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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第九章  二十二、雪を刺す棘

  第九章  二十二、雪を刺す棘




「……検索、随分と時間がかかるのね」

 それを開始してからもう、半時間は過ぎている。

 中空に浮いて見えるモニターには、検索中の文字から表示が変わらないままだ。


 その代わりのつもりか、吹き荒ぶ雪は、このスパイダーの胴の中にまた、入り込んで積もってやろうと画策しているらしい。

 辺り一帯が森だというのに、雪は風に乗って木々を避け、枝葉だけではなく地面もこの中も、また少しずつ厚みを増やしてゆく。


「人の体でなくて良かった。普通なら凍えきってしまう」

 尋常ではない底冷えと、凍った風と大粒の雪。

 人の体温など、容易く痛みに変えてしまうだろう。

 冷たいなどと言えるのは初めの冬の頃だけで、厳冬期という呼び名は伊達ではない。




「こんな状態でも体が温かいというのは、この体の特権ね」

 私の心臓がある位置には、特秘とされる何かしらの動力がある。

 そのお陰で、髪の毛で雷を生み出せるほどの発電も出来たし、いつでも思った瞬間に光線も撃てる。


 そのくせ、表面温度は人と変わらない。

 きっと、動力だけではなくて、この体にも温度を調整する仕組みがあるのだろう。

 ……などと、分かりもしないことを考えてしまうくらいには、ヒマだ。


「そういえば……武器の生産施設で手に入れた、あの欠片は必要なかったのかしら」

 解除コード不足と表示されて、衛星通信が出来そうだったというのに、あの施設では拒否されてしまった。



 あそこで、操作盤のような板から外れて落ちた、オロレア鉱の欠片。

 ダラスの言伝を読んだせいか、欠片に触れていると……とても悲しい気持ちになるそれ。

 だから、ポケットに入れたまま忘れていたのだ。


 私はおもむろにそれを取り出して、目の前にある広い操作盤に置いた。

 ――置いた上から手を添えて、そこに意識を通す。

 ほとんど無意識で行った。

 そうするのが正解だと、本能で知っていたかのように。




『――最終認証突破。ダラス・ロアクローヴの正当継承者であると確認。これより衛星基地を再起動します。最高管理者権限において、全機能解放。エネルギー残量フル。敵対国全土への自動照準開始。全門開放準備……』

「…………はぃ?」


『……全ミラーリンク確認……四十パーセント減損確認……射程外チェック――クリア。再起動率三十パーセント。月面ソーラーエネルギー……フルチャージ。全シークエンス確認』

「……んなになになに? どういうこと? そんな物騒な感じの起動は求めてないわよ! データが欲しいだけなのに!」




 これは、再起動が終わったら、自動で太陽光の光線兵器的なものが降り注ぐような気がしてならない。

 どうにかして止めないと、どこが敵認定されてるのか分からないけど、何か色々な場所が攻撃されてしまう。


「今は人が住んでいないならまだマシだけど、それでも……動物とかも沢山いるでしょう? 止まってよ!」

 目の前の操作盤に触れてもタップしても叩いても、何をしても反応しない。



[緊急通信。回遊都市エルドルアより緊急通信。回遊都市エルドルアより緊急通信……]



 ――この忙しい時に!

 一瞬はそう思ったものの、これは彼女に、エルトアに助けてもらった方がいいのだとすぐに理解した。


 視界の端に表示された通信をオンに切り替えると――。

[――早く出なさいこの大馬鹿者! 一体何を起動してるのあなたは! 早く止めなさい!]

[エ、エルトア! 私にも分からないの! 止まってくれない! 助けてください!]


[呆れた……。どうやって起動したの!]

[か、欠片を! 別の施設の操作盤から外れたオロレア鉱の欠片を、スパイダーの操作盤に置いたの]


[じゃあそれをどかしなさい! はやくッ!]

 ――言われるや否や、私は返事をする前にそれを素早く取り上げた。



 その欠片からは、悲しみよりもずっと強い怒りや、激しい憎悪が渦巻いているのを感じた。

 それが出している強すぎる感情に、自分さえ引きずられる。頭がカッカとして熱い。


[……エルトア。やっぱり、このままの方が……悪いやつらは、根絶やしにした方が? いいんじゃないのかな]

 手に持つその小さな欠片を、急に朦朧としだした意識の中で、操作盤に置き直さなくてはという強い使命感でいっぱいになった。


[はやく捨てなさい! この星を滅ぼすつもりですか!]

『全行程停止中。速やかに指令を下されたし。速やかに指令を下されたし。速やかに……』




 二つの声が頭の中でぐるぐると回っていて、私の精神が壊れてしまいそうだ――。

 でも、この欠片を置き直せば、オロレアでの争いは無くなるのかもしれない。


 ガラディオが、また傷ついたりしなくてもいいかもしれない。

 戦争がもうどこにも、起こらなくなるかもしれない。


 そうすれば、リリアナもシロエも、おとう様もエラも、皆ずっと……笑顔で過ごせる。



 ――もう、あんな風に妻子を残して行かなくて済むのだ。

 ――初めからこうしていれば良かった。

 ――愛する妻と子を、どうして私は失わなくてはならなかったのだ?



 ――この王国に攻めようなんて国がいるから、ファルミノが、リリアナの居る街が攻撃された!

「皆と幸せに過ごしたいだけなのに――! どうして!! 世の中は争いばかり、起こしてしまうのよおおおぉぉぉぉぉおおおお!」


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