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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第二章 三、得たもの(八)


 国王と王妃との、お茶会の時間はかなり短く感じた。


 一旦、二人よりも先に謁見の場を出て、案内されたのは城の中をぐるぐると回り、三階の屋上に出た所だった。日差しはきついけれど、他の棟の陰になっていて気持ちが良かった。乾いたそよ風も心地よく髪を撫で、ドレスの裾を柔らかく揺らしていく。城塞の造りなので無骨だけど、王妃の計らいで白いお洒落な丸テーブルと、白くて可愛い椅子、そして白に金の装飾のティーセットが用意されていた。



 わたしとお義父様が到着した少し後に、王妃がご自身でポットを持ってお出でになった。侍女は連れていないようだ。そして、最後に現れた国王は予想通り高身長だった。ガラディオ程ではないが、がっちりとした高身長の国王と、大きな虎を人型にしたようなお義父様には、小さすぎる椅子だったけれど。急ごしらえだとしても、様になるように準備してくれていた。だが、やはり侍女はおらず、案内してくれた衛兵も下がっていて、お茶会の場にはこの四人しかいなかった。そう、王妃のお手ずからのお茶を飲むのは、さすがに緊張した。



 ほとんど王妃とわたしが話をして、わたしとお義父様の事を聞いてくれたり、王妃とお義父様の思い出話をしてくれた。とても子煩悩で親バカだったと聞いて、それは今も変わらないと言うと、とても嬉しそうに微笑んでくれた。今はまだ何も返せるものが無いけれど、いつか必ず御恩を返したいのだとも言った。すると王妃に、失礼するわねと、頭を撫でられた。こんなに可愛い妹が出来て、本当に嬉しいと。わたしは胸の中が熱くなって、少し泣いてしまった。信頼と信頼が結びつく事で、こんなにも人と繋がり合えるのだと。



 国王がお義父様に、王妃との結婚話を持ち出した時の事はまたの機会に、と言ってお開きになった。その後、国王がわたしに話してくれた事があって、それがずっと気になっている。国王は、こう言っていた。


「報告は聞いている。他の星から来たらしいな。古代技術が渡った文明から来たならば、女の身分の違いに驚いた事だろう。勝手が違う中でも、上手くやっているようだな。大したものだ」

この言い方は、お義父様はわたしの素性を深くは伝えていない事を示していた。



 そういう気配りに、またお義父様の愛情を感じた。

 という話が前置きで、この後が重要だった。

「今からの話は、他で話すなよ? 機密事項だ」

 黒い装丁の本の事だった。国王が許可した時以外で、口外すれば極刑になる。だから侍女も衛兵も、外させていたのだ。



「古代技術についてだが、当時は白煌硬金がかなり使われていたのだ。その剣の加工も、突然稼働するようになった古代の装置を使った。何千年も沈黙していた装置が、偶然にしては出来過ぎている。お前がこの星、オロレアに来てからの事だ。お前の古代種という呼ばれ方も、本来は古代技術に深く関わっているから、そう呼ばれ続けている。古代にほぼ絶滅したからではない。現に、数十万人に一人くらいは遺伝などの根拠無く、生まれて来るのだからな。だからお前の体も、今こうして生きているのだ」


 一般人に「絶滅説」が伝わっているのは、緘口令で抑えきれない噂を、事実らしさのある無関係な話に、上書きするためだったようだ。



「これは、オレとお義父上(ちちうえ)……ややこしいな。アドレー大公との推測なのだが、お前の存在が大きく影響していると考えている。科学者とやらに、こちらに飛ばされたのだろう? ならば、その科学者がお前のために、こちらの古代技術が稼働するように細工していると考える方が自然だ。エラよ、お前は何か隠して……いや、そんな素振りは無いという事だったな。何か聞いていないか。その科学者から、なぜオロレアに飛ばされたのかを」


 いつの間にか両肩をゆすられる程に、切迫した態度で問われた。国王の、甘くも凛々しく引き締まった顔が近付いて、内心ドキドキとしてしまったが、それがバレる事は無かった。科学者からは残念ながら、いかに絶妙なタイミングであったかを一方的にまくしたてられただけで、大した事は聞いていないと伝えると、国王はがっくりと肩を落としていたからだ。そして、とても残念そうに、何か思い出すなり分かった事があれば教えてくれと言って、国王は話を終えた。



