第二章 幕間
幕間です。
帰りの馬車では存分に甘えてしまおうと思って、お義父様の肩にもたれ掛かっていた。
(ようやく終わった。無事に。二年を駆け抜けた……本当に長い二年だった。もう二度と経験したくない。頑張ったから、沢山甘えてやるんだ)
どうすれば甘えた事になるのか、よく分からない事が悔やまれるけれど。
お義父様への積極的な甘え方として、唯一これだと思ったのが、もたれ掛かるという事だった。そして帰ったら、髪をほどいてフィナに頭を撫でてもらえば、もう完璧だ。疲れたと言われるまで、存分に撫でてもらおう。そうだ、アメリアへの頬ずりも忘れてはいけない。
フィナも見慣れたようで、わたしが甘えている姿を見ても、特に照れるような事もない。ただ、包帯に巻かれた痛々しい左腕を見ると、悲しそうな顔になる。
「治療もしてもらったしお薬も貰ったから。大丈夫よ」
と言ったのだけど、そういう事ではないらしい。ケガをしたという事実が辛いのだと言う。少しでも何かしたいらしく、お風呂で軟膏を洗い流す事と、翌朝にそれを塗って包帯を巻くのは、フィナの仕事になってしまった。慣れているから自分で出来るけれど、お言葉に甘えておこうと思った。
そういえば、今日はリリアナの顔さえ見る事が出来なかった。テザミンから見ていてくれると言っていたけど、こちらからは見えない所に居たのだろうか。その分、シロエと二人で明日来てくれるのが、嬉しくて待ち遠しい。離れていたのは四ヶ月程のはずなのに、もっと長く会えなかったように感じる。
「そうだ。おとう様、お聞きしたい事があります」
「なんだ?」
今日はあまりにも上手く行き過ぎたと、ずっと疑問だった。
「皆さんのあの歓迎ぶりは、お父様の根回しですか?」
そう聞くと、お義父様はニッ、と片方の口角を上げた。
「各家に、『我が娘には、貴族として堂々と非難するがいい。だが、貴族の成人たる所作品格の有無をこそ問え。いわれなき非難は、各々の品位を落とす事になるだろう』と手紙を送った。派閥が何であれ、貴族には無視できない誇りがあるからな。それを刺激しただけだ」
「そんな事で……」
「そういうものだ。そもそも子供のお披露目パーティだからな。それ以外の事で罵るのは、さすがに大人げないと、誰もが思っておるものよ」
「なるほど……それにしても、何が起きているのか分からなくて、不安でいっぱいでした」
「そうか? 十二分に令嬢として、堂々としておったぞ。大したものだ――」
お義父様が言い終わるかどうかというタイミングで、フィナはわたしの入場を思い出したのか、興奮した様子で話し出した。
「――そうなんです! エラ様が入場された時、最初は影になっていてよく見えなかったのですが……数歩進まれてお顔が見えた時には、もう……言葉になりませんでした。美の妖精か、それとも女神様かと思って……そうしたら、やはり皆様も同じ感動だったのでしょう。どよめきも拍手も、全て、心が一つになったのだと思いました。エラ様を称えたいと!」
「大げさだなぁ」
「いやいや、確かにな。威風堂々、自信と謙虚さを均等に備えた気品あふれる姿は、誰もが称賛するほど素晴らしかったのだ。ワシも見惚れたし、国王も唸っておったわ」
お義父様はそう言って腕を組み、感慨に耽るようにして大きく頷いた。
「あれは……王子どもから何かあるぞ。覚悟しておけ」
(……そういうフラグは、立てないで欲しい)
「それ、どうしたらいいんでしょう。何かあったとして、お断りしても?」
「まぁ……じっくり考えれば良い。返事を急ぐ必要はないから、適当にあしらっておけ」
「そういうのでいいんですね。安心しました」
それは嘘のような気がする。けれど、それで良いと言うなら、もうそうしようと思った。
「だ、ダメですよ! きちんと対応しませんと。でも……うーん、エラ様ならそのくらいの対応で良いかもしれませんね」
フィナの反応を見るとやはり、本当なら……という所なのだろう。
でも、交際を申し込まれたとしても、自分で選ぶつもりがないから、対応が面倒だなとしか思えなくなっている。
お義父様が付き合えという相手なら、余程の酷さが無い限りは、実は言う通りにするつもりなのだ。いつの頃からか、そんな風に考えていた。
(あぁ、しまった。これが一番のフラグになってしまいそうだ……)
せっかく、明日はリリアナ達とゆっくり過ごそうと思っていたけれど、そうもいかないのだろうか。
――ならせめて、今夜はフィナとアメリアに、添い寝をしてもらおう……。
短くてすみません。これにて第二章おしまいです。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
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