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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第二章 三、得たもの(七)

「エラよ、ワゴンが気になるだろうが、先ずは、アドレー家の嫡子認定の儀を済ませよう」

 国王は、楽しそうにそう言った。


からの続きです。


(あ、今からが本番なんだ……)


 お義父様からは、本当に顔を見せるだけのように聞いていたので、率直な気持ちとしては「やっぱり」と思った。何もせずに顔だけ見せる意味は、無いとは言い切れないけども、多忙であろう国王の時間を削ってまでする事でもないのではと、思っていたのだ。



「さて、行政官。名簿を持て」

「はっ、ここに」

 侍女達が台を国王の前に置き、行政官とやらが一冊の本らしきものを置いた。それを開いて、国王が何かを記載している。終わるとまた、本と台は運ばれていった。



「これでアドレーの嫡子に、エラの名を記した。名実ともに、これよりエラをアドレー家の嫡子とする」

 国王がそう言うと、お義父様は「はっ」と答え、そしてわたしに目配せをした。

(返事をしろという事か)

「はい」



「よし。これで一つ目はお仕舞いだ。続いてだが、エラよ、お前にプレゼントがある。公爵と私からだ。その布を取ってみよ」

 ワゴンを指差して、国王は期待の眼差しでわたしを見ている。



「……はい」

 お義父様から、とも言っていたから、貰ってしまっても良いもののはず……そう思いつつも、お義父様に目配せをした。お義父様は、ニッっと笑っている。ここに来て初めて笑顔を見せた。

(何だろう……)



 ワゴンの上には、長方形の大きな箱らしき形が、赤いサテン生地の布に浮きあがっている。

(お会いした事も無い国王から、頂き物……?)

 皆目見当がつかないので、何が贈られるのか全く想像がつかない。赤い布を掴んで、そーっと手繰り寄せた。そこにあったのは――



「――剣だ!」

 それを見た瞬間に、飛び上がりそうになったのをギリギリの所で抑えたが、歓喜の声は抑えられなかった。



 見た事も無い白く佳麗な鞘と、ガラスで作ったかのような幽玄な剣。白い木製の入れ物に、鞘と剣を納めるための低い段差が付いていて、それを台座にして浮いたように二つが横たわっている。造形そのものはシンプルな十字型の剣だが、それは――



 ――刃が透き通っていた。

(……触って折れないだろうか)

「ガラスの剣……ですか?」

 期待と、そして壊してしまわないかという、不安の混じった声が出た。



「いいや?」

 王は自慢げにニヤリと笑い、と同時にゆっくりと一度だけ首を横に振った。光の加減で丁度金色に見える瞳が、楽しそうにこちらを眺めている。



「お前から預かっていたものだ。姿は変わったがな」

 国王はまるで、何でもない事のように言った。つまり、逆にかなりの労力が注がれた物だという事だろう。国王に何かを預けた記憶はないが、お義父様に預けたままの物がある。おそらく白煌硬金(ハクコウコウキン)の棒……。リリアナが、かなり苦労しても鍛える事が出来なかったと言っていた超硬の金属。雰囲気(ふんいき)からして、その非常に頑強なものを剣に打ち直せたという事だろう。



「こ、これが……ですか?」

 今度は、疑いと驚きとが混じった声を出してしまった。白煌硬金は、普通の炎では赤くさえならなかったと聞く。一体どのくらいの熱を与えれば、打てるほどに熱せるのだろう。

(本当に? 持ち上げて折れてしまったり……しないよね?)



 透き通ったガラスのようにしか見えないそれを、あの頑強な棒だった物とはまだ信じられなかった。

……刃は見るからに非常に薄く、中央の一番厚みのある所で三ミリくらいだろう。三徳包丁くらい……そう思うと、この刃渡りでは強度が不安になる。三センチ程の刃幅で、刃渡りが八十センチくらいだ。

(でも、長さは、この体で抜くのに丁度良さそう。柄も両手で持てるような、わたしに扱いやすいあつらえになってる)



 刃の透明さは、正にガラスかクリスタルだ。木製の入れ物の木目が、そのまま見えているのだから。見たままの物であれば、普通なら何かの拍子に割れる。しかし鍔や柄は、刃と一体になっている。刃に合わせて嵌めたような跡も留め具もない。つるりとした質感の、白く真っすぐな(つば)()。形は十文字の一体型の造りだが、透明な刃をどうやって繋げているのか分からない。


(よく見ると、両刃ではなくて片刃だ。切っ先だけ両刃になってる……片刃特有の技もあるから、ありがたい……)

 鍔の中央には大粒のルビーが嵌め込まれていて、他にも鍔を縁取るように、金でシンプルな緩い曲線のラインが描かれている。これは……鞘と同じ細工だろう。



 鞘も白色の素材で、それには細いラインを彫り込んで金を流し込んであるようだ。見るからに凝った意匠で、優美な曲線のデザインが描かれている。モチーフは植物の蔓だろうか。ずっと見ていられるほど繊細で綺麗だ。