 ただ、わたしにとっては有意義な情報だった。

 古代の技術がまだ壊れていなくて、それが自分のために動くかもしれないという事なら……何かもっと、出来る事が増えるのかもしれない。何不自由なく生活させてもらえているだけで、自分自身が出来る事は、無いに等しい。全て与えられた物で、自分の力で手にしたものは無い。これからも、そうなのかもしれないと思っていたが……何かお返し出来る時が、来るかもしれないのだ。

 




 ――そんな事を、帰りの馬車の中で黙々と考えていた。

 ガラガラガラ、という地面を駆ける振動が、ガゴンと跳ねて意識が現実に戻った時だった。


「エラ様、お疲れですか? なんだか難しいお顔をされてますけど」

 考え事をしているのが珍しかったのかもしれない。正面に座っているフィナが、心配そうにこちらを見ている。



「あ、ううん。少し思い出していただけよ」

 思えば、この言葉遣いも板に付いてきたのではないだろうか。女性らしく振舞うのも、中々に上手くなったと自負しているけれど、教育係のフィナのお陰だ。元々が侯爵家の令嬢だから、良し悪しを的確に指摘してくれる。



「そうでしたか。少しお顔が赤いようですので、緊張して熱が出てしまったのではと」

 この後に買い物もしたいのに、熱など出していられない。

「大丈夫だと思うけど……」

 そんなやり取りを、わたしの隣で黙って聞いていたお義父様が、突然妙な事を言った。



「エラ、お前まさか、国王の事を思い出していたのではあるまいな」

 腕を組んだ姿勢のまま、目線だけをこちらに向けて不機嫌そうだ。国王の事を思い出す。という括りなら間違いではないけど、何か釈然としない違和感を感じる。



「妙な聞き方しないでください。どうして怒っているんですか、もう」

 フィナはお義父様の様子に少し戸惑っているが、王妃とお義父様の昔話を聞いた後だからか、人間らしさが見えると今までよりも、さらに愛おしく感じる。


「怒ってなどおらん。だが、国王はダメだからな」

 国王は確かにイケメンだったけども、お義父様はわたしの素性をお忘れだろうか。

「男の人を良いと思えるかは、私には分からないですよ?」

 最もわたしを知るお義父様が、もし本当に忘れているなら、それだけ振舞いが上手になったと思っても良いかもしれない。



「あいつは見境の無い男だからな。油断して付け込まれるなよ?」

(国王は一体、どんな人なんだ……)

「そうそうお会いする方でもないですよね。大丈夫ですよ。それに何かあったら、おとう様が守ってくださるでしょう?」


 お義父様に肩を寄せて、甘えてみせた。もたれ掛かったのは二度目だけれど、ここまでするのはやり過ぎだろうか、それとも、親子なら問題ないのだろうか。そう思ってフィナを見ると、微笑んでいる。

(ふむ、このくらいのスキンシップは良い事らしい)



 ……いや、単にお義父様のご機嫌を取れた事に、安堵しているだけかもしれない。

「ゴホン。まぁ、そうだな。だがあいつには気を抜くんじゃないぞ」

 最後に念押しをされて、この話は終わった。





 そして今日こそは、街で買い物が出来る。


 宝飾の事ばかり考えていたが、まずは仕立て屋に連れていかれた。街のメインストリートで、貴族や商人が中心に売買する石畳の大通りにお店がある。樹木で車道と歩道が分かれていて、両サイドに大きなお店が並んでいる。街の外壁の門から、ほぼ真っすぐ繋がっている街の動脈。



 どこかに馬車を止めて街を散策……など、させて貰えるはずもなく、お店の前に止めるスタイルだった。大きな馬車の六頭付けなので、かなり迷惑な路駐だと思う。それでも他の馬車が対面通行出来ているから、大丈夫なのかもしれないけれど。



 大事な剣を抱えて仕立て屋に入ると、嗅ぎ慣れない、薬品のような匂いがした。生地を沢山扱うから、その匂いかと思ったが、鼻をスンスンしているとフィナに「おやめください」とたしなめられた。そしてこれは、布に付く虫除けの香草の匂いなのだという。初めての事に、こんな事でも新鮮でワクワクとした。



