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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第三章 一、恋愛事情(七)


    **


 昨日の間に、何とか五通までに絞った。

 それらには『少しずつ、お互いを知っていけたらと思います。良い関係を築きましょう』という返事を書いて、他には『社交界でお会いできるのを楽しみにしています』と送った。

 どちらもあまり変わらないように思うけれど、明確に違うらしい。



 お昼過ぎになって、やっと全て書き終える事ができて、心底ほっとした。三百通近い手紙に返事を書くなんて、誰が言ったのだろうと後悔したほどに。自分の執務室だと喜んでいたのに、今は少し嫌いな部屋になった。



「ふあぁぁぁ……」

 気の抜けた声を出しながら伸びをすると、フィナから「そんなお声を出してはいけません!」と、顔を赤くしながらのお叱りを受けた。



「むぅ」

 そこまで妙な声にはなっていないはずだけど、もはや疲れで自分の声など聞こえていなかったので、そんなだったのかなと反論はしなかった。



「ところでフィナ。おとう様とリリアナは、今から外出する事が出来るかしら」

「今からですか?」

 そう。予定としては告げていたけれど、わたしの仕事待ちだったので「行けそうなら」という曖昧な伝え方しかしていなかった。



「お聞きして参りますね」

「ありがとう」

 その間に少し休もうと思って、豪華な椅子にぐったりともたれて目を閉じた。

 翼が兵器である事を、どこで見せようか。



 力を求めてはいたけど、手に入ったものは大き過ぎた。

(なら、一体どのくらいの力なら満足できたんだろう――)

 この身と、愛する皆と、それから、民? 国? どこまで守れるだろう。力だけでは難しいだろうけど……武力による脅威は、わたしが居る間は制圧できる。恐らくは。



(この翼が対艦ミサイルを防げるなら、今の文明レベルなら敵なしだよね)

 でも、壊れたりしないかな。

(……いや、数千年の間、壊れずに存在しているなら……)

 こんな自問自答をしながら、翼と剣。二つの強大過ぎる力の、持て余し方を考えていた。





「すぐにでも出られるようですよ」

 意外な伝達に、少し面食らってしまった。どこかで、今日はもういいかな、などと思っていたから。

「分かりました。すぐに用意しましょう。動きやすい髪型と服にしてください」



 偉そうに用意しようと言いながら、全てフィナにしてもらうクセがついてしまった。自分でするよりも、断然楽で速いのと、甘えるのが心地良くて。

(なんか、令嬢っていう名のダメ人間になってしまってる……)



 一階のフロアに降りると、すでに乗馬服のリリアナと武装したお義父様。そして同じくガラディオが居た。シロエはメイド服のままだ。

「ガラディオだ! お久しぶりですね」

 考えてみれば、リリアナとシロエが来ているのだから、彼も居るはずだったのだ。



「よう! 嬢ちゃんは大活躍だったな。少し背が伸びたか?」

 快活で気さく。お義父様を超える長身と、鋼のワイヤーを密集させたような筋肉の塊り。その彼は、全身鎧を着ていても重さを感じさせない身軽さだ。

(彼の筋肉で、鎧がはじけ飛ぶんじゃ……)



「ガラディオは、相変わらず強さが滲み出てますね……鎧が窮屈そうだけど」

 なぜか少し、皮肉を言いたくなってしまった。絶対に敵わない彼に対抗心を持ってしまっているのだろうか。



「ハハッ。なかなか合う鎧が無くてな。これでもフルオーダーなんだぞ」

 力こぶを作るポーズを取った彼の腕では、はめている腕の鎧が浮き上がっていた。伸縮のある素材で、無理矢理装着しているのだろう。



「っふふふ」

「ぷっ! ガラディオ! そんな事になってるの、私にも見せた事ないくせに」

 リリアナには滅茶苦茶ウケていた。



「嬢ちゃんくらいの子には、いくらか見せた事あるんですよ?」

 それを言わなければ、わたしも楽しいままだったのに。

(まるで子供扱いが直ってないじゃない)



「さあ、エラよ。この後は何を見せてくれるのかな」

 お義父様が、早く出ないと日が暮れるぞと、暗に言ってくれた。

「そうでした。そこの……転がしたままの翼の力をお見せします」

 どこか、人が居なくて遠くからでも人目につかない所を求めると、森林街道が良いだろうという事になった。



    **


 ガラディオ率いる重騎兵六十。その中を特性の箱馬車で揺られて森林街道まで来た。翼はこの屋根に乗せておいた。付属のティアラを着けて居れば、翼を意のままに操れる事が分かったので、一番丈夫なこの馬車の屋根に乗せて運ぶ事にした。もちろん、幕を掛けて隠してある。



「そろそろ、この辺でお披露目しましょうか」

 小窓を覗きながら、そう提案した時だった。

「獣の群れです! 馬車が一台襲われています!」

 偵察に先行していた騎兵の報告だった。



「数は!」

 隊の速度を緩めながら、箱馬車の側を走るガラディオが聞いた。

「オオカミ5頭、クマ一頭! クマは特級です!」



「厄介だな……」

 前に座るお義父様が呟いた。

「そんなに大変なんですか?」

 獣に遭遇した事のないわたしは、恥を忍んで素直に聞いた。



「ああ。特級というのは本当に大きくてな。普通の騎兵では討伐できん事もある」

 これだけの重騎兵に囲まれていても、クマ一頭に全滅させられる恐ろしい世界だったのかと、この星の現実に改めて血の気が引いた。



「まあ、やつがおるから大丈夫だろうがな」

 外のガラディオの事を言っているのだろう。

「全隊、停まれ! 俺と、先頭の五騎で行く!」

 という事は、前の重騎兵は強い人達なのだ。



「エラ、お披露目は少し待っておれよ?」

 ここは、素直に聞いておこうか。それとも……。



「……おとう様。翼は、それでも大丈夫だと思います。それだけの代物なので、出ても良いですか? 特に防御面では、どんなものであっても私に傷ひとつ付けられないでしょうから」

「エラ。無理をして怪我をしたらどうするの」

 お義父様の隣のリリアナは、そう言って止めた。



「ぜーったい、大丈夫ですから」

 お義父様も、うーんと唸っている。

「危ないと思ったら、必ず下がりますから」



 お義父様はやれやれと首を振った。

「本当に聞かんやつだ。必ず、無傷でと約束しろ。もし傷の一つでもついたら、次からは出させてやらんからな」

「はいっ!」



 心配で睨むように見るリリアナを横目に、お義父様に天井のガラス窓を開けてもらい、抱き上げて出させてもらった。

「では、行ってまいります。見ていてください。すごいですから!」



 言い終わる前には幕を剥がして翼を装着し、中空へと飛び上がった。クリスタルのような翼は、私の意識が通った事でキラキラと青白く輝いている。わたしは意のままに飛べる高揚感をそのままに、遠くに見える動物と馬車の所に向けて、「撃て」と強く念じた。



 すると、翼は大きくはためいて、ふわりと広げた羽の先端から弧を描いて光線が伸びた。十数本はあるそれらは、一瞬で獣の頭や首、体を射抜いた。オオカミらしき獣達は、その場で倒れて動かなくなった。

(やっぱり、すごい兵器だ)



 だが、クマと呼ばれた焦げ茶色のそれは、あまりに大きかった。遠くだから理解出来ていなかったけれど、三階建ての家くらいはある……ような気がする。何本もの光で射抜いたように見えたが、貫通していないのだろう。わたしに振り向き、とんでもない殺気を放ちながらこちらへ走り出そうとしている。


お読み頂き、ありがとうございます。

応援頂けるように頑張ります。

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