 双方に見惚れていると、王が触れるように催促をした。



「手に取ってみよ」

 遠慮していると見えたのだろうか、低音の響く、優しい声だった。

「あっ……はい。すみません、見惚れていました」

 美しい剣だけど、やはりまだ信じ難く、刃を折ってしまわないかと不安だった。



 台座状の段差で浮いたように置かれている、幽玄な剣。右手で柄を、左手で刃の側面を、すくい上げるように触れた。金属のはずなのに、冷たさを感じないような錯覚を受ける。まるで体を、自分の体の一部を触ったかのようだ。



(おもっ……)

 そして、予想をはるかに超えて重い。確かにこの重さは、白煌硬金特有のものだ。



「お前はそれに、魔力じみたものを流せるのだろう? 見せよ」

 国王の指示を受けて、そうだったと思い出した。

「……はい」



(そう、意識を通せば分かる事だったんだ)

 しかし、剣に意識を通そうと思っただけで、すでに通していたかのように淡く光った。

「えっ」



 その瞬間に剣が浮いたように錯覚した。あまりの軽さに、逆に体を後ろに持っていかれそうになった。以前は重さが消えた感覚だったが、これは次元が違う。本当に、浮いているような感触だ。動かそうと思った意識を汲み取って、自動的に動いてくれるという機能でも備わったのではないだろうか。



「見事なものだな。その澄んだ白い光は何だ」

 以前は、淡く薄い青色だったのに。

「すみません。何かは分からないのです」

「ほぉ……? まぁよい。次は振って見ろ。自由に動いてよい」

 国王は、興味で少し身を乗り出している。



「はい。では……」

 柄を持つ右手が逆手に持っているので、まずは持ち替える。左手を、扇を持つかのように指先を揃えて伸ばし、優雅に見えるように鍔に掛けた。次に右手を、柄の先端まで愛おしく撫で、そして順手になるように手首を返し、鍔元まで沿わした。スルスルと滑るのに、握ろうとすると、まるで自分の体になったかのように吸い付いて離れない。太さも、この小さな手に丁度良い。



(すごい……切っ先まで自分の肌のように分かる。空気の揺れも、自分の体との距離感も)

「国王様……素晴らしいです。まるで、自分の体です」

「それは何よりだな」



「それでは、振ってみます」

 ゆっくりと片手上段に構えた。そこから、振り下ろしと同時に振り上げ、そのまま流れるように横薙ぎ二回、体を添わせるように回して突きを三回。その軌跡が、澄んだ白い光となってほんの短い間だけ残る。まるで、光と踊っているようだ。その後は、棒の時にしていたように、バトンのごとく両手を使って持ち換えては回し、もう一度持ち換えては、またクルクルと回した。腕や体に絡ませるように、自在に。



 そして最後は、再び斬る動作をした。両手持ちで、片手で、逆の手で。回しては斬り、持ち替えては斬る。途中から夢中になって光の軌跡と戯れて、そして、集まる視線にはたと気付いて、顔が真っ赤になってしまった所で終えた。



「見事だ。それは重くて、大の男でも片手でそこまで早く振るなど、出来んのだが。本当に魔法でも見ているようだ」

 国王と王妃は、拍手をしてくれていた。



「ありがとうございます」

 抜き身のままの剣を手持ち無沙汰にしつつ、お礼を述べた。褒められた事も嬉しいけれど、この剣を賜った事が本当に幸せなのだ。



「鞘にも納めてみるといい」

 抜き身でいつまでも持っているのが忍びなかったので、置こうかと迷っていた時の一言だった。

「はい」



 鞘を手に取ると、これも予想より重かった。鋼で作ったにしても重い。まさかと思って、意識を通すと案の定。淡く薄い青色に光った。

(こっちは、前と同じ色だ)



 重さは消えはしなかったけれど、木製の鞘くらいには軽くなった。つまり、中に木を当てているのだろう。そう作った方が絶対に簡単に作れる。

 鞘口は広くて、両刃の切っ先に触れずに、鞘口に当ててスッと納める事が出来る。

(ものすごく扱いやすい。この剣も鞘も、作った人は天才だ)



 最後まで剣を納めると、カチン――と、鞘と鍔が当たった音が鳴った。その響きは、鉄琴の音色のようだった。

「すごく綺麗な音色です……でもこれ、本当に頂戴してもよろしいのでしょうか」

 これほど見事な物を、というか恐らく国宝級だ。そんな物を、国王から下賜される理由がない。



「なんだ、余を疑っているのか。まぁ、分からなくもないがな。正直に言うと、そのアドレー大公に、借りの一つを返したまでだ。お父上に感謝するといい。本当に骨が折れたぞ」

