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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第七章 六、返り討ち

   第七章 六、返り討ち




 眼前に迫る六人は、無造作に手を伸ばして私を掴もうとしている。


 私の身長からすれば、屈強な男達という高い壁が迫り、そこからさらに十二本の手がうごめき襲い掛かってくるように見える。


 けれど――。


 私は冷静に、奴らの膝の高さに回し蹴りを放った。


 その場で華麗に一回転すると、私の足に蹴り飛ばされた六人が一斉に、横薙ぎ状態で跳ねるように倒れた。


 人型のぬいぐるみを並べて、それを蹴り払ったような事になっている。


 ――軽いのだ。


 がっしりと鍛え上げた、高身長の男どもでさえ。


 生物同士の戦いで重要なのは、質量。


 質量に比例して力は強くなる。質量に比例して頑強になる。


 その点、私は一トンを優に超えているのだから、人間が束になろうと敵うはずもない。


 分かってはいたけれど、これほど優位に立てると、楽しくなってしまいそうだった。


「い……痛てぇぇぇ!」


 三人目くらいまでは、狙い通り両の膝関節が砕けている。


 なにせ、オロレア鉱の塊が当たったのだ。


 手加減してこれだから、自分でも食らいたくはない。


 でも、残りの三人は手前の三人がクッションになってしまい、勢いで撥ね飛ばされただけだ。


 傷を負っていない。


 罰を与えなくては、虐殺された人達が浮かばれない。


 ――生きているのが、辛くて絶望するくらいの罰を。




「そっちの三人は、どこも痛くないでしょう?」


 あえて踏み潰しに行くには、残りの十人ほどに隙を見せてしまう。


「後でおしおきしてあげるから」


 そう言って、数え直しながら残りに目を向けた。


 やはり十人。


 すでに全員が抜剣していて、その内の一人が口を開いた。


「てめぇ……何しやがった? 大人しくしねぇと、手足の一本ずつくらいが無くなる事になるぜ」


 脅しているつもりだろうが、焦りが見える。


「いいから掛かってきなさい。そんな物を使わないと、小娘ひとりどうにも出来ない雑魚のくせに」


「てめぇええええ!」


 いきり立っていると、動作が大雑把になる。


 野生動物でさえ、そんな愚かなことはしないのに。


「動物以下。あぁ、下種だものね。忘れていたわ」


 大きく振りかぶった無様な斬り下ろしを、軽く躱して懐に入り、その肘を打った。


「うああ!」


 コシャ。という、骨が砕けた音と手応えがあった。


「あなたの肘より、わたしのグーの方が硬いみたい」


 発勁という独特の瞬発力で、オロレア鉱の拳で打つそれは、人の体なら破裂しかねない。


 かなり加減をして、肘が吹き飛ばないようにした。


 飛んでしまっては、『痛みをぶら下げさせる』ことが出来ないから。


 関節を破壊されると、そこから先も使えない。


 肘から先が重りになって、動くたびに痛みを増長させる。


 傷に響く上に、コントロール出来ない部位というのは、何をするにしても『邪魔』になるのだ。


 この世界で肘関節を砕かれたら、一生、その腕が痛みを生み出し続ける邪魔物(おにもつ)になるだろう。


 三角帯で、腕を釣ろうと肘を曲げても地獄。伸ばしても地獄。


「これから先、服の脱ぎ着だけでも苦痛でしょうね」


 成り行きを見ている残りの九人は、ようやく事態が飲み込めてきたらしい。


 全員の目の色が変わった。




「おい……一斉にかかれ。殺すつもりでな」


 リーダー格らしい男がそう言ったけれど、遅すぎる。


 最初に六人が薙ぎ倒された時点で、全員で速攻を仕掛けなければいけなかったのに。


 それに、『つもり』で倒せる相手ではないと、まだ分からないとは。


「頭も判断力も悪いのね」


「小娘が!」


 吠えた割には、散開して広範囲から攻めてきた。


 少しは訓練されているのだなと、そんなことを思いながら私は、端の方から倒していった。


