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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第二章 一、再生の時 浸潤の行方




 ――シロエは顔を紅潮させ、上機嫌でスキップを踏みながら書斎へと戻った。


「お嬢様っ! おじょうさまぁ~、ふふふ、フフフフフッ」


 ノックもせずに勢いよく扉を開け、そしてすぐさまにバタンと閉じた彼女は、入るや否や上ずった声でリリアナを呼んだ。


「何よノックもせずに、怖い……ていうか気持ち悪いわね」


 怪訝な顔で睨むように、書類仕事に追われている最中のリリアナはシロエを非難した。




「あらあらあらぁ、お嬢様、そんな事言っていいんですか? 教えてあげませんよぅ? ふふ、フフフフフ」


 非難など全く意に介さずにシロエは机に手を付き、リリアナに興奮した様子でニコニコとしている。


 リリアナは不意に、この侍女が良からぬ事をしたのではないかと不安に駆られた。


「あなたまさか、エラに手を出したんじゃないでしょうね!」


 リリアナはおよそ核心を突いたような、そんな気がしてならない。




「まさか、仮にも私ですよ? 無理強いなど致しません。そうではなくってぇ……フフフ」


「じゃあ何なの? 気持ち悪いから早く結論を言いなさい!」


 大事なエラに、きっと何かしたに違いないと、最も身内であるにも関わらずシロエを疑う気持ちが止まない。




「おっほん。エラ様が、ようやくお胸に興味を持ち始めたようなんですよぅ」


 シロエは急にどこか遠くを見つめながら、上ずった声でそう告げた。


「はぁ?」


 意味が分からないリリアナは、苛立ちを溜め息に混ぜて強く煽った。




「先ほど寝室に寝間着を持っていきましたら、エラ様が……裸になって、お胸をこう、このように持ち上げて……」


「何ですって!?」


 冗談にしては生々しく、そして何とも言えないヤキモキとした気持ちでリリアナは語気を強くした。




「フフフ。本当を言いますと、なさっていた訳ではなかったようなのですが」


 シロエは少し言葉を選びつつ、しかし焦らしたくて全てを伝えないようにした。


「は、早く言いなさいよ」


 書類に構わず、リリアナは机に身を乗り出した。




「どうやら、お胸が大きくなった事にようやく気付かれたようなんです!」


 結論を聞いて、リリアナはそれがなぜこんなに、この侍女を興奮させているのか疑問に思った。


「どうしてそれが、あなたを半狂乱にさせているの? 拾った時からふくらんでいたのだから、大きくもなるでしょうよ」




 一年前に、餓死寸前の状態で拾った時でさえ胸は女性らしさを帯びていた。


 つまり元々、大きくなりやすい体質だろうと最初から分かる事だ。


 何をそんなに声が上ずるほどに興奮するのか、そう問いかける意味を込めてリリアナは言った。




「違うんです、お嬢様。これは私が、エラ様と一緒にお風呂に入る度に、あのお胸を優しくマッサージしていたお陰のハズなんです!」


「あなた、そんな事してたの? 信じられない。セクハラよ?」


 リリアナは怒りよりも、まさか洗ってあげる事にかこつけて、そんな事をしていた事実に引いてしまった。




「嫌がったらしませんでしたよ? でも、手つきがいやらしくならないように細心の注意を払って、本物のマッサージのように、お身洗いとして、していたんです。だからセクハラなんかじゃありません」


 早口でまくし立てるシロエを横目に、リリアナはエラにどう言って詫びようかという悩みで頭がいっぱいになった。


 そしてもう一つ、気になる事が頭に浮かんだ。




「あなた……まさかとは思うけど、股間もいじくり回してたんじゃないでしょうね……」


 彼女の静かな怒りの圧は、さすがのシロエでも動きがピタリと止まった。




 シロエは緊張を飲み込むかのように、「スゥー……」っと息を吸いこんだ。


「いえ、あの。そこはさすがに、エラ様でも騙せな……コホン、嫌がられてしまいましたので、ご自身で洗っておられました」


 イケナイことをしている。


 そういう自覚はあったようで、シロエは目いっぱい息を吸い込んでから正直に話したのだった。


「あなたねぇ……」


 呆れて言葉が出てこないリリアナは、この侍女をどうすればいいだろうかと思案している。




「……でも、エラの専属はフィナで、ほとんど彼女が付き添っていたでしょう? そんなにあなたと頻繁に入っていたの?」


 またもや痛いところを突かれたシロエは、リリアナから目線を逸らしながら答えた。


「その、毎日では大変だろうからと、数日……二日に一度くらいで、交代していました」




 そう聞いて、夜はシロエを自由にさせていた事を後悔した。


 リリアナは溜め息を漏らしながら頭を抱え込んだ。


「……信じられない。こんな性犯罪者が、シロエだったなんて」


 言っている言葉がおかしいかもしれない。

 

