第八章 三十八、これからのこと
第八章 三十八、これからのこと
その夜は……色々と考えたかった。
私のルーツとも言える情報が分かって、何かが……もしくは全てが、繋がるような気がしたから。
だというのに――。
「ルナバルト様。いつまでキスしているつもりですか」
ベッドに入ってからというもの、ずっとされている。
時間にすれば十数分……といったところかもしれないけれど。
「すまない。君が側に居て、気持ちが抑えられなかった」
「もうおしまいです。また明日になさってください」
欲望を抑えてそれなのか、抑えられなくてそうなのか。
どちらにしても、あまり自由にさせていると「少しだけ」などと言いながら、なし崩しにするのではと疑ってしまう。
「……分かった。我慢しよう」
我慢しているのはこちらだと思うのだけど……。
でも、心の奥底では受け入れてあげたいという、妙な感情がくすぶっている。
夫人のゴーストに――その情愛に火がついたら、止められなくなりそうで恐ろしい。
ワガママを言っているのはそちらなのに、我慢出来たことを褒めろといわんばかりの言い方……。
ふざけないでと言いたい自分と、しょうがないなぁと思う自分が居る。
――頭がおかしくなったら、この人のせいだ。
**
翌日も、朝から昨晩と同じことを繰り返す。
夫婦ならこういうものだろうかと、受け流しておこうかと思う反面、やはりまだ受け止めきれない。
なのに……彼の気の済むまでさせてあげたいという、ありえない気持ちが湧き上がる。
夫人と彼が、どれほど熱い仲だったのかが伺える……。
というか、そもそものゴーストが夫人であるならば、いつかは私が折れることになるのだろう。
(う~ん……これは夫人に対する遠慮で、私の自由にしてもいいのかしら)
ただ、「そうか」と閃いたことがある。
私が死に体のように何も反応しないから、彼は満足しないのかもしれない。
うずく胸の情愛にまかせて、ルナバルトの顔を両手で挟み、一度キスを止めさせた。
そして、私が彼を引き寄せて彼のくちびるを数度、甘く食む。
するとやっぱり、彼は嬉しそうに頬を緩めて、途端に気取りだした。
「ルネ。俺も仕事に出るとしよう。また夜に……」
そう言って着替えると、さっと部屋を出て行った。
「…………現金なものね」
ともすれば世の女性は、皆こんな風に工夫を凝らしながら夫を鼓舞して、仕事に向かわせているのだろうか。
夜をかわすのにも、もっと細工が必要かもしれない。
**
余計な考え事が増えたせいで、いまいち考えがまとまらなかった。
というか、自分だけでは先に進めないのが確かだと、再認識しただけに終わった。
エイシアに記憶の網を見てもらって、さらにそれを教えてもらう必要がある。
それで何が見えるのか、もしくは見えないのか。
あの不思議な体験を軸にするには、あやふやな先行きしか考えられない。
どうにかして、もっと現実的な情報を手に入れたい。
たとえば、リンクできる施設に、科学者が何かしらのメッセージを送ってくれているとか。
……地上間の情報伝達と、宇宙を越えての伝達では、全然違うのだとすると手掛かりが無くてお手上げだけれども。
エルトアに助けを求めるか――。
でも、彼女なら宇宙にも目を向けているはず。
あの海洋都市の技術なら、ある程度宇宙にも何か干渉できるはずだ。
ということは、あの時点では彼女も何も知らなかっただろうか。
それとも、今後の情報交換の、取引材料に残しているか……。
後者なら、まだ望みがある。
(そんなところかしら……)
結局、雲を掴むような話で途方もない。
だけど、これまでよりも現実的にはなったのだと思う。
それに――。
自分のルーツや科学者の話よりも、リリアナを側で手伝うという約束を、もっと前に進めなくてはいけない。
リリアナは今、ファルミノの工事で忙しいから。
何の連絡もないし、おとう様も何も言わないということは、無事であるのは間違いない。
そう思うと、私の存在の、なんと宙ぶらりんなことか。
功績といえば、ルナバルトとの婚姻だけ。
それもほとんど、国王の策略のせいだけど。
でも、そうだ。
私にはこれから、結婚式という苦手なイベントが待っている。
武力など何の役にも立たない、立ち回りが全ての交流の場。
「はぁぁぁ……」
せっかく頭を整理したけれど、なんだか疲れてしまった。
「おねえ様!」
ベッドの端で座っていると、エラがいつも通りに、満面の笑みで駆けこんで来た。
「エラ。来てくれたのね」
「だって、ルナバルト様に取られてしまいましたから。というか、おねえ様。お顔を洗いましょう? あの人のにおいが付いたままです」
「う……」
キスを許すのも考えものだ――。




