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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第九章  十、科学者の言葉

  第九章  十、科学者の言葉




 メールには、こう書かれていた。



『最愛の妻アーニャ。愛しい我が子リーニャ。

 船が限界を超え、オロレアに帰れない私を許してほしい。


 最後の最後まで足掻いてみたが……帰る方法が見つからなかった。


 似た文明を持つ星があればと淡い期待を抱くも、何度も絶望に変わるに終わった。

 もう、何千年経ったかも分からない。



 辿り着いた未文明のこの星に、皆は降りて骨をうずめるらしい。

 私は……降りずに船に残った。


 その星の衛星を少し改造し、今日まで足掻くために。

 それが、もうすぐ終わる。


 永く耐えてきたオロレアの技術でも、永遠とはいかないらしい。

 降りた仲間たちでも、文明を少し引き上げるまでしか出来なかった。


 肉体を捨てた私にも、限界が来てしまった。


 ああ、帰りたい。お前達の居る星に。

 帰りたかった。

 例えもう、お前達が生きてはいなくとも。

 その亡骸の側で、私も眠りたかった。


 ああ、帰れない私を許してくれ。

 愛している、愛して止まない。

 お前達を一秒も忘れたことなどない。

 愛している。


 ああ、なぜあの時、私はお前達の側に居られなかったのだろう。

 あの瞬間がいつまでも、私を苦しめる。

 側に居てやれずに、本当にすまない。





 ……最後に、希望を託した。

 初めて現れた、あの種族に適合する者に。

 輪廻などという稀有な運命を持つゴーストに。


 最後の最後の、希望の光。


 奇跡の種となるか、潰えるかは分からないが。

 ここに、私のゴーストの断片を添えて送る。 


 お前達との記憶の一部を。

 お前達を愛する私の欠片を。

 それをせめて、お前達の墓標に添えてもらえることを祈って。





 ……果たして、紡いでもらえるだろうか。

 奇跡の種よ、私にとっての最後の光よ。


 いくつかの施設にこれらを送る。

 せめてどれかひとつでも、君の手に届く事を祈って。


 そして探して欲しい。

 私の妻と子を。

 どこかに眠る妻と子を。


 最後の足取りは、君を送った地域の我が家だ。

 だが、当時の混乱と永い年月で土地が姿を変え、どこかは分からない。


 衛星を使え。

 ダラス・ロアクローヴの名で動く。

 君に継承する。


 だが、衛星も永くは持たないだろう。

 これを見たならば、すぐに。

 各施設の相互通信が可能な事を願う。


 壊れていない医療研究施設を探せ。

 細菌兵器の方は、なんとかなるだろう。


 最後に、君の傷ついたゴーストに、幸せが訪れる事を祈る。


 飛ばした事を許してくれとは言わない。

 巻き込んですまなかった。


 だが、奇跡の種よ。最後の光よ。

 オロレアは、良いところだろう?』




 声に出して読み上げているうちに、涙が何度も頬を伝った。

 隣で聞いていた国王陛下も、涙を流している。


 読み終えてしばらくは、二人とも声を出せなかった。

 涙と、それから、切なすぎるダラスの言葉のせいで。


 ……エラに入れられてすぐの時のメッセージとは違って、随分と落ち着いた印象だなと思った。


 きっとあの時は、おそらくは人魔に適合したらしい私のゴーストを得たことで、舞い上がっていたのだろう。


 逆に、最後を覚悟した時というのは、こんな風になるのかもしれない。




 そんなことを思っていると、パネルの一角が青く光って落ち、キンと音を立てて小さな破片が床に転がった。


 それを拾い上げると、小さなサイコロ状の金属で……触れていると切ない気持ちになってくる。

 小さい割に重いのは、オロレア鉱なのだろう。


 とすると、ダラスの想いが込められた破片ということに違いないと思った。


 ただこれを、ダラスのご妻子が眠る場所に……というのは、無理がある。


(どうやって、何千年も前の二人の行方を探せと言うの?)




 押し黙ってサイコロ状の欠片を眺めていると、陛下はじっと私を見ていて、そして口を開いた。


「ルネ嬢。お前は……オレの知る人物によく似ていると思ったが……。お前の結婚式の時に確信したのだ。エラ嬢が別人のようになっていた事でな」


 何の話かという突然の言葉だったけれど、今の一連の流れで、私について察したのだろう。

「……はい」


「お前がエラか。今の言伝を聞いた事で、辻褄が合うように思った」

 この人の鋭さは、リリアナを思い出させる。




「……おっしゃる通りです。陛下。以前まで、私はエラとして過ごしていました」


「そうか。……成り行きは分からんが、この言伝が最後に語りかけているのも、お前ということだな」


 隠しても無駄だし、もはや隠す意味もない。

「――はい」


「まぁ、それはもう、良しとしよう。追及した所で、特に害も無さそうだからな。それよりもお前は、このダラスという男の想いを、繋げてやる事が出来るのか?」




「それは……。何千年も前の人を探すというのは、不可能なように思います」


「では、何もしてやらんのか?」

「……だって、どうすればいいのか……」


 衛星を使えと言われても、人工衛星へのアクセスなんて分からないし、今も現存しているかさえ不明なものだ。


「そのエイセイというのは、月の事ではないのか? 古代の記録では、月を使って何かをしていたと読んだ記憶がある。お前ならもっと何か分からんのか」


「月……ですか?」

 何か操作する衛星と言ったら、人工衛星だと思い込んでいたけれど……。




 そうか、チキュウの月を改造したというのは、オロレアでもそうしていたからなのかもしれない。


 私がただの月だと思って見上げていたオロレアの月は、ダラスが手を加えた基地のようなものなのかもしれない。


「それから、土地の事なら少しは分かるぞ。古代戦争の前は、海岸沿いから王都にかけてまで、全てが人の住む巨大な街だったらしい。それを獣化病から追われるように川を伝って逃げ、オルレインが隠れていたあの砦の場所に集まったという。あの砦は、その名残りでもある」


「え。それじゃあ、生きていればあそこに居たかもしれないということですか?」


「まぁ……確証などもちろん無いし、その後は分からんがな。ただ、今の王都を作ったのは古代戦争からしばらくしてからの事だ」


「も、もっと教えてください!」

「いや、これで終いの情報だ。それよりも、ここからエイセイとやらを操作出来ないのか? お前にしか出来ん事をもっと探せ」




 このパネルの扱いなど分からないけれど……オートドールなら自動でアクセス出来るだろうか。


 国王に言われるままに、半ば投げやりな気持ちでパネルに触れると……パネルが赤色に光った。


 そして目の前には、表示が切り替わって月の姿が映し出されている。


『施設リンク、軍事衛星リンク切断中。通信解除コード……』という文字と共に。


 その映像の後ろにも複数の画面が開いていて、地上施設の場所が表示されているらしかった。




(……エルトアに感謝しないといけないわね。こんなの、エラの姿のままじゃ何も出来なかった)


「出来る事が増えたらしいな」

 私の雰囲気を察して、国王はそう言った。


「……かもしれません」


「後で報告しろよ?」

 そう言うと、国王は私の肩をポンと叩いて部屋を出て行った。

 


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