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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第八章 十、国王命令(五)

   第八章 十、国王命令(五)




 上空に逃げたものの、完全に臨戦態勢を取られてしまった。


 さすがに砦だけあって、城壁周り全てに弓兵が配置についている。


(砦のどこかにオルレイン隊長が居そうなものだけど……)


 視認出来そうなところまで下りると矢が飛んできそうだ。


 それに、砦の中からでも射れるようになっているはずだから、うかつに近寄れない。


(……この体だし、強行突破してもいいけど)


 それをしようとして、飛んだせいでこうなってしまったという直近の前例がある。


「どうしよ……脳まで筋肉とか言われそうなことしか思い付かないんだけど」


 ――矢が来ようが剣で斬りかかられようが、隊長を出せと砦を練り歩く。


「私のイメージが最悪なものになっちゃうわね……」


 矢が尽きるまでギリギリの高さをぐるぐる飛び回る。


 ……これは時間が掛かるし、尽きたかどうかが私には分からない。




「でも、こういう事態に出てくるのが隊長よね」


 少し様子を見て、高度もギリギリまで下げてみることに決めた。


「あそこに浮いているぞ! 目を離すなよ! 射程に入ったら射掛けろ! 騎兵部隊は仲間を探せ!」


 さっきのおじさんの声で、どこかで指揮を執っている。


 仲間が居ると思って人を割いたらしい。


 ざっと見渡した感じだと、武器を持っている人は百人も居ない。


(この数なら何人か取り押さえつつ制圧出来そうだけど……)




 ただ、全体的に意外と広いものだから、建物の中までは分からない。


 隊長を見つけ出す前に、もっと多くに囲まれては面倒だ。


 崖を背にした立派な城砦に、小さな城下町のごとく建物がそれなりにある。


 これがやっぱり、まだ中に居るかもしれないと思うと一番厄介だ。


 その外周に城壁。


 弓兵は全部で二十くらいだけど、この城壁が二重になっていたから困っている。


 内側の城壁に弓兵が居て、どこに降りようとしても矢が届きそうだ。


(外周だったら、真ん中に降りれば大丈夫だと思ったのに)


 その城壁の外周りに畑が広がっていて、それを囲うようにした外側が、さっきおじさんに怒鳴られた城壁だ。




 北には山脈、西と南は森、東は崖と海。


 山から岩でも取れるのか、立派な石造りの城壁と城砦だ。


 厳しい冬が無ければ、要所ではないとはいえ破棄されずに維持していただろう。


 籠られると兵糧攻めくらいしか出来なさそうなのに、壁の中に畑があるとは。


 最後の砦にぴったりの場所だ。


(……といっても、私まで攻めあぐねてる場合じゃないのよね)


 何か良い手はないかと、無い頭に少しでも知恵を巡らせるしかない。




「…………私なら出て行かないけど」


 ひとつ、誰も傷付けずに済む手が浮かんだ。


 矢が届くかどうかの辺りまで高度を下げて、挑発することにした。


 おそらくは砦の中だと当たりをつけて、砦に目一杯に近付く。


 するとすぐ側を、矢が掠めた。


(どこから?)


 把握するのに時間を割くよりも、このまま決行した方がいい。


 そう判断して私は、大きく息を吸い込んだ。


 ――そして、渾身の大声で叫ぶ。




「オルレイン隊長! 部下にだけ戦わせてご自分は隠れているのですか! 女ひとり相手に、随分と臆病なことですねぇぇぇ!」


 声が響いた辺り一面が、ピリついた空気に変わったのが分かった。


 尊敬する上官を貶されて、皆が怒ったのだろう。


(これも失敗?)


 しかも、どんどん状況が悪くなっている。


 だけどもう、ここで止める訳にはいかない。




「王都に戻って、オルレイン隊長は臆病者になっていたと! そう伝えておきますから!」


 その言葉を皮切りに、四方八方から矢が飛び交った。


 ほとんどは届かないけれど、時折危ないと感じるものが飛んでくる。


(早く出てきて……)


「こんなに言われても! まだお出でになりませんかあああああ!」


 この言葉は、安い挑発だと完全にバレてしまうというのに――焦りから言ってしまった。


 そして下からは、怒声までが飛んできている。


「良い度胸だ女ぁ! 射殺してやる!」


「飛んでいる貴様の方が卑怯だろうが! 降りてこい!」


「無事に帰れると思うなよおおお!」


 どこかの山賊かと思うようなものばかりだけど、それなりに怖い。


 掴まる心配は無いのだけど、絶対に捕まりたくないと、一度は身が震えた。




(どうしよう。撤退するしかないかも……)


 おとう様が、私くらいしか成功しないだろうと、私に行かせるのを嫌々ながらも頼んでくださったのに。


(……もっと作戦を練れば良かった?)


