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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 三十四、願望

  第七章 三十四、願望




 帰りは皆、浮かれていた。


 馬の番をしていた御者達も、念願の生産施設が見つかったと聞いて、彼らも同じように。


 獣も出ることはなく、無事に王都に戻る事が出来た。


 そして……それからは、ともかく忙しくなった。


 実情を知る私が、結局は国王と重臣達の中に混じって説明をしたり、技術者候補達を連れて施設の案内をしたりと。


 何度も生産施設と王都を行き来して、休む間がなくなった。


 助かったのは、技術者達は植物を見ただけで理解してくれたことだ。


 お陰で、何を中心に生産すべきだとかが、とても良い流れで決まっていった。




 施設も非常に優れていたので、特別な操作を覚える必要はなかった。


 ドールのデータに入っていた基盤の扱い方のお陰ではあったけれど。


 施設そのものも非常に簡略化されていて、とにかく全てを自動でしてくれた。


 結局は広大な土地が必要になるのだけど、それ以外はお任せ状態だ。


 施設が苗まで育ててくれたものを、それぞれの土地に植えれば良いだけ。


 種のままを希望すれば種が出てくるし、ともかく、欲しい物を指示すれば出してくれる。


 だから、皆は私に何が必要かを伝えて、私が施設に指示データを送り、そして皆が取りに行く。


 それだけで回るように造られたのが、あの施設だったのだ。




 取り出し用の部屋が、あの集合物でみっちりと埋まっていた部屋だったけれど。


 それに関しては、他の皆が喜んで取り除いてくれた。


 ――そんなこんなで、道路整備、施設周辺の整備、そして施設の掘り起こし工事が順に行われていく。


 それと同時に、新しい畑の開墾が始まった。


 森を開くことになったのだ。


 というのも、どうやらこの森は施設が作り出したらしく、肥沃な土地だと分かったから。


 使用データのログ――古代戦争時の履歴を見ていたら、細菌兵器のせいでここを破棄する時に、管理者が未来に託すつもりで森を作る設定にした記録が残っていた。


 環境変化に強く、なるべく大きく育つ木々を辺り一面に撒き、その育成を補助するように設定してあった。


 施設の能力も高く、撒いた木々は見事に広がった……ということらしい。


 施設が埋まっていることの理由は推察になるけれど、おそらくは……数千年という年月の中で、堆積と木々の成育が重なり続けて埋まったのだろう。




 つまり、この森の土は、暦年の腐葉土で出来ていて、作物を育てるのにとても良い状態なのだ。


 それも伝えたお陰か、森を開いて畑にするということになった。


 もう、国を挙げての一大事業だ。


 国中が湧いている。


 私はそのせいで、森をある程度開くための獣討伐に、何度も駆り出されたけれど。


 充実していると言えばそうだし、こき使われたと言えなくもない。


 それでも、何もせずに色々と考え込むよりは、身体を動かせて良かったなと思えている。


 気が紛れたし、王国のために、ここに住む皆のためになるのだと思えたから。






 ――本当は、リリアナと一緒に探したかった遺跡だ。


 けど、考えてみれば最上級の部隊で臨んでやっとのことだったから、無理だったかもしれない。


 リリアナは私と少数だけで、こっそり探索するつもりだったはずだから。


 それでも……最初にリリアナ主導で行ったなら、リリアナの成果に出来たのに。


 そんなことも考えたりしたけれど。


 でも結局は、今回のことは最終的にお義父様が、私とエラの手柄にしてしまった。


 情報を聞き出したエラと、実行部隊の立役者の私。


 もちろん、ベリード隊長達にもかなりの報酬が約束されたみたいだけど。


 基本的にはたぶん……というか絶対に、私に名声を得させるためだ。


 お義父様の計らいに、私が口を挟む余地なんてない。


 それに、まさか遺跡を探すことに繋がるなんて、誰も予想しなかった偶然の結果だ。


 手紙では、リリアナは怒っていなかった。


 ……悔しがってはいたけれど。


『他にも遺跡があるなら、次こそは私と行くのよ』と、嬉しい誘い文句も書いてあったので、ほっとした。




 ――ともかくこれで、名実ともに、私がアドレー家を名乗っても誰も噛みついてこない。


 特に、武勲を立てたお陰で、男性からちょっかいをかけられる回数は激減するだろう。


 陰口を叩かれるにしても、下品なものではなく、ただの嫉妬に変わるはず。


 それくらいなら、何とでも言えばいいと思えるから、気が楽だ。


 ……こんな風に、周りに流されて生きているのは楽な方だなと思う。


 心からそう思う。




 でも、もしも……私がオロレアに飛ばされた理由が、オロレアの文明再興だとしたら。


 それは小さな、奇跡の始まり(バタフライエフェクト)の、ほんのひとかけらかもしれないけれど。


 そうであることは、とてつもなく恐ろしい。


 大きな流れの、その渦中に居ると自覚して生きるのと、ただ流されているだけだと思っているのとでは――雲泥の差がある。


 私は、別に英雄でもなければ王でもない。


 ただの弱い人間で、貴族として生きるのさえ、場違いだと感じている程度なのだから。


 令嬢として、可能なら引き篭もっていたい。


 いつかお義父様の言う人と結婚をして、そこでもどうにか大人しくしていたい。


 そういう風に考えるような凡人。


 リリアナへの恩義があるから、ようやく立ち上がれる。


 ――それが私なのに。


 ……それが、私だったはずなのに。


 仮に、自分から動いてもこの世界に大した影響がないのなら、次は医療研究施設を探したい。


 そんな大それたことを、考えてしまっている。



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