表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

234/295

第八章 十二、勝負事(一)

  第八章 十二、勝負事(一)




 太陽が傾き、あと数時間で日が落ちる頃には、舞台が用意されていた。


 城砦と城下町的な住居群の間に、ちょっとした広場がある。


 そこを、皆が持ち寄った椅子に腰かけて囲んでいるのが勝負の場だ。


 私は飛べないように、翼は預かり取られてしまった。


 そして、目の前には本当に五人、門前で私を追い払おうとしたおじさんと、その他四名が立っている。


 四人が剣を持っている中、おじさんだけは片手斧と剣の二刀流だ。


 観客たちは久しぶりだと言って盛り上がっている。


 ――というか、女相手に男が五人という構図を、誰も卑怯だの話にならないだのと言わないのだろうか。


 それとも、王都から来た女を嬲るという、固有の風習でも作ったのだろうか。




「さっさと終わらせましょう!」


 歓声の中でも相手に聞こえるように、声を張った。


 その態度が気に入らなかったのか、元々嫌っているからか、おじさんは不機嫌そうに私をねめつけた。


 そして、その無精ひげの汚い顎をくいと私に向け、四人に「行け」とでも合図したのだろう。


 その他四人が剣を抜いて、私ににじり寄って来る。


 この状況を作ったオルレイン隊長はどこかと探していると、砦のバルコニー様の、私を掴まえた場所から見下ろして観戦していた。


 少し違って見えたのは、おそらくは戦闘服に着替えているから。


 黒っぽい、簡単に言うなら忍者のような装束だ。


 王都とあまり交流がないなら、シャツよりも布を合わせる方が合理的なのかもしれない。


(とにかく……五人を倒したら、あの場所に登って平手打ちでもしてやる)




「娘! よそ見とはいい度胸じゃないか」


 前に居る一人が私に声を掛けると同時に、速攻といわんばかりに四人が斬りかかってきた。


 それは、横並びの中二人が突きを構えての、取り囲みながらの同時攻撃だった。


(左右からは横薙ぎで、普通なら避けられなくて焦るんだろうけど)


 私はそのど真ん中に殺気を立てずに割って入ると、突きの構えごと相手の剣を打ち払った。


 敵意を消した動きに、二人はほとんど反応出来ずにいる。


 そのせいで、ガギンという鈍く強い音と共に二人の剣が砕け折れた。


 と同時に、その二人にそれぞれ掌打と、体を翻して横蹴りを放つ。


 彼らの脇腹に重い掌底と蹴りがめり込み、二人は観客の中に吹っ飛んだ。




(普通の体術でも倒せるレベルだったわね)


 つまり、そこまで強いとは思えない。


 でも、動きの統制は取れていて、残りの二人は動じずに斬りかかってきている。


(連携重視の部隊なのかな)


 そんなことを考えながら、馬鹿正直に踏み込んで来る左右の二人のうち、右側に仕掛けた。


 斬り下ろしてくる剣を受けずに躱し、その軌道を刀で受け流して二撃目に移れなくしてから、刀の柄の先を鳩尾に打ち入れた。


 ぐぅっ、という気持ち悪い声と共に、彼はそのまま昏倒した。


 そこで思ったのが、私は相手に合わせてしまうクセがあるなということ。


 この気だるい攻撃に、こちらも無駄で遅い動きになってしまっている。




(もっと早く動けるのに)


 そう思い直して、もう一人斬りかかって来ていた彼には、最大限に早く隙のない動きで対処した。


 身を瞬間的に相手の懐に入れて、肘打ちをめり込ませる。


 残るおじさんが、その彼の斜め後ろに移動していたのを横目で捕らえていたので、逆に、倒れ掛かっている彼を盾に身を隠した。


 そのまま、おじさんに彼の体を押し付けて体勢を崩して、おじさんが持つ斧を打ち上げるように払った。


「くそっ!」


 打ち上げてからすぐにおじさんを攻撃しなかったのは、これはわざとだ。


 飛んだ斧よりも、おじさんに攻撃するぞという動きを作ることで、私達に視線を集めるため。


 あえて、おじさんが防げるように軽く横薙ぎを打つ。


 おじさんはやや得意げに、それを受ける。


 他の四人が瞬時に倒されたのに、自分は受けているぞという喜びでも感じているのだろうか。




 けれど、この狙いはオルレイン隊長に向けて斧を払い飛ばしたことにある。


 やや真上に飛んだ斧は放物線を描き、隊長の立っている辺り目掛けて落下した頃だ。


 それはおじさんが、私の刀を受けたのとほとんど同時だった。


 ギン。という打ち合った音と、ドス、という重い音が微妙に重なった。


(これはさすがに、外したか)


