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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第二章 二、環境と立場(一)




 ――残暑。およそ四ヶ月ごとに巡る季節の中頃で、夏はまだ半分近く残っている。


 乾燥地帯だから過ごしやすいとはいえ、汗は出る。


 秋には成人の儀で社交界デビューするのだが、それに備えるために今から王都入りすると言われた。




 ここ数日、屋敷ではその準備が進められている。


「他に、王都に持っていきたいものはありますか?」


 オレの専属侍女のフィナは、ほぼ全ての荷造りを終えて最後の確認をしていた。


 落ち着いたトーンの奇麗な声で、それを聞くと自分まで凛とするような気がする。


 動き詰めの彼女は、額だけでなく、その白く細い首すじにも汗が流れている。


 青い瞳は涼やかだが、暑さで疲れが見える。


 お団子にした黒髪だけが、形を崩さずに平然としていた。




「いえ、それで全部です。それより、これで汗を拭いてください」


 荷物といっても、お義父様から頂いたドレスや宝飾が全てだ。


 他に私物はない。フィナにふわふわのタオルを渡すと、嬉しそうに額や首に当てている。




「私も手伝うのに……」


 何が必要なのか分からないので、結局はフィナがしてくれた方が早いから正しいのかもしれない。


 でも、人に働かせて自分はソファで頷くだけというのが、どうにも落ち着かなかった。


 せめてもと彼女にお茶を淹れようとしても、逆に催促したようになってしまうので大人しく座っている。


 その姿勢だけ、美しく保っている。




「お嬢様はそうなさっているのも、仕事のうちなんですから。何でも手伝おうとしてはいけませんよ」


 優しく窘めるフィナは、オレの家庭教師でもある。


 座学は他の先生達からだが、フィナは総合的に公女の立ち振る舞いを教えてくれる。


 時により場合により、的確な指導をくれるのだ。




「はい、先生」


 このように先生扱いをしても、指導が飛んでくる。


 あくまでフィナは侍女だからだ。


 下の者が助言をくれても、立場をわきまえた言動を求められる。

  偉そうにするわけではなく、「立場」を理解しなければいけない。という事らしい。




(まだそこらへんが難しいんだよな……)


「はい、も先生も、私に向かって使う言葉ではありません。これは何度申し上げても、直らないですね」


 咄嗟に出てしまうのだから、こればかりはいつ直せるかは分からない。




「貴族ってややこし過ぎるよ……」


 独り言のように口にしたら、フィナはうーんと唸った。


「あぁ! そうだ、単純ですよ。階級という命令系統の問題です。トップが誰かを示すために分かり易いですから」




「そのトップが無能だったら?」


 無能な上官は、戦場では後ろから撃たれる事があると読んだ事がある。


「その場面が不得手だと思ったら、下の者に任せるのがトップの仕事ですね」


「なるほど……今みたいに」


 フィナはフフッと笑って、もう一度タオルを首に当てた。




「適任者を見抜くのも、それに任せる事が出来るのも、有能なのです。エラ様」


 オレの知る無能な上官というのは、余程の無能らしい。


「なるほど……少し分かった気がします。でも、それでも手伝いたい時は?」


 フィナは一瞬、驚いたようだった。




「褒賞を与えるのも仕事ですが、時と場合によるとしか。エラ様のおっしゃる意味でのお手伝いは、部下の仕事を奪う事や、かえって邪魔にならないかを加味しなくてはなりませんね」


 オレは、立場と言うものをもっと学ばないといけないらしい。




「そっか……やっぱりまだ、何も分かっていませんね、私。その都度教えてくれますか?」


 ほんの少し体と首を傾げて、お願いの仕草をしてみる。微動だにせず「お願い」するのが、どうしても心苦しいからだ。



「仰せの通りに」


 フィナはそう言って堂々とお辞儀をする。


 少しずるいと思ったが、首を傾げてお願いするのはセーフのようだ。


 頭を下げてはいけないという加減は、この辺りが良いのかもしれない。


(謝罪の時は、同じ感覚なのになぁ)




