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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第八章 四、姉妹会議(四)

  第八章 四、姉妹会議(四)




 とりあえず私は、二日ほど引き篭もった。


 何もせず、部屋で呆けたまま動かなかった。


 ソファに積まれたクッションに身を預け、寝間着がふとももまで捲れてしまっても気にせずに居た。


 エラもアメリアも心配したけれど、「気持ちを落ち着かせたいの」と言って部屋から追い出した。


 その間……甘え上手なシロエのことを思い出しては、どういう風に行動しているのか、思いつく限り頭の中にメモを取った。




「……大胆に抱きつく。欲望に忠実、もしくは素直。抱きついても文句を言わない相手にしている。男性にはしているところを見たことが無い」


 これだけを見ると、年下の少女に対して性癖を開放しているヤバいやつにしか見えない。


 でも……シロエからは愛情を感じていた。


 そして、それは確かにあったと思うし、嫌な気持ちはしなかった。


「相手が嫌がらない程度で、愛情の元で抱きつく……」


 抱きつく以外に無いのだろうか。


 他には……かいがいしく看病をしてくれていた。


 ――そう。最初は、無償の愛だった。




「そう思うと、シロエも本当に優しい人だったなぁ……」


 そもそも、愛情を知らない私に対する、分かり易い愛情表現だったのだろう。


 今ならよく分かる。


 鏡を見ても、私は光のない目をしていたから。


 オロレアに飛ばされたばかりで、ただ生きることに集中していたけれど……そもそも、愛情を知らずに生きていたから。


 シロエやリリアナから、無償の愛を初めて……注いでもらったのだ。


 その次に、お義父様から。


「パパからは、父親の包容力とか……心配性で過保護な愛情を貰ってた……」


 ――今もだけど。


 それが今では、普通のことのように感じるくらい、たくさん愛してもらっている。


「今更甘えるも何も、ずぅっと甘えているんだもの……」


 これ以上、何を甘えればいいのか、分からない。




「……振り出しに戻っちゃったじゃない」


 十分過ぎる程の愛情を貰って、たくさん甘やかしてもらって、さすがにお返しをしたいというのに。


 それでもまだ、私はエラのように甘えたいと願うほどなのだろうか。


「そういえば、エラも大して甘えているように思わないけど……」


 せいぜい、私かお義父様に可愛く振舞って、頭を撫でてもらったりしているだけだ。


「……どういうこと?」


 余計に分からない。


 後は添い寝を求めて、私のベッドに堂々と潜り込むくらいだ。


 それを私も、エラにしたいと思っているのだろうか。


 もしくは、お義父様に?


