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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第九章  三十三、冷たい夜

  第九章  三十三、冷たい夜




 私とエラは、王都を素通りして一旦ファルミノに戻った。

 リリアナに報告するためと、またきっと、春までは会えないだろうから。


「それじゃあ、お風呂で体を温めてきなさいよ。お昼も一緒に食べるでしょう? 王都に帰るのはそれからにしなさいよ」

 そう勧められて、その通りに甘えることにした。


 お風呂には……案の定、シロエとリリアナも一緒だった。

 背中の流し合いという名の、胸の触り合いも久しぶりに受けることになったけれど、こんな風にキャアキャアとふざけ合う時間も、必要なのかもしれないと思った。


 実際、色々と考え込みそうになっていたのが楽しい気持ちにすっかりと入れ代わってしまったし、心も軽い。

 ダラスとご妻子のことも、なんとか一緒になれたという最後を飾れたのだと、三人は報われたのだと思えるようになった。




 ただ、エラは……また少し大人にされてしまった……。

 不意に嬌声が漏れてしまい、口を手で押さえたものの、シロエとリリアナに「かわいい声を出しちゃうじゃないの~!」と、おもちゃにされていた。


 まあ、見ている限り胸を揉まれたり、こそばされたりするくらいだったし、すぐに終わったので黙っていた。

 ……止めなかったことを、あとでエラに怒られたけれど。


 そして食事の後、皆でプリンを食べながら私への尋問大会になったことは、言うまでもない。

 新婚生活。

 この四人の中で、私が最初に結婚してしまったのだから。


 根掘り葉掘り、夜のことから日常まで、何もかもを白状させられてしまった……。

 エラはさっきの仕返しとばかりに、私が甘えていることまで言ってしまうものだから、それはもう、大いに盛り上がっていた。




 やっとのことで尋問を終えて、帰れたのは日暮れ前。

 私たちなら飛んですぐだろうからと、日が落ちる前なら問題ないでしょうと、そういう時間まで引き伸ばされたのだった。


「それじゃあ、ガラディオにはゆっくり休みなさいと伝えておいて。春に戻れば問題ないわ」

 その言伝をリリアナから預かって、私たちは帰路についた。




 左手には深い森林と、そのずっと向こうには大山脈があって、右手には平原と、その向こうにはまた森林が広がる。

 その全部が、真っ白な銀世界となって煌めいていて、そして夕日を反射して赤く染まっていく。


 でも、少し急がないと王都の向こうの空は、すでに夕闇に落ちて一番星が見えている。


「この広い空が暗くなるのは……少し怖いですけど。でも、おねえ様と一緒なら、ぜんぶが綺麗に見えます。夕日に照らされる雪景色も、闇空に光る星も」

「うん。とっても綺麗。エラとこんな風に、空を飛べると思わなかった」


「はい! それに……。おねえ様がこの星に来た理由……それもすっかりと解消できましたしね! 後はゆっくりと、この世界を楽しんでください。私、おねえ様とずっと一緒に居ますから! ……私と、たくさん過ごしてください!」

 エラの目は、とても真剣だった。


「フフ。それ、愛の告白みたいじゃない。でも嬉しい。私も……エラと離れたくないわ」

「うれしい……。絶対ですよ!」

 うんうんと頷く私に、エラは満面の笑みをくれた。


 ……幸せだ。

 可愛い妹が居て、優しい旦那様が居て、素敵なおとう様も居る。

 心から私を愛してくれる人たちが待つ、お屋敷があって――。




「……あれ?」

 なんだか、急に眠気が襲ってきた。

 眠らなくても大丈夫な、オートドールの体なのに?


「どうされましたか?」

「なんか、眠くって――」

 そう伝えるよりも早く、私は失速してへろへろと墜落してしまった。


「おねえ様!」

 エラは急降下で私を支えてくれたけれど、自分で分かる。

 念動を維持できない。


「だめ、離して――」

 地面まで数メートルくらい。

 雪が厚く積もった今なら、どこも傷めないはず。


 そうは思っても、エラまで巻き込みたくなかった。

 だから、最後の力を振り絞って、エラを突き放して私は落ちた。

「おねえ様ぁぁ!」

 大袈裟なんだから……少し落ちたくらい、平気なのに。




「おねえ様! 一体どうされたんですか! 何が起きたんですか!」

 ……眠い。ただ、それだけよ。

「ああ……おねえ様。念動が……どうして……」

 少し眠ったら、また一緒に、飛んで帰ろう?


 ああ、でも、こんな場所にエラを止めておくなんて出来ない。

 先に帰って。

 すぐに、追い付くから。


「私がお運びします。人魔としての力、ずっと練習してきたんですから!」

 念動を使えば、一トン以上ある私の体でも動かせるでしょうけど……全身くまなく意識を通すのは、難しいわよ。




「うっ……。二人分の体に意識を……念動を通しきれない。重い……!」

 ほら。意外と難しいの。だから、諦めて先に帰って。

「でも、ぜっ……たいに、おねえ様は、私が……!」

 お願い。私は後で帰るから、置いて帰って。


「ああ、ほらっ。私でも、出来ましたよ。おねえ様」

 あら、本当ね。私の翼までしっかりと、意識と念動が通じてる……。

「ちゃんと二人で帰りましょう。その後の看病も、私に任せてくださいね」

 大丈夫よエラ。少し眠れば……。



   **



「ルネ! ルネ! 一体どうしたというんだ! 目を覚ませ!」

「ルネ。目を開けるんだ。いつまでも心配をかけおって、この馬鹿娘が」

 ここは……。

 私の、寝室?