「さて……出発の準備が整いましたね。皆さまにご挨拶に参りましょう」


 フィナに促されて、リリアナとシロエの所に向かった。


 出発の今日。


 昼食の時にも騒がれるかと思ったが、逆に二人とも寡黙で、まるでお葬式の最中のようだった。


 目を合わせても、涙目で逸らされて会話が出来なかった。




(泣かれると辛いなぁ)


 ノックをしてリリアナの書斎に入ると、二人はすぐに駆け寄ってきた。


「エラ……もう出発なのね」


 神妙な顔でリリアナは言う。


「エラ様、私も一緒に行けなくて、悲しいです」


 シロエが冗談を言わないのは、本当に悲しんでくれている証拠だ。




 二人はオレの顔を見ると、そっと近付いてきて優しく抱きしめてくれた。


 さほど身長が伸びていないオレは、まだ二人の胸に顔が埋まってしまう。


 だが今日は、それを危惧してか、窒息しないように横から抱きしめてくれた。


 そのため、抱きしめ返せずに手を遊ばせてしまったが。




「四ヶ月も会えないなんて、考えてもみなかったわ。直前に行くものだとばかり思っていたから」


「私もです。同じ馬車に乗って、一緒に楽しく向かうものだと思っていました」


 リリアナとシロエは、もう何度聞いたか分からない言葉を、もう一度だけ言った。




「寂しいですけど、私のお披露目には二人も来てくれるんですよね?」


 成人の儀は、王宮のダンスホールで開催され、王族一同が見守る中で新成人を祝福する。


 皆、初めての王宮内で、あれよあれよという間に終わるものらしい。




「エラの正礼装のドレス姿、ダンスホールのメザニンから目に焼き付けておくわね」


「正礼装……メザニン?」


 フィナが後ろから、「中二階のテラス席のようなものです」と教えてくれた。


 なるほど、王族だから一般とは別の所に席があるのだ。当然と言えば当然か。




「私もエラ様の晴れ姿、楽しみにしていますね」


 シロエは目に涙を浮かべて、オレの額にキスをした。


 リリアナもハッとして、同じく頭にキスをくれた。




「ちょっと、もう、そんなのしたこと無かったのに。びっくりするじゃないですか」


 照れ臭くて、オレは二人を引き剥がすように離れた。


「エラ様、公爵様がお待ちのようです」


 お義父様の兵から伝えられたようだ。名残を惜しむ三人に、フィナは申し訳なさそうに伝えた。




「それじゃあ、行ってきますね」


 こういう時に、気の利いた言葉が出てこない。素っ気なく聞こえるだろうか。


「ホームシックになって泣かないようにね?」


「さみしくなったら、私の事を思い出してください」




 二人は思い思いの言葉で、最後にぎゅっとオレの手を握ってくれた。


「はい。行ってきます!」


 ……これが、オレにとって初めての外出で、そして旅路になる。





 屋敷の玄関ホールでは、侍女達やセバスも見送りのために整列してくれていた。


 なんだか申し訳なくなるが、心からのお見送りなのだと一見して分かった。


 皆、小さく手を振ってくれたり、涙までこぼしてくれている侍女も居る。



 思えば二年近くも、皆さんにお世話になっていたのだ。


 事あるごとに挨拶やお礼を述べるオレの姿に驚いていたが、いつかそれを見たくてオレの目につく所を敢えて掃除している。


 などという噂まで聞こえていた。




「ありがとうございます。行ってきます!」


 心からお礼を述べて、皆の間を通る。貴族教育で教わった通りに、淑女然として。


(オレ、帰ってくるんだよな……?)


 扉の前で振り返ると、後ろの方でリリアナとシロエが静かに見送ってくれていた。



――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」

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どうぞよろしくお願い致します。  作者: 稲山 裕

週に2~3回更新です。



『聖女と勇者の二人旅』も書いていますので、よろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n4982ie/

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