 でも、門前で取り合ってくれないとは思いもしなかった。


 こうなっては、さらに強引に押し入るしかない――。


 そう思った時だった。




「俺はここに居るぞ! 良い度胸をしているな! 何用があって来た!」


 その声の主は、肩までの真っ直ぐな金髪をしていた。


 砦のちょうど真ん中辺り、バルコニー様の屋上に居る。


 普段はそこから演説でもしていそうな所だ。


 そこにはまだ少し、高度を下げなくては彼の目の前には行けない。


「攻撃を止めさせてください! 私に攻撃の意図はありませんから!」


 素直に聞いてくれるかは、分からないけれど。


 少しの沈黙の後、彼は片手を軽く上げた。


 あの合図は、攻撃や奥の手を使わせる時によく見るから、警戒をさらに強めなくてはいけない。


 ……と、思った瞬間には矢が止まった。


 怒声も。




「さて! これで降りられるか、小娘!」


 小娘と言った。


 挑発のお返しというところだろうか。


「無礼な方ですね! アドレーの娘だと名乗ったでしょう! 聞いていないのですか!」


 部下の責任は、上官の責任だ。


(……いけない。熱くなってる)


「それはそれは! 知らぬ事とはいえ失礼した! だがこれでは埒が明かぬだろう! 手出しせんからこちらに来るがいい!」


 ……信じても大丈夫だろうか。


 遠目に見る限り、卑怯な手を使うタイプには見えないけれど。


 自分の経験則ほど、今は自信が持てない。


 かといって、迷っていてはアドレーとしての威厳を示せない。




 ――私は速やかに高度を下げて、彼の目の前にスゥと降りた。


 ただ、少し浮いた状態で。


 何かされたらすぐに逃げられるように。


(攻撃しないように対応するのが、こんなに難しいなんて)


 逃げの一手しかないように思えて、上手く立ち回れない。


 そんなことを考えながら、彼に持ってきたものを渡そうとした。




「オルレイン隊長。これがアドレー将軍からの紹介状です。私の身元が分かることでしょう。それから、こちらが国王からの帰還命令書です。お受け取りくださ――」


 ――書簡を渡すのに、うかつに手を伸ばしたつもりはない。


 なのに、予測までしていたのに、その腕を掴まれてしまった。


「――顔をよく見せてくれ」


 ぐいと引く力は優しいのに、通常の力では腕を振りほどけない。


 武術に長けた者特有の重心操作だ。


 怪我をさせないようにするため、翼の出力も落としたのが悪かった。


 その腕を掴み引く技法を解除しようとして、逆に私はさらに、重心を引かれた。




「きゃ」


 予想外に軸を崩されたせいで、思いきり可愛い声が出てしまった。


 その上、オルレイン隊長はもう片方の腕で、私の腰を完全に抱きしめてきたのだ。


(こんなこと……!)


 男の人に初めてこんな風にされて、彼を舐めていたと反省した。


 でも、腕を引かれ腰を抱かれる様は、まるでダンスの振り付けのように見えたかもしれない。


「離してください!」


 睨みつけてやろうと思った彼の顔は、それも予想外過ぎて睨めなかった。


 なんて寂しそうな目で、私を見るのだろう。


 彼の青い瞳は、深い悲しみの底に居るかのような、沈んだ色をしていた。




「もう少しだけ、顔を見せてくれ」


 何も言い返せずに――私はいいようにやられた悔しさを滲ませながら、彼の気が済むのを待ってしまった。


 なぜ、抵抗しなかったのかは分からない。


 悲しい目をした男に、予想外に捕まれて驚いたせいだろうか。


 その瞳に、悲恋の物語を思い出した同情からだろうか。


 美しい顔だと読んだその話の通り、綺麗な造形と、それに似合う金髪を眺めながら――。


 ともかく私は、力量で一手負けたことに――無念さを噛みしめていた。



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