表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

275/295

第九章  十五、吹雪の夜の訪問者

  第九章  十五、吹雪の夜の訪問者




 それは、ルナバルトと一緒に夕食を摂った後のこと。


 日の短い今の季節は、夕食という名のおやつ時間のようなものだけど。


 一日が短いので、料理長はその量も上手く調節してくれている。


 夏のように遅くまで起きている人用に、夜食も用意しなくてはいけないので大変そうだ。




 私はというと、季節に合わせて……というか、エラがよく寝るので彼女に合わせることが多い。


 特に今日は、エラの寝室で寝る日なので、すでにベッドでエラとくつろいでいる。


 そんな普段通りの日常の中、まさか彼が、こんな吹雪の中を半日かけず、日が落ちきるまでに駆け抜けてくるなんて――。



  **



 ――エイシアが吹雪の中でも平然としている話だとか、私が居ない時のルナバルトは、エラに対してまだ遠慮気味だとか、そういう普段のことを聞いたりしていた。


 ただ、窓には時折、強い風がゴウと吹き当って、大粒の雪がびしゃりと投げつけられる。


 その度に、エラは体をビクリとさせて、辛かった昔の冬を思い出しているらしかった。


 私にぎゅっとしがみついては、その記憶を引き剥がすみたいに、私からゆっくりと離れる。

 それを繰り返している。


「おねえ様が居ると、嵐の冬も怖くありません」


 少しだけ強がっているような、けれど、その目にはしっかりとした強い光を感じる。




「ほんとう? それなら嬉しいな。私もエラと一緒だと寂しくないし」


「ほんとですか? ほんとはルナバルト様の方が良くないですか? 私、数日に一回はおねえ様を横取りしちゃって……」


 そう言って目を伏せて、遠慮している態度を取る。


 それには計算も入ってはいるのだけど、可愛いエラのすることは、全てが愛おしくてたまらない。


 私はエラの体を包むように抱きしめて、その頭に頬ずりをしてしまうというのが、いつものパターンみたいになっている。




「もう。頭ではなくて、ほっぺにしてください。あと、キスもしてください」


 長い銀髪が崩されるのを嫌がって、そしてもっと、肌の温もりが欲しいとねだってくる。

 それを見込んだ、私の計算の上だけれど。


「このふわふわのほっぺに、キスしてもいいのかしら?」

「キャハハハ。おねえ様くすぐったいです」


 くちびるを当てて頬をくすぐるのが、最近の流れだ。


 そして、ひと通りじゃれ合ったら、そのまま二人で眠りにつく。




 その、まさにキャッキャと遊んでいる時だった。


 吹雪く強風さえも、その大声に唸りを止めた。


『将軍! アドレー将軍! 緊急の援軍を求める!』




 この三階にまで轟く大声は、聞き馴染んだ人のものだった。


「……ガラディオだわ。彼が……彼が援軍を呼びに来るなんて!」


「おねえ様。着替えて降りましょう。きっとおねえ様のお力が必要なはずです」

 エラも察していた。


 私にはないはずの心臓が、緊張で締め付けられるような嫌な感覚が、胸の中いっぱいに広がっていく。




「ごめんねエラ。今日はフィナと寝て頂戴ね」

「大丈夫ですから。お早く」


 私は頷くと、さっと隊服に着替えて、刀を手に取って部屋を飛び出した。


 一階のエントランスに降りた時には、おとう様とガラディオ、ルナバルトがすでに話し込んでいた。


 雪まみれのガラディオは、全身の雪に赤いものを滲ませている。


 一瞬、返り血かと思ったそれは今でも広がり続けていて、傷の深さを物語っていた。




「ガラディオ! その傷は……」


 よく見れば、彼が手に持っているのは折れたハルバートだった。


 全て鋼鉄製の、彼の膂力でしか扱えない武神の象徴。

 それが、折られている。


 彼は憔悴しきっていて、この場に来たことで精根尽きたように、フラフラだった。


 そのガラディオに代わって、おとう様が苦渋に満ちた顔で私に言った。




「ルネ……。すまんが、お前の力を貸してくれ」

 とんでもないことが、ファルミノで起きている――。


 彼が、ガラディオが伝令として来ること自体が、絶対にありえないことなのだから。


「ガラディオがファルミノを単騎で離れるなんて、一体、なにが……」


「ルネ。古代兵器らしきものに、街が襲われているらしい。こやつが深手を負う事態など考えられん。が、これが事実だというのだ。こやつしか、城壁を生きて出て来れなかったのだ」




