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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第三章 一、恋愛事情(六)


    **


 夕食も食べずにふて寝を決め込んだせいで、おなかが空いて早くに目が覚めた。

 暗いうちに目が覚めると、あの日の事を思い出して少し怖い。



 ……そういえば、翼を、外れたそのままにフロアに放置したままだ。ティアラは……最後まで外れなかったから諦めて寝た。今は枕元に転がっている。

「あの音声機能、潰れてくれないかな……」



 この星の昔の文明人であっても、子供は皆、同じようなものを欲しがるらしい。いつも失念するけれど、こちらが元祖で、地球が後発だった。同じ血が流れているのなら、商品名から予想すべきだった。

 商品説明の言語は全く知らないものだったけど、音声機能が出したわたしの声は、ここと地球の言葉とが混じっていた。わたしの記憶でも読み取ったのだろうか。他にもどんな機能が隠されているのか分かったものじゃない。



 お義父様とリリアナは、あれは兵器だと言った事を覚えているだろうか……。大量の手紙の返事も書かなくては。というか、どうせなら何人かには会うつもりで選抜しておくべきだろう。

「忙しくなりそう……おなかへった」



 あとは、どんな顔をして皆に会えばいいのかな。まだ、恥ずかしくて辛い。

「説明はしたし……普通にしてればいいよね?」

 そんな事を悶々と考えていたら、いつの間にかフィナが起こしにくるような時間になってしまった……。





「エラ。おはよう。昨日は夕食も食べずに寝ちゃっておなか空いてるでしょう」

 食堂では、いつもきっちりしているリリアナが、一番に座っていた。髪もしっかり梳かれていて、後ろに緩く束ねた金髪が窓からの朝日を受け、キラキラと輝いている。肌も透けるように白くて、まさしく王女の煌めきだなと見惚れそうになる。



「お……おはようございます。リリアナ」

 普通に挨拶出来た。そう思って彼女の隣に座って、平静を装った。

 ――と、思ったのに、顔がものすごく熱い。反射的に真っ赤になってしまったのだろう。



「いやだ。顔が真っ赤よ? ……その……あれよ? 昨日の事は気にしちゃダメよ。ッフフ! あなたが気にしたら、思い出しちゃうじゃないの。フフフ」

「もう! 笑わないって昨日、約束したのに……。あれは私じゃないんですよ? 分かってくれたんですよね?」

「ふふふ。分かってても、可笑しいのはもう、止められないんだもの。あなたを笑ってるわけじゃないのよ。許して? ね?」



「もぉ……。それなら、いいですけど……」

 自分がリリアナの立場なら、きっと同じように笑ってしまうだろうから、あまり強く言えない。そう、あれは事故だったのだから。



「エラ、リリー、おはよう」

 少し眠そうなお義父様は、にっこりと笑んで、わたし達の前に座った。

「おはようございます。お爺様」

「おは、おはようございます」



 もはや顔は真っ赤なままだから、誤魔化さずに堂々と真っ赤で居ようと開き直った。お義父様もきっと昨日の事を笑うのだろうかと思ったら、誰よりも普通で普段通りだった。わたしの事よりも、侍女に目で合図をして、食事を早くと催促している。

(良かった……。うん、もう忘れよう)





 ――朝食を食べ終えてお水を飲んでいると、お義父様が手紙の事を聞いた。

「エラ、手紙の返事は本当に書くのか?」

「はい。今日はがんばります。あ、それでお婿さんの選抜なんですけれど……おとう様、手紙って、どんな基準で選びますか?」

 自分の考えている選考基準以外のものがあれば、聞いておきたいと思った。



「うん? お前、結婚を急いでするわけではないだろうな?」

 お義父様は慌てた様子で身を乗り出し、わたしの顔を覗き込むように聞いた。それを見たリリアナは、飲みかけた紅茶を吹いてしまった。最も傍観者であるシロエは、クスクスと笑いながら零した紅茶を拭いている。