 色んな形、色とりどりのドレスが最初に目に入った。中央は広く開かれていて姿見鏡がいくつか置いてある。隣にもう一部屋あって、そこは採寸用のようだ。今は扉が開いていて、誰も使っていないのだろう。そして他の壁一面には、整頓された煌びやかな生地が並んでいる。



 ここではまず、成人の儀用のドレスの新調が、お義父様からの絶対命令だった。店主にその旨を伝えると、様々な上質な生地と形のサンプルを持ってきて、すぐさま採寸が始まった。他にもいくつか好きな物を選べとお義父様に言われて困ってしまったが、フィナが上手に選んでくれた。ただ選ぶだけでなく、流行の形や素材、定番などそれぞれの理由も添えてくれたので、勉強になる。



 ドレスを選び終えると、帯剣用のベルトをお義父様が選んでくれた。ドレスにも似合うようにと、幅や色の違う物を数点。どれか一つではなく、何種類にもなるのがすごい。全て選び終えると、店主は精算のために奥に入っていった。その間、せっかくだからと早速、今のドレスに合いそうな帯剣ベルトをフィナに着けてもらって、そして、剣を腰に下げた。



「くぅ~……」

 声にならない喜びの声が漏れてしまったが、そんな事を構ってはいられなかった。

「嬉しい……ありがとうございます。こんな日が来るなんて……」


 自分の体をぎゅっと抱きしめて、頬を肩に寄せて、喜びに打ち震えるのを抑えつけた。今頃になって、この身で扱える国宝級の剣を、力を手に出来た喜びが湧き上がってきたのだ。腰に帯びた事で、それがようやく実感として、意識が飛びそうな程に全身を貫いていた。



「ふぅぅ……」

 何度目かの深呼吸で、やっと気持ちが落ち着いてきた。顔はまだ火照っているが、気が遠くなる感覚は無くなった。仕立て屋の香草の匂いも一緒に覚えてしまって、クセになりそうだ。



「だ、大丈夫ですか?」

 店主は奥に居るので気付いていなかったが、おそらくは恍惚とした顔をしているわたしを、どうしたものかと見守っていたフィナがようやく声をかけてきた。お義父様も、落ち着かない様子で見ている。

「ふぅ。うん。ごめんなさい。感極まってしまって……もう大丈夫です」


 顔を赤らめて言っても説得力がないとは思ったが、先程よりは随分と落ち着いた。他の人に見られなくて、良かった。これは、さすがに恥ずかしい。



「大公様、お勘定はこちらになります」

 奥から出てきた店主が、束になった明細を持って来た。こちらの様子をうかがっていたのかと思うタイミングだったが、それならもう少しだけ後に出てくるだろう。そう思って、胸をなで下ろした。



 さて、ここで初めて、お小遣いでお買い物だ。と、思っていたけども、お義父様がお支払いを済ませてしまった。というか、後でお屋敷にて支払うというツケ払いだった。

(お店も大変だなぁ……)


 いや、もしかしてわたしも、そういう支払い方をすべきなのだろうか。貴族は現金を持ち歩かないとか、そういう暗黙のルール的な。

「ねぇフィナ。もしかして、お支払いってお店で直接しないものなの?」

 こっそりと聞くと、そういう訳でもないから、好き好きだという事だった。

(なら、わたしはお店に優しい現金払いにしよう)



「ね。お金って今日、たくさん持ってきてくれた?」

 宝飾を買うとは伝えていたけれど、少ないとフィナの気に入ったものを買えないかもしれない。


「大丈夫ですよ。エラ様の初めてのお買い物ですから、足りない事があってはいけないと……コホン。たくさんありますので、ご安心ください」

「あ~……ありがとう」

(絶対、お義父様がさらに渡してくれたんだ)



 仕立て屋を後にして、次こそは宝飾店だ。近くにあるというので、そこまでは街中を歩けた。初めての街散歩だ。樹木の緑が映える。建物のレンガの暖色がモザイク調になっていて、建物自体は同じような造りなのに、見ていて飽きない気がした。ほぼ真っすぐの大通りは、遠くを見るだけでも景色が抜けていて気持ちがいい。今日は快晴で、空も青々として夏の午後を爽快に飾っているようだ。本当に、見る物全てが新鮮だった。ほんの数十秒で終わってしまったが。



 それでも、今日はたくさんの出来事があって、もう満足していた。街行く人は、貴族にはあまり目を合わせないのか、基本的にそうなのか分からないが、こちらを見る人は少なかった。ただ、よく見ると街のあちこちに、護衛が居た……。どの顔も、お屋敷で見る人達だ。


(いつから居たの?)



