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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 二十五、遺跡(一)

   第七章 二十五、遺跡(一)




 帰還してから一週間ほど。


 私は、屋敷で気が抜けたような生活を過ごしている。


 エラと添い寝したり、お付きのアメリアを膝枕して撫でたりと、無性に誰かに触れている時間が多くなっていた。


 帰った当日にフィナとアメリアを見なかったのは、エラが私を独占するために外させていたらしい。


 さすがに、一言くらい注意した方が良いだろうかと悩んだものの、少し考えた後はどうでもよくなってしまった。


 後はエイシアを呼び付けて、そのおなかでエラや侍女達とお昼寝をしたりと、とにかくだらけていた。


 そういえば、エイシアは一回り大きくなったような気がする。


 まだ幼体だと言っていたから、そういうものかと気にも留めなかった。


 エラを乗せた時に、より見栄えがするだろうとか、そういうことは考えたけれど。


 それというのも、お義父様から「しばらく休め」と言われたから。


 普段から特に、自分の仕事というものもなく、言われたままに動いていただけの身としては……休めと言われれば他にやることもない。



 


 「あのこと」を、お義父様にも聞いてみたけれど、さすがは将軍たる答えだった。


 すでに色んな覚悟をしている人は、皆同じようなことを言う。


「それが慈悲となるなら、そうしてやる事が情けというものだ」と。


 ……でも私には、被害者が求めることを、してあげられない。


「私には……できません」


 そう答えると、お義父様はこうも言った。


「出来ない事をしようとする必要はない。出来る者にしてもらいなさい」


 それでは、そこに私しか居なかったら?


 そう思ったのが伝わったのか、お義父様は付け加えた。


「お前しか居ない時は、自分には出来ないと伝えなさい」と。


「――もしもしれで、敵襲から守り切れずに死なせてしまっても、それではと自害されても、悔やんではならんぞ」


 それは……すでに、助けてやれる時期を逃してしまった結果だから。


 この世界は残念なことに、全てを上手く救えるようには出来ていない。


 だからこそ……可能な限りをもって、まずは身内から護るのだと。


 そう、教えてもらった。


 不条理を説かれた。


 無力であることを知った。




 ……この、万能のようなオートドールの体を手に入れたとしても。


 戦力としては、このオロレアの文明レベルでは一級品だ。


 何しろ、当時の文明レベルを維持していた「回遊都市」の、その中でも特別なものらしいから。


 それでも時間は巻き戻せないし、理不尽な目にあわされた人を、救うことは出来ない。


 言われてみれば当然のことでも、実際に目の当たりにしなければ……分からなかった。






 私が相当なショックを受けているのを見て、お義父様は休みを言い渡したのだ。


 何もしなくてもいいし、何かをしてもいい。


 そう言われると、私がしたいことなんて、特に何もないのだと思い知らされた。


 地球での記憶はもうおぼろげだけど、その当時もたぶん、何かに熱中したようなものはなかっただろう。


 武芸だけは、体に染みついているけれど。


 気晴らしにと言えば武術を練習して、暇だと思えば武術を練習した。


 それは楽しいかと言われれば、そうかもしれない。


 でも、誰かにその熱中を語るような、そこまでの楽しさは無い。


 出来ることが嬉しいだとか、正しい動きから生まれるエネルギーを感じることが喜びになるだとか……およそ普通の人とは相容れない世界観だ。


 それに今回は、その体を動かす気になれない。


 ずっとぼんやりと眠っていたいという、だらけた心境に陥ってしまった。


 そんな私を見たエイシアは、彼女でさえ私に哀れみの目で見るのだから。


 普段なら、ほくそ笑んで見せては挑発的なことを言うはずなのに。




「そんなに、哀れに見えるのかしら」


 昼寝に付き添ってくれる人が居ない時、ひとりエイシアのおなかで寝そべりながら聞いた。


 今は落ち込んでいるとはいえ、当初のようなどうしようもない辛さは感じていない。


 そういう激しい悲しみは去って、ただ無気力なのだ。


 ――(あまりに憐れだから、お前だけでもこうして、腹を貸してやっているのだ)


