表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/295

第二章 二、環境と立場(八)


「エラ! 間に合ったか!」


 ――お義父様の悲痛な叫び声がした。




(なるほど、この子があっちの扉に、(かんぬき)でも掛けておいたのか)


 それを破壊して突入するまでの遅れが、この空白時間だったのだ。


「寝室です。おとう様。返り討ちにしました」


 少し得意げに、そして褒めてほしくて言ったのだが、お義父様は怒りと心配で我を忘れているようだった。




「エラ……よくぞ無事だった」


 その言葉はオレに向けられているし、わなわなと震えた手を差し伸べてくれてもいる。


 だが、騎士達に出している指示は、冷酷極まりないものだった。




「早くエラと代われ。そして部屋から出した瞬間に斬ってしまえ」


 騎士達も少し恐怖を帯びながら、出された命令に「はっ」と返事をした。


 予想外に怒り狂う様子に、圧倒されてこちらの思考も緊迫してしまった。


 うまく言葉が出ない。


 そして騎士の一人が、オレの側で暗殺者の腕をさらに締め上げた。


 男の人の、それも鍛え上げた騎士の力でされては、この子の腕が千切れてしまいそうに見えた。




「やめて。そこまで絞めなくても動きは封じています!」


「ならん!」


 お義父様がオレに怒鳴ったのは、初めての事だった。


 まさか自分が怒鳴られるなんて思いもしなかったせいで、全身がビクッと跳ねてしまった。


「暗殺者を庇うなど、前代未聞だ! ――今すぐ処刑する」


 怒鳴りつけたかと思うと、最後の言葉は冷徹に、静かに口にした。


(おとう様は本気だ……)




「ま、待ってくださいおとう様。話だけでも聞いてあげてくれませんか? そして出来れば、匿ってあげたいのです」


「いくらエラの言う事でも、それは聞けん。そこをどきなさい」


 その言葉が終わる前に、お義父様の剣は抜き放たれていた。


 そして、すでに目の前まで歩を進めている。行動に、隙も猶予も無い。




「お、お願いですおとう様。この子はきっと、もうしませんから!」


「こやつも我が娘を手にかけようとして、生きて帰れるなどと思ってはおるまい」


 オレに組み敷かれながら、彼女は震えていた。


 目は血走っていて、恐怖で見開いたままお義父様を見ている。




「ねぇ、キミ。そのまま動かないでくれたら、おとう様を止めてみせるから。動かないって約束してくれる? 間違っても逃げられるなんて思わないでね。おとう様は、キミが一ミリでも動いたら殺すつもりだから」


 もはや動けるはずもないだろうが、オレの言葉に彼女は、首だけを必死で縦に振った。


「ね、おとう様。この通り、ちゃんとこちらの言う事を聞きます。話せる相手だと思うんです」


 彼女から手をゆっくりと解き、おとう様との間に入る。


 しかし仮に裏切られて何かしようなら、お義父様が斬るだけの角度を残しながら。


 そっと立ち上がった。




「お前なぁ……こやつが仮に、男だったらどうしていた。お前を殺してから犯すような男だったとしても、お前は許して匿うのか?」


(こ、殺してから、犯す? 順番が逆じゃないのか? そんなの、ていうか、逆でも逆じゃなくても――)


