたことのないオレは、上手く出来ずに髪が絡まりそうになっていた。


「あらあら、エラ様少しお待ちください。こうして、横から持って来るんですよ。いきなり上には上げないのです」


 なるほど、そのようにするのか。



「それじゃあ、このまま頭を洗ってしまいましょう。こちらにお掛けください。ここは貴族のお風呂だけあって、シャンプーがありますからスッキリしますよ」


(至れり尽くせりだ……)



 もはやシロエの言うままに、なされるままに髪も体も洗ってもらった。


 ほとんど目を閉じていた。気持ちが良いのと、そして、お湯が目に入らないようにと。


 それにしても、あまりシロエに甘えていると、怠惰に落ちてしまいそうだ。


「さあ、洗い終わりましたよ。もう目を開けて頂いても大丈夫です」


 極楽だった。控えめに言っても。



「……ありがとう。シロエ。私、ダメな人間になりそうです」


「フフフ、それじゃあ体が冷えないように、湯船に入っていてくださいね。私も体を洗ってしまいますので」


 はぁい。と、気の抜けた返事をして湯船に入った。



 深さは、手前が座った時の胸元ほどで、足をのびのびと伸ばせるくらい続いている。


 その先はたぶん、もう一段深くなっているのだろう。


 背を向けてもたれていた姿勢を、何となくシロエの顔が見たくて、湯の中で体ごと横を向いた。


 側ではシロエが、にこやかにこちらを見ながら体を洗っていた。



 シロエの持つ曲線美は、見とれてしまうほどだった。


 所々が泡で隠れていて、男であれば余計に淫靡に映る事だろう。


 しかし今は、その四肢の無駄のない綺麗なラインと、腰のくびれを際立たせる胸とおしりの丸みと……つまるところ全てに、ただただ目を奪われていた。



「エラ様? そんなに見たいですか?」


 少し困ったような表情のシロエは、しかし優しく問いかけてくれた。


「あ。いえ。違うんです。そういうのとは。ただ……綺麗だなぁと見とれていたというか。でも気持ち悪かったですよね。すみません」


 言われてみれば申し訳ない事をしていたと、急に自覚した。


 目を伏せて、自分の無遠慮さに恥ずかしくなった。



「ええ、分かっていますよ。男性に見られている時のような、不快な視線ではありませんでしたから。ご自身の体と、比較もしてみたいでしょうし。そういう感じで眺めていらしたのでは?」


 シロエにはお詫びも感謝もしきれない。なぜここまで信頼してくれるのか。


 ここまで理解を示された事が、オレに今まであっただろうかと思うのも、もはや何度目だろうか。



「ありがとうシロエ。確かに、自分の胸のサイズとか、少し気になっていました。言われて初めて気付くレベルのものだけど、やっぱり、大きい方が強い。みたいな気持ちになりました。でも、シロエが本当に綺麗なので、見とれていました」