 おとう様は、目の前の事実を受け入れつつも、どこかでこれは現実なのかと迷っている様子だった。


 私も、頭が追い付かないでいる。


 そんな私に、ガラディオはか細い声で、(すが)るように言った。


「ルネ……。その力、話は将軍に、聞いている……。お嬢様を……リリアナを、頼む」




 ――私の今の姿で、エラだった時のように、以前のように友愛を示すことが出来ないのを、一瞬だけ悔やんだ。


 この人は、私がエラだったことを知らないから。

 でも、今はそんな時ではない。


 そう言い聞かせて、翼を着けてすぐに出発することにした。




「パパ。ガラディオ。任せてください。ルナバルト様――」


「ああ。無事を祈っている」


「はい。――行ってきます」


 短く報告を聞いた私は、それだけを交わして吹雪の中に飛び出し、そしてすぐさま音速域を超えて向かった。




 ……ガラディオは、巨体の彼を乗せられる愛馬を、使い潰していた。


 開いた玄関の側で、横たわる大きな黒馬を見たから。


 その姿はすでに、吹雪のせいで、張り付くような白に凍り付いていた。


 ガラディオは傷だらけだったけれど、馬に傷はないように見えた。


 つまり、おとう様の元に来るために最も大切な、愛馬をその身で護って……その上でなお、命を削り取るような走らせ方をしなければならない、そんな状況だったということだ。




 ――短い会話の中で、敵は白い人形が三体と聞いた。


 それらは禁書の中で読んだ、『ドール』で間違いないだろう。


 白兵戦で戦況をひっくり返した、無敵の兵器。


 私は、ドールはオロレア鉱で造られた人型兵器だと思っている。


 でも、回遊都市で見たオートドールたちとは違う。あれはおそらく、オロレア鉱ではない。


 私のこの体だけが、特別製だった。


 そんな貴重なものを、エルトアが私に預けた理由はたった一つ、ゴーストを移せると知ったから。


 そのサンプルにしたくて、貴重とはいえ再生産可能な人形よりも、それを上回る希少なデータを欲したのだ。




 つまりは、エルトアであっても、この体のような戦闘用のオートドールを作るには、かなりの資源と資金を使っている。


 そんなものを、古代で同じような技術を持つ国とはいえ、大量生産は出来ないはずだ。


 だから『ドール』は、人魔の念動を動力にした、シンプルな作りだろうと考えたのだ。


 でも、本来なら接触していなければ、念動といえどもオロレア鉱を操れるものではない。


 だから私は、古代兵器のドールが、どういう理屈で動いているのかをずっと考えていた。




 それは、オートドールになった私だからこその推論がある。


 一つは、人魔のゴーストを移しているというもの。


 もう一つは、ドールと共に書かれていた『スパイダー』という兵器が、関係しているのではと考えている。


 スパイダーは、輸送車両の役割と、兵器としての役割を持った輸送兵器だったのだろうというものだ。


 それもオロレア鉱で造られていて、中に、人魔を何人か乗せている。


 スパイダーを操る操縦者と、その中から、ドールを操る人魔を数人。

 そしてそれは、遠隔システムを有していたのではないかと。




 その推論が、当たりではないかと確信めいたのは、ガラディオの報告だった。


 ドールと思しき白い人形は、人と同じくらいの背丈で、その手足は細い金属そのものだったらしいからだ。


 ならば、ドールの中に人が入ることは出来ない。


 私のように、ゴーストを移されている可能性もあるけれど……。


 でも、あからさまな人形へと姿を変えられたら、人は正気を保っていられないだろう。


 私が私で居られるのは、緻密で精密に人を再現した、この体だからだ。




 そこまでが一気に繋がって、古代兵器の概要はこれだ、という確信に変わったのだ。


 ――二種類の兵器は、『スパイダー』という輸送兵器に数人の人魔が乗り、そこから『ドール』を人数分、遠隔で操作するという、二種一組である。


 これが、古代戦争を終結に導いた、古代兵器の姿だったのだろう。




 昔は、今よりももっと、人魔が居たのだ。


 その彼らはもしかすると、今ほどの特殊な力はなかったのかもしれないけれど。


 けれど念動の力だけは、確かなものだったのだろう。

 虎魔であるエイシアが、その力を顕著に強く扱えるように。




 そこまでの思考が一気に組み上がって、一人納得している十数分くらいの間に、ファルミノを眼前に迎えた。


 城壁に、かがり火を焚いてくれているお陰で視界は悪くないけれど……。


 すでに、完全な夜に飲み込まれている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