「え、いえまだ、そんなつもりではないのですが……候補くらいは選んでおこうかなと」

 そんな二人を横目に見ながら、やむを得ずお義父様をなだめるように言った。

「ふむ……ワシに変な気をつかっとるわけでは……」

「ありませんよ? 大丈夫です。単純に興味というか、せっかくお返事するのなら、何人かには会ってみたいくらいの事を書いても、良いのかなぁ……と」

 わたしの言葉に安心したのか、お義父様は前のめりになった体を背もたれに預け直した。



「……そうか。お前が嫌ではないなら、そのくらいの返事は書いても良いだろう」

 いつの間にか、結婚を渋っているのはお義父様のような感じになっている。

「それで、何か選ぶ基準みたいなのがあればと」

「……そうだな。家柄、関係性。と、耳に入ったうわさくらいか」

 つまり、手紙は参加票程度の認識という事か。



「それなら……あの、最初は私が選んでも良いですか? 関係性などはおとう様にお任せしますが、手紙そのものからは、自分で選びたいのです」

「手紙そのものから……? 構わんし助かるが……やけに乗り気だな」

「だって、せっかく選ぶのなら、本気で選びませんと。恋愛に興味の無い私にとっては、審査が全てなのです。そう思うと……なんだか楽しくなってきたので」



「まあ、任せよう。お前の将来に繋がる事だからな。好きにしなさい」

「ありがとうございます」

 二百通ほどだったけれど……まあ、午前中には終えられるだろう。



「ああ、そうだ。郵送の分が百通近くある。開けてしまっておるが、それも後で渡そう」

「うっ……かなりの数ですね。でも、いいえ。そんなに頂戴できるなんて、光栄な事ですね」

 数百人の面前で人を斬ろうとしていたというのに。ある意味、共通認識がはっきりしている世界と言えるのか。『絡まれた少女の逆転劇』は、皆にウケたらしい。



「まぁ……な。……燃そうと思っておったが、やはり選ぶのだな」

 隣でリリアナは、またプッと笑っている。シロエに紅茶を取り上げられたので、口にするものが無くなっていた。

「あら、お嫌ですか……? でも、この後の二次選考からは、おとう様にも付きっきりで選んでもらいますからね。その、まだ誰とも結婚なんてしませんから。ね?」

「ぬぅ……お前、なんだか逞しくなったな」

「ふふっ。おとう様はなんだか、可愛いです」





 さて、何を基準にと思ったけれど、まずは封筒と手紙の紙質を見ることにした。婚約の申し込みに近いものだから、気合いの入った物を使っているかどうかを。

 香りや花を添えたものはポイントが高い。そのあと……中身の文章の比較も。



 いくつもある部屋のうち、広過ぎず日当たりの良い二階の一室を、わたしの仮の執務室に充ててもらった。ただ与えられていただけの贅沢な部屋ではなく、初めての仕事部屋だ。それだけでも、気分が高揚する。やる気もプラスされるというものだ。



 お義父様はずっと手伝ってくださるという事で、広めのテーブルを挟んだ正面のソファにくつろぎながら、わたしのやりたいようにさせてくれている。

「おとう様、直筆か代筆の見分けって、つくものでしょうか?」

 正直、見分けが付かないなら中身を見ても比べようも無い。



「サインは本人が書くのが暗黙の了解だからな。本文と文字が違えば代筆だ。だが……よほど汚い文字でなければ、代筆は主人の文字に似せるものだから見分けが付くかは分からんぞ」

「そうなんですね……」

(なるほど)

 字が綺麗かどうかも性格が出るので、読む時にポイントにしようかと思ったけども……あまり基準に出来ないようだ。



 他には、二通、三通と送られたものは、封筒も紙も内容も全て違うものは合格。内容が同じものは論外。封筒と紙は……わたしなら変えるので、これも同じものはダメという事にしよう。

 選ばれる側というのは苦しいけれど、選ぶ側というのは難しい。基準にするものを間違えれば、本来ならば選びたかったものを不合格にしてしまう。



(今回の選考基準は、本気度で問題ないよね……?)

 誠心誠意というのは、少しの事にでも表れるものだ。それを見逃さないようにすれば、正しく選べるはず。と、信じるしかない。





「……ふう。とりあえず、五十通程度に絞れました」

 わたしが知らないだけで、上質の素材を使っているかどうかのダブルチェックは、きちんとお義父様にお願いしておいた。だから、封筒への本気度は見逃さなかったはずだ。



「ほう。なかなか頑張ったな」

「おとう様のお陰様です。あとは内容ですけど……一度、全て読んでみます」

「では、ワシの出番はまだ後かな? まあ、いい時間だから一度休憩しなさい。昼食を摂ろう」

「はい、そうします。慣れない事で、実は少し疲れました」



 気持ちも頭もリセットして、午後からは内容の吟味を頑張ろう。

 未来の、良い夫を見つけるために。

 ――いや……それはやっぱり、まだ怖い。まともに男性と話をしたのは、お義父様だけなのだから。男性に慣れるという練習をした方が、良い人を見つけるためには必要だろう。その第一歩が、この選抜なのだと思っている。

(おとう様みたいな人が居れば、選ぶ手間もいらないのになぁ……)





    **


 午後からの内容の吟味は、なかなかに楽しいものになった。

 送り主をほとんど見ずに、手紙そのもののチェックをしていたからこそだった。

 ソファに寝そべるお義父様を起こさないようにと思いながらも、独り言が漏れてしまうほどに。





(ミリアのお家からだ!)