 信頼には、本音で応えるしかない。


 そして、最初にシロエの裸を見てしまった時から、胸中が何かモヤっとした事も思い出していた。


 オレは男なのに、胸の大きさで敗北感を覚えていたことが気に入らなかった。


 この思考は一体何なのか、正直なところ自分でも理解出来ずにいる。



「困りましたね。お嬢様にも、この胸では勝ってしまっていますので、妬まれるんです。エラ様の事も敗北させてしまいましたか」


 シロエは少しばかり、作ったドヤ顔でオレを挑発してきた。冗談で和ませてくれているのだ。


「シロエには敵わないですね。でも、ほんとはそこで張り合いたくないんですけどね……」


「でも、張り合ってしまうのが女子の宿命ですよ、エラ様」



 などと言い合っていると、入り口からもう一人入ってきた。


「誰が妬んでるですって? しかもこんな子供をいじめて。やっぱり悪い子ねシロエは」


 リリアナだった。


 お風呂場でも、堂々としている様はさすがと感じさせられるが、やはり女性が肌を晒している事に恥ずかしくなってしまう。



「リリアナ、少しは隠してください……というか、リリアナも来るなんてびっくりです」


 リリアナは金髪を後ろに結わえて、タオルを手に持って腕組みをしていた。


 シロエよりも少し小さな胸を、組んだ腕で持ち上げるようにして堂々と立っている。


 くびれはリリアナの方が細く引き締まっているようだ。


 腕を組んでいるので、タオルは腰の横で垂れており、どこも隠していない。


 そういえば、下腹部……つまり大切な部位に、毛が無い。


 シロエも無かったように思う。そういう風にする文化なのだろうか。



 ともかく、オレの事など本当に何とも思っていないのだろう。


 その方が助かるのだが、何とも形容しがたい不思議な気持ちになってしまう。


 自分という存在が、他者の認識とズレがある事は、確かにシロエの言うように『受け入れていくしかない』のかもしれないが。



「エラ! あなたはまだ成長するんだから、いつかシロエなんて負かしてやるのよ。まあ、私も形の良さは負けていないけど」


 そこは本当に張り合っていきたくないのだが……でも、どうせなら大きめな方が良いなという好みが、対抗心を煽られてしまうようだった。


「そ、そうですね。私もきっと、シロエくらいにはなってみせます!」


「その調子よ。大きいってだけで、こういう場所で偉そうにするんだから」


 なまいきよ。と、ライバル心むき出しのリリアナも珍しい。



「フフフ。私は形も綺麗なのが自慢なんですよ。よくご覧くださいな」


 シロエも……意外と本気で張り合っているのだろうか。まさか、先程の挑発も、勝者としての煽りだったのだろうか。


 だが真意は分かりそうもない。


「あの……恥ずかしいついでにお聞きしたいのですが」



「ちょっと、そこで水を差されるとほんとに情けなくなるからやめてよ」


「エラ様も毒を吐けるようになったのですねぇ。素晴らしいです」


 そう言われて、ヒヤリと肝が冷えた。


 リリアナは少し拗ねたように、シロエは少し嫌味を込めて言ったようだった。


 言葉選びは慎重にしないと、敵を作りかねない。 



「そ、そうではなくて、私がお二人の裸を見てしまっているのが、です。すみません」


 二人は、ふ~ん? とでも言っているような冷ややかな目をしている。


「あの……そこの毛って、処理するのが普通なんですか? 私もそのうちするんでしょうか」


 どうせ恥ずかしいついでだからと、開き直って聞いてみた。



「ん? そこの毛って、どこの毛? 髪を結っておくこと?」


 リリアナが不思議そうに聞き返す。シロエも首を傾げている。


「えっと……」


 あえて言葉にするのは余計に恥ずかしい。そう思って、立ち上がって自分の体で指し示した。



「こ、ここです。股間の毛って、剃るのが普通なんですか?」


 しかし二人は揃って、不思議そうな顔をしている。


 そして、少し考えるようにしてリリアナは言った。


「もしかして、チキュウの人間には生えるものなの? そんな所に?」



「え。もしかして生えないんですか? ひょっとして、脇もですか?」


「脇も? そんなの初めて聞いたわ。でもそういえば、パパの下の方は生えていた気がするわね。小さい頃はこうして、ママも一緒に三人で入っていたのよ。その時に見たのが、確かに毛があったような気がするわね」



「という事は、女性は生えなくて、男性には生えている?」


「たぶんそうね。ママにも無かったし、そんなの気にしたこともなかったわね」


 もしかすると他にも、人体の構造や何かで、仕様の違いがあるのかもしれない。


「シロエ、あなたは他に誰かの裸って見たことある?」


 リリアナも興味が湧いたようだ。



「私も、物心ついた頃にはお嬢様のお付きになっていましたし……見た事がありませんね。こういうものだと思い込んでいました。他のメイド達と一緒に入る機会もありましたけど、特に体を見るような事をしなかったので、記憶に無いですね。胸の競い合いはいつもの事ですが」


「……そうなんですね。でも、こちらの人と体の構造が違っても、不思議ではないですもんね。あ、そういえば、こんな事をお聞きするのも心苦しいのですが……」



「もう、いちいち改まらなくてもいいわよ。私達しか居ないんだから、何でも聞きたい事を聞いていいの。というか、エラは誰に何を聞いても、たぶん怒られたりしないわよ?」


 どうしてそんなに気にするの? とでも言いたそうな、不思議な顔をしている。


 しかし、オレなら何を聞いても怒られないというのは、子供だからだろうか?



「そう……なんでしょうか。えと、それでは質問なのですが……その、生理って、はじまったらどうしたら良いんでしょう? なにぶん、あるというのを知っているだけで、何をどうすれば良いのかははっきり知らなくて……」


 こういう事を聞くのは、オレには本当に勇気が必要だ。


 だが、後になって慌てたくないので根性で質問をした。


 実際、それ用の品物があれば良いのだが。



「せいり……って、何? そっちでは何かが始まるとどうにかなるの?」


 意外な質問返しが来たので、一瞬、思考がフリーズしてしまった。用語が違うだけなのだろうか?


「えっと、その、女性が妊娠可能になった証拠として、股間から血が出るアレです」


 何だか、男が何に興味を持って女性に聞いているのやらと、罪悪感のようなものが胸に刺さる。


「えっと……そういう血が出るような事って、病気ではないの?」


 なぜか話が噛み合わない。



「妊娠出来る体に成熟した証みたいなものですが、その時、出血しますよね?」


「……しないわ。そんなの怖いわよ。しかも股間からでしょ? ありえないわ。そんなのすぐに医者に診せるべき事よ。臓器が傷んでるって事よね」


 もしかして、この星の女性には生理が無いのだろうか?



