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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第三章 二、不穏な状況(三)


    **


 ――夢を見た。

 いや、今もこれは、夢の中だろう。

 なぜなら、こんなにも理想の愛を与えられて、のうのうと生きているのだから。



 異質を見る目で蔑み、奇異を弾くために心を削る。それが??に対する態度なはずだ。

 ??が、理想の愛され方をするわけがない。

 ただひたすら、苦痛を感じないように心を閉ざし、遠くの空を見つめるように生きる。



 それが、??の人生。

 いつ死のうと、悔いなど一切ない。

 産み落とされ生きている事こそが、悔やまれる一番の事なのだから。


   **


(――可哀想な人……)

 わたしは、涙を流しながら目を覚ました。



「あれ。どんな夢を見ていたのかな。とても……悲しい夢だったはずなのに」

 思い出せない不快さと、もどかしさ。それらのどちらでもない、もやもやとする悲しかった想いが、漫然と胸の中に残る。



「……嫌な気持ち」

 最近はほとんど思い出す事のない、地球での事。それを思い出した時に似ている。

(……この胸に残る感覚は、自分のものなのでは?)



 この体で居る事にすっかり慣れてしまって、もはや自分はこの体で生まれてきたのではないかと思う程に、最近は何も違和感がない。その分、昔の記憶は本当に、断片的にしか残っていないように思う。夢の内容は、もしかしたら昔の事を見ていたのかもしれない。

 だから、何とも言えない不快感があるのだろうか。もう、思い出したくなんてないのだと。



「……あぁ。でも、昨日の戦い方は、本当に反省しないと。非力なのに、あんなに前に出るべきじゃなかった」

 夢の残滓を忘れてしまいたくて、昨日の反省と、今日これからの事を考えようと思った。



 お説教だと言われたから、後で絶対に怒られる。だけど、本当に心配を掛けたと思うから、いっぱい叱られて、そしてごめんなさいと、心からお詫びしなくては。

「あっ! エラ様! お目覚めですか!」

 寝室のドアを開けたフィナが開口一番にそう言うと、とても心配そうにしている。



「うん……。その、そんなに心配かけちゃった?」

「何を仰っているんですか。まる一日以上、目を覚まさなかったんですよ?」

「えっ?」



 ただ眠くて寝ただけだと思っていたのに。

 お風呂で睡魔に勝てなくて、そのまま……あれは、眠りに落ちたのではなくて、意識を失っていたのだろうか。

 森林街道での戦いの、次の日ではなくてもう、二日後のお昼前らしい。



「起きられますか? 傷はありませんけど、もし頭を打っていたら……」

「ん……大丈夫。どこも痛くないよ? 頭も痛くない。ぼーっとしているかもだけど」

「そうですか……良かった。食べられそうなら、お食事をお持ちします。それと、公爵様や皆様にお伝えしてきますので、もう少し横になっていてください」

 言うや否や、フィナは後ろに束ねた黒髪が解けそうな勢いで部屋を飛び出していった。

 




 それから食事と、皆の心配を受けながらひと時が過ぎた。

 大事無さそうだという事で、お義父様のお叱りを受けに執務室に来るように言われ、今は執務机越しに対面している。先程の心配そうなお顔とは違って、少し険しい。



「結果と、状況だけを見れば……お前の功績は素晴らしいものだった」

 難しい顔をして、お義父様はわたしを褒めてくれている。「だけを見れば」という注意付きで。

「だが! 分かっておるよな? お前はアドレーの後継者である前に! ……ワシの娘だ」

 お義父様は、沈痛な面持ちで首を振った。普段から深い眉間のシワが、さらに強く刻まれている。



「お前だけは! 無事であって欲しい。他の誰が傷付こうとも。誰が犠牲になろうとも。それが、ワシの素直な気持ちだ」

 はぁ。と、一度だけ重い溜め息を吐いてから、さらに続けた。



「なぜお前はあんな無茶をしたのだ。特攻せんでも、あの光を撃ち続ければ良かっただろうが」

 言われてみれば、もっと撃てばあの巨大熊も倒せていたのかもしれない。出力も、まだ上げられたかもしれない。

 でも、それは今だから思う事で、その時は何が出来るのか分からなかったのだから。光線が効かなければ、剣で直接斬る方が倒せると思ったのだ。それに今でもまだ、もっと検証しなければ分からない事が多い。翼もだけど、剣も。



「わ、わたしも……まだ、よく分からなくて……」

 反論するのは、初めてだったろうか、二度目だろうか。素直に「はい」と言うだけで、甘やかしてくれる生活に慣れたからか、言葉がはっきりと出て来ない。



「そのよく分からん代物を、なぜそこまで信用しておるのだ? あの翼がお前の思い通りの頑丈さでなければ、お前はあの時、間違いなく死んでいた。それは、理解出来ておるのか?」