「……そうなんだ」


 何も言い返す気になれないし、エイシアにも哀れまれているのかと、ただ受け入れるだけだった。


 ――(…………)


 そのまま何か話してくれるのかと待っていたけれど、エイシアは何も言ってくれなかった。


「何かしゃべってよ」


 その答えの代わりに、尻尾をよこしては毛布のように、私にかけてくれた。


 ふわふわで太い尻尾は、侍女達の中でも一番の人気部位だ。


 でも、少しは触らせてくれたとしてもすぐに、するりと外されてしまう。


 それは侍女達をからかっていて、貴重なのだと思わせぶりにしているだけかもしれない。


 もしかすると、本当に触れられるのが嫌なのかもしれない。


 どちらなのかは教えてくれないけれど、とにかくその貴重な人気部位のふわもこな尻尾を、私にかけてくれたのだ。




「……慰めてくれるのね」


 エイシアは何も言わないけれど、慰めだと思えばそれは、心憎いほどに奏している。


 ただ甘えさせてくれている。


 そこに心から頼り甘えていられるのは、意外とエイシアに心を開いているからだと、自覚した。


 でなければ多少の遠慮が入るとか、これ以上寄りかかってはいけないと、ブレーキをかけてしまうはずだから。


 普段はお互いに悪態をついたり、文句を言い合う仲だからこそ。


 ……優しくしてくれるということは、私は本当に傷付いているのだなと、受け入れられた。



   **



 それからさらに、一週間。


 お義父様が私に気を遣っていたことを知った。


 本当なら私に頼みたいことを、私抜きで進めていたのだ。


 森林深くの遺跡。


 その報告は、帰還した次の日に報告だけはしていた。


 それとは別に……捕虜から聞き出した話の中に、遺跡の話が出たらしかった。


 捕虜が言うには、そこは獣達の巣窟になっているという。


 食用の植物が多いからと足を踏み入れたばっかりに、クマやトラの群れに襲われて数十人の探索隊が全滅したというのだ。


 命からがら逃げて来た仲間の言葉であって、捕虜が直接行ったわけではないようだけど、嘘ではないと。


 普段は広く縄張りを主張するようなトラやクマが、それを小さくしてひしめき合ってでもその場に居るほどに、草食の動物が集まってくるのだそうだ。


 それだけ、食物が多く自生している。


 そこに行くために、お義父様はベリード隊長の部隊に道を作らせていたらしい。


 私が居れば部隊の生存率が上がるというのに、私抜きで。


 だけど、さすがに遺跡に近くなると、無謀だと判断して帰ってきたのだという。


 そこでついに、落ち込んで引き篭もっている私にも、声を掛けざるを得なくなった。


 ……ということだった。


 私としては、巻き込まれた人がいなければ……戦うだけならば、何も問題はない。




「行きます」


 と、短く返事をして作戦会議に参加した。


 二週間もの間、皆に甘やかされてまだどこか、足元がふわふわとしている気がするけれど。


 行軍中に、戦うための感覚は戻ってくれるだろう。


 ……お昼寝の時間にエラが居なかった時は、実は捕虜の尋問をしていたらしい。


 そして、必要とあれば剣と翼の力を、役立てるつもりがあると言ったのだという。


 エラの剣も翼も、有能だ。


 だとしても危険なことに変わりはないし、もしも獣から一撃でももらうことがあったら……無事では済まない。


 そんな所に、エラを行かせるなんて絶対にしたくない。


 それにこういう場面こそ、私の体が最も役に立つのだから。


 いつの間にか、皆には私を甘やかすだけではなく、心配させてしまっていたということだ。


 嬉しくはあるけれどそれ以上に、大切なエラを、大事な人達を、危険な目に遭わせたくない。


 ――リハビリ戦としては、血に飢えた獣達というのは、ちょうど良い。


 そんなことを言ったら、エイシアに鼻で笑われてしまったけれど……。

 



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