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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第三章 二、不穏な状況(五)


    **


 王都を離れた。ガラディオに師事しろと言われて、ファルミノに帰ってきたのだ。

 そのお義父様は寂しそうな顔を隠しながら、わたしを見送った。

 自分ではどうしても決められなかったし、これはこれで良かったのだと思った。

(本当はもっと、お義父様と一緒に居たかったけど……)



 それから一カ月程を、ガラディオとの訓練と、古代兵器である剣と翼の自修などに費やした。考える事も増えた。



 ただ、周りが甘やかしてくれる問題については、あまり考えないようにした。

 なぜなら、考えが核心に近付きそうになると、記憶が曖昧になるからだ。きっと、もう何度も繰り返している。その感覚はあるし、甘やかされる事の違和感を忘れなくなった。

 だから、そのように繰り返す方が良いのでは、とも思った。けれど、一旦保留にした方が無難かもしれないと迷った結果、決めた事だった。



 わたしが地球に居た頃の記憶が、もうほとんど無くなっているからというのが原因だ。うろ覚えでしかないけれど、あちらでは男として生きていたような気がする。という程度のものしかない。本当は夢の出来事だったのではないのか……現実だったのかも分からない程度の、曖昧な記憶。



 翼を手にしてから、それは顕著だった。きっと、あちらの文明よりも遥かに優れた物に触れた事で、覚えておく必要性を感じなくなったからだ。それが、心のきっかけとして大きかったのではないかと思っている。



 だから今、最優先にしているのは、翼と剣の使い方を覚える事だ。

 何が出来て、どこまでが限界なのか。

 それが分からない事には、実戦で使う事を許さないとガラディオに怒られたからだ。



 ……本当なら、ガラディオさえ敵わないくらいの力を持っているはずらしい。いや、実際にそうだろうと自分でも思っていた。けれど、彼の強さは異次元レベルだった。人の領域を遥かに超えている。



 まず、光線に当たらない。何が足りないのか、五十門あるという光線を斉射出来るわけではないけれど。羽の剣にも。「何度か見たから」という理由で、全て弾かれたり回避されたり、これもとにかく当たらない。いや、彼なら当たっても巨大熊のように効かない可能性まである。

 それから剣技。長物を含めて、翼で防御しても衝撃で飛ばされる。剣でなど受けようものなら、きっと腕が千切れ飛ぶだろう。わたしの特別な剣は折れなくても、この腕はもたないのだ。



 古代の科学兵器も、彼の純粋な力、歴戦の強者の技量には敵わなかった。可能な事と言えば唯一、翼で逃げる事だけだ。さすがに最高速度や高度だけはどうしようもない。ただ、適当に浮かんでいるだけだと、剣や槍を投げてくる。えげつない速度で。本気で逃げなければ、彼には撃墜されかねない。



(古代兵器もこんな程度。なのか、あの人が化け物なのか……)

 正直に言えばショックを受けている。それに、強さの基準が未だに整理できないのは、あの人のせいだ。

 ……有益だったのは、獣の倒し方を教わった事だろうか。



「生きて動く獣の首は、向かってくればこうして迎えるように斬る。逃げる時はこうして逃げ道を塞ぐように追う」

 簡単そうに見せるのに、いざやってみると難しくて敵わない。小ぶりのオオカミから試してみたけれど、それでも上手くいかない。



「まあ、百も狩れば覚えるさ」

 と言われた。

(彼のような剛力が無くても、果たして可能なのかしら……)

 この疑問にだけは、答えてはくれない。「さぁな」と言うだけだ。



「納得いかない。鋼の鎧は容易く斬れたのに……」

 一か月経っても出来ないわたしに見かねたのか、ガラディオはこう言った。

「人の重心は追えるくせに、なぜ獣になると当てずっぽうのままなんだ?」と。



 言われてようやく、はっとなった。閃いたと言ってもいい。

(……教えてもらったから、閃いたのとは違うかもだけど)

 四つ足が基本姿勢の獣は、その重心を散らすのが上手い。そして、一つにまとめるのも上手い。だから、斬りたい部位の重心を上手く捉えられなかったのだ。



 特に首ともなると、全身のバネだけでなく、四つの足を巧妙に使う。それのどこに重心を逃がすかによって、追うにしても迎えるにしても、方向がかなり変わる。ガラディオは、それを瞬時に見抜いて最善の角度と方向に力を掛けるから、一瞬で落とせるのだ。



(……分かったけど、分かるのと出来るのとは違う……大きいのは、そもそも斬れる気がしないし)