「地球では、女性の体が成熟した証に、月に一度くらいの間隔で子宮という臓器の内膜が剥がれて、出血をします。そうして、子宮の内膜を新しくするという機能があるんです。その内膜の排出に、剥がれた時の出血がそのまま、股間から出てくるのです。この星の女性には、こうした月経というものは無いのでしょうか」



 大まかには合っているはずだ。


 そして、授業っぽくなったお陰で、恥ずかしさや罪悪感は無くなった。


 これが本当に無いのだとしたら……助かる。


「体について詳しいのね。でもこの星では、そうした体質の人さえ居ないわ。もしも出血するのなら、それは何かの病気か損傷だと思う」


 やはり、なさそうだ。



「とすると、地球の女性だけがそうした生態のようですね。安心しました。私もそうなるのかと思ったものですから」


「大変なのねぇ。チキュウ生まれでなくて良かったと思ってしまったわ。ごめんなさい」


 リリアナはやはり、こういう時に執政者の顔をするのだ。


 誰が悪いわけでも無いのに、他人事にも悲しい顔をして謝る。



「リリアナが謝るような事じゃないのに。変な事を質問したせいですみません。私もそうでなくて良かったと思ったので、同罪ですね」


 変な空気にしてしまったが、オレとしてはこれでひとつ、命拾いをしたようなものだ。


 これ以上、体調不良を毎月抱えるような事にはなりたくなかったのだ。


(地球の女性たちには申し訳ないような気もするが、悪く思わないでくれ。これでも、今生きていく事だけでも必死なんだ)



「――難しいお話は終わりましたか? さあさあ、エラ様もお嬢様も、そろそろゆっくりと湯船に浸かりましょう」


 確かに、座って体を洗いながら聞いていたシロエはともかく、リリアナもオレも話に夢中になって立ちっぱなしだった。


 気を取りなおして湯船に浸かり、リリアナはシロエに体を洗ってもらって、そして隣に入ってきた。


 シロエもオレの隣に入り、オレを挟んで横並びになると、三人とも足を伸ばしてくつろいだ。



 長湯出来る温度なのがとても良い。


 心地よい湯船の中で、本当にゆったりとした心地を味わえる。


 緩やかに温められた血液が、体の隅々、脳の細部にまで行き渡るかのようだ。


 その血流を介して、全身がひとつに溶け込むようでもある。



「体に、意識がはっきりと(めぐ)るみたいです……」


 不意に、意図せず言葉が漏れた。


 言葉に出さずにはいられなかったのかもしれない。


 体が勝手に発したのだと錯覚するほどに、自らの意志無く声が漏れていた。


「エラ。ここのお風呂気に入った?」


 そうでしょう。とでも言わんばかりの、確信的な問いだ。



「はい、とっても……毎日何回でも入りたいくらいです」


「あらそんなに? いいわよ? ここはいつでも入れるし、私達専用みたいなものだから、誰にも気兼ねしないで入っていいのよ」


「それなら、入る時は私か、誰か他の者にお声かけくださいね。まだ、絶対に一人で入ってはいけませんよ?」



 シロエの心配は相当なものだ。それもそうだろう。


 ここに来て何度倒れた事か……自分でもいつ倒れるか分からないのだから、必ずその通りにしよう。


「はい。心配してくれてありがとうございます」


「フフ。本当なら、毎回私がご一緒したいのですけどね」


 シロエは、少し残念そうな笑みを浮かべていた。



「エラ。シロエは少し、あなたを狙っているようだから気を付けなさい。優しさを真に受けてはダメよ」


「えっ?」



「お嬢様、何て事を言うんですか。エラ様が一緒に入ってくれなくなったらどうするんですか」


「私が一緒に入るから大丈夫よ」


「そういうお嬢様こそ、エラ様を狙っているんじゃないでしょうかね」


「ちょっと、二人とも……」


(何を言っているんだ)



 この後、二人はギャイギャイと言い合いをしながら、オレの取り合いを始めた。


 元の男のままなら、夢のシチュエーションだろうと思った。


 が、女性に欲情しなくなった身としては、(のぼせる前に上がりたいな)としか思わなくなっていた。


 


――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」


と思って頂けたらぜひ、この作品を推してくださると嬉しいです。



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どうぞよろしくお願い致します。     稲山 裕

週に2~3回更新です。



『聖女と勇者の二人旅』も書いていますので、よろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n4982ie/

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