 どんな相手を想定していたのか分からないけれど、簡単に懐まで入り込める。


 あばらにフックを一撃。


 クシャ。という独特の、骨の砕ける音がする。


 動きが止まった所を少し回り込んで、腰の骨にも一撃。


 一人目はそんなところで、二人目以降は誰かを盾にしながら立ち回った。


 膝、腰、肘。


 命に別状が無くて、後遺症に苦しむ部位を破壊していく。


 一斉に来られているけれど、必ず一人につき二カ所は砕いておいた。


 そんな風に手加減しながら――殺さないように――破壊する部位を選びつつというのを繰り返してようやく、剣を抜いた十人の、仮のおしおきが終わった。




「そこの三人、見逃すわけがないでしょ?」


 蹴り薙いだ時の、無傷の三人。


「伸ばしてきた手が気持ち悪かったから、あなた達は膝と肘ね」


 膝か腰は、必ず破壊しておきたい。


 満足に歩けないというストレスは、なかなかのものだから。


 逆に、腰を破壊された者は寝たきりを決め込まれると、あまり罰にならないなと思った。


 だから、無傷だった三人の膝と肘を砕きながら、何が良いかを考えた。


「貴様……一体、何者だ……」


「ゲルドバ卿。随分と大人しいじゃないですか。でも、逃げずに居てくれて助かりました。逃がさないですけどね……」


 十六人の関節を砕きながら、ゲルドバ卿を見張りながら、そしておしおきの加減も考えながら……忙しい数分だった。




「あ、そうだ。腰を砕いた人~?」


 彼らは、下顎を砕いておこうと思った。


 そうすれば喋れなくなるし、食事も満足に摂れなくなる。


 ……本当ならもっと苦しめたい所だけど、一番はゲルドバ卿だから、この程度で収めよう。


「黙っていても、覚えてますから」


 誰も返事をしないだろうと予想していたので、ちゃんと覚えておいたのだ。


 それぞれの下顎を砕いてようやく、とりあえずの戦闘は終わった。


「大事な側近どもを、よくも……」


 ゲルドバ卿は、恨めしそうに私を睨んでいる。


 そんな権利など、無いというのに。




「ゲルドバ卿。あなたには色々と喋ってもらう必要があるので、一応は無傷で捕らえます。でも……少しでも反抗すると、このようになります。良いですね?」


「貴様が強いのは理解した……が、俺を裁くつもりでいるのか? 国の兵力を、財力を、大幅に失う事になるぞ」


 ……今まで、おとう様が積極的に手を出さなかったのは、これも原因だ。


 尻尾を掴ませないだけではなく、国の中枢を担う家の一つだから。


 ゲルドバ卿は無視できない兵力を持ち、財力と富を回している。


 その手腕は、国として捨て難い。


 簡単に切り離せない病巣――。


 でも、私は思う。


「殺された人は帰って来ない。虐殺された怨念は消えない。それはいつか大きな恨みとなって、国を本当に蝕むことでしょう」


 誰かを虐殺するのを容認してまで、彼は必要なのかと。


 居なくなればなったで、案外世の中は回っていくのではないかと。


 彼の私兵が全員、何かしら加担していたとしても、兵力は私がひとり居れば事足りる。


 そして財は没収して、国が事業を引き継ぐなり分散させて誰かに回すなり、何とでもなるのではないかと。




「俺が人身売買をしているのも、すでに知っているのだろう? その取引相手はどうする?」


 そんな輩ばかりの国なら、それはもう、国とは呼べない。


 もしも、貴族全員が腐っているのなら……どうせ遠くない未来に滅ぶ。


「お相手のことも、全部喋ってくださいね。苦しい思いはしたくないでしょう?」


 こいつの話すことを、全て鵜呑みにはできないけれど。


 無関係な、善良な貴族を巻き込もうと嘘をつくかもしれないから。


「さて、どうだろうな。そもそもこの件から、手を引く事になるかもしれんぞ」


 それならそうで、やってみればいい。


 もみ消そうとした人間も、全て――。




「私、あまりごちゃごちゃしたことは嫌いなんです。だから、あなたが素直になるまで、教育係になるかもしれませんね」


