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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 十、エラの本気

   第七章 十、エラの本気



「キスしてほしいです!」


「――えっ?」


「えッ?」


 聞いてあげるとは言ったけど――キス?


「ど、どうしてキスなの?」


「だって、シロエとリリアナとはしたじゃないですか」


 あれは、たしか――。


「それは……漏れ出た魅了に、二人が掛かっていた時よね?」


「それでもしたじゃないですか」


 普段は甘えるばかりなのに、今日は随分と押しが強い。




「……そんなにしたいの?」


「おねえ様とは、初めてですから」


 同じ体だった時のことを、どういうつもりで言っているのかがいまいち分からない。


 シロエ達には、むしろ「された」のだけど。


「……根に持ってた?」


「それは……やっぱり、おねえ様がぼんやりさんだったからいけないのだし、少しは……」


 エラの体の扱いが疎かだった。


 ということではないらしい。


 私が受け入れてしまった形なのが、気に入らないのだ。


「あれは、なかったことには……?」


 でもあの時は、エラに体を返した後だったような?


「――なりませんよ?」


 切り返しが早い――。




「でも、改まってキスと言われると、照れるというか、恥ずかしい……わね」


「女同士なんですから、大丈夫です」


 お互いに寝たままなのに、素早く顔を寄せるエラ。


「大丈夫の意味が分からない」


 ――――近い。


「でも、何でも聞くと言いました」


「い、言ったけど……」


「おねえ様の初めては、私でなくてはいけないんです」


 この目は、本気だ。


「どうして……?」


「ずっと一緒に居たからです」


「う、うん?」


「さぁ。私がしますから、おねえ様は目を閉じててください」


「ちょ、ちょっと。エラ?」


 力で負けるばずのない私が、エラにほっぺを挟み込まれて動けない。


「姉妹なんですから、気にしなくても大丈夫です――」


「ちょっ――」


 エラのうっとりとした表情が、その半眼の紅い瞳が、まさしく目の前にある。


 くちびるには、ふわりと柔らかな――それでいて優しく食むように――重なり合う吐息を感じた。


「――――ねっ?」


 私の思考は、停止していたらしい。




「だ……大胆……。どこで覚えたのよ…………ていうか、他の人にこんなことしちゃ……」


「――しません! しないです。おねえ様だからです」


 少し、怒った顔になった。


「そう……なら、まぁ、いい……のかな」


 まさか、ずっと子どもだと思っていたエラが、こんなに大人っぽいことを知っているなんて。


 ――いや、そうか。


 エラは私の知識も、持っているから……。


「だって、私はずっと嫌だったんです。シロエとリリアナだけがしたこと」


「そっか……」


 まだ頭がぼーっとして、良い返事が思いつかない。


 果たしてエラは、異性を慕うように私を想っているのだろうか。




「もう。何も分かっていませんね。私は、カミサマ……おねえ様が幸せならと思って、ガマンしてただけなんです。でも……今は私と、おねえ様は別々だから」


「あぁ――。うん」


 どちらだろう。


 恋か、親愛か――。


「だから今は、おねえ様も。……私も。一緒じゃないと嫌なんです」


「……うん、そうね。ずっと一緒だったんだものね」


 ――恋とは、少し違うように感じる。


「そうです。それなのに、どんなに甘えても抱きついても、一緒に眠っても……キスしてくださらないんだもの」


「そりゃあ……そうだよ」


「だから、にぶいおねえ様に任せていないで、自分から動くことにしたんです。いざとなれば、おねえ様に魅了を使ってでも」


「エラ?」


 もしかして、あぶない思考を持ってしまったのだろうか。


「フフ。でも、効かないみたいですね。エイシアも言っていました。おねえ様には、私の力は通じないだろう、って」


「そうなんだ」


 エイシアは、やっぱりエラには優しいのだろうか。


「うん……だってさっき、ゲルドバ卿に魅了を掛けた時、おねえ様にも使っていたんですよ?」


「――えっ?」


 聞こえた言葉の、その意味を拒否したくて一瞬、理解出来なかった。




「おねえ様には、かる~くです。でも、それでもほんとならもっと、ぎゅ~したくなったり、キスしたくなったりするはずだったんですけど」


「だったんですけど。じゃないでしょう? どうしてそんなことしたの?」


 これはきちんと、叱らなくてはいけない。


「……ダメなことくらい、分かってます。でも……自分でも分かりません。力を使うと、欲しいと思ったものがもっともっと、欲しくなっちゃうんです。それにおねえ様は……危なっかしいし、誰にも渡したくないから」


