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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第九章  三十、二人の行く末

  第九章  三十、二人の行く末




 母娘のその後――。

 映像で見たその先、彼女たちの最後までの姿を、追わなくてはいけない。


 気が乗らないのは、あまり良い結末にはならないだろうという、昨日見た状況のせいだった。

(終末的な世界で、女性の人権が守られるはずがない。昨日までの映像でさえそうだったもの)


 いやなものを、これ以上見たくない。

 しかも、ダラスのために探しているというのに、その二人の不幸せな姿を追わなくてはいけないのだから。




(月が昇ってしまった……)

 周期の加減で、夜にその輝きを見せずに、明け方から白んだ姿を現した。


(エラが来てくれるまでに、見てしまおう)

 そういえば、窓に当たる風雪の音がしなくなっている。

 リリアナとシロエに気を遣われて、ファルミノのお屋敷だというのに、二人とは別の部屋を用意された。


 昔は……絶対に三人で寝るのだと言われて、特別に作られた大きなベッドで、二人に挟まれて眠っていたけれど。

 そのお陰で、二人を起こしてしまうかもという心配をせずとも、お屋敷を出ることが出来た。




 玄関を出ると、吹雪は静まっていて、ただ白銀の世界が広がる。

 風はなくとも、空気がとても冷たい。

 曇り空のせいで、余計にそう感じてしまう。

 お屋敷を囲む広い庭も、草花が分厚い雪の層に埋め尽くされている。


(こんなに雪に埋もれても、春には芽吹いてくれるのね……)

 私なんかよりも、よっぽど逞しくて強いのだなと、落ち込み気味の心は少し嫉妬してしまう。


 もう少し遠くまで見ると、外側の塀では、見張りの騎士たちが雪を降ろしていた。

 その作業中にも関わらず、玄関を出た私にしっかりと敬礼を向けてくれた。


 ガラディオが不在でも、隙なく見張ってくれていることに安心を覚える。

 私は手の平を数回、小さく振って返し、着けた翼に意識を込めてようやく飛び立った。




 低い雪雲に入らないように、低空を森に向けて、氷のような空気を切って進む。


 大した間もなく、スパイダーの残骸があった場所の上空から、光線を少し放って雪を掘り起こした。

 雪煙と、蒸発した水蒸気がある程度収まったのを見て、そこに降り立った。


「あまり暗い気持ちで作動させると、また兵器の方を起動させてしまうわよね」

 一旦、何度か深呼吸をした。


 気持ちを落ち着かせて……いや、むしろ奮い立たせて、操作盤に手をかざす。

 ――ダラスの金属片と共に。



   **



 昨日の続きからで、間違いないだろう。

 母娘の二人はやっぱり、森の中に住むことにしたらしい。


 木の実を集めたり、長くて丈夫そうな枝を集めたり。

 森の中を散策しながら、拠点にしたのだろう場所に何度も、何かしらを拾い集めている。


 木が三本ほど密集しているところがあって、そこを住居にしたいのだろう。

 その三本を柱にして、やがて枝を組みながら、簡素な壁と屋根を作った。




 他人が居ないお陰で、二人の表情は比較的明るい。

 時折、獣が襲ってはくるものの、剣と翼のお陰で難なく倒している。

 狩りに出なくても、向こうから来てくれるお陰で肉には困らなかった。


 食べきれない死骸が側にあると困るので、それを遠くに運ぶ方が大変そうだった。

 ほとんどを破棄しているのは、翼が機能していて適温が保たれるからだろう。毛皮を取るつもりはないらしい。




(こんな風に、体ひとつでサバイバルをするとは、思わなかったでしょうね……)

 人同士で本当に助け合えたなら、皆で協力して生活できただろう。

 住処も、木と枝で組んだものではなくて……簡素であっても、しっかりとした囲いの中で眠れただろう。


 ただ、雪の深い季節に入ってからは、雪を上手く組んで、家のようなものを作っていた。

 この頃までは、二人の表情はまだ明るくて、健康にも問題はなさそうだった。




 でも……季節がまた春になり、新緑が芽生える頃、何かを探索していたのか、また他の人間が二人を見つけてしまった。

 男ばかり五人。しかも、人相が悪い。


 ……案の定、翼が光線を放つ結果となった。

 しかも間の悪いことに、二人が食べられる新芽を採りに出ていた時で、住処が荒らされた後のことだった。




 なぜ二人は、こんなに辛い目にばかり遭わなくてはいけないのだろう。

 そう思った時にふと、以前おとう様に見せられた禁書の内容を、思い出した。


 丁度この戦争後の頃から、古代種のせいで終末状態になったのだという噂が、世の中に広まっていたのだ。


 二人は、古代種だ。

 つまり、人々から辛く当たられている上に、悪い男どもからは性的な搾取のいいカモとして、常に狙われる状態だったのだ。

 だから二人は、人そのものから逃げていた。




 翼があるのだから、もっと遠くに逃げても良かっただろうに……。

 そうしなかったのは、もしかすると――。


 ダラスがいつか、探して迎えに来てくれると信じていたからだろうか。

 住んでいた土地から、そう遠くない場所に居れば探しやすい。

 そう考えて、あえてあまり離れなかったのかもしれない。


(……それが叶えば、どんなに良かっただろう)

