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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第八章 二十八、花の青

  第八章 二十八、花の青




「エラ……私、がんばったわ」


 しばらく放心していて、おとう様に報告しなくてはと、応接室を出ようとしたところにエラが来てくれた。


 フィナとアメリアが、私がぼうっとしているのを心配そうに見ているのは分かっていたけれど。


「おねえ様、えらかったですね」


 ぎゅっと私に抱きついて、私の胸に頬ずりをし始めたのを止める元気もなく。


「フィナ……もう一度お茶を淹れてほしい……」


 あれで本当に良かったのだろうかと、何度考えても分からない。


 結婚したくなくて、言ったのか。


 結婚しても良いけれど、家から出たくないから言ったのか。




 婿入りを妙案だと思ったのは、断られるだろうと踏んだのか。


 もしくは、それなら結婚でも良いと思ったのか。


 どうせするのなら、副団長は良い相手かもしれない。


 それは間違いない。


 それから、意外といい人だと思った。


 でも……私の本心はどこにあるのだろう。




 婚約、結婚というものが現実になるかもしれないのだと思うと、急に怖くなってきた。


 手が……震えている。


「ぱ……パパに、言わなきゃ……」


 エラに抱きつかれたまま、執務室に向かおうとしたら止められた。


「パパにはさっき、私から伝えましたよ? ざっくりとですけど」


「そうなんだ……ありがと」


 ……でも、パパに聞いてもらいたい。


 私は、結婚することになったらどうしよう? ――と。




「ルネ! 何だ、呆けた顔をして。エラから聞いたぞ。本当にそれで良いのか!」


 怒ったような、呆れたような、困ったような顔をして、おとう様は現れた。


「パパ」


 皆、結局応接室に集まってしまった。


「パパ。私……どうしたいのか、分かりません。でも、副団長はお帰りになりました」


「大丈夫か……。しょうがないやつだ。少し休め。後で聞く」


 おとう様も、苦悶を浮かべた顔で去ってしまった。


「フィナ。アメリア。私……これで良かったのよね?」


 こんなことを侍女に聞いても、困らせるだけなのに。




「私は……賛成したからこそ、作戦を一緒に立てましたから……きっと良い方向に進むと信じております。彼の力は、必ずルネ様とアドレー家の助けになると」


 フィナはしっかりしている。


 貴族社会を知り、彼女自身も貴族令嬢として過ごしてきた経験と見識から、今回の作戦では頼りになった。


「わたしは……ルネ様に優しくしてくれそうだと思いました。将軍と似た感じと、それよりも恋人に近い感じと。だから、とってもお似合いだと思います!」


 アメリアは、その目でしっかりと人を見ている。


 本来の直感的な予感というのは、経験に基づいている。


 彼女は過酷な幼少期を経ているから、その観察眼は信頼出来るものだ。




「そう……。そうよね。力もあって、いい人だというのも、より分かった気がするもの」


 でも、おとう様の意見を聞いていない。


 おとう様は、どう考えているのだろう。


 私の気持ちを優先しろと言ってくれたけど、本心はどうなんだろう。


 もっと、アドレーに相応しい相手が他に居たのではないだろうか。


「やっぱり、パパに聞かないと……」




 エラが私の異変に気付いて、素早く手を取ってくれた。


 さっきまで甘えたくて抱きついていたとは、思えないくらいの切り替えの早さで。


「エラ。連れて行って。足が震えて、上手く歩けない」


 オートドールの体なのに、これほど精神の影響を受けるものだろうか。


 不安のせいで、何もかもが怖い。


「おねえ様。ソファに座りましょう。パパはフィナが呼んで来て」


「は、はい」


 すぐにフィナは動いて、私はエラに促されるままソファに座り込んだ。


「だめね、私……。人生でこんなに、自分や家の将来を左右することなんて、直面すると思ってなかった」




「ルネ!」


 飛んで来てくれたのが、何だか申し訳ない。


 おとう様も一緒に、聞いてもらえば良かったのかもしれない。


 でもそれだと、あの流れにはならなかったと、やっぱりそう思う。


「パパ、私……。あの人と結婚することになったら、どうしよう」


「バカ者が。……そもそもお前もエラも、まだ結婚教育を受けておらんだろう。まだ早いと思って、教えていない間に勝手に話を進めたなどと……」


「すみません。家にとって悪い話ではないと……。でも、覚悟が出来ていませんでした。怖くなってしまって……」


「それはそうだろう。特にお前には、結婚などさせずに、この家に居させようと思っていたのだがな」


「そうだったんだ……」




 そういう話をする暇もなく、あれこれと別の仕事が舞い込んでいたせいだ。


 それにおとう様が、まさかそんな風に考えていてくれたなんて。


「はぁ……。このじゃじゃ馬娘が。とことん突っ走る性格のようだな。もうこれに懲りて、少しは大人しくせんか」


「すみません……」


 もしかして、何とかしてくれたりしないだろうかと、淡い期待をしてしまう。




「ルネ。エラに聞いた話だと、かなりの条件を出したらしいな」


「え……ええ。はい」


「相手の価値も含め、それ自体はなかなかのものだ。だが……これではルナバルトが条件を呑んだ場合、もう後には引けんぞ。覚悟はしておくんだな」


「…………はい」


 自分でしておきながら、涙がこぼれてしまった。


「はぁ……。泣きたいのはこっちだ。大事な娘を、こんな形で結婚などと……」


 おとう様は呆れたのか怒ったのか、そのまま執務室に戻っていってしまった。




 私は、エラとフィナに支えられるようにして、自室に戻ってベッドに倒れた。


 そして枕に顔を埋める。


 さっきから涙が止まってくれないから。


 ――でもすぐに、オルレイン副団長のせいでこればかりしていると思って、仰向けに寝返りをうった。


 エラは、ベッドに椅子を寄せると私の隣に座り、この手をぎゅっと握ってくれた。


「おねえ様ごめんなさい。私が、作戦があるなんて言ったせいで……」


「ううん。私に覚悟が足りなかったせいよ。エラのせいなんかじゃない。……相手も条件も良いって、パパも言っていたもの」


 ……オルレイン副団長の役職や家、そうした条件と、私たちの出した条件のどちらにも、問題が無いのなら――。


 後は本当に、私の覚悟だけだ。




「オルレイン副団長の気迫……もの凄かったですものね。私は少し、怖かったです」


 エラの少し後ろに居たフィナが、そのように言った。


 たしかに……彼の気迫に負けたような気がする。


 この体になって、男の人を怖いと思ったことなんて無かったのに。


「あれは……執念。ううん、怨念みたいなものだと思う。ご妻子を残酷な失い方をしたから。それが恐ろしいと感じたんだわ」


 本来向けたかった愛情の行き場を失って、怨念のようなそれを私にぶつけようとしている。


 けれど、それは私に向けたものではないと、そう思えば――。




「可哀想な人。でも、それなら私でも怖くない。可哀想な部分なら、私でも受け止めてあげられるわ。……たぶん」


 同情が良いのかどうかは分からない。


 だけど、同情ならしているし、慰めてあげたいとも思える。


「おねえ様、無理しないでください」


「……ううん。無理なんかじゃないわ。乗りかかった船だもの。責任から逃げたりもしないし、もう怖がったりもしない。あの人に負けたままなんて、悔しいもの」


 私の手をぎゅっと握っていたエラから、その力がふわりと抜けた。


 まるで私の気持ちを、そのまま表しているみたいに。



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