表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

291/295

第九章  三十一、手向けの地へ

  第九章  三十一、手向けの地へ




「はぁ……。出来るなら……見たくなかったわね」


 二人は、あまりにも早く死んだ。

 戦後の混迷期だから……しかも、終末のような世界では、むしろ普通のことなのかもしれないけれど。


 それでも、同じ国の人間からさえ迫害されて、行く当てのない逃避行を強いられた最後だなんて――。

 数千年も前のことで、どうしようもなく変えようのない、もう終わってしまった出来事とはいえ……落ち込む。




 だけど、そう言って沈んでいる場合ではない。

 やっと二人を見つけて、その最後の場所を特定したのだから。


「ダラス……あなたの願い、やっと叶うわよ」

 どんな想いで過ごしたのか……数千年をかけて私をこの星に飛ばしての、やっと叶えられる願い。


「場所を詳しく表示して」

 衛星が生きていて良かった。もう、すぐに見つかるだろう。

『ポイントA-40985513、p-39975119、表示画像を現在に重ねます』


 ……何の記号と数字なのか、全然分からない。

 この星特有の、緯度経度と同じような座標の表示だろうか。

 視界の中には、今の衛星画像で点が記されている。




「ここって……森林街道の北ね。もしかして、エイシアが居た辺り?」

 これほど精確な地図画像を見るのは初めてだけど、おそらくは、最初にエイシアと出会った場所だ。

 密度の高い森林の中に、僅かに開けた奇妙な所だった。


 エイシアが自分の寝床にするために、わざと木々を払ったのかと思っていたけれど……。

 こんな偶然があるだろうか?