 そう思いつつも、意味は通じるだろうと考えるのをやめたようだった。




 その呆れきった態度に、シロエは慌てて弁明を始めた。


「待ってください。犯罪なんかじゃありません。


あくまで、エラ様をさらに美しく磨くために、無理のない範囲でしただけです。


現に、エラ様は美少女という言葉では言い表せないくらいに魅力で溢れています。


もちろん、エラ様のお人柄もあるのですが、その一助のためにした事なんです。


容姿や身だしなみにこだわらない方ですから、サポートのひとつなんです。


嫌がる事は絶対にしていませんから。


そんな目で見ないでください……というか、一緒に喜んでくれると思ったのに……」




 半ば涙を流しながら、シロエは必死に訴えた。


 自分はノーマルだと思っているし、まさか少女に手を出したいなどと本気で思うわけがない。


 でも、この行動には少なからず欲望が混じっていたし、だけど今言った事も本心だった。


 突き詰められると、自分が分からない事への不安と、リリアナの信頼を失ったのではという恐ろしさで、涙がこぼれてしまっていた。




「泣くほどの事なら、ちゃんと最初から相談しなさい。それにどんなに正当化しても、あなたのした事はセクハラよ。すぐに一緒に謝りにいくわよ?」


 正直に謝るしかない。リリアナはそう思っていた。


 他に方法などあるわけがない。


 これでシロエが嫌われてしまっても、しょうがない。


 それだけの事を、この一年の間続けてきたのだ。




「……私がされたら、きっと許してあげないと思うけど」


 シロエの事はもちろん大切だが、この件に関してだけは、冷たく言い放ちたくなった。


 シロエはエラに対して、どこかおかしい。


 ずっとそう思っていたからだ。


 しかしそれは、自分もそうなのではないかと、前々から感じていた。


 現に、一年近く前にシロエと相談し合ったのだ。


 エラに対して、私達は正常ではない気がすると。


 何かしらの洗脳のような事を、されていないかと。


 だが結論は出なかったし、うやむやのままエラを大切にしていこうという話でまとまってしまった。




「許してもらえなかったら、どうしたら良いでしょう……エラ様と、距離を置くなんて私には拷問と同じです」


 入室してきた勢いなど消え失せ、シロエは落ち込んでいた。




「ごめんなさい。言い過ぎたわ。私も、エラの事になるとムキになってしまうの。


そういう場面を見たあなたに、嫉妬を感じたのを打ち明けるわ。私も見たかったって、瞬間的に思ってしまったもの。


でも、それはいけない事だからって、黙っていた。


あなたを責める事で、自分の嫉妬心に蓋をしようと利用してしまったわ。……ごめんなさい、シロエ」




 リリアナからの軽蔑や、信頼の失墜はなんとか免れたと感じたシロエは、少しだけ目に光が戻った。


「いえ……私の行き過ぎた感情を、きちんと打ち明けていれば良かったんです。


お嬢様を出し抜いてエラ様に触れたいと、なぜか歯止めが効かなくなっていました。すみません……」


「やっぱり……私たちはエラに対して、ちょっとおかしいわね。二人できちんと、気をつけるようにしましょ」




 少なくとも、エラとの距離感は自分は取れている。


 そうリリアナは思った。


 ならばなぜ、自分は大丈夫なのかを考えた時に、純粋に接触時間が違う事と、仕事の都合でエラと二人きりになる事が無く、必ずシロエも一緒に居たからだろうと思った。


 だがそれも、シロエは二人で会っているのだなと、今までも仕事をしながら嫉妬していたからすぐに思い浮かんだのを、リリアナは告げない事に決めた。


「とにかく、謝りにいくわよ」


 自分のズルさを隠すように、リリアナはシロエを促して書斎を出た。



   ※※



「まだ部屋に居るかしら」


 夕食に、他の侍女が呼びに行ったかもしれない。


 それなら夕食後に話すだけだが、こうした事はどうにも、早く伝えてしまいたい。


 リリアナもシロエも、同じ気持ちだった。


 足早に階段を上り、三階の奥の自室へと急いだ。


 部屋の前に立つ警備兵に聞こうかと考えたが、それよりも入ってしまった方が早いと思い直した。




「入るわよ……?」


 リリアナはノックの返事も待たずに、気が急いてすぐに扉を開けてしまった。


「エラ~? 居るかしら」




 その声に答えるように、寝室からエラの声が聞こえた。


「はい、少しお待ちを……あ、いえ、ここはリリアナの寝室なんですから、どうぞ入ってください。ちょっと今、苦戦していますが……」




 そ~っと覗くと、ドレスを着るのに苦戦しているエラが居た。


 どうやら、夕食だからと急いで着ようとして、逆に上手く着れなくなったらしい。


「ふふ、そこの紐は、別同士の紐よ。上と下がごっちゃになってるじゃない」


 リリアナは見かねて、背中の紐に苦戦中のエラを手伝った。




