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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 三十、遺跡(六)

  第七章 三十、遺跡(六)




「皆さん。決して、私を覗きに来てはなりませんよ?」


 そう言って私は皆に、微笑んだつもりだった。


 けれど、それはとても冷たい笑みだったのかもしれない。


「厳冬将軍の、あの顔と同じだ……」


「容赦しない時の厳冬将軍……。さすがはご息女だ……」


 皆が口にした言葉を、私は聞き逃さなかった。


 そんなに怖い顔をしただろうかと、少しだけ頬を膨らませて上に飛んだ。


 枝葉を被ろうと気にしない。


 そのまま、遺跡があるだろう方角に――獣どもの気配がする方に進路を決めて――超音速で翔け抜けた。



   **



 私は枝葉を粉砕してまき散らしながら、ひと息もしないうちに獣どもが集まっている場所を見つけた。


 その上を一旦通過してしまったので、引き返すついでに、獣どもがうごめく中心部へと突撃した。


 地面一体に集まり、何かを貪っているオオカミやクマの群れを、超音速のまま吹き飛ばす。


 空気を割くような爆発音と共に、三十近い獣が弾けた。


 それもそのはずで、抜刀して振り抜いただけではなく、放電も同時に行ったからだ。


 ソニックブームと放電の連撃。


 特に雷は、直下ではなく周囲にまき散らすように放ってやった。


 お陰で私の半径二十数メートルほどは、焦げている。


 地面も、獣達も。


 そして雷の余韻が、まだ私の体と地面をバチバチと跳ねている。




「無理に刀を使う必要、無いのよね」


 若干、心残りのような気持ちが胸に広がった。


 これでは、ただの虐殺のようだと思ってしまったから。


 それでもとにかく今は、獣から遺跡を取り戻さなくてはならない。


 取りこぼした獣は居ないかと見渡していると、広範囲から別の獣どもが集まってきているのが分かった。


 彼らの縄張りに、恐れ多くも侵入した私を食い破るためだろう。


「でも、今は本気だから……ごめんね」


 あまりに力量差があると、ごめんねの言葉が無意識に出てしまう。


 別に煽っているわけでも、調子に乗っているわけでもない。


 無慈悲な手段を取ってしまうことに、せめてものお詫びなのだと思う。


 ……あるいは、このドールの力を試すためというのが、心に引っかかるのかもしれない。


 どちらにしても理不尽なことをするし、結局は、破壊兵器を駆使するのだけど。


(ほんとにこんな姿、皆には見せたくない)


 せっかくの可憐で美しい容姿だから、そのまま人形のように振舞っていたい。


 最近はなぜか、そんな気持ちが湧き上がる。


 武力を手にした余裕から……という気はするけれど。




「さて……。指先からの光線も、最大出力でいかせてもいます」


 刀を鞘に納め、自動照準機能を起動した。


 光線は視野角内に絞って、それ以外は、電撃の自動反射を使う。


 様子を見ている獣どものうち、ベリード隊長達に近い群れから対処することにした。


 万が一でも、彼らに獣どもの危害が及ばないように。


 光線の射出も自動。


 あとは、身体が動くままに任せるだけ。


 すると、両手が勝手に、「おいで」と優しく手を伸ばすような形になった。


 その瞬間――。


 指が小さく角度を変えながら、まるで何かを慈しむ様な手つきでありながら……おびただしい数の光線を放ち続けた。


 一回で十本の光線を――全弾当てたのではなく避けられたか、外れたか――ともかく七、八回は斉射した。


 視線を変えると体ごと向き直って、また同じように手を前に差し出した。


 細くて白い指が、何かに向かって滑らかな手つきで「おいで」と、……誘うように。


 でも、それは死の誘惑で、決して真に受けてはいけない。




 ――生物に用いるような力ではない。


 何の感情もなく、ただ理不尽に物質を断つ光の刃は、手応えも残さず彼らを切ってしまう。


 人に執着して、無慈悲に人を襲う獣どもであっても……憐れに思うほどに、残酷だ。


 それを何度か繰り返しているうちに、数回、私に近寄り飛び掛かってきた獣が居た。


 ばちっ、という放電の光と、生き物が焦げる独特の臭いが上がる。


 その度に、自慢の金髪が青白の光に染まる。


 肉眼だったなら、眩しくて開けていられないほどの強い光。


 一撃で、三階建ての家ほどのクマを屠るのだから、その威力も光線に引けを取らない。




「生き物相手に使うのは、卑怯かしら」


 でも、クマもトラも、人からすれば卑怯なほどの強靭な体と膂力、鋭利な爪と牙を持つ。


 それ以上の力を手にしたからと言って、闇雲に襲うわけではないのだから……。


 ――問題は、ない。




「ないと思いたい」


 そんな、くだらない自己肯定の理屈をこねている間に、戦闘は終わった。


 自動照準は解除され、放電も止まった。


 エネルギー残量が目の端に短く表示されたけれど、安全圏内のままだった。


 ……なんのことはない。


 自分では何もしていない。


 ドールが私の意を汲んで、獣だけを綺麗に片付けてくれた。


 倒した実感もない。


 ただただ、作業が終了したという、時間の経過に過ぎなかった。




「……残酷なことをした割に、本当に実感がないわね」


 むしろそれが、心に刺さるくらいに。


 これ以外に方法が無かっただろうかと、意味のないことを考えてしまいそうになる。


 それを考えるのは、意味が無い。


 なぜなら、さっきまでは獣どもが密集していて、遺跡に近寄れなかったのだから。


 人の食料不足の、その解決の糸口に……なるかもしれない遺跡に。


「……ふぅぅぅ。考えないようにしよう。私、こういうので病むタイプなんだきっと」


 そして、身体が疼くことに気付いてしまう。


 誰かに抱きしめてもらいたいと。


 不安か、恐怖か、後悔か。


 何かは分からないけれど、漫然と心を浸そうとする、モヤモヤとした気持ち。


 これをどうにかして欲しくて、強く抱きしめて欲しいと感じている。




「……こんなに、弱かったっけ」


 それとも、ドールの持つ特性か何かだろうか。


 そう思うと、製作者のエルトアに対して無性に腹が立った。


(余計な機能をつけやがって)


 ただ戦闘人形として作ってくれていれば、人の温もりなど欲さなかっただろうに。


「イライラする」


 焦げた地面に八つ当たりをして、蹴りつけた。


 それが意外と抉れ飛んだものだから、その爽快感で少しだけ溜飲を下げた。


「どうしよう。今、ベリード隊長を見たら抱きついてしまいそう」


 お義父様以外の男の人に、そんなことをしたくないと思って時間を潰すことにした。


 そうしてよく見回してみれば、地下がありますとばかりに、ぽっかりと口を開けた場所があるのを見つけた。


 そこから植物の茎だか蔓だかが大量に伸びていて、その先の何らかの実に、草食動物らしき骨の塊と、雑食のクマ達の死骸が倒れている。


 クマは初撃で絶命したのだろう。


 そして、その入り口らしき場所は……土が堆積していて分かりにくいけれど、かなり広く、そして深そうだった。


「……今度はあれを探索するのね」


 何というか、植物がうっそうとしている場所が苦手だ。


 虫が嫌いだから、セットで彷彿とさせるからかもしれないけれど。


 あの中は、間違いなく虫がいるだろうから。




「隊長達にしてもらおう……」


 全身がゾッとしたところで、さっきまでの妙な気持ちは消し飛んでいた。


 終わったことと、遺跡を発見したことを報告しに戻ろう。


 私は手櫛で髪の毛をさっと整えて、皆のところに向かった。



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