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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 十三、森の探索(二)

   第七章 十三、森の探索(二)



「ルネ様。そろそろ野営しようかと思います。もう少し進む事も出来ますが、初日に張り切り過ぎてもいかんだろうとの判断です」


 ベリード隊長は、その判断を私に伝えるだけでいいのに、お伺いを立ててくれた。


「私は素人ですよ? ベリード隊長の判断に従います。ただし戦闘の時は、私を前線に出してください」


「それは重々承知しております。では、ルネ様が本日最後のお役目を果たされる間、食事の準備などを終わらせておきましょう」


「了解よ」


 彼は日が暮れてしまう前に、私が上空から偵察するための時間を多めに取ってくれたらしい。


 気が利く人だ。


 逆に言えば、私の探索能力も見ようとしているということだけど。


 お互いに手の内を見せていくのは、全員での最大能力を発揮するためには大事なことだ。


「では、行ってきます」


 その言葉を残して、私は上に飛んだ。


 木々の枝が邪魔だったけれど、開けた場所なんて無かったから、強引に空に出た。


 バキバキ、バサバサと豪快な音を立てて。


 ――この体だと、虫を気にしなくても刺されたりする心配がないから本当に……気楽だ。


ただ、皆とお揃いの、新調してもらった迷彩柄の戦闘服が汚れたかなと気になった。


 虫が潰れていませんようにと祈りながら、木の葉や枝を払う。


 そんなことをしつつ、先ずはかなり高くまで来た。


「……さすがに、この高さだと単に一面の森……ね」


 目下に広がる緑の景色は、かなり広大だった。


 ここから北西に、真っ直ぐなんて進めるのだろうかと思うくらいに。


 空が見えなくては方向が分からない。


 光線でもあれば、真っ直ぐを指す事は出来るだろうけど。


「何か、便利な道具でも持ってるのかな?」


 私がひと筋、指先から光線を撃てば簡単だろうけど、今回はそれをしない。


 敵が居て、そして気付かれたくないから。


 全員が向かって来るならそれでも良いけれど、逃げられたくないのだ。


 そんなことを考えながら、徐々に高度を落としていく。


 それでも、ただの森だとしか分からない。


「目的の相手が、森を開いてくれていればと思ったのだけど」


 住処にしているなら、空があった方が何かと都合がいいはずだ。


 だけど、敵は日光よりも、潜むことを優先しているらしい。


「こんな不便な所に隠れてこそこそしているなんて、相当に厄介なことしてるに違いないわね」


 最悪の場合、森を焼き払ってでも見つけなくては……嫌な予感しかしない。


 何よりも……この方角。


「リンク可能な『モノ』が、あるのよね」


 厳密にはそれが施設なのか、もしくは何か物なのかは分からない。


 いつか、リリアナの指示があれば……と、思っていた場所だった。


 まさか、こんなに早くに近付くことになろうとは。


 最悪の場合……敵が発見していて、何か古代の兵器を手にしているかもしれない。


 そこに何があってリンク可能なのか、そこまでは分からないのがもどかしい。


「さすがは鎖国している回遊都市ね。意に介さずで調べもしてないから、中途半端なのよ」


 ――それとも、都合の悪い情報は私に見せないようにしているだけ?