「……それは、私がしたら……ちょっと問題よ」




 これまでの考えを、総合的に鑑みると……。


 男性には基本的に甘えない。


 せいぜい年の近い同性か、年下の女の子に対して、愛情の元で抱きつく。


 年上の女性なら添い寝を求める。


 ――でも、基本的に身内にしかしていない。


「そうなると必然的に、私はエラを抱きしめているか、アメリアを抱きしめるくらいしかないわね」


 前までお付きだったフィナに添い寝を……なんて言ったら、お互いに緊張して眠れないだろう。


 まさかこれは、私をエラに抱きつかせようという、そういう魂胆だったのだろうか。


 ……だけど、私が情緒不安定なのは確かでもある。


 ストレスのせいか、匂いも感じない。


 ……オートドールなのに、ストレス症状に対応しているのだろうか。


 そんなもの、全くもって不要な機能だ。




「……でも、うーん。そうでもないのかしら」


 痛覚のない無痛症の人は、怪我をしても気付きにくいし、加減が掴みにくい。


 心も同じで、ストレスを感じているはずなのに何も分かっていないとしたら……。


 気付かないうちに、心が壊れてしまうかもしれない。


 オートドールにも、そういう機能が備わっているのだとしたら……製作者のエルトアは、もしかすると本気で、ゴーストの移植を考えているのかもしれない。


「恐ろしい計画だけど、それだけ人口減少に歯止めがきかないのね」


 でも、ゴーストを失ったら……そこで本当におしまいになるのだろう。


 そう考えると、命とゴーストの関係は、本当に理解が及ばないとだけ分かる。


 私は死んでも、ゴーストを転移させられた。


 それは、生身でなくても存在していられる。


「……いや、でも、エラのゴーストと混ざったらしいから……生身はやっぱり、必要なのかもしれない」


 ……やめよう。


 ――それ以上は、考える意味が無いからやめよう。




「こんこん。おねえ様――」


「キャッ!」


 思いがけない声に、出したくもない可愛い悲鳴をあげてしまった。


「……そんなに驚かなくても。お食事くらい一緒に食べましょう?」


「エラ……忍び込むのが上手になったのね」


「今のおねえ様は心に隙があり過ぎますから。簡単です」


「もう。そういうの、誰に教わったの?」


 元暗殺者のアメリアだろうか。


 それとも、エイシアが余計なことを教えているのか。


「それよりも、難しいお考えは終わりましたか? もう夕食の時間ですから。食堂で一緒に食べましょう」


 ……タイミング的に、分かっていて来たような気もするけど。




「エラ。こっちに来て」


「あら、なんでしょう」


 大人びた口調も、それなりに似合うようになったエラ。


 毎日のように見ているはずなのに、いつの間にか成長しているのだなと思う。


 思えば、エラには少し遠慮をしていたかもしれない。


 元々が、その体に入っていたという気まずさを、勝手に感じていたから。


 でもエラは、私に対して素直に、そして遠慮なく愛情表現をしてくれていた。


 ――寂しかったのは、エラだったのかもしれない。


 私が、避けているわけではないけど、不用意に触れてはいけないのだと思い込んでいたから。


 心が混ざって、入れ替わった部分があるというのなら……それはきっと、エラの力だ。


 人を瞬時に魅了出来るエラが、唯一その力の届かない私に……寂しいと伝えたかったのかもしれない。




「おねえ様?」


 ソファでだらしなく寝そべる私の、目の前に立つ少女。


 ちゃんと見ると、やっぱりまだ、幼さがしっかりと残っている。


「ううん……。ごめんね。私、おねえちゃん失格だった」


 そっと立ち上がって、そして背の低いエラに合わせて、膝をついた。


 エラのことを、大切に想っているはずなのに……おざなりにしていた。


「おねえさ――」


「だいすきよ。エラ。なぜだか、抱きしめるのを遠慮しちゃってた」


 しっかりと、離れないように両腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。


 頬と頬が触れて、少し冷たいエラの体温を感じる。




「……おねえ様から、初めて抱きしめてくれました」


 エラも私に腕を回して、おなじくらいぎゅっと抱きしめ返してくれた。


「うん……。ごめん」


「フフ……ゆるしてあげません」


「うん。ごめんなさい」


「……だいすきです。おねえ様。ちゃんと私のこと、見ていてください」


「うん。ちゃんと見る」


「もっと、たくさん抱きしめてください」


「うん。抱きしめる」


「ぜったいですよ?」


「うん。ぜったい」


「……じゃあ、ゆるしてあげます。とくべつですよ?」


「うん。……ありがとう」


 二人の頬につたう雫は、エラだけのものだと思っていた。


 でも、どうやら私からも零れていたらしい。


 フニフニと頬を合わせていると、それが広がってエラが嫌がった。




「もう。びちょびちょになるじゃないですか。こすらないでください……」


「アハハ。私の寝間着で拭っていいよ」


「……ハンカチ持ってます」


 少し拗ねると、頬を膨らませるのはエラのクセだったらしい。


 小さな可愛いお顔が、ぷっくりとして幼さが増すのが、余計に可愛い。


「フフ。急におなか減ってきちゃった。食堂いこ?」


 エラを離して、代わりにその小さな白い手を取った。


「もう。私がおねえ様を呼びにきたのに」


 今までは私が振り回されていたけど、これからは私がそうするのかもしれない。


 なぜなら、こんなに可愛い妹を放っておくなんて、出来ないから。




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