 期待し過ぎなのは理解しつつも、私は残念に思いながらおじさんの脇腹に掌打を放っていた。


 最初の二人と同じように、観客のところまで派手に飛ぶおじさん。


「……不毛だわ」




 もちろん、殺してなどいないし、おそらくは後に残るような大怪我もさせていない。


 打ち抜くのではなく、打ち飛ばす打撃にしたから。


 表面は腫れるとか内出血はするだろうけど、骨や内臓にダメージはない。


 ――はずだ。


「これは、挑戦状のつもりか?」


 いつの間にか降りて来ていたオルレイン隊長は、手に先程の斧を持っている。


 見たところ、やはりどこにも当たらなかったらしい。




「あら。お気に召しました?」


 私が涼しい顔で微笑むと、彼も嘘くさい微笑を返してきた。


「他の所に飛んだらどうする。危ないだろう」


「私がそんなミス、するわけがありません」


「……ほう?」


 ダレた動きをしていたとはいえ、私の力量を見抜けないのなら隊長も大した腕ではない。


 バルコニーで掴まえられたのは、偶然だったろうか?


「で? 勝負なさるんですか? それとも……」


「それとも?」


「私が恐ろしくて、逃げ帰りたいでしょうか」


 私は真正面よりも少し角度をつけて、小首を傾げてみせた。




「安い挑発だが、乗ってあげた方が嬉しいのかな?」


 彼は表情を変えていないけれど、乗ってくれそうではある。


 ただ、のらりくらりと躱されそうな雰囲気だから、もう一押しした方がいいだろう。


「女性の誘いを断るのかしら」


 そう言った途端、オルレイン隊長の片眉が一瞬、ピクリと動いた。


 まるで喜んだかのように。


「……ふ。誘ってくれたのか。そうかそうか」


 そう言うや否や、彼が手に持っていた斧が消えた。


(あぶな――)


 半歩引いたその足があった場所に、斧が刺さっている。




「……無粋な人ね」


 目で追えなかった。


 避けたのは勘……というか、肌で見るという技術のお陰だ。


「お返しというやつだ。さて、どうお相手してもらおうか。俺の趣味はダンスなのだが」


 ダンスと聞いて、先刻、掴まれ抱き寄せられた感触が蘇る。


「次に触れたら、その腕を本当に落としてあげますから」


 ……気持ち悪い。


 妙に落ち着き払っているのと、今の斧を投げた速さに違和感がある。


 もしかすると、本当に強いのだろうか。




「さぁ? そんなことが出来るのなら、許可しよう」


「は?」


「……もう始めてもいいのかな?」


 ――返事を待っている?


「…………いいわ」


 そう告げた瞬間、背後から気色悪さが包み込んでくるような気配がした。


(これは――)


 悪寒だ。


 そしてすでに、目の前からオルレイン隊長が消えている。


(殺気とは違う、別のものを向けられてる――)


 いつの間にか背後を取られて、今にも抱きしめられるところだった。


 間一髪で屈みこみ、即座に回転して後ろに足払いを放った。


 ――でもそれは、むなしく空振りに終わる。


 だけでは済まなかった。


 蹴り抜きかけた足を踏まれ、動きを止められてしまったのだ。




「足癖が悪いのか。俺が矯正してやろうじゃないか」


 ぞわぞわとしたものが、体の芯を抜けて行った。


(こいつの言う事が、いちいち気持ち悪く感じるのは気のせい?)


 私は踏んでいる彼の足を目掛けて、刀を振り抜いた。


 でも、それも空を斬ったのみ。


 一応は峰打ちに使っているけれど、私の速度に反応されている。


「……あなたも剣を抜いては?」


 さすがに、武器を使ってもらわないと格好がつかない。


「俺の趣味はダンスだと言っただろう。君と踊りたい。名は何と言ったかな」


「知っているくせに」


 態勢を整えながら、私は刀を上段に構えた。




「いや。アドレー将軍の娘としか聞いていない。直接はな」


「それでも書状を見て知っているでしょう」


「では、捕まえて直接聞き出してやろう」


 また、背すじにぞわりと悪寒が走った。


「その気持ち悪い言い回し、最悪ですね」


 私は刀の刃を水平にし、剣筋を隠した。


 でも、これもフェイントで本当は――。


(いや、やっぱり刀で殴ろう。素手は危険な気がする……)


「……どうした? そちらから来るがいい」


 近寄るのが気持ち悪くて、いまいち踏み出せない……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