 馬車にもついて来ていたのだろうか。普通に考えると、そういう事だろう。考える事はやめにして、宝飾店での買い物に集中しようと気持ちを切り替えた。お義父様には、長くなるかもしれないからと、馬車で待っていてもらった。代わりに護衛が二人入ってきたが、それは仕方がないと諦めた。お義父様にも、こっそりプレゼントを買いたいのだ。



 仕立て屋の扉は開いていたが、こちらのお店は木製の重そうな扉が閉じていて、小さな『開店中』の札が掛けてある。入った瞬間から宝石の輝きがキラキラとまばゆくて、少し(ひる)みそうになった。庶民でも分かる宝飾の価値よ。



 どうやら、高い所に作ってある窓からの光を、あちこちにある鏡で宝石に当てている。

(それでこんなに、光って見えるんだ)

 カウンター式の大きなショーケースには、程良い間隔を空けて大きな石のものから小さな石のもの、金やプラチナの繊細な造形をメインにしたものなど、本当に様々な宝飾が並べてあった。奥には別室もあり、そちらにもショーケースがある。



 フィナならどういうのを着けるのかと、それとなく好みや合わせ方を聞いてみると、仕立て屋でも質問していたお陰で、すんなりと女子トークの流れで聞き出せた。

(無知とは、素晴らしくもあった……)


 要は、使いようだなと思った。買う物に、こっそりとフィナの好みのネックレスとリング、ブレスレットを一緒に紛れ込ませた。アメリアにも、ちょっとしたものを。そして、お義父様には……悩んだ末にカフスを選んだ。王妃様やリリアナがすでにあげていそうな、瞳と同じ色のエメラルドを避けて、別の色のものを。



 結局はお義父様のお金だけども、人のために選ぶのは楽しかった。気に入って頂けるだろうかという不安と、喜んでもらえるのではないかという期待とが、入り混じる淡い気持ちも、初めての体験だった。



 こんな事なら、自分で稼ぐ方法を教わっておけば良かったと、後悔した。偉そうに、フィナにお義父様のお金で支払いをさせている場合ではなかったのだ。稼ぐことも、お金の相場も分からない、使えない令嬢など格好悪い事この上ない。甘やかされる事ばかりではないけど、これが当たり前になってはいけないと思った。


(最後に凹んでしまった。当然の報いといえばそうだけど、考えがここまで足りない人間だったろうか?)

 悔やんでも仕方がないので、きちんと学んでいかなくては。





「はぁぁ……当分外出はいいや……」

 フィナに体を洗ってもらいながら、お風呂でぐったりとしている。

 色々あり過ぎた。



 それに、買い物はパパッと終わらせるつもりだったのに、何もかもが新鮮で、随分と時間を使ってしまった。

「今日はお楽しみでしたね」

 フィナも疲れただろうに、わたしが自分で体を洗う事を許してくれない。



「うん。フィナもありがとう。たくさん、助けてもらった……」


 眠くなってしまってから、この体は疲れるとすぐに寝てしまう事を思い出した。

(まだまだ子供みたいだ……)



 久しぶりにお風呂で寝落ちしたようで、気が付いたのは次の日の朝だった。



拙い小説を読ませてしまい、いつもすみません。

特に場所などの情景描写が、全然足りていないと痛感しております。もちろん他にも。

この回からですがチェック項目を作って臨んでみた次第ですが、至らない所、遠慮なくご指摘ください。

お返事はしないかもしれませんが、こっそり修正していくと思います。よろしくお願いします。


などと書いておきながら、またも描写していない所がありまして加筆しました。ただ、お話には特に影響ございません。(2022/08/30 23:37)


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