「ルネ! 気が付いたか!」

「ルネ……」

「旦那様……おとう様も……。すみません……少し、ねむくって……」


 二人とも、大袈裟なんだから。

 そんなに血相を変えて……。

 でも、こんなに眠いなんて、たしかにおかしい。




「本当に眠いだけか! 何かあるなら、些細なことでも教えてくれ!」

「お前は一人で抱え込むクセがあるからな。ルナバルトの言う通りだ。不調があるなら教えてくれ」


「……お二人とも、大丈夫です。ただ眠いんです。だから、大丈夫……」


「いいか、よく聞けよ? お前は今、かなりの熱が出ている。眠いのは何か病なのだ」

「そういうことだルネ。だがお前の体は、お前にしか分からん。だから、ワシらに何か出来ることがあるなら教えてくれ」


 そんな……はずは……。

 熱を出すだなんて、そんなわけが。




「……わかりません」

 異常があるなら、視界のどこかに、警告が出ているはず……。

 でも、目を開いても閉じても、何も見当たらない。

 そういえば、頭が重くて……あまり考えられない。


 ……もしかして、ダラスの願いを叶えたから……かな。

 ここに来たのは、彼の願いが発端だった。

 それを叶えた今……私も、お役が終わったのかも……。

 そうだとしたら、ちょっと、辛い……。


 せっかく、これからの人生を……もっと、楽しもうと――。

「みんなで、楽しく……生きて、いたかった……」


「おい。何を不吉なことを言っている!」

 旦那様……。

「ごめん、なさい。ここに来た意味を、果たしたので……。もしか、したら。と……」


「馬鹿娘が! それならこれから、自由に生きられるのだろうが! 気を強く持て!」

 おとう様、いつも、すみません。

「心配、ばかり……すみ、ません」


 あぁ……意識を、もう、保てない。

「ルネ! しっかりするんだ!」

「眠ってもよいが、必ず目を覚ませ! 分かったか馬鹿娘!」



   ***



「熱は?」

 ルナバルトは、毎日ほとんど眠らずに、ずっとルネの側に居た。


「ずっと同じですね……。でも、おねえ様は絶対に、死んだりしませんから」

 エラもまた、同じように側に居た。


「エラ……。君も少し休みなさい」

「ルナバルト様こそ。おねえ様のことは私にお任せください」


「君のお陰で、随分と休ませてもらっているさ。だが、君まで倒れてしまってはルネに申し訳が立たない。そうだろう?」

「……はい。それでは、少し眠ってきます」




 もう四日を過ぎて、日が変われば五日目となる。

 エラは記憶の網にも、姉を探しに行った。

 だが、あの虹色の大鳥はどこにもいなかった。

 つまり、体から意識は離れていないという事だ。


 念のために毎日、記憶の網の中へと探しに来ているのは、オートドールという体のせいで、姉が呼吸をしていないからだ。

 そのせいで、熱があることを除けば、生きているのか死んでいるのかが分からないのだ。




「記憶の網に居ないことが、せめてもの慰めね……」

 もし居れば、それはゴーストが完全に、オートドールの体から離れてしまったということだから。


「おねえ様……一体、どうしてしまわれたの……」

 最も深い繋がりがあるはずなのに、姉はこの手をすぐに離れてしまう。

 エラはそう思って、歯がゆさを耐えていた。


 そんな姉に追い付きたくて、人魔の力を磨いてきた。

 そのお陰でまだ生きている事を知れるとはいえ、それ以上の事が出来ないもどかしさ。




「エラ! エラ! 眠った所をすまない! 将軍を呼んで来てくれ! ルネの容体が変わった!」

「えっ!」

 部屋の外に居るルナバルトに、エラはベッドから飛び起きて返事をした。

「すぐに向かいます!」



  **



「どうなっておる!」

「分かりません。熱が下がったと思ったら、そのままどんどん冷たく……」

 義父の問いに、ルナバルトは極力冷静に、起きた事をそのまま伝えた。

 彼もまた、取り乱して気が動転しているのを、なんとか抑えている。


「おねえ様……これは……これは一体、どういうことなんですか?」

 凍るほどに冷たい。

 その重い手に触れたエラは、わなわなと震えていた。

「どうして……どうして?」

 それはあまりにも――生きているとはいえない冷たさだった。


「ルネ……なぜ何も言わん! なぜ目を覚まさんのだ!」

 アドレーもまた、冷たくなった娘の頬に手を当てて叫んだ。

 ルナバルトは、その現実を受け入れたくなくて、二度目を触れようとしなかった。

 ただ立ち尽くし、首を振っている。


「うそです! こんなの……うそに決まってます! おねえ様がこんな! こんな……」

 ――信じたくない。

 ここにいる全員が、ただその一心だった。


 だが、ルネは微動たりともせず、氷のような冷たい体をして……そこに重く横たわっているだけだった。


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