 でも……翼を上手く使えれば、もっと上手く、そして安全に斬れるのではと思った。



 とにかく、この一カ月は過ぎるのが早かった。獣の討伐も何度か加わった。最後列で。

 指示の通りに光線を撃ち、それで倒れない獣をガラディオと精鋭達が討つ。当然の事だけど、それは安全で、そして効率の良い討伐だった。



「上出来だ。エラ。逆にお前が狙われると、隊列が崩れる。だからお前を護るための布陣になる」

「はい」

「戦争では、これが基本となる。お前は前に出てはいけないんだ。分かるな?」



「はい。それに……私の剣術など、ガラディオの足元にも及ばないのは分かりましたから。もう勇んで前に出るようなマネはしませんよ」

「なんだ、拗ねているのか! ハッハハハ! 可愛いやつめ。いつかお前も、お前なりの剣術が身に付くさ。その不思議な剣と翼を使った、お前だけの戦い方がな」



 使ってもあなたには勝てないのに。そう思ったけど、未来の話をしたのだと分かっているから、愚痴を言うのはやめた。



「わははは! エラ様! 隊長の二つ名を知らんのですか! ハハハハ!」

 獣の討伐に森に入った帰り道。並走していた騎兵の一人が、よく通る大きな声で会話に突然参加してきた。最近は彼らとも打ち解けつつあって、気さくに話しかけてくれる。今は兜のせいで目元しか見えないけれど。仲間に入れてもらえたような気がして、実は嬉しい。



「おい、言うなよ? 俺はあんな二つ名、認めていないからな!」

「まぁまあ! いいじゃないですか! 聞いてくださいエラ様! 隊長の二つ名は――」

「お前コラ! あんなダサいものを口にするな!」



「――血戦斧神ですよ! けっせんぶしん! かっこいいでしょう!」

「お前は帰ったら覚えておけよ!」

 ガラディオは、隊の部下達には少し口が悪い。皆も仲間同士だとそんな感じだから、そういうものなのだろう。



「ははははは! 隊長が敵陣を駆け抜けて、血のりでドロドロになったハルバードを振るう姿に付けられた名です! 何せ、人が布切れのように赤く飛び散るのですから、戦神と畏れられてもしょうがない事ですよね!」

「せんぷじゃなくて、せんぶ……。ああ! 血の戦斧と、武神をかけているのですか?」

「どうやら、そのようです!」

 三メートルを超えるオオカミを簡単に吹き飛ばすのだから、人なんて数人一緒に薙いでいるのだろう。



「こんな子供に聞かせるんじゃねぇ! お前はしばらく昼メシ抜きにしてやるからな!」

「わはははは! それは困ります隊長!」

「わははじゃねぇよ、まったく……エラもつまらん話は忘れろ。いいな?」



 最近のガラディオは、お嬢様扱いはいつの頃にか無くなっていて、部下か妹に接するように話す。だから、わたしも負けてばかりではいけないと思って、口ごたえを隊員達から覚えようと思うようになった。でも、彼らとは何か違う。



「私は子供じゃありません」

「ちっ、女も子供もおんなじだ」

「だからモテないんですよ、ガラディオは」

「なにぃ?」



 わたしの口ごたえは、どうしても女が前に出てしまう。彼らはもっと、爽快だったりぶっきらぼうだったり、少し乱暴な感じだったりがカッコイイと思うのに。

「アハハハ! 人にこんな冗談を言ったのは初めてです! ごめんなさい、アハハハ」

 せめて、笑い方だけでも真似をしようと、手も当てずに大きな口を開けて笑う。



「何が冗談だ。笑いながら言ってんじゃねぇ。ったく……」

 でも、ダメージがあるのはわたしの言葉らしい。

「エラ様! もっと言ってやってください! 隊長に物申せるのはエラ様とリリアナ様くらいですから! ハハハハハ」



 なんだかんだで、ガラディオは人気者だ。隊長としても、人としても。だから皆、討伐終わりの帰りの、警戒も緩めて大丈夫そうな街道では軽口を叩きに寄ってくる。



「そうだエラ様! 隊長を婿候補にいかがですか! 候補は何人居てもよいでしょう!」

「なっ! なんでそうなるんですか! わた、わたしはまだ、社交的に行動してるだけで、そういうのわっ……」

「ハッハハハ! 隊長、フラれてしまいましたね。何連敗ですか!」



 わたしをダシに使ってまで、ガラディオに絡みにいくなんて……。

「いい度胸だ! 戻ったらその元気が枯れるまで対錬して鍛えてやろう!」

 絡みに来た彼は「ぎゃー!」と、わざとらしく絶叫している。ガラディオの目は、ちょっと本気だけど。

 モテないというのは、本当なんだろうか。デリカシーが足りないから、そうなのかもしれない。



(晴れた日の帰り道は、気持ちがいいなぁ)

 一人でも乗れるようになった馬に揺られながら、お風呂と夕食の事を考えている今の時間が、一番好きだなと思う。

 



お読み頂きありがとうございます。


読んで「面白い」と思って頂けたらば、ぜひとも他の人に紹介して頂いて、広めてくださると嬉しいです。

「つまらん!」という方も、こんなつまらん小説があると広めてもらえると幸いです。

ぜひぜひ、よろしくお願いします。

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