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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 十六、面倒な問答

   第七章 十六、面倒な問答



 こんな森の中で、他の獣が居なくなるまで狩り遊びでもしていたのだろうか。


 ……このエイシアは。


 ――(何をしていると言われてもなぁ?)


 ――(ふざけないで。エラの遊び相手が居なくなったらダメでしょ!)


 私の視界から、黄色い警告表示が消えた。


 背中に走った、痛みのような感覚も。




 ――(アレの子守り役になった覚えなど無いが?)


 ――(ていうか、ほんとに何でここに居るのよ)


 ――(我が、我の庭で何をしようと勝手であろう)


 ――(はああああああ?)


 エイシアがまともに答えない時は、こうした時間の無駄になるような会話が続く。


「皆さん。この子はエイシアです。今、なんとか意思疎通していますので少しお待ちください」


 立ち上がるのに若干もたついていると、ベリード隊長が肩を貸してくれた。




「例の聖獣ですか……エラ様によく懐いていると聞いていましたが、なぜこのような所に」


「分かりませんが、今から聞いてみます」


「話……が、出来るのですか?」


 ……これはこれで、面倒なことになった。


「えっ……と。こちらの言う事はある程度分かるようなので」


 ベリード隊長の「はぁ……」という不思議そうな反応を無視して、エイシアの側に進んだ。


 隊長には、皆には引き続き外側に警戒してもらうように言って。




 ――(それで? どうしてこんなところをあなたの庭にしているわけ? お屋敷のお庭も広いでしょ?)


 ――(これというのも、貴様のせいだ)


 ――(どういうことよ)


 ――(貴様がその体を手に入れたばかりに、我ももっと強くなる必要が出来たのだ)


 エイシアは大事なことを話す時、核心からは言ってくれない。


 彼女の気が済むように、喰いついてみたり興味がない態度を取ったりと、ご機嫌を伺わなくてはいけないのだ。


 それを知ったところで、面倒臭いことこの上ないのだけど。




 ――(意味わかんない。私はあなたより強くなって、清々して気分がいいけど)


 ――(言ったであろう。我は世界の調整を担っている。貴様が強くなってしまったせいで、我も修行というものをしているのだ)


 その言い方だと、私が世界の敵みたいに聞こえるのだけど。


 コイツの方がよっぽど敵みたいなのに。




 ――(ていうか、こんな遠くに引っ越しちゃったの? お屋敷でエラと、毎日お昼寝してあげなきゃダメじゃないのよ)


 ――(貴様……我を何だと思っている)


 ――(人魔であるエラを、ちゃんと側で見守ってないとダメなんでしょ?)


 白と青銀、そして深紅の瞳を持つ生物を、エイシアは「魔」を付けて呼ぶ。


 人なら人魔(ジンマ)、こいつはトラだから虎魔(コマ)


 それについて聞こうとしても、意味の分からないことを言うか、無視されてしまう。




 ――(我にぬかりはない。日中は屋敷に居て、ちゃんと毛皮で昼寝をさせておるわ)


 ――(ぷっ。ほらやっぱり。エラが寂しくないようにしてくれてるのね。ていうか、ここまで通っているってこと?)


 ――(貴様は念動を何も理解しておらんからな。我は貴様の言う『音速』に近い速度で走る事が出来る。移動など容易いものよ)


 知らなかった……こいつがそんなことも出来るなんて。


 それに、念動の使い方も。


 でも、私はオロレア鉱以外に念を通しても、ペンひとつ動かせない程度だから……エイシアみたいには使えない気がする。




 ――(何を自慢げに言ってるのよ。あんたがこんなところに居るせいで、滅茶苦茶緊張してたんだから!)


 ――(ふん。知ったことか。愚か者め)


 エイシアからすれば、私のせいでここに来ているということなのよね。


 私が強くなったというのが、こいつに何のデメリットがあるんだろう。


 どうせ、お屋敷では私も一緒にお昼寝するような仲なのに……。




 ――(あなたね、大体、世界の調整って何よ)


 ――(世界の敵になるモノを討つ事だ。貴様はその筆頭だぞ)


 時折見せる、感情の消えたエイシアの瞳。


 ただただ深紅の双眸で、じっと私を見る。


 エラの紅い瞳は、とても愛おしそうに見てくれるのに。




 ――(あんたが余計なことをしなければ……敵になんかならないわよ)


 ――(さあ、それはどうだろうな? 力を持つモノは、急に狂い出すからな)


 ――(……それはまあ、人間というくくりなら否定できないけど)


 ――(貴様も人間なのだ。狂わずに居られるなら、それで良いが)


 個人が強くなりすぎたら、世界の敵になるという認識なのかしら。


 科学兵器には反応しないで傍観してるみたいだし。


 ゴーストが、ドールのような兵器に宿るのは見過ごせなくて、人間皆が使うような兵器は、結局は戦力が拮抗するから無視するのかな?




 ――(とにかく、変なことしてないでエラの側から離れないで)


 こいつが居てくれれば、もし暗殺者が来ても潰してくれるだろうから。


 ――(魂胆は見えているぞ)


 ――(エラに何かあったら、狂ってやるから)


 ――(貴様……)


 その、世界の調整というやつを人質にとってやった。


 憎々しさではあるけど、エイシアの無機質な瞳に感情が宿ったのが分かる。




 ――(……あ、そうだ。この森に人間の集落とか見なかった?)


 ――(教える義理などなかろう)


 ――(帰ったら、美味しいお肉をお腹いっぱい食べさせてあげてもいいわ)


 ――(我を食い物で釣ろうだと?)


 ――(……ダメ?)


 ――(そのまま直進ではなく、進路をあっちにすれば、それらしいのが見つかるだろう)


 そう言うと、うっすらと光る青銀のトラ柄尻尾を、やや北の方に向けてくれた。


 ――(やった! ありがとう、エイシア)




 と、いうことは……分けた部隊が進んでいる獣道は、エイシアの縄張りを避けているわけではなさそうだ。


 たぶん、偶然そのようになっただけだろう。


 エイシアがここで遊ぶようになったのは、そんなに前からではなさそうだから。


 何せ、私がオートドールになったのは、つい最近なのだから。


 私のせいでここに居るなら間違いない。


 つまり、獣道の方は、本来の敵が作った拠点への通り道だ。




 ――そう。


 許せないことをしているやつらに、確実に近づいた。


 方角と道が、合致したのだから。


 もう逃がしはしない。


 ――(あ、そうそう。どのくらいの距離とか……分かる?)


 ――(ちっ。面倒なやつだな貴様は)


 ――(じゃあ、次に言う言葉も分かるわよね?)


 ――(きさまぁ…………)


 ――(ふふっ。案内よろしくね? エイシア?)




 ふいっ。と顔を背けたエイシアは、忌々しいというのをここまで現したものは無いというくらいに、眉間にしわが寄っていた。


 そして、私をもうひと睨みしてから、(昼頃にはまた来てやる)と言い残して消えるように去っていった。


 きっと、夜の間はエラを護ってくれて、日中はこちらの案内をしてくれるのだろう。


 正直、割といいやつだなと思う。


 エラに対しては、妹の面倒でも見ているつもりなのだろうか。


 ……本当なら、ずっとエラの側に居てあげてほしいのだけど。



「――皆さん。エイシアは集落を見ているらしいです。あっちの方角に」



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