「――無理、です」




 急に恐ろしくなって、下で硬直している暗殺者の目を、恐々としながら見た。


 血走ったままの彼女は、視線が合った瞬間にブルブルと首を横に振る。


 そんな恐ろしい事は絶対にしない。


 と、必死で訴えているように見える。


「……しない、よね?」


 確認のために、一応聞いてみる。


「し、しない。そんなこと。しません」


 緊張のためか、顔中を汗まみれにしながら彼女は訴えた。




「ほ、ほら、大丈夫だそうです。おとう様」


「エラ。お前は女に甘すぎるのではないか? 男なら容赦なく斬っていただろう」


 言い返せない所があるが、危機感が全く違ってくるのだ。


 体力的に不利な男に対しては、取り押さえるだけなどと悠長な事は出来ない。


 力技で逆転されたら、勝ち目が一気に無くなってしまうのだから。


「私より体力で勝る者に、容赦は出来ませんが……彼女は力も技量も下でしたので……」


 そう伝えると、お義父様は呆れたように首を横に振りながら答えた。




「暗殺者に、男も女も無い。暗、殺、者。だ」


 お義父様は、構えた剣を彼女から間合いを外さずに居る。


 このままでは、何がきっかけで斬られてしまうか分からない。


 そう思っていると、下から声がした。




「……構わない。殺せ。どっちにしても、俺には帰る場所がもうない。失敗したらその場で殺されるか、戻ってから殺されるかの一択しかないんだ」


 いつの間にか、彼女は落ち着いていた。


 自分を「俺」と言う彼女の目は、もう怯えてはおらず、諦めきった暗い色をしていた。




「誰が喋って良いと言った!」


 その怒声に、オレと彼女は同時にビクリとした。


「エラよ、こやつを生かしておいてどうする。飼い慣らして使うのか? 何か考えがあるのだろうな」


 ギクリとする事を言われてしまった。


(何も考えていない……)




「その……女の子だから、可愛そうだと思って……」


 何か自分に重ねてしまったのかもしれない。


 こんな中世的な世界で、女の子が暗殺者をするなんてきっと普通じゃない。


 生きるために仕方なくで、好んでしている事じゃないのではと。


 そう思ったのだ。




「ふん……。エラ、思う所は察してやらんでもない。だがな、時には非情にならねば、いつかお前の首を絞める事になる。明日には今度こそ暗殺されるかもしれんのだ。綺麗ごとではないのだぞ?」


 お義父様は、ずっと彼女の方を見ている。


「本当に、お願いします」


 こちらを見てはくれないが、しっかりとお義父様の目を見て、はっきりと告げた。


 すると、お義父様は少しだけ複雑な顔をして、しょうがない。と言った。




「すみません。ありがとうございます!」


 オレは深々と頭を下げて、心から感謝を込めた。


「だが、条件がある」


 生かしてくれるのだから、条件くらいは飲まなければいけないだろう。そう思った。




「ワシが良いと言うまで、こやつは拘束する。尋問用の椅子にも括り付けて、食事は一日一度だけだ。エラに忠誠を誓ったと分かるまで解く事は許さん」


(それは、あまりにも――)


「――そんな! それでは一週間も持ちません! それじゃあ殺すのと変わらないじゃないですか!」


 オレは必至で訴えた。


 人権も無い。


 尋問用の椅子は、穴が開いていて排せつもそのままさせる。


 言わば便座椅子だ。


 拘束されて横にもなれないし身動きが取れないから、一日もすれば足に血が溜まる。


 精神力も体力も、根こそぎ奪われてしまうのだ。


 それを、こんな年の違わない女の子にするなんて、酷過ぎる。




「それに忠誠を誓ったなんて、どうやって証明するんですか! そこまでなさらなくても!」


 こんなに反抗したのは初めてだった。


 もう、許してもらえないかもしれない。


 それでも言わずにはいられなかった。




「……そう言うだろうと思っていたから、世話はお前がしなさい。だが、拘束を緩めるような事は許さん。分かったな」


 有無を言わさずに、そのままお義父様は部屋を出て行った。


 すぐ後ろに居た騎士に、処置しておけ、と告げて。




「……もういい。殺せ。拷問もなぶり殺しも辛い。今すぐ殺してくれ」


 身動きひとつしないで居た彼女は、今なお動く事をせずにじっと、泣いていた。


 オレは、それにつられたわけではなく涙がこぼれ落ちた。


 お義父様にも苦渋の選択をさせてしまった上に、この子を救ってあげられたのかも分からない。


 これから救えるのかも分からない。


 お義父様の冷たい決断も、自分の中途半端さも、甘えも、何もかもが悲しかった。


公爵の厳しい処断に、エラは……

続きもぜひお読みいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