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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第九章  八、我が儘

  第九章  八、我が儘




「おねえ様、私がついていますからね」

「うん。ありがとうエラ」


 執務室の前で二人して息をのんだ。


「……は、入るわよ」

 こくりと頷くエラを見て、扉をノックする。


「入れ」と短く返事が来て、顔を強張らせながら入ると……。




「なんだ。ルネとエラじゃないか。二人してどうした? おい、茶を淹れてやれ」


 返事の声が怖かったような気がしたけれど、私たちを見たからか、いつもの優しい声になった。


「あの、折り入ってご相談がありまして……」

「そ、そうなんです! おねえ様の話を聞いてあげてください!」


 私が畏まっていると、エラが一度目の、勢いのある援護をしてくれた。


「うん? 何か嫌な予感がするな。人払いは?」

 おとう様の提案に、そうだったと思って頷いた。


 その会話に応えて、手伝っていた侍従と侍女が部屋を出て行く。




「……それで? どうしたんだ改まって」

「それが、その……」


 口ごもりながら、私はこの真冬に、少し遠出をしたいと伝えた。

 リンク可能な施設を探しに、そしてそれを一人で調べに行きたいと。


 そこまでを聞いたおとう様は、作業していた机に肘をつき、さらに額を手に当て小さく首を振った。

 やっぱり、思った通り悩ませてしまった。




「また、無茶を言い出しおったな。このじゃじゃ馬め」

「む、娘まで言ってください」


 私は、これはもしかして、少し余裕があるのかと思って余計なことを言ってしまった。


「ええい! そんなつまらん事を言っている場合か!」

 ――部屋を越えて轟くような怒気。


 そのいきなりの怒声に、私とエラはびくっと飛び上がった。




「なんだと? この時期に一人で、あちこち行ってみたいだと?」


 ここまで本気で怒られた記憶がないので、私もエラも縮み上がり、咄嗟に二人で腕を絡ませ合った。


 エラは自分が怒られたわけではないと分かっているはずなのに、腕が震えている。


 いや、私も震えていた。


 怒鳴られるのはこんなに怖いものなのかと、初めて思うくらいに怒っている。

 でも、私にも言い分はある。


 全てを話して、それでもダメかどうか――。




「そ、そうです。今の時期でなければ、もしかしたら古代技術が、他国に漏れてしまうかもしれませんから。でも今なら、吹雪が隠してくれます」


「お前……不法入国するつもりか」

 おとう様は、私が全部言うまでもなく、何かを察しているらしかった。


「山脈を越えればバレません」


「ことさら危険な事を言うやつだ! 山越えだと? 夏でも全滅するような山々だ! 馬鹿を言うな!」

 ――また怒鳴られた。




 エラはもう、蒼白になって不安そうに私を見上げている。

 もしかしたら、「やっぱりやめておきましょう」と、心で叫んでいるのかもしれない。


「わ、私の体と翼なら大丈夫です」

「引かんつもりか!」


 怒りを抑えるつもりがないおとう様を、ふと今、思い出した。


 アメリアが私を暗殺しようとして、それを捕まえた時に、その場で処刑すると言って聞かなかったおとう様。


 あの時と、同じような怒り方をしている。




「はい。……でも! 絶対に気をつけます! 私も死にたくありませんから」


「当然だ! そんな当たり前の事を今更口にするようなバカ娘など、心配してもしきれんだろうが!」


 あの時も、私を心配しての怒りだった。

 だったら……なおのこと、今の私の気持ちと、それでも動くべきだと思う根拠を、伝えなくてはいけない。




「それは! それは分かっているつもりです。だ、だって……。私、今本当に、幸せを感じているんです。パパに愛されて、エラに愛されて、ルナバルト様にも、リリアナもシロエも、他の皆にも。無償の愛というのを、生まれて初めて貰ったんです。それが、本当に嬉しくて……私も皆のことを、同じくらい愛しているって気付いたんです」


「そ、そうか……ならば――」



「だから! だから私だって死にたくないですし、危ないことはしたくありません。無事に帰って、皆と一緒に居たいんです。だから……きっと、ちゃんと帰ってきますから」


 私の真剣な気持ちを伝えると、おとう様は幾分かだけ、落ち着いた様に見える。


「ぬぅ…………。そこまでして、行きたい理由とは何だ」


 苦渋を噛みしめながら……という感じで、おとう様は私の考えを聞こうとしてくれている。




「……私をこのオロレアに送った科学者の、何か言伝があるからです」

「……なんと、それは本当か」


「はい、きっと。それがもしも大したことではなくて、どうでもいいような内容だったら、二つ目には行きません。一度きりにします。でも、何かありそうだったら続けたいです」



「……いくつあるのだ、それは」


「この国に、稼働している生産施設と剣を作ってくださった施設。一日で帰って来れる距離が隣国に三つ。その他の数日かかるような場所にも三つ」



「……随分とあるな」

「はい。ひとつずつ、安全に回りたいと思います」


「はぁぁぁ……。結局、行くのは止められんか」

 おとう様はただただ、諦めるための大きなため息をついた。


 それがむしろ、私の心に刺さる。


 ここまで心配させて、本当なら行かずに放っておいてもいいのかも……。


 少しだけ、気持ちが揺らいだ。


 でも、科学者のお陰で生まれて初めて、幸せを感じられたのも事実だ。

 それに対して……恩を返さないわけにはいかない。




「……すみません。何千年もの時を越えてなお、託されたものが何なのか……知りたいのです」


「ふむ…………。まさか、エラの体に送られたお前が、そんな体になるとは思っておらなんだろうがな。なんとも稀有な物語よの。悠久のような時を超えてなお、この星に未練を残す……か」



「……はい。彼の、その想いを汲み取れるのは、私だけなので」

 なぜか、涙が出てきた。


 あまりにも永い時間の話で、私には到底理解しきれないけれど……。


 どんな気持ちでチキュウから、このオロレアへの想いを紡いできたのか。

 それが頭をよぎっただけで、心が締め付けられた。




「ルネ」

「――はい」


「もう何も言わん。いや……もう怒ってはいない。だが、本当に気をつけろ。リスクを最大限以上に考えろ。そして、生きる事を諦めるな。分かったか」


「はい。……きっと、無理をしないと誓います」


「……そうか。なら、良い。まぁ、お前の体なら確かに、大体の事は大丈夫だろうがな」


「はい」

「なら、もう行け。準備にも時間を掛けなさい」


「あ、ありがとうございます。パパ」

 返事は、顎で「行け」と示しただけだった。


 かなり疲れさせてしまったらしい。

 私は深くお辞儀をして、震えたままのエラの腕を引いて部屋を出た。



   **



 三階の自室に戻ってやっと、エラが「ハァ……」と、弱々しくため息をついた。


「ごめんねエラ。ものすごく怖かったね……」

 そう言って謝ると、まだ腕に引っ付いているエラはコクコクと頷いた。


 まだちゃんと話せないくらい、胸が詰まったらしい。




「でも、エラってば援護してくれたの、最初の一回だけだった」

 冗談めいてそう言うと、エラは私を見上げて震えるように首を横に振る。


 ふるふるしている姿が、また可愛い。


「フフッ、ごめんごめん。うそよ。エラが隣に居てくれたから、私も頑張って話せたの。ありがとう、エラ」


 しがみついたままのエラの頭を優しく撫でると、やっと気持ちが落ち着いたのか、腕を離してぎゅっと抱きついてきた。


「いつもありがとう」

 私もぎゅっと抱きしめ返して、それからしばらく、そのままで居た――。

 


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