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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 十七、敵の集落

   第七章 十七、敵の集落



 エイシアが示した方角に進む事、二日。


 その集落はあった。


 そこに住む人数は百二十人。


 規模は想定よりも大きかったが、計画的に造ったというよりは好き好きに住処を増やしていった感じだった。


 そのせいで防戦用の柵もさほど置いておらず、言うなればただの村だ。


 獣への警戒はある程度しているけれど、まさか我々のような王国の人間が攻めてくるとは考えていないらしい。


 その証拠に、昼夜問わず見張りは気持ち程度だったから。




 しかも、獣の予想進路がほぼ決まっているのか、見張る気がほとんどない。


 せっかく二人一組だというのに、くつろいで喋っているだけだった。


 ――攻めるだけなら、瞬時に落とせる。


 でも、すぐにそう出来ない問題がある。


「売られた娘や子ども達は、やはりそれぞれの家に分散しているようです」


 どこかに集められていれば、救出が楽だったのに。


 偵察部隊が集めた情報に、頭を悩ませる時間が続く。




「洗脳されてしまった可能性もあります。ここはもう、ひとまとめに……」


「罪のない女子供をこの手で殺すのか?」


 偵察に五日を使い、その間の過酷な森林生活で、皆の疲労も限界に近かった。


 過激な意見も出てしまう。


 それをベリード隊長が抑えているものの、良い案が出ない。


「スパイという意味では、すでにゲルドバが何もかも情報を流してしまっているでしょう。なるべく保護してあげましょう」


 この件の発端となったゲルドバの反逆行為。


 その被害者を、私達が殺めることなんてあってはならない。


 そう思って私も意見した。




「ですがルネ様。全員を救出するには、こちらの被害も多大なものになります」


 この集落の三分の一ほどがその被害者達で、彼女らを保護しながら安全に戦うにはこちらの数が少ない。


 戦闘員の数は拮抗しているけれど、護りながら戦うのは不利過ぎる。


『一撃でこの集落を壊滅させなければならない』


 その命令が、彼らの作戦案の幅を狭めさせてしまっている気がした。




「私が、獣の仕業に見せかけて見張りを始末します。二日目は見張りを増やすでしょうから、それも始末出来れば戦闘員の数を二割以上削れます」


 四か所に二人ずつの見張り台があるので、一晩で全員を倒せば八人。


 集落の戦闘員は八十人程度なので、一晩で一割の打撃を与えられる。


 二日目にどう出てくるかだけど、それだけで集落を捨てて逃げ惑うことはしないはず。


 おそらくは見張りの数を増やして、すぐさま増援出来るように集落全体で警戒するはず。


 そこでまた、深夜か明け方に見張りだけを始末するか、総攻撃をかけるか。


「もしくは、三日ほど開けてから、また見張りだけを削ります」


 何日も集落の全員で警戒は続けられない。


 人には体力と集中力というものがあり、それは長続きしないからだ。


 こうした戦法は、お義父様から叩き込まれた。




「こちらはその間、休息を取っていればいいのです。食料は何なら、街まで私が取りに行きましょう」


 美味しい食事を摂れるだけで、士気は上がる。


 音速を超える私の移動力は、こういう時に生かさなければ。


「ここで長期戦を覚悟されるとは……我々はどうにも、戦力に重きを置き過ぎて視野が狭くなっておりました」


 本来なら、集落を攻めるとなればそれなりの期間を考えるはずだけど、言うなればこちらの過剰戦力のせいで、早く落としたくて仕方がなかったのだろう。


 過酷な森林移動と野宿生活、それらに加えて『なるべく早く娘を帰せ』という、お義父様の命令のせいで。


「半分は父の命令のせいですから、仕方のないことです」


 部隊の全員が賛同してくれたお陰で、士気に崩れはなさそうだった。


 あとは、エイシアにどうやって人を狩るのかを教わって、それらしく倒すだけだ。



   **



 獲物の大きさによって、狙う場所が少し変わる。


 そう言ったエイシアは、自分よりも小さなものなら執拗に首を狙うのだと言う。


 なにせ、その牙で頚椎を折るかその神経を切断すれば、一撃だからだそうだ。


 自分と同等かそれ以上のものであれば、爪で目を、牙は足を狙うらしい。


 何度も繰り返しダメージを蓄積すれば、それの動きは鈍くなり、ついにはその首に牙を差し込めるようになるから。




 ――(あなたよりも大きな獣って何よ)


 自分よりも大きなクマでさえ、エイシアは一撃でその首を狩る。


 それよりも大きな生き物など、この星に存在するのだろうか。


 ――(貴様は何も知らぬからなぁ?)


 ほくそ笑むエイシアは、私をからかっているのだろう。


 私は少しだけ拗ねた様子を見せて、その言葉には何も返さなかった。


 とにかく、獣の牙に似た傷を付けられるものを探さなくてはいけない。




 ――(その腰の物でよかろう)


 隊員達に、あの牙っぽいものを持っていないかと聞き回っていると、エイシアに呆れた声で言われた。


 特別な厚刃拵えの、エルトアに打ってもらった刀。

 重さで叩き斬るためのものだったけれど、確かに牙のようでもある。


 ――(ありがと……)


 素直に言えない気分のまま、一応のお礼を伝えた。


 なんとなく、エイシアには対抗意識をものすごく持ってしまう。


 ――(早く終わらせて、良い肉を食わせてもらわねばな)


 悪い奴ではないはずなのに、私にはいつも挑発してくるからだ。


 ……まだ若いから、じゃれたいのかもしれないけれど。



   **



 襲撃初日の深夜。


 上手く見張りを倒せたと思う。


 首の後ろに二カ所、刀を突き刺した。


 獣に、がぶりと噛まれたかのように。


 一人はそのまま残して行くか、見張り台から落としておいた。


 もう一人は、森の奥へと連れ去って埋めた。


 埋葬とまではいかないけれど、放置するのも気が引けたから。




 とにかくこれで、集落では獣の襲撃があったと思うだろう。


 そしてその思惑通り、彼らは早速見張りを三人に増やした上で、それを見張る連絡係が付いた。


 戦える者は全員が武装して過ごし、集落全体で警戒しているのがありありと見えたと、偵察部隊が報告してくれた。


「ルネ様の予想通りに進んでいますね」


「順調で良かった。私は食料を取りに帰るけど、他に欲しい物はあるかしら。持てる限りだけど運んでくるわよ?」


 一食分だけはタレ焼きのお肉。あとは火を使わずに済むパンや保存食と、果物。


 それでも三日間毎日だから、狩った獣肉を小さな火でコソコソと炙って食べるよりは、味付けも濃くて美味しく、ゆったりと過ごせるだろう。


「いえいえ、十分過ぎる程です。これ以上はルネ様の居ない作戦行動をしたくなくなりますから」


 そう言って笑う隊員達は、屈託のない楽しそうな笑顔だ。


 作戦行動なんて素人の私が、彼らと共に過ごして、その役に立てる日が来るなんて。


 お嬢様育ちの私にとって、それはとても誇り高いことに思えた。



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