 私は、二人の気持ちを察してから、もう辛くて映像を見たくなかった。

 これ以上、二人が苦しむ姿を見たくない。




 なぜなら、ダラスは間に合わないし、何千年もかけても、このオロレアにさえ戻って来られなかったのだから。

 二人の想いも、ダラスの願いも、絶対に叶わない。


 それを知ってしまっている上で、この二人の最後まで見続けるのは、本当に辛い。




 ――そんな私の気持ちを抉るかのように、二人の身に、唐突に悪いことが起きた。


 先程の男どもを倒してから、二人はまた森の中をさまよい、果たしてどこなら人が来ないだろうかと歩いている時だった。

 小さな体で無理が祟っていたのか、娘の方が倒れてしまった。


 顔色は悪く、青白いのに熱があるらしい。

 翼は、ずっと娘が着けていたけれど、母親がそれを自分に着け直した。


 そして娘を抱えて、おそらく川を探しているのだろう。

 一度上空まで飛び上がり、案の定川を見つけて降りた。




 そこでしばらく看病をしていたけれど、川沿いは他にも人が来やすいらしい。

 見つかっては飛んで逃げ、けれど常に水を補給したいからまた川に出る。

 それを繰り返しているうちに、母親も参ってしまったようだった。


 二人とも顔色が悪い。

 もしかすると、何かの伝染病か、それとも体力が落ちていて風邪をこじらせてしまったのか。

 ともかく、二人とも身動きが取れなくなってしまった。




 これまでよりもさらに、森の深くに逃げたまま、二人で寄り添って動かない。

 木々がうっそうとしていて、ここならおそらく、誰もやって来ないだろう。

 だから安心したのか、それとも……。


 ――どうにもしてあげられないもどかしさのまま、私はその姿を眺めているしか出来ない。




 それからしばらく経ったのか、それともその夜の映像かは分からないけれど、運の悪いことにトラが出た。

 母親は娘を庇い、剣で対応している。


 暗くてほとんど見えないけれど、ふらついているのが分かった。

 やっぱり、体調は悪いままだ。

 翼は……おそらくは適温を維持するためだろう、娘に着けているらしかった。


 けれど、剣の力だけではそのトラには敵わないようで、圧され始めている。

(このままだと……)

 そう思ったのは、映像で見ている私だけではないようだった。


 娘が翼の力で浮き上がり、その光線でトラを撃った。

 勘の良いトラのようで、数発ずつでは全て避けられているのを、娘は力を振り絞るようにかなりの数の光線を放った。




 その辺り一帯が、夜だというのに閃光で目がくらむほど。


 やがて光が収まると、地面が焼け焦げて照りが見えた。

(……私がやったみたいに、地面がガラス化するまで撃ったのね)

 その辺りの木々も焼かれて倒れ、そこだけ小さく開けてしまった。


 トラはおそらく、そのガラス化した中に混ざっているか、蒸発してしまっただろう。

 ただ、それほどの力を使ったせいで、娘はまた倒れてしまった。




 ホッとして良いどころか、もしかすると危険な状態かもしれない。

 母親も、体力を大きく削られてしまったらしい。

 二人はやっとのことで寄り添うと、近くの木の根を枕にでもするように、そのまま眠ってしまった。


 ……それから、何度か目を開いては、お互いの姿を確認してはまた目を閉じる。

 そんな時間が流れていた。

 もしかすると、そのままで、数日が過ぎたらしい……。




 ――そして最後に、母親が娘の頭を撫でた。

 震える手で、弱々しく……けれど、とても優しく。


 ……娘は深く眠っているのか、ぴくりとも動かなかった。

 その撫でられた頭から、透明なティアラのようなものが落ちた。


 それを、母親が悲しそうに眉を寄せて、必死で拾おうとしている。

 なんとかティアラを掴んだものの、余力がもうないのか……そのまま眠ってしまったらしい。


 しばらく私は、その映像が静止したのだと思って、じっと見つめていた。

 見つめていたら、それはずっと、何日も時間が流れているのだと分かった。


(うそでしょう……?)

 亡くなっていたのだ。

 二人とも。



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