 裏取りが難しくなるようなら、エラの魅了で容疑者全員に素直になってもらうしかない。


 それは、リスクがあるかもしれないけど。


 でも、罪人を野放しにしているよりかは、はるかに有意義な挑戦だ。


「貴様……」


 とりあえずこれ以上は、尋問官に任せた方がよさそうだ。


「――あ、忘れていたんですけど。手伝って頂けます?」


 この男達が、万が一にでも同じ悪事が出来ないように、落としておかなければいけないのだ。


 股間に付いている汚いものを。




「……何をだ」


「この人達の、ズボンを下ろして欲しいんです。触りたくないので」


 ゲルドバ卿は訝しい顔をしているけれど、早く動いてほしい。


「手当をしてやるわけじゃ……なさそうだな」


 そう言いながら、ようやく一人のズボンに手をかけた。


「あ、その汚らしいものが見えれば十分です」


 そう告げて私は、指先から光線を出した。


「ぎゃあっ!」


 これさえ無くなれば、少しは大人しくなるだろう。


 剣で落とすと出血してしまうけれど、これなら傷口がすぐに焼けるので、ほとんど出血しない。




「な……何をした!」


「今見たものは、誰にも言わない方がいいですよ? あ、手を止めないで次々お願いします」


 さすがに恐怖を覚えたのか、ゲルドバ卿は素直に従ってくれた。


「ゲルドバ様! お願いですおやめください!」


 残りの男達は口々に言った。


「脱がなければ、見えないまま切るだけです。それでも良いなら構いませんよ」


 そう言うと、皆一様に絶望したような顔をした。


「加害者のくせに」


 ここで本当の絶望を感じた被害者達に、少しは手向けになっただろうか……。




 そして……ゲルドバ卿は黙々とズボンを下ろしては、次の人へと移っていく。


 私は光線で焼き切り、彼らは悲鳴を上げる。


「やめてくれ」


「許してくれ」


「もうしないから」


 それらの言葉をどれだけ叫んでも、意味などないのに彼らは懇願する。


「仮に……私がか弱い少女だったとして、同じことを言ったら止めてくれました?」


 まさか、それで止めてくれるなら、こんな部屋には連れて来なかっただろう。


「俺ならぜったいに止めていた!」


 と言ったその彼には、先の方から三度、刻んでおいた。


 鬱陶しい叫び声を三度も聞かされて、不愉快だったけれど。




「む、惨い事を……」


「ゲルドバ卿……その言葉、そのままあなたにお返しいたします」


 自分を棚に上げて、呆れてしまう。


 ようやく十六人のぶら下げていたものを切断し終わると、私よりも卿が疲れた顔をしていた。


「あ。まだ終わりじゃないですよ? ゲルドバ卿?」


「なんだ! まだ切り刻むつもりか!」


「自分はもっと酷いことをしてきたくせに、私を非難するなんて」


「だが……(とど)めも刺さずに、むごたらしいだろうが」


「……外道の分際で」


「何だと?」


 これ以上は話す時間が勿体ないと思った私は、本題に入った。


「卿……。ご自身のしてきたこと、理解されておりますか? あなたのズボンも下ろしてください」


 下ろさなくても、股下から光線を上げていけばいずれ当たる。


 だから、脱がなくてもそこに立っていてくれれば。


 そう思っていた瞬間だった。




「――なめるなよ小娘が!」


 彼は無謀にも、剣を抜いた。


「はぁ」


 ため息が漏れる。


 でもさすが、部隊を率いて先陣を切るだけあって、その突進力はなかなかのものだった。


 ただ、冷静ではなかったのだろう。


 突きを出すと初動から分かった私は、斜め前に踏み込んで躱し、彼の肘を払った。


 骨の砕けた音と悲鳴――。


 そして彼は、衝撃と痛みで倒れ込んだ。


 その隙に、落ちていた剣を拾い上げて彼のズボンを刻む。


 汚らわしいものが露出したところで……もう一度。


 そして悲鳴が上がった。


「……これが、汚れ仕事というやつね」



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