 眉を上げて、やれやれという顔をしつつも、その声はどこか嬉しそうだ。



「骨が折れたのは鍛冶師達でしょう。あの装置が動くとは思いませんでしたが、上手く扱ってくれたものですな」

 お義父様は国王に皮肉交じりに言ったけれど、二人だけに通じる労いのようなものを感じた。



「その通りだな。あの者達にも褒美をやらねばならん。その分、借りはもう一つ帳消しにしてもよいだろう?」

 お義父様は、やはりそうきたかと、肩をすくめながらも了承したようだった。

(貸しって……いくつあるんだろう)



「それはそうとエラよ。早速それで、試し斬りをしてくれ」

国王はそう言ってパチンと指を鳴らすと、鉄製の鎧が台に乗せられて運ばれてきた。


「鋼鉄製だ。これを斬れ」

 誰が着けるのか、一センチくらいの厚みの、鋼鉄製の板金鎧を国王はこともなげに斬れと言う。

 刃が欠けてしまうのではと躊躇したが、国王の命令には逆えない……。



「大丈夫だ。それで何度か試したが、刃が欠けるような事はない。刃が入りはするが、すぐに止まってしまう程度だったのだが、お前が斬るとどうなるのかを見てみたい」

 こちらの不安を見透かしたかのような言葉だった。



(切れ味まで、変わるのかな……)

 そうは思いつつも、「はい」と答えて鎧の前に立った。

 意識を通して、剣を抜く。鞘を手に持ったままなので、片手で斬る事にした。普段から片手である事が多いから、丁度良いと思った。



 静かに息を吸い、上段に構える。そしてフッと吐くと同時に、袈裟切り――斜めに振り下ろした。

 キィィン。と、少し長い金属音と、軽い手応えが残る。

(これは……)

 手に残る感触で体が理解した。金属が容易く斬れるとこんな感触なのかと、身震いした。



「おお! ……見事なものだ」

 国王だけでなく、残っていた官僚達やお義父様からも感嘆の声が漏れた。

鎧には、肩から反対の脇腹に抜けるように、一本の線が通っていた。それは傷が入ったのではなく、完全に斬り分けられている。



「すごい……」

 斬った自分が、一番驚いてしまった。普通は、折れるか曲がるかする。もしくは巨人のような怪力か、剣が神の創作物でもない限り、普通は出来ない事だ。本当なら、ガッツポーズでもしたいくらいに浮かれているが、一応場の空気を読んでじっとしていた。


(これがあれば、男の人とも対等か、それ以上に渡り合える!)

 これならば相手の剣さえ容易く斬ってしまうだろう。武器破壊は相手の心をかなり削る。それだけでも有利なのに、鎧さえも意味をなさないと知らしめられたら……。無用に命を取らなくても済むかもしれない。



(戦いには勝ちたいけど、殺したいわけじゃないからね)

 嬉しい。嬉しい。こんな事があるなんて、この世界も悪くない。今は心からそう思っている。力を手にすると、やはり気分が高揚してしまう。



(いけない。これは、わたしが強くなったんじゃなくて、この剣が凄いだけなんだ)

 そう言い聞かせようとも、心は踊りっぱなしだった。



「その剣、誰ぞに奪われてくれるなよ? ガラディオのような特級の猛者ならば、お前と同じように斬れぬとも扱いは出来よう。あいつは二十キロもあるハルバードを振り回す規格外だからな」

 国王の言葉に、踊っていた心が一気に凍り付いた。



(そうだ……寝ている時でさえ、盗られないように管理出来ないと……)

「こ、心しておきます」

 国王は、気を付けろよと言わんばかりに、ゆっくりと一度だけ頷いた。

(あとで、お義父様にも相談しよう)



「さて、今日はご苦労だった。また――」

「――お待ちくださいな」

 王妃は、場を締めようとした国王の言葉を遮った。



「……なんだ」

 訝しげに見る国王を、王妃は意に介さずに続けた。

「後で少しお茶会を。と、言ったじゃないですか」

 少しスネた感じが、また可愛らしい。表情が豊かで、引き込まれてしまう。



「はぁ。オレは参加するとは言わなかったぞ。だがまあ、いいだろう。あまり長くは取れんが、それで良いな?」

 確かに、さっき国王は素知らぬフリをしていた。首を横に振って微妙な顔をしていたのだ。



「まあ。ありがとうございます。エラちゃんも大丈夫よね?」

 有無を言わさずに、国王も参加させてしまうとは。二人の仲は、きっと円満なのだろう。

(奥さんの言う事を聞く度量がある人は、モテそうだし。つまり、仲良しって事だよね)



「はい。ご一緒出来て光栄です」

 素敵な人だから、色々と参考にしたい。

(シロエにも、負けなくなれるかも……?)


お読み頂き、ありがとうございます。

この小説を、掘り出し物を見つけたと思ってもらえたら嬉しいのですが。

まだまだ続きます。

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