表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

252/295

第八章 三十、挨拶(一)

  第八章 三十、挨拶(一)




 私は、物事を軽く考えてしまう性質らしい。


 婚約を決めたら、その次に何があるのか。


 それを全く考えていなかった。


 夕食を終えて、玄関までオルレイン……ルナバルト副団長を見送ろうとした時――。


「ルネ。俺の家族にも会ってもらう。近い方がいい」


 帰る間際に言うような、ついでの話ですることだろうかと思ったものの……こうしたイベントが色々と増えるのだ。




「あ~……。そうですね。私は今のところ仕事などありませんから……」


「ならば明日、迎えに来よう」


 行動が早い。


「ルナバルト様のご両親に、何か手土産は……」


「不要だ。家から家に、という意味ではすでに、将軍が送っていることだろう」


 いつの間にか、私の知らないところで何かが進んで行く。


「……ねぇ。パパは私達の結婚に賛成だったのかしら」


「うん? なぜだ。開口一番で俺が怒鳴られているのを聞いただろう」


「だって。用意がいいんだもの」


「事が決まれば迅速に動く。これは将軍の教えだからな。嫌でもそうなさるさ」


「ふぅん……」




 彼の乗って来た馬車が近くまで届くと、ルナバルト副団長はさっさと乗り込んだ。


「昼前に迎えに来る。食事くらいは一緒にしてやってくれ」


「あ、は、はい」


 ……とっさに返事をしたけれど、そういう会食は苦手だ。


 しかも、私の策で家を捨てさせた、その彼のご両親と一緒に食事をするなんて。


「どんな顔をしていればいいの……」


 おとう様に聞いたものの、「無礼があればそのまま帰ってこい」と、言われて終わった。


 フィナに聞いても、家格が上なのだから何も気にしなくていいと言われた。


 そして私にはもう他に、こういう話を相談する相手が居ない。


(滅茶苦茶気まずいわよ)


 着て行くドレスは任せるとして……。


 それについても、選ぶ基準をそろそろ、本気で覚えなくてはいけない。



   **



 お屋敷の中では、普段通りに過ごすので実感が湧かない。


 結局、いつも通りに朝を迎え、隣に眠るエラを眺めている。


「……おねえ様。おはようございます」


「おはよ」


 エラのおでこに、おはようのキスをするのが日課になっていて、エラも私の頬にキスしてくれる。


 それで心が満たされているのに、これがもうすぐ変わってしまうのだろうか。


 ……いや、これはこれで、エラを甘やかしてしまっているから良くないのだ。


 そんなことを考えていると、あっという間に時間が過ぎて迎えが来てしまった。


 ばたばたと忙しない上に、気持ちは浮ついて定まらない。


 でも、ドレスや化粧、装飾といった身の回りだけが整ってしまった。


 フィナや他の侍女達の成す、素晴らしい連携のお陰で。




 気にしていたドレスは肌をあまり見せないもので、胸元や腕をシースルーの黒いケープで覆っている。


 暑くなりつつある季節に即しているのと、ケープのお陰ですぐ側に立つ人間にしか肌が見えないという、貞淑さと色気の出し方をきちんとわきまえた水色のドレス。


 シースルーが黒を淡くしているので、重過ぎなくていいバランスだ。




「ルネは何を着ても似合うな。普段も着ればよかろう」


 部屋を出たところで、おとう様が待ってくれていた。


「パパ! 一緒に行ってくれるんですか?」


 なんと心強いことか。


「いや、仕事があるから付いて行ってはやれん。すまんな」


「……そう、ですよね」


 落胆したのが見て取れたのだろう。


「そう肩を落とすな。オルレイン家は大丈夫だ。身内に会うくらいの気持ちで行けば良い」


 本当だろうかと顔を見上げたけれど、こんな時に嘘は言うまいと思い、すぐに笑顔を返した。


「信じましたからね? それじゃあ、行ってきます」


「待て待て。玄関までエスコートしよう」


 いつになく緊張している私を、励まそうと思ってくれたのだろうか。



   **



 馬車の中では、ルナバルト副団長は向かいに座った。


 そのままそこに居ればいいのに、余計なことを言う。


「ルネ。今日のドレスも良く似合っている。……隣に座ってもいいか?」


「えっと……。だめです」


 どうやら、最初から断られると分かっているのに、わざと口を開いたらしい。


「ハハ。……俺の両親に会うのは不安かもしれないが、あまり気にしなくていい」


 彼も、私を励まそうとしてくれているのだと分かった。


「そう言われても……」


「でもな、あまり悩む時間もないぞ。もうすぐ着く」


「えっ?」


 馬車に乗ってから、三十分も経っていない。




「同じ王都の、それも近くに屋敷があるんだ。このくらいで着いてしまうさ」


 王都の、いわば端と端にある両家だからなんとなく、もっと時間が掛かると思い込んでいた。


「ルナバルト様。私の側から……離れないでくださいね?」


 ご両親と三人だけにされては敵わない。


「可愛い事を言うじゃないか。でもまぁ、気をつけよう」


 こんなことなら、隣に座るのを許しておけば良かったかもしれない。


 そうすれば、後で裏切られないだろうと思えたのに。



   **



 副団長の御実家……お屋敷の規模で言えば、おとう様の屋敷と比ぶべくもない。


 でも、隅々まで手入れの行き届いた庭に、屋敷の荘厳さは負けていない。


 おとう様の屋敷は要塞然とした風体だけれど、ここはまさしく、貴族然とした構えをしている。


「立派なお屋敷ですね……気後れしてしまう」


 玄関の少し手前で馬車が止まり、降りると丁度、その威厳高い建物が目の前にある。


「ハハ。こけおどしだ。……茶会や社交界はあまり出ていないのだったな」


「はい……」


「こういうのは慣れだ、ルネ。我が家で少し慣れるといい」




 令嬢としての立ち回りなど、しばらくぶり過ぎて忘れているかもしれない。


 そんな不安がどんどんと膨れ上がっていく。


 討伐の仕事ばかり好んでいたせいで、そのツケが今まさに出ている。


(落ち着けない……落ち着かないと)


 キョロキョロと、お屋敷やルナバルト副団長を見ていると、玄関が開いてご夫妻が出迎えてくれた。


「馬車の音が聞こえてね。良いタイミングだったろう?」




 よく通る声の主は、頬と額に一文字の傷痕が残る美形の紳士だった。


 その隣には、艶やかな美女が微笑んでいる。


 随分と若く見えるけれど……。


「よく来たね、ルネ嬢」


「本当に。よく来てくれたわ」


 二人は小気味好く礼をしてくれて、釣られるように私もアドレーの礼を返した。




「ふ。その尊大な礼も、君がすると可愛く見えるじゃないか。ようこそ、オルレイン家へ」


「さぁ、玄関で立ち話も無粋ですから。どうぞお入りくださいな」


 何も気の利いたことが言えないまま、私は促されるままにお屋敷に入った。


 ……これは、歓迎されていると見て良いのだろうか。


 二人とも笑顔で迎えてくれている。


 普通に考えるなら、何も気にしなくても良いはず……。


 でも、私はこの二人の長子に、家を捨てさせた張本人なのだ。


 それが目の前に表れて、平然としていられるだろうか。


 これから、何を言われるのかと思うと胃が痛い。


 ――オートドールだというのに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