 二人が、トラを倒すために光線で焼いた場所は、超高熱で地面がガラス状になっていた。

 もしかすると、そのせいで木々が生えて来ずに、今でも小さな空間となっているのかもしれない。


 ……何千年も経っているから、さすがに違う理由のような気もするけれど。

 それに、そう思い込んでいるだけで、全く別の場所かもしれない。

 ただ……今は感慨に耽りやすい状態だし、繋がりがあるように思ってしまった。




「ここに、ダラスの金属片を埋めてあげられたら……私がこの星に来た使命は、終わるのね」


 もしも、最初にこの使命を聞かされていたら……「そんなことのために?」と、憤って話を聞かなかったかもしれない。

 遥か彼方の星に、持っていたなけなしの武力さえ全て失わされてまで……それだけのために私を飛ばしたのかと、激高したかもしれない。


 だって、エラの体に入ったばかりの頃は、本当に苦労したから。

 指先ひとつ動かすのに、全力で集中してなお、わずかに曲がる程度だった。


 ……思い返せば、何もかもが理不尽な出来事だったし、けれど、ありえない幸運の連続でもあった。

 理不尽を超える、いわば奇跡に助けられて、今は……幸せを感じる生活をしている。


 故郷では一ミリも感じたことがなかったものを……今はたくさん貰って生きている。

 無償の愛なんて、絶対に無いと思っていたのに。




「……ダラスのお陰ね。今となって、やっと言える言葉だけど」

 ゴールは、もう目の前だ。

 翼で飛んで行けばすぐだし、その場所で獣が出ようとも、今の私なら簡単に倒せる。


 朝ごはんを食べたらすぐに来るだろうエラを待たなくても、今から行ってすぐだ。

「でも……これは、エラと一緒に行きたいかな」


 私が入ってしまったエラも巻き添えだっただろうし、それに対しての意味と、そのゴールのひとつがやっと見えたのだから。

 私とエラの、人生を変える出来事の発端と、その終わり。

 一緒に見届けてほしいし、エラもきっと、一緒がいいと言ってくれるだろう。


「一度、ファルミノのお屋敷に戻りましょうか」

 ここに誰が居るわけでもないけれど、ダラスに……この金属片に話しかけるように、自然と声が出た。



   **



「行きます! おねえ様と一緒に見届けたいです!」


 お屋敷に戻って、リリアナと朝食を終えた頃にエラが来た。

「エラじゃないのよ~! この子ってばルネと一緒で、ぜんぜん来てくれないんだから~!」

 リリアナにひとしきり抱きしめ撫でられたエラに、ダラスの願いを叶えに行こうと告げると、食い気味にそう答えたのだった。


「ありがと。私、これはエラと一緒に行きたくって」

「なになに? 私をのけ者にするつもり?」

 からかい半分で参加するつもりのリリアナに、元々説明していた話に加えて、埋めに行くだけのことだけどもと、同行するかを聞いてみた。


 乗り気の様子を見せて、ほとんどついて来るような雰囲気だったものの、「やっぱり、姉妹水入らずで行く方がいいかもね」と、何らかの気を利かせたらしい。


 その代わりにと、花束をくれた。

 厳冬期でも花を楽しめるようにと、庭師に命じて室内で育てているのだそうだ。


「リリアナ。ありがとうございます」

「あなたに託して正解だったと、科学者ダラスも笑っていると思うわ。その壮大な物語、終わらせてあげなさい」

 リリアナは、そう言って見送ってくれた。






 目的の場所までは、エラと並んでゆっくりと飛んだ。

 ファルミノから王都までの道のりを、しっかりと感じながら。


 それでも、二時間もかからなかったけれど。

 ただ、エラはその間に、興味深いことを話してくれた。




「私の翼なんですけど……これ、もしかして、ダラスのお子さんのものだったのではと思って」

 エラに言われるまで、そんなことは考えもしなかった。

 似ているなとは、ほんのわずかに思ったけれど。


 でもそう言われて、最初はティアラを付けていたっけと思い出した。

 特に意味もなさそうだったから、装飾を落としても嫌だなと思って、宝石箱に入れたままだったはずだ。

 私がエラの体を出た時から、それはエラに引き継いでもらっている。




「それで昨日、突然の訪問だったのですが、これを下さったスタンレドル伯爵家に行ってきたんです。これをどこで手に入れたのか、詳しくお聞きしたいと思って」

 エラは本当に、抜け目ないというか……私よりもしっかりしているなと思った。


「ただ、あまり詳しくは分からなかったのです……。何代も前のご当主が、森の深くで偶然見つけたらしいということしか。掘り起こすために、散財したという話も残っているようですが。それがどの森なのか、結局はほとんど何も聞けなかったに等しいんですけども」


「十分よ。きっと、同じものだろうなって思う。そもそも、こんな翼が他にも沢山あってたまるもんですか」

「フフッ。それもそうですね」




 ……私がエイシアを探しに入った時でさえ、手付かずの森だった。


 場所がそこで間違いないのであれば、仮に何千年も経っていたとしても、誰にも見つからずに放置されていた可能性はある。

 そういえば、御遺体がどうなったかまでは見なかったけれど……。


 でも、翼が同じ場所から出て来たのならば、少なくとも最初の冬を越えるまでは、あの場所に横たわっていたに違いない。

 春以降は、自然の摂理で……土に還ったか、動物に荒らされてしまったかは、分からないけれど。

 人間に荒らされたのでなければ、それでいいと思った。




「それにしても、衛星からの映像……私にしか見えていないのかと思ってた」

「あら、そんなのさすがに退屈ですよ。何もない空中に映っていたのには驚きましたけどね。その時にそれを言いたかったんですけど、おねえ様があまりに集中しているから、ガマンしたんですよ?」


 褒めてくれと言わんばかりに、じぃっと私を見つめるエラ。

 そういうところは、私なんかに似なくて良かったと思う。


 素直にアピールをして、そうかと言ってしつこくもなく、許してしまう範囲で甘えてくるのは天性のものだろう。

「ほんとに可愛いなぁ、もう」


 そう言うだけで照れるくせに。

 その頬を赤く染めた表情は、もっと可愛らしかった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