表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

288/295

第九章  二十八、姉想いの実り

  第九章  二十八、姉想いの実り




 ――記憶の網の中で、体がこんな風になるなんて。


 風切り羽もなく、全身の羽もボロボロで、しかも心の傷痕が露呈して……ゴーストとしては瀕死の状態だったことにも驚いたけど。

 それが、こんなに綺麗な虹色の鳥になるなんて。


「おねえ様……この記憶の網が、おねえ様に味方してくれたんですね」

 エラは、ここでは変わらず可愛い小鳥のままだ。

「どうしてかは、分からないけどね」




 エイシアはずっと私を睨んだままだけど……さっきよりは落ち着いて見える。

「茶番にも……ほどがあろう。ただの小娘ごときが、記憶の網を用いるなど。ありえん……」

 もう、攻撃してくる様子ではないらしい。


「……エイシア。ごめん。私が、誰にも相談できずにずっと抱え込んでいたから、こんなことになって……」

 現実の方で、ダラスの憎悪に呑まれたのは分かった。


 そのせいで衛星の兵器を、起動させてしまった。

 こっちでも取り乱して……エラの前で、死んでもいいやと思ってしまった。




「おねえ様は悪くありません。ただ、優し過ぎただけなんですから。でも、今はこうして、ちゃんと心を開いてくださったんですよね? あとでいっぱい、昔の嫌だったこともお話しましょう? そしたらきっと、気が晴れていきますから」

 エラの方が落ち着いていて、しっかりしている。


「……うん。ちゃんと話す。辛いことも、ちゃんと……」

 自分のことなんて、誰にも話したことがないけど。

 でも、上手く話せなくても、エラには聞いてもらおう。


「……ちっ。ここでなら労せず刈り取れると思ったのだがな……戻るぞ」

「えっ?」

 エイシアが憎々しく言葉をもらしたかと思ったら、消えてしまった。




「記憶の網から出たみたいですね。私たちも出ましょう」

 出る方法を知らないのにと思った時には、小鳥のエラも姿を消した。

 そして、私もまばたきをした瞬間に、実際の体へと戻っていた。


「おかえりなさい」

 すぐさま声をかけてくれたエラに視線を向けると、どうやら私は、エラの膝枕で横たわっているらしい。

 エラの胸のふくらみの先から、その深紅の瞳だけが覗き込んでいて、目が合った。


「……ごめん。重かったよね」

 完全に意識が飛んでいたのだから、体はオロレア鉱製の、実際の重さになっていたはずだ。


「あら、私も念動が使えるんですよ? むしろおねえ様の体なら、片手でも抱えられます」

「そ、そっか。でも、起きるね」

 そもそも、いつまでも寝転んでいる場合ではなかったのだから。




 吹雪の中だし、衛星兵器も起動しかけたままだ。

 でも見ると、エラはちゃんと翼の保護機能で寒さを凌いでいたので、そこは安心したけれど。


「そうだ、おねえ様。この金属の欠片……預かっています。これのせいでしょう? おねえ様が取り乱していたのは」

 立ち上がった私に、そっと寄り添うようにエラもすぐ横に来た。


「それ……エラは持っていても平気なの?」

「私には何とも……。でも、ただの金属片ではないですね。悲しみと憎しみを、混ぜて固めたみたいな代物です」

 エラの方が、私よりもよほど把握しているらしい。


「うん……私は呑まれちゃった」

「きっと、今は大丈夫ですよ。記憶の網で、あのお姿になった今なら」


「虹色の鳥……かぁ」

「はい! とっても綺麗でした! やっぱりおねえ様は素敵です!」


「ふふ、ありがと。でも……虹色、七色……七光りってことかなぁ」

 素直に喜べないのは、故郷の言葉に『親の七光り』があるからだ。

「なんですか?」




「う~ん。平たく言えば、借り物の力ってこと。実力じゃなくて、与えられた力。そんなもので、私すごいでしょ~って使ってたら……恥ずかしいわよね」

 これまでも散々、借り物の力ではしゃいでいたのだから今更だけれども。


「……それは、おねえ様のことじゃありません。だって、与えられたものだろうと何だろうと、おねえ様は……誰かのためにしか使っていませんから。その使い方は、誰にも文句なんて言わせません!」

「あら、ありがとう。エラは味方してくれるのね」


「はい! 当然です!」

「あ、そういえばエイシアは?」


「あの子は拗ねて、どこかに行ってしまいました。でもきっと、気にはなっているから近くに居ると思います」

 エラは可憐な仕草で、伸ばした指を頬に当てたり腕を組んだりと、話す様子を見ているだけで魅入ってしまう。


 そしてこんなに可愛らしいのに、なんだかとても頼り甲斐がある。

 心ではずっと、いつの間にかエラに護られていたのだろうと、今なら分かる。


 私の側に居ようと必死そうだったのが、いつの間にか……側に居てくれないと、私の方がきっと落ち着かないだろう。

 そんなことを呑気に考えていたら、頭の中に緊急通信のコール音が鳴り響いた。




 ――エルトアだ。


 彼女が造ったこの体だから、彼女の意志が最優先されるように出来ているのだ。

[意識が戻ったなら、早く連絡しなさい!]

 物凄くお怒りになっている。


[す、すみません。色々と大変だったので……]

[大変なのは当然でしょう! 衛星兵器の動きは止まったけど、いつでも撃てる状態で止まっているのよ? 早く完全に止めなさい!]


[さ、さっきは勝手に起動してしまったんです。制御方法が分かりません]

[まったく……何をしているのか呆れてしまう]


[あの、ダラスの金属片に、問題があると思うんです。これがないと起動できないし、起動したら兵器が動き出すし……]

[キーに指令が先行入力されてるの? それを早く言いなさい!]

 正直、振り回されているだけなのに怒られるのは、辛いものがある。




[そちらに持って行けばいいですか?]

[そんな悠長な事をしているのも恐ろしいの。しょうがない。あなたの体、少し借ります]


 そう言われた瞬間に私の体は、勝手にエラの手から金属片をつまんで取り、ぎゅっとこの目に近付けた。

 すると、目から少し幅のある赤いレーザーが出て、金属片にまんべんなく当てている。


 目からも光線を撃てるのは知っていたけれど、こういうことも出来るのは知らなかった。

 さすがのエラも驚いていて、大きな目をさらに見開いて私を凝視している。


 操られている自分でも分かるくらいに、無機質な表情で目からレーザーを出しているのだから……きっと不気味に映っていることだろう……。




[解析出来ました]


 こちらにお構いなしのエルトアの声からは、さっきまでのような焦りは消えていた。

 つまり、懸念しているような恐ろしい事態は、すでに避けられたのだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