 エラは眉間にしわを寄せて、首を横に振った。


 感情が抑えられないのかもしれない。


「エラ。落ち着いて。それでもそんなこと、しちゃダメでしょ? それに私は、誰かのものになったりしない。だから、エラの側から離れたりしないわ。」


「うそです。危ないこと、平気でする人だから。いつか居なくなっちゃうんじゃないかって、不安なんですから」


 話がずれてきている。




「それは、この体になったからもう大丈夫でしょ?」


「おねえ様。おねえ様が強いのは分かりますけど、何が起きるか分からないんですから。私の体の時でさえ、獣の群れに突っ込んだり、敵陣に突っ込んだり。普通ならしないですよね」


「うっ……。それは、その…………ごめんなさい」


 それを言われると、返す言葉が無い。


「私は、おねえ様と一緒に死ぬのなら、それでも構わないと思ってました。でも……今は違うんです。別々なんです」


 ――エラの瞳がうるんで、大粒の涙がこぼれた。


「ご、ごめん。エラ。泣かないで。ごめんなさい」


「ダメなことをしてでも、ずっと側に居てほしいんです」


 ダメなことは、しちゃダメだけど……。




「うん……。なるべく、きっとそうするから」


「うそばっかり。そういう、その場しのぎの言葉なんていりません」


「うぅ……困ったなぁ」


 エラの生い立ちを知っているからか、ずっと一緒にいたからか……上手く叱れなかった。


 何と言えば良かったんだろう。


「……ごめんなさい。困らせてしまって。でも、困ってくれるくらい考えてくれたなら、今はいいです。許してあげます」


 これは……あれだ。


 ちょっとズルい謝り方だ。


「エラは……困らせたかったわけじゃ、ないんだよね?」


「……はい」


 次にまた、私欲で力を使ったら……きっちり叱ることにしよう。


「私のことが大好きだから、心配なのよね?」


「そうです」


 危なっかしいから、もっとちゃんと、私が見ててあげないとダメなんだ。


 これは、私の責任だった。


 それのに、自分のことで一杯になり過ぎていた。


 ――とはいえ、心配とキスが、同列になるのはどういう思考なのだろう。




「じゃあ、キスしたいのは、何だったの?」


「だってキスは……愛情が爆発して、だからしたくなるんでしょう? シロエやリリアナみたいに。私も、そうだし……」


 ――そういうことか!


「あぁ、そっか。私が落ち着いたままで、一線引いてるみたいな態度が嫌だったんだ?」


「そっ……そうです! 分かっててそうしてたんですか?」


「ちが、ちがうよ。私は元々、こういう感じだから。知ってるでしょ? そんなに感情豊かじゃないし……」


 寂しかったんだ……エラは。


 体が別々になってからは、眠る時も一人だから――。


「……でも、パパには甘えますよね」


「――そっ? それは……」


 唐突な精神攻撃に、声が裏返ってしまった。


「それは?」


「ぱ、パパだからよ。甘えてもいい人って、思ってるから。……ていうかこんな恥ずかしい話、しないとダメ?」


「当然です。ずっと一緒に居た私よりも、パパだけに甘えるなんて許せません」


「そんな……」


 まさか、心の裏側から……グサリとえぐられる気持ちになるとは……。


 甘えて心を許しているのが、おとう様だと知られているのがこんなに胸に突き刺さるとは、思ってもみなかった。




「私にも甘えてください。いっぱいいっぱい、このお胸で抱きしめてあげますから」


 護ろうとしている子から、甘えてくれと言われるなんて。


「それは……分からないわ。エラのことは護ってあげたいんだもの」


「むぅ…………私もおねえ様を護ってあげたいです!」


「そ、そんなので張り合わないでよ」


「張り合います!」


 ――健気に思えてしまうのは、どうしてなんだろう。


「もう……困った子ね」


「そんな優しい顔しても、子ども扱い禁止ですから」


 こども扱いというか……すでに翻弄されているのだから、少し意味合いが違うのだけど。


 本当に、愛しくて……困った子。


 でもやっぱり、してやられたわね。


 シロエとリリアナにキスされたのは、エラに体を返した後のこと……。


 わるい子なんだから。


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