「そ! それは……たしかに。そう言われて初めて、うかつだったと思いました」



 科学の力を信用し過ぎただろうか。この星に飛ばされて、その技術を持っていた時代の物ならばと、過信して油断していた。確かに、そう言える。科学の物であれば、故障は付き物だし、人のする事作る物ならば、ミスもある。欠陥品も。

(どうしてそれを、危惧しなかったんだろう)



「エラよ。お前は気付いておらんかもしれんが、妙な所で油断をする性質だ。人に対しては臆病なほど慎重なくせに、己の力に対しては油断が多い。確かに才能はあるが、お前のようなやつは早く死ぬ」

 そう言って、お義父様は黙ってしまった。じっとわたしを見つめながら。その瞳は、とても儚く脆いものを見ている目だった。



「……仰る通りだと思います。油断、してしまいがちです」

 手にした力が……戻らないと思っていた強さが、兵器とはいえ手に入った喜びが、慢心と油断を招いている。間違いなく、それは命取りになる巨大な落とし穴だ。

 真ん中を踏み抜くまで落ちないものだから、いつか落ちる事など理解出来ずに……その時が来た瞬間に、命を落とす。



「お前には、教官としてガラディオを付ける。あいつは言葉に手心が無いが、今のお前には良いやもしれん。せいぜい泣かされんようにな」

 お義父様から、少し突き放された感じがする。

(……それに、あの人は苦手なのに)



「はい……。あの、怖くされないですか?」

 あの人は嫌だと言ったら、他の人にしてくれるだろうか。

「お前に取り返しのつかん何かがある前に、怖い思いをさせておこうと思ったのだ。甘い気持ちは忘れる事だ」



「す……すみません」

 完全に心を読まれたようで、とても恥ずかしくなった。甘やかされる事に、心から浸かってしまっていたのだ。

 今でもまだ、少ししたら優しくしてくれないだろうかと、どこかで期待してしまっているのだから。もはや自制心では手に負えないくらいに、可愛さを武器にするという悪いクセが付いている。



「そ、そんなしょげた顔をしても、今回は許してやらんからな! 早くガラディオの所に行け」

 ああ、これは、押せば許してもらえそうだ。



 でも……それをしたら、わたしはきっとお仕舞いになる。そういう人間になってしまったら、良い人は離れてしまう。顔や外見ではなく、わたしという中身を見てくれている人を、裏切る事だけはしたくない。

「すみません。しっかりと受け止めて、きっと成長してみせます。いつもありがとうございます。おとう様。…………愛しています」



 最後のは、余計だっただろうか。

 優しくしてもらおうという計算などではなく、本心からの感謝だった。それと、もしもわたしが死んでしまったら、二度と伝えられないと思ったから出た言葉だ。

 あの巨大熊の一撃を受けた時は、本当に……。

 死んでしまうと思って、怖かった。

(皆にありがとうと言えずに死ぬのは、とても寂しかったから)



「お……おう。良い目なのは分かったが、戦で死んでは元も子もない。本気の成長を見せろ。でなければ、お前はもう戦には出さんからな」

 そう言うと、お義父様は書類に目を通し出した。シッシッと軽く手を払い、退室しろと告げている。

「はい。それでは失礼します」



 お義父様の執務室を出ると、ガラディオがもう待っていた。指示を受けていたのだろう。

「よぉ、嬢ちゃん。ちょっと付き合ってもらおうか。聞いているだろうが、話がある」



 彼は、ここで出会った中で一番背が高い。そして、圧縮されたのだろう凄まじい筋肉は、何を着ていても目に付く。細身のように見えるのに、その質量はおそらくは、理解を超えた重さをしているだろう。なにせ、あの巨大熊の硬く強い首を、ひと薙ぎで落とした剛腕なのだ。



 そんな恐ろしい彼に、話があると呼びつけられると恐怖が湧き出てしまう。これはさすがに、仕方がないだろう。わたしはこんなにも、か細い少女なのだから。一掴みで、頭でさえ容易く潰されるだろう。

 そんな事を思いながら付いて行くと、普段来た事のない通路の、奥の部屋へ案内された。



お読み頂き、ありがとうございます。


最初の方の文章を読み直していると、今以上に酷いものですね。

それでもお読みくださっている皆様には、ほんとうに感謝しかありません。

改行の作業が終わりましたら、すこしずつ手直し出来ればと考えています。


今後も、どうかお読みくださると嬉しいです。

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