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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 二十六、遺跡(二)

   第七章 二十六、遺跡(二)




 また、森林へと一路。


 今回もベリード隊長率いる七十人の部隊と、共に行く。


 お互いに気心も知れていて、人見知りする私には助かる編成だった。


 その彼らと、王都を正門から出て西へ。


 馬で相当深い場所まで進めるらしく、部隊の後ろには、小型の馬車が五台もついて来ている。


 それには食料や野営時の燃料などが積まれているお陰で、薪を拾いに行ったりという諸々の面倒臭いことをしなくてもいい。


 これがまた、部隊の士気を高めていた。


 皆の機嫌も良く、出発してからはひっきりなしに、隊員達が入れ代わり立ち代わり私に並んで、一言二言話をしてくれる。


 まるで遠足にでも行くかのように。


 だけど私も、つられて楽しく過ごしてしまった。


 特に、今回は獣だけが相手ということで、私も本当に気が楽だったから。



   **



 王都を出発してしばらく。


 まずはファルミノ方面へと小高い丘を越え、森林を右手にまだ少し進んだ所に、新しく切り開いた道があった。


 私の体が、オートドールのリンクリーダー機として、リンク出来る可能性のある遺跡。


 森林の奥地、そこへ向かうための、当たりをつけた道だ。


 ……というか、見える所までは全て、土を打ち固めて簡易の舗装がすでにされている。


「仕事が早いのね……」


 王国主導で行わなければ、こんな大事業がたったの二週間やそこらで、出来るわけがない。


 その期待の高さに、妙な悪寒が走る。


「……行きたくなくなっちゃったわ」


 ひとり言のつもりだったけれど、隣のベリード隊長がしっかりと聞いていた。




「ルネ様。もはや後には引けませんぞ」


 重々しい言葉とは裏腹に、見れば彼は、ニカっと笑っている。


「もう。からかわないでください。行きますってば……」


 総勢七十と私の、七十一騎。それに続く五台の馬車。


 道中はほぼ安全で、遺跡の近くからが近寄れない。


 クマやトラが、通常よりもかなり狭い縄張りの中でひしめいているらしいから。


 ただ、それだけなら、きっと私の手に余ることはないだろう。


 以前の黒いトラのように、獣どもを従えて指揮を執るような異端が居なければ。


 ……色々なことを経験したせいで、しなくてもいいだろう緊張を強いられてしまった。


「おや、ルネ様。初心を忘れぬ面持ち、素晴らしいですな」


 またからかっているのだろう。


 そう思ってじっとりと睨んでやると、真剣な顔つきだったので面食らってしまった。


「そ、そうかな……」


「そうですとも。我々は訓練して、わざと適度な緊張を維持しているのです。どうしても慣れてしまって、スイッチが入りにくくなりますので」


 実戦でそれを言うとは、一体どれほどの数をこなしてきたのだろうかと、背すじの凍る思いがした。




「ですから、予め拾っておいた小石や枝を、時々投げ合うのです」


 そう言っておもむろに、後ろの隊に数センチくらいの小石を鋭く投げた。


 誰かの甲冑に当たることで、注意を促しているのかと思ったけれど……何の音もしない。


 ただ少し、馬が小さく嘶いただけ。


「……どうやら、射線上の者は皆、避けられたらしいですな」


「えっ?」


 高度な遊びがあったものだと、感心してしまった。


「馬に当てないために、ちょっと無理に移動させた時に嘶いたのでしょう」


 当たっていれば、隊列を乱して暴れたかもしれないのに。


「隊長……たまには、のんびりした行軍でも良いじゃないですか。獣なら私も警戒していますから」


 石や枝が飛び交う行軍は嫌だ。


「ハハ。すみません、気の抜けきった者がいましたので」


「そうなんですか? でも確かに、道もあって獣も居なくて……私も気が抜けそうです」


 そんな、よく分からない会話をしていると、徐々に道が荒くなってきた。


 馬で一時間ほど。


 それなりの距離を進めたと思うけれど、目的地はまだまだ先だそうだ。




「ここからは少しペースが落ちますね。馬車の様子を伺いながら、適当なところで野営しましょう」


 私達以外、誰も通らない道だからこそ、その真ん中で野営することが出来る。


 王都を出て既に二十キロは移動しているから、荒い道を行くので進んでも後十キロくらいだろう。


 それでもまだ、半分にも届かないという。


 三分の一か、それ以下。


 本当に広大で、深い森だ。


「迷子になったら……大変そうですね」


「ルネ様。大変どころか、遭難して下手をすれば死にますよ」


 荒い道を進みながら、ベリード隊長は言った。




「ここでは夜、星を見ることが出来ません。つまり、航海に長けた者でも進むべき方角がわかりません。昼もおおよその方向のみ。雨や曇天ならば夜と同じ。さて、ルネ様が翼を失っていたら……どうされます」


 高低差もあまりなく、遠くなど一切見えない。


「高そうな木に登って、山の位置を確認して反対方向に?」


 そのくらいしか思いつかなかった。


「そうですね。でも、このうっそうとした森の中では……どの木も同じくらいの高さしかないでしょう」


「あ。それなら、いくつか切り倒しちゃえば!」


 我ながら名案だなと思った。




「いいえ。木の一番先は細く、そこに立つ事は困難でしょう。仮に、切った木で梯子を作ったとして……先端を超えるように取り付けられたとしたら……見られるかもしれませんが」


 そういいながら、隊長は指を上に指した。


 つられて見上げると、随分と高いところまで枝葉がある。


「この高さを無事に登り切れるようになるまで、かなりの体力を使ってしまいます」


 そうか、彼らはそれを想定して、色々とやってみたのだろう。


「……何も手立てがないのですか?」


「水と食料を確保できなければ、数日で動けなくなるでしょうね」


 前回は、敵の拠点があるということは水源がある。という確信があったという。


 今回は、補給用の馬車をつれている。


 つまり……その馬車で兵站を繋がなければ、水の確保が難しいということだ。


「隊長でも無理ですか?」


「誰であっても、です」


 ……急に怖い話をする。


「お、おどかさないでください」




「一応、何をリスクとしているかを、お伝えしておこうと思いまして」


 絶対に、皆と離れてはいけない。


 ……とはいえ、私の体ならエネルギー不足などありえないけれど。


 なんとなく、皆と一緒にいなければ落ち着かないという、そういう心理を刻まれてしまった。


「隊長。私の手綱を握るの、上手ですね……」


 別に、部隊を離れてやろうとは微塵も思っていない。


 けれど隊長は、きっとお義父様に釘を刺されたのだろう。


『あれはじゃじゃ馬なところがあるから、絶対に一人にするな』とでも。


「お褒め頂き、光栄です」


「褒めてないから!」


 そんな風にからかわれながら馬を進めていると、本日の野営となった。




 まだ日が落ちるにはかなり早い。


 でも、何も暗くなるのを待つ必要はないし、慣れてしまっただけで、日が傾きはじめた辺りから既に薄暗くはあった。


 森の中というのは、時間感覚も研ぎ澄まさなければ、一気に夜に呑まれてしまうだろう。


 彼らが居てくれて、適度な差配をしてくれるから、「まだ進めそう」と思えているだけだ。


 隊長に聞かされた怖い話のお陰で、それがよく分かる気がした。



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