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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第八章 三十五、勝負の行方

  第八章 三十五、勝負の行方




 彼には、仰向けになってもらった。


 横向きでは、改めてとなるとやりにくかったから。


 私は横から斜めに、彼の上に覆いかぶさる形に態勢を変えた。


 ……これはこれで、今から私が襲うような感覚になる。


 自分が優位に立っているような、そんな錯覚も。


 でも男はいつも、こういう時に自分が上だと思っているだろうから良い気味だ。




「不敵な笑みだな。またよからぬ事を考えているのだろう」


 下から何を言われても、全く気にならない。


「しゃべらないで。気が散るわ」


 そう言いながら、こちらが優位なのだと示すように――ギリギリまで唇を近付けた。


 けれど、まだ触れない。


 ……でも、いざとなると視線が気になる。


「目を閉じて」


 その言葉に、素直に従う彼を見下ろすのが、とても心地良い。




 だけど私は……少しだけ緊張している。


 エラの頬にする時は、ただ愛おしいだけなのに。


 この人にはなぜか、懐かしいような切ないような、妙な気持ちが心を掠める。


(なぜ? この人にくちびるで触れるなんて、初めてなのに)


 ルナバルト……考えてみれば、失礼な男なのに。


 ――憎み切れない。


(……もういい。考えてもしょうがない)




 意を決して、私はくちびるを、ちょんと当てた。


 ほんの一瞬、彼の薄くて柔らかいものに触れた感触があった。


(……意外と、嫌じゃない?)


 というよりも、一瞬過ぎてよく分からない。


 それとは別に……今の自分の容姿を知っているからか、そそるのだ。


 可憐さと美しさを合わせ持つ私が……ルナバルトという強敵に言うことを聞かせて、覆いかぶさっているこの状態。


 まるで私が勝者で、彼に我慢をさせて、焦らしているような感覚が楽しいと思っている。




(もう一度だけ、今度は少しだけ長く……)


 私の長い金髪が、サラサラと枕に流れ落ちて行く。


 その枕の上に、彼の顔。


 伸ばした腕を、少しだけ曲げれば届くそのくちびるに、もう一度……私のくちびるを重ねる。


 一秒……二秒……。


 嫌な感じはしない。




 大人しくじっと動かない彼に、私からしているせいだろうか。


 男は、こういう事のその先を、我慢できない生き物のはず。


 それを耐えているのかと思うと、少しだけ愛おしいと感じた。


 けれど新鮮な気持ちではなくて、どこか懐かしい。


 なぜ――懐かしいなどと感じるのだろう。




 ……重ねたままの彼のくちびるが、堪えようとしているのか震えているのが伝わる。


(もう少し、この気持ちが何なのか知りたいから、我慢しなさいよ)


 ふるふると鬱陶しいから、くちびるだけで、甘く食んだ。


 上のくちびるを食んだら、次は下のくちびるを。


 これはもう、恋人のするキスなのだろう。


 でも、懐かしく切なくて、止まらない。


 ずっと昔に愛していた人に、ようやく会えたような。

 それ以外に形容できない苦しさと、そして涙が溢れそうになる。




(なぜ……)


 今はもう、このくちびるの感触が、私を愛している人と触れる喜びとして受け入れている。


 でも、その理由が分からない。


 好きでたまらなくて、なのに、触れられなかった。


 その辛さを埋めるかのように、彼のくちびるを食むのを、止められない。


 応えて欲しいのに、彼はまだ、遠慮して何も返してくれない。




(こんなに切ないのに)


 私は……一体、何者だったのだろう。


 輪廻転生があるというなら、きっとその誰かに違いない。


 私のゴーストが、その愛情を残さず伝えたいと叫んでいる。


 私以外の記憶はないはずなのに、この人を想う気持ちだけは運んだのだろう。




 私は……チキュウで男だったということに、こだわり過ぎていたのかもしれない。


 エルトアは、ゴーストに男も女もないと断じていた。


 その記憶に関しては、強い想いがあれば残ることもあるけれど、と。


 ならば私は……もはや、身を任せれば良かったのだ。


 エラの中に居た時は、エラの体を護らなくてはと意固地になっていたけど。




(今はもう、この体のままに……心も委ねれば良かったのね)


 ――そう思ったら、心がとても軽くなった。


 肩肘を張って、神経を尖らせずとも……。


 キスなど絶対に嫌だと思っていたはずなのに、こんなに心地良いものならずっとしていたい……かもしれない。


 リリアナやシロエにされた時は、違和感を感じたけれど、今は……逆に自然な気持ちでいられる。


 ずっと、ルナバルトのくちびるを食み続け過ぎて、つい変化が欲しくなってしまった。


 愛情を運んだ誰かの記憶が、そうさせたのか――。


 知らぬ間に一瞬、舌を少しだけ入れて、舐めてしまった。


 すぐに止めようと思ったのに、気分が高揚してしまった。




(これは……一体何?)


