第九章 四、初夜
第九章 四、初夜
誘ったのは、ルナバルトの方だった。
私は受けただけ――。
そう、初めての夜だから……さすがに応えなくてはと思っただけ。
そのはずだったのに、彼と同じように、これからのことに胸が高鳴っているらしい。
拒絶や緊張という感情ではなくて、この人と、結ばれ直せるのだという期待。
そう、これは夫人のゴーストとしての悲願だ。
だから、私は……でも、その境界がどこにあるのかは分からない。
心はもう、彼を求めてしまっている。
――今なら分かる。
彼のいない生活なんて、考えられない。
彼のささやく愛を、彼が求める愛を、ずっと欲しいし、焦らして……捧げたい。
この、特別な夜まではと言って、この時だからねと委ねる。
だから私は、視線を逸らしつつも……抵抗しない。
どこに触れられても、嫌だと言わない。
恥じらいは消えないけれど、なすがままにされるのが心地良い。
想像通りのことに微笑み、想定外のことに体が震える。
――息が荒い。
顔が熱い。
全身が火照っている。
夜伽モードだなんて文字が視界の端に見えても、もう気にならない。
これが……愛を重ねるということなのだという、喜びしか感じない。
「ルナバルト様……」
「痛むなら言えよ?」
こんなむずがゆい会話を、心から楽しみ、嬉しいと思っている。
「痛いと言っても……やめないで」
その言葉は、彼の嗜虐心を刺激したのかもしれない。
先程までよりも、いっそうケダモノのような目をした。
優しい動きだけど、遠慮がなくなった。
「痛ッ……た」
「――大丈夫か」
これには、純粋に驚いた。
この体の……芸の細かいことに。
それがどうにもおかしくて、私は痛いながらも笑みがこぼれた。
「フフ……。大丈夫です。思っていたほどじゃ、ありません」
「無理はしてくれるなよ。嫌いになられては悲しい」
(嫌いに……?)
そうか、私が行為を嫌っては、これきりになるかもしれないのだ。
「……大きいから、驚いただけです」
喜ばせてやろう。
そんな、ちょっとした余裕を見せた。
どうせこの体が、どうにかなるなんて有り得ないのだから。
でもそれは、さすがに悪手だったのかもしれない。
「そうか。大丈夫なんだな?」
「……ええ。もう痛みも気になりませんから」
その言葉は彼の、最後に残った理性の欠片だったらしい。
「もう、泣いてもとめられないからな」
「……え?」
一度だけ、確かめるようにゆっくりと奥まで来た。
脅す様なことを言っておいて、やっぱり優しい。
今日は穏やかに、優しく抱かれて終わるのだろう。
そう思った。
穏やかな行為で一日が終わって、また明日を迎える。
夜を越えた二人が、朝どんな顔で目を合わせるのだろう。
そんなことを思い描いていた。
けれど――。
しばらくゆっくりと動いていた彼が一言。
「本当に無理そうなら、止めるつもりではある」
それは私に言ったのか、自分に言い聞かせたのかは分からない。
そこからは……。
想像以上の刺激と、それら全てが快楽に変わる恐ろしさを、私は味わうことになった。
途中で、何度も「もう無理」と言った。
「もうダメです」とも。
けれど、彼は聞く耳を持たずに、気が狂うほどの快楽を私に与え続けた。
果てるというのが、どういうことかも思い知ることになった。
自分でも驚くほどに可愛い嬌声が漏れ、それが余計に昂らせた。
なんども気を遣って、意識が飛びそうになった。
実際、その辺りはどうなっていたのかもう、分からない。
意識のない時間もあったかもしれない。
とにかく、彼の無尽蔵とも思える体力に、私は明け方まで付き合わされることになった。
**
「……もう、朝?」
窓から入る光の角度が、いつもの朝とは違った。
たぶん、もうお昼を回っているのだろう。
ルナバルトは、私を抱きしめながら隣で眠っている。
……体には、行為の余韻がまだ残っている気がした。
じんわりと、しびれるような甘いけだるさ。
寝ていても私を離さないと言うような、逃げられない抱擁に愛おしさを感じる。
「……そんなに私が愛しいですか?」
小さくつぶやいて、それが分かっているからこそ言った自分のことも、可愛いなと思った。
でも……だんだん意識がはっきりとしてくる中で、色々と昨夜のことを思い出せてきた。
何度果てても休む間もなく、ダメと言っても散々に弄んでくれたことを。
「この人は……本当にケダモノを飼っているのね」
悔しくなって、私を離そうとしない彼の腕を、ぎゅっとつまんでやった。
寝ていても痛いのか、ピクリと腕が跳ねたのが可笑しい。
(そういえば……)
痛みは再現されていたけれど、血はどうしてあるのだろうと思った。
起きないことには確認できないけれど。
だけど、芸の細かいこの体のことだから、きっと何か赤い液体も仕込んであるのだろう。
そんなことを考えていると、ふと回遊都市の人達のことを想った。
これほど、反応のある人形があるのなら……人口が減り続けるのも納得がいく。
ルナバルトが私に満足してくれたのだとしたら、なおのこと。
……人を本当に滅ぼしたいなら、男女お互いに満足のいくオートドールを全人口に配れば、簡単に滅びそうだなと思った。
一体作るのにいくらかかるのかは、知らないけれど。
「……ルネ」
どうやら、ケダモノ様は起きたらしい。
「はい。ルナバルト様?」
「起きていたのか……」
「フフ。少し前から」
「……俺のことを、つねらなかったか」
あれで起こしたのかもしれない。
「いえ、知りませんけど……」
「ふっ。嘘つきめ。俺の可愛いルネは、お仕置きをご希望らしいな」
この男……。
「もう。さかりのついた犬ですか。あんなにするとは思いませんでしたよ? さすがに今日はもうダメですからね」
私を抱く力が、ぎゅっと強くなった。
「さあ、体に直接聞いてみようか?」
「どこの悪役ですか……。ちょっと、もう離してください。私はおなかが減りました」
起きても覚めても私を求めるのは、嬉しいような、ゾッとするような。
けれど、ここでやめてもまた始まってしまっても、どちらでも良いと思えるのは、自分でも驚いている。
「ルネ。愛している」
「もう……そう言えば私が大人しくなると、思っているんでしょう」




