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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第八章 二十三、早計

  第八章 二十三、早計




 こうなったら、なぜ大丈夫かを見せた方が、早いような気がする。


 婚約を、諦めてもらうためにも。


「オルレイン隊長……。少し、二人で話せますか」


「うん? 人払いか……いいだろう」


「まぁ、そうなんですが……あちらに来てください」


 騎馬隊の皆さんに、ぞろぞろと動いてもらうよりは自分が離れたかった。




「分かった。――皆はここで待て」


 私が歩き出すと、同じく隊長は馬を置いて、歩いて来てくれた。


 少しだけ離れたところに、周りよりもひと際大きな木がある。


 そこの裏に回れば、騎馬隊の皆には見えないだろう。


「剣はお持ちですよね?」


 腰に差しているのは見たけれど、一応聞いておいた。


 どちらかというと嫌いな人と、無言で歩くのも気を遣ってしまうから。




「ああ。……まさか、決闘でもするつもりか?」


 それも良いかもしれない。


 でも、おとう様からガラディオに次ぐ強さだと聞いた以上は、純粋な剣術では敵わないだろう。


 電撃を食らわせるのが妥当なところだろうか。


 でも、それで彼が気を失ったら、後で負けを認めないかもしれない。




「そんな。まさかですよ? あなたが私よりも強いのは、受け入れているつもりです」


「そうか。だが君には素質があるから、挫けずに続けるといい。挑戦も受ける」


 ……私に絡もうとするのを止めてほしいのだけど。


 ともかく、上には上が居るのを私は知っているし、理解もしているつもりだ。


 こればかりは、今の私では頂きに届かないらしい。


 今の……と、強がってはみたものの、ガラディオの強さはおかしい。


 ――きっと、これからも勝てないだろう。


 あれこそ人ではない何かだ。


 もしかすると、……この人も。




「さて。まずはお見せしましょうか。大丈夫だという証拠を」


「……ほう?」


 彼は純粋に興味があるのか、それともさっきから、私と二人で話すこと自体が楽しいのか……綺麗な顔に微笑を浮かべている。


「その剣で、私の……そうですね。腕を斬りつけてください」


「……なんだと?」


「それが一番、理解しやすいはずですから」


「そんな事が出来るわけないだろう」




 じれったい話だ。


 そうかと言って、同じオロレア鉱を鍛えた私の刀では、もしかしなくても斬れてしまうから使えない。


「もう。いいですから抜いてください」


 このやり取りが面倒なので、オルレイン隊長に体が触れるくらい近付いてから、見上げて視線をぶつけた。


 目が合ったのを確認してから右手でその剣の柄を取り、勝手に抜こうとした瞬間だった。




「こら!」


 あともう一瞬あれば、抜き放てたはずだったのに。


 がしっと手首を掴まれ、止められてしまった。


「うそ?」


「なにをしている。本当に君という娘は……」


 私を気に入っているらしいから、油断すると思ったのに。


「いいじゃないですか。少し貸してください」


 一体どんな力をしているのか、掴まれた右手は、やはりぴくりとも動かせない。


 けれど私は、握っていた剣の柄を離した瞬間に、左手で掴みなおしつつ身を翻した。


 くるんと瞬時に回りながら、彼の剣を引き抜く。




「あっ!」


「フフフ。一本取りましたね」


 右手を封じられてから、鬱陶しいと思いつつも目線を合わせ続けた甲斐があった。


 左手の動きを悟られないように、右手を囮にするという機転を利かせたのだ。


「返しなさい」


 私は背を向けたまま、彼の呆れたような声を無視した。


「見ていてください。私の体を」


 力の抜けた彼の手を振り払い、右腕の袖をまくり上げて腕をさらした。


 そこに剣の刃を当てた状態で彼に振り向き、一気に腕を薙ぐ――。




「なっ、何という事を!」


 彼は慌てて私の右腕を掴み、目を見開いてその白い肌をまじまじと見ている。


 斬ったはずの場所を、何度も。


 傷が見当たらず、見間違えたのかと思っているのだろう。


 私の腕を取ったまま、くるくると翻しては傷を探している。




「そろそろ離してください。十分に堪能なさったでしょう?」


「いや、しかし……傷が……」


「なら、もう一度お見せしましょうか? この剣の刃が、欠けてしまうかもしれませんが」


 実際、切っ先の方でカリっと欠けたかもしれないけれど。


「いや……いや、やめてくれ。その肌が……いや腕が落ちたかと思って、冷や汗をかいたぞ」


「でしたら、いい加減その手を離してください」


 わざとではないようだけど、何気にずっと掴まれたままだ。


「ああ……すまない」




「これでご理解いただけましたか? 私、普通ではないんです。それに身籠れない体なので、子を成せません。ですから私には、もう関わらないでください」


 言ってしまった。


 いや、そもそも見せてしまったのだ。


 これでもう、付きまとわれることはなくなるだろう。




「…………その、体……」


「はい?」


「刃に屈しない、強靭な体……」


「ええ。そうです。だから大丈夫だと言っ――」


「――すばらしい」




 この人は、今何と言った?


 それに、この表情。


 まるで、ずっと探していたものを見つけたような――驚愕と歓喜の混ざった、震えるような口元。


 ――いびつに歪んだ顔をしている。



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