 オートドールの、夜伽モードにシフトしてしまったのかもしれない。


 そう思いながらも何度も繰り返していると、強い視線を感じてハッとなった。


 ルナバルトは目を見開いて、驚愕の眼差しを送っている。




「……私ばっかり。あなたもしてください」


 誤魔化す言葉が思いつかなくて、うっかり本音が出てしまった。


「い……いいのか?」


 その問答がもう、焦れったい。


「はやく」


 ――これは、私の感情ではない。


 でも、それでいいと思ってしまった。




 彼は私の言葉に躊躇しながらも、同じように返してくれはじめた。


 するのも心地よいけれど、されるのも……ふわふわとした心地になっていい。


「ルナバルト様。ついでに胸も触ってみてください。どんな気持ちになるのか、知りたいので」


「ルネ……。お前、後で俺を殺すつもりじゃないだろうな」


「フフッ。なぜそんなことを? しませんよ」


「……本当だろうな」


 顔が熱い。


 体も熱い。


 よく見ればやっぱり、視界の端に夜伽の文字が見える。


 ――指令していないのに。




「今しかこんなサービス、無いかもしれませんよ?」


 まだ、全てはあげられないけれど。


「むぅ……」


 難しい顔をしながら、けれど彼の手は迷わずに、私の胸をふわりと包んだ。


「……それだけですか?」


「無理をし過ぎて、気が触れたわけではないだろうな」


「失礼な人……でも、そうかもしれませんね」


 そう告げると、少し戸惑いながらも彼は、胸の感触を確かめるように揉みだした。


 それがあまりにも心地良くて、意識が裏返って、別人になってしまうような恐怖に襲われた。




「…………ま、まって。やっぱり、恥ずかしいからこれ以上は……」


 その恐怖のお陰で、やっと我に返ったような気がする。


「急には止められんぞ」


「な、なぜ? あなたの手でしょう?」


「感情には、コントロールの効かぬものもあるのだ」


「何を訳の分からないことを……ひぁっ」


「可愛い声だ」


 さっきまで、私が優位だったのに。


「……な、殴りますよ?」




 胸がじんじんと、そしてキュンと奥に響く様な締め付けを感じる。


(はやく止めてくれないと、このまま流されてしまいそう……)


「……くっ。ここで止められるとはな」


 そう言って、ようやく止めてくれた後も、そのむずがゆい感触が残る。


「はぁ……。その、ルナバルト様はやり過ぎです」


 自分の顔が、とろけているのではないかと不安で、目を合わせられない。




「……むしろ、ここで止めた事を褒めてもらいたいのだが?」


「意味の分からないことを。それよりも……勝負は私の負けでいいです。なんだか、肩肘を張るのに疲れてしまいました」


「本当か! まぁ、途中から勝ちを確信していたが」


「……むかつきますけど、その通りです。むしろ……良かったというか」


「ほう。それで?」


 負けを認めたとはいえ、このいじわるな顔をされると腹が立つ。


 でも、素直になるのも、必要かと思って反抗はしないことにした。




「……私が嫌だと言わない限りは、しても構いません」


「おおぉ……!」


「うざ」


(鬱陶しい態度が続いたら、殴ってやればいいか……)


「急に口が悪くなったな」


「……気を許したせいかもしれません。嫌なら我慢します」


「いいや。嫌ではない。素直な一面が見れるのは嬉しい」




「……いじわるしても、怒らないでくださいね?」


 途中で止めることはとても辛そうだから、それで仕返しをしてやる。


「ほどほどに頼む。君のいじわるは度が過ぎそうだからな」


「……フフ」




 ――私の気持ちは楽になったけれど、この奥底にあった感情が誰のものか。


 などと考える必要もなく、前夫人が、私のゴーストの元なのだろう。


 それ以外にありえない。


 ならば……少しは報われたのだろうか。



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