「次兄様がいらっしゃるのね。あら、ミリアの紹介もある。私から見ても優しい人で、エラ様の事を必ず守ってくれる事だと思います。かぁ。ミリアの後押しがあるのはポイント高いなぁ」



(ルシアのもある!)

 お子さん……? まだ三才だけど、もしもまだまだ結婚は先とお考えならば、この子の成人をぜひお待ちください。

「って、気の長いアピール……双子さんの兄妹ちゃんかぁ。普通に見てみたい」



(ルミーナも!)

「ルミーナは弟さんなんだ。愚弟だけど、真面目で素直な子だから、エラ様の良いように育ててみるのはどうかしら? だって。ルミーナらしくて面白いわね」



 まさか、三人からの添え文の付いた手紙が来るとは……。これはむしろ、ご本人よりも彼女達が出させたのだろう。

「はぁ……三人とはもっと仲良くなりたいから、こうなると……選べなくなっちゃうなぁ」

 他の家も、なかなかに面白いアピールがあったりしてレベルが高い。本気度がうかがえる。



「ッハッハ! お前の独り言を聞いていると面白いものだな」

「もう。おとう様はうたた寝をしているものだとばかり思ってましたのに」

 ソファをベッドのように使って目を閉じていたからてっきり、眠っているのだと思っていた。



「すまんすまん、途中までは確かに寝ていたのだがな」

 ひとり言を聞かれたのは恥ずかしいけれど、楽しそうなお義父様を見るのは嬉しい。

「ほんとでしょうか……? あっ……王家から来てますよ。おとう様」

「チッ。昨日の中に紛れ込んでおったか。しかも、お前が通した中にあるとはな」

 お義父様は体を起こして、王家からの手紙を手にとっては、弾く様にして机に投げた。



「あら、お嫌なんですね」

「国王の息子だからな。気に食わん」

「もう……子供みたいなことおっしゃらずに、選んで良いのか教えてくださいな」

 さっきまでご機嫌だったのに、今は渋い表情をしている。最近は、お義父様は色んな素顔を見せてくれる。



「人格以外は合格だろう。文句のつけようが無い。お前が良いと思うなら選んでも構わん」

 嫌々な態度なのに、言う事は冷静な立場でさすがは公爵なのだと思った。

「やっぱり、そうなりますか……とりあえず保留です。王家との絆をさらに固めるか、貴族と固めて、国の土台とするべく動かすか……悩みますね」



「お、お前……そこまで考えておるのか」

「え、だって、こういうのってそういう選び方もしますでしょう?」

 わたしの言葉は、意外だったらしい。



「むぅ……たいしたものだ。もう良い。お前の基準で思ったように選ぶといい。分からない事は何でも教えてやるから、遠慮せず聞きなさい」

「はい。ありがとうございます」



「……お前はこの数日で、少し大人びてきたな」

 お義父様の表情は、読み取れないものだった。だから、今の流れのままに楽し気に答えた。

「えっ、本当ですか? 嬉しいです。この子供じみた性格、直したいと思っていたので!」



「っふ。そうか。……だが、ワシの前では、ずっと子供のままでも構わんのだぞ?」

 不意に、孫か子供にでも言うような、そんな口ぶりでお義父様は笑った。

「な、なんですか。急にそんな風に甘やかして。ずっと甘えていたくなるじゃないですか」

 なぜか今のわたしには、とても魅力的な言葉だった。



「ハッハッハ! そうかそうか」

「も~。おとう様は私に甘すぎます」

「ハッハッハ。もっと甘えるといい! 思えば、出会ってすぐに厳しく躾け過ぎたからな! よく頑張ったものだと、本当にそう思う。ほれ、成人の儀も無事に越えたのだ。今からは滅茶苦茶に甘やかしてしまうかもしれんなぁ」

「っふふ! なんですかそれ。ダメな娘になったら、どうするおつもりなんですか?」



「そうさなぁ。良い嫁にはなれぬだろうな。ハッハハハ」

 それこそ、笑いごとではありませんと言いながら、急に寂しくなってしまった。

「あの……それじゃあ、お膝に乗っても良いですか? おとう様のお膝元で選びます」

 そう言って、有無を言わさずにお義父様の膝に乗った。



「いつでも、そうして甘えるといい。お前の素直な態度を見れるのは、ワシも嬉しいからな」

 お義父様に頭を撫でてもらいながら、残りの手紙をゆっくりと読んだ。

 時折お茶を淹れに来てくれるフィナやアメリアに、「公爵様?」と、咎められながら。



お読みいただき、ありがとうございます。

これからもお付き合い頂けると嬉しいです。

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