 でも、それならリンク機能を完全に遮断しているはず。


「……まさかとは思うけど、エルトアの造ったドールとのリンクを出来なくしているだけで、他のリンクを切り忘れている……とかだったりする?」


 あの女科学者なら、そんなうっかりミスをしてそうだ。


「――いけない。今日の踏破ルートの確認だった」


 なんだか、無駄に考え事をしてしまったせいで、疲れてしまった。



   **



「ただいま」


 突き抜けた場所に、そのまま降りて戻った。


 だから、枝葉も出る時よりは当たらない。


「おお。お帰りなさいませ、ルネ様」


「おおい! ルネ様がお戻りになられたぞー!」


 近くに居た二人が、お迎えの挨拶と伝達をしてくれた。


 耳がキーンとなったけれど。




「ちょっと遅くなったかしら」


「いえいえ、出られてから十分と掛かっておりません」


「だからすみません! まだ食事の準備が終わっておらず……」


 気にしないわと答えながら、隊長を探した。


「ルネ様。私はこちらです」


「あ、ベリード隊長」


 目測でざっくりとだけど、と前置きをしてから、「十キロ以上」と伝えた。


 その辺のハイキングコースを歩いたなら随分と遅いけれど、生い茂った森の中をほとんど直線で、強引に進んでの十キロ以上は普通ではない。


 今日はお昼前から森に入って、しかも、昼食も摂って休憩を挟んでいるのだから。


 それでも、「予想よりも進めませんでした」と頭を下げる彼を見て、私は半ば呆れてしまった。


「どんな訓練を積めば、それが頭を下げる理由になるのよ。十日で百キロ以上も、森を突っ切れるのよ?」


「予定では、七日で百キロに届けばと思っていたのです。獣も出るでしょうから、それも含めて十日で百。しかし、今日の速度ではそれを超えてしまいそうですから」


 なんて厳しい基準なんだろう。


「急ぐわけでもないし、焦らなくてもいいじゃない。それに、誰も責めたりしないんだから」


 それだけ森が深いということだし、空を覆い尽くすほどに育った木々を見れば、容易い行軍ではないのは明らか。


 一体、この人達はどんな境遇で訓練させられたのだろうかと、心配になる。




「その……将軍が……早く娘を帰すようにと」


「うっ」


 ――おとう様は……こんなに優秀な部下達を何だと思っているのかしら。


「帰ったら、おとう様には私が怒っておきます」


 親バカにも程がある……。


 けど、実は少し……その気持ちが嬉しかったりもする。


「それよりも、食事と言っても大したものは出来ないのですが……ご容赦ください」


 ベリード隊長は、そんなことまで気を配らされているのだろうか。


「言っておいたでしょう? 食事の内容なんて気にしません。皆と同じものを頂くし、わがままなんて言わないわ」


「ありがとうございます」


「ベリード隊長も大変ね。あまり気を遣い過ぎないで? あと、言い忘れていたのだけど……」


 進行方向をざっと見た感じでは、木が刈られた空き地らしきものは無かったと伝えておいた。


 すると、「明日以降は少しだけ間引いているような、森が薄くなっている所が無いかをお探しください」と、アドバイスをもらった。




 いくら潜り続けると言っても、百人規模の集落を維持するには畑も必要になってくるし、小屋程度でも木材が必要になる。


 その分、その周辺から少しずつでも木を切り倒しているからということだった。


 採光に関しても、枝を掃うなどして木洩れ日が入りやすくしているはずだと。


 土を盛ったり穴を掘って住むには、木が多すぎて向いていない。


 だから、必ず高床式か、木をそのまま利用したツリーハウスのようにしているだろうという読みだ。


 上空からは、それを注意して見ると良いのだと教わった。



 それから、敵地に近付けば尚更分かるだろうけれど、火を使った臭いと煙。


 上手く煙を散らしているとしても、臭いまでは消せない。


 それは、彼らが注意していてくれるらしいけれど。


 ともかく、集落を分散させている可能性も考えて、ある程度進んだら慎重に偵察しなくてはならないから、速度はガクンと落ちるだろうとのことだった。

 





 ゲルドバの言っていたポイントまでは、四日もあれば到着するらしい。


 そこから先は、敵のテリトリーだと考えて会話もしなくなるそうだ。


 そう聞くと、なんだか身が引き締まるような思いがした。


 どこか遠足気分になっていたけれど、一筋縄ではいかない作戦の中に居るのだ。


「何かダメな行動をしていたら、すぐに教えてください。遠慮は無用ですから」


 急にピリリとしたものだから、ベリード隊長は笑った。


「フフ。ルネ様、今から張り詰めては持ちません。気楽に行きましょう。敵は逃げようにも数が多いのです。全滅は無理でも主導者を捕らえれば我々の勝ちですから」


「そ、そうなのね。難しい……」


「大丈夫ですよ。基本的には我々に任せてくだされば。ルネ様に同行頂いたのは、予想外の獣の群れの相手や、上空からの偵察が主ですからね。それ以外はのんびりとなさってください」


「そう……? ありがとう」


 なんとなくホッとした気持ちになって、肩の力が抜けた。


 私の役目をきっちりとこなして、後は、皆の邪魔にならないように気を付けよう。


 そう思い直せたことで、適度な緊張感になれたように思う。





 ――ただ、やはり特別扱いはあって、そこはもう、彼らがしてくれる分は気にしないようにするしかなかった。


 自分だけ、四本の木を使った四角いハンモックと屋根布があり、さらに壁になるように布で囲まれていた。


 さしずめ、布製ツリーハウスというところだ。


「こんなにしてもらわなくても……」


 皆はハンモックか、その辺にマントを敷いて寝ている。


 普通に見張りも交代で行うから、快適さとは程遠い。



「食事は同じものを召し上がって頂いたのです。これをルネ様にしていただくわけにはいきません」


 干し芋と肉を焼いたもの。それと水。


 どちらもしっかりと味があって、美味しいと思ったけれど。


「でも……せめて見張りくらい」


 私は、睡眠は数十分で終わるのだから、むしろずっと見張りでも良いくらいだ。


 かといって、それを言うわけにもいかないのがもどかしい。




「ルネ様。我々にお任せください。眠れなくても横になって休んでいただければ、それが我々の喜びでもあるのです」


 もてなしを受けてくれという、そういうことなのだろう。


「……分かった。ありがとう。ゆっくり休ませてもらうわね?」


「ええ。ルネ様を護っているのだという、そんな自尊心をくすぐられて元気とやる気が出るのです」


 そう言われては、素直に従うしかない。


 というか、そうした言葉が嬉しくない娘などいないだろう。


 私もその中の一人なのだなと、実感しては少し照れた。


「それじゃあ、おやすみなさい」


「はい。お休みなさいませ」


 最後は手を引かれて、用意された土台を踏みしめ、四本柱の特製布ハウスに入った。


 獣が出る森の中で、寝心地の良い寝床で気を緩めて休めること。


 そして、その環境を私のために作ってくれた皆に感謝をしながら、目を閉じた。




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