「どうやったら背中の紐と上の紐が混じっちゃうのよ。やだ、上の紐をこんなに引っ張って……」


「朝は自分で着れたんですけど……少し慌てると、難しくなってしまいました」




 照れくさそうにするエラが、可愛らしくて仕方がない。


 そんな気持ちがすぐに溢れてしまう二人は、今から謝らないといけない事が余計に苦しくなってしまった。


 だが、そのために来たのだと、リリアナは気を取り直した。


「はい、出来た。逆に朝は、よく一人で着られたわね。上手に着れていたわよ?」




 目の前の銀髪美少女を振り向かせて、ドレスの着こなしをチェックする様は本当の姉のようであった。


 リリアナも、普段はそのような気持ちでこの少女を見ている。


「ありがとうございます。背中で留めるものが多くて、ドレスは大変ですね。いつもフィナやシロエに着せてもらっているから、ダメですね」




 首を傾げて照れる仕草は、この少女の素直さが出ていて良いな、とリリアナは思った。


 すぐ後ろのシロエも、しょんぼりとしつつも手伝いたくて、しかし動けずに居るまま、二人のやり取りをうっとりと眺めていた。


「あの、それでね、エラ……」


 屈託なく微笑む美少女に、言い辛い事を打ち明けようとリリアナは重くなった口を開いた。




「謝りたい事があるの。私もなんだけど、まずは、シロエの事で……」


 そう切り出して、この一年の間、エラの入浴に付き添ったシロエの下心と、ひどいセクハラの事を説明した。


 エラはきょとんとした顔で聞いていて、リリアナの後ろで俯いているシロエを時々見ている。




「それから」と、リリアナは自分の嫉妬心の事や、シロエの事を責められない感情がある事を告げた。


「ごめんなさい。こんな二人で。あなたの事を大切に思う気持ちの他に、こんな……欲望丸出しの、浅ましい気持ちを持ってしまって……」


 とても真剣に、そして深刻に話すリリアナに、エラは答えた。




「そんなの、気にしませんよ?」


 あまりに簡単に言う少女に、リリアナとシロエは耳を疑った。


「だって、本気で大切にしてもらっているのを感じていますし、愛してくださっているって、言ってたじゃないですか。


それをかさに着てエッチな事をさせろとか、そう来られると困ってしまいますが……まぁ、中身はほら、基本的にアレですから、そんなに嫌じゃないですしね」




 美少女から発せられるには少々生々しい言葉だったが、二人は妙に納得も出来た。


 純粋な少女ではないからこそ、このように複雑な感情を持ってしまうのかもしれないと。


 こんなに都合よく受け止めてもらって良いのだろうかと、一瞬の逡巡はあったものの、二人は安堵した。




「それから、シロエは割と最初から迫ってくる感ありましたしね……お風呂でそんな風に揉まれていたとは思わなかったですが、胸だけちょっと長いなとは思っていました。ハハハ」


 寛容な言葉に、シロエは感動さえ覚えてしまった。


 先程まで、どれだけ汚らしい事をしてしまったのだろうと、自分を責め続けていたからだった。




「それに、本当にそれでこの胸になったのなら……ちょっとすごいとは思いました。


少しだけ引いちゃいましたけど……でも、この胸って美乳だなって思ってますし、アリと言えば、アリです。


ね、だからあまり落ち込まないでください。シロエ」


 本人がそう言うならと、リリアナもそのまま受け止めそうになった。


 だが、もしも気を遣われているのだとしたら。


 そう感じずにはいられなくなった。




「本当に? 責めたら嫌われちゃうかなとか、追い出されたら困るから仕方なくとか、そういうので無理に我慢してない?」


 聞いた所で、もしそうだとしても素直に言う訳がないのだと、少し後悔した。


 立場的に弱い人間が、張本人に直接言うなんて普通はありえないのだから。




 しかし少女は、あぁ、と少し感心した様子で、「確かにそう言われるとそうですけど」と言った。


「でも、本当に嫌なら、もっと辛そうな顔をしていると思います。


私は……地球に居た時は、こんなに自然に笑える事なんてなかったんですよ?」




 そう告げると、少女は本当に屈託なく、見ているだけでもっと好きになってしまうような、とても可憐な笑顔を見せてくれた。


 そしてさらに、こうささやいた。


「まだ、照れちゃうんですけど…………私も二人の事を、愛してます」




 言うまでもなく、二人はさらに虜になった。


 大切に出来ていて良かったと、この少女を愛せてこちらも嬉しいと、心の底からそう思った。


 時に欲が出てしまう事も、少女は受け入れてくれていた。


 寛容で、素直で、とても美しくて可憐な、銀髪赤目の少女。


 その容姿だけではなく、心根の優しさがこの子の魅力の本質なのだと、疑いようのない事実だと二人は感じたのだった。


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