表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

192/295

第七章 四、パパからの頼み

   第七章 四、パパからの頼み



 おとう様に連れられて、何度か社交界に顔を出した時だった。


 嫌味だけど、一線を越える様な絡み方はして来ない、一番面倒なタイプの男に話しかけられた。


「初めてのご挨拶以来でしたな」


 低い声をわざと明るい声色にして――そう切り出した彼は茶色の瞳を細くしながら、お決まりの言葉を並べて卒のない会話を少し重ねた。


 背は百九十センチくらいで高く、がっしりとした武闘派の体型をしている。


 薄茶色の短髪で精悍な顔つきなのに、皮肉さが染みついているのが惜しい。


 それだけで近寄りたくない人種だと思うから。


 と言っても、私がその人を釣りたかったのだから、最高の戦果を期待できる状況なのだ。


「ところでルネお嬢様。妹君のエラ様のように、帯剣されないので?」


 笑んでいる――というよりはニヤついた頬の歪ませ方で、こちらに目線を合わせるためか、少し屈んで見せた。


「……ええ、私には必要ありませんから」


 少し、強がっているかのように振舞うのも、オートドールの機能ならば板についた仕草だった。


 これはおとう様の案で、武力が無いように見せれば、かならず喰い付いてくるからと言われていた。


 その通りだった。




「ほほう? それは……大した自信ですな。ですがルネお嬢様、よもやファルミノ流剣術を修めていらっしゃらないのでは? なにせ、養子になったばかりですからなぁ」


「それは……どのように考えるかは自由ですから。ご自身の目でご判断くださいませ」


 体格の良いその男は――侯爵でありながら、人身売買に手を染めているという。


 反王族派、ゲルドバ・ヴィラジャ侯爵。


 貧しい郊外の女性や子供をさらっては、要望された貴族に売る。


 もしくは、憂さ晴らしのために自らの館内で……散々に弄んだ後に、殺害して森に捨てているというのだ。


 手懐けられた門番が王都からの出入りを記録せず、なかなか尻尾を掴ませない。


 その張本人が、私を値踏みするようにじろじろと見ている。


 開いた胸元や、腰の引き締まり具合などを念入りに。




「随分と弱気なお言葉ですなぁ。アドレー家と言えば、武力でねじ伏せてやるぞという気概を、いつも見せておられるではないか」


 どうやら、私のか細い腕や首を見て、武術などひとつも出来ないだろうと踏んだらしい。


「さぁ。私はそういう、荒事を誘うような真似をしないだけです」


 それを言い訳と取るだろうと、あえて誤魔化すような言葉を選ぶ。


 彼はよほど楽しいのだろう。獲物を見つけたつもりになっている。


 ゲルドバ・ヴィラジャ――名前さえ濁った印象の彼は、しつこく私にまとわりつく。




「ほうほう。しないだけで、出来る。と?」


 そのしたり顔で言う姿は、こちらからすれば滑稽に見える。


 武力はあっても、人の力量を見抜く力は無いらしい。


「言葉など無意味でしょう。ゲルドバ卿の目にどう映ろうとも関係ありません」


 少し焦った様子と、苛立ちを僅かに含ませる。


 強がっているだけ――それを見透かされないように、頑張っているのだと。


「なんとも健気な態度を……。だが、ならば少し……手合わせを願いたい。強者に目がなくてね。アドレー将軍にも、昔はよく稽古をつけてもらったものです」


 狩りを我慢できないらしい。


 自らの欲のままに動く、時と場所さえ選べない愚者の思考だ。

 でも、私は今ここで力を見せたいわけではないから、逃げ口上で応える。


「こんな所でですか? いずれ機会があれば、お相手も致しましょう」


 ここで護衛を連れていれば、間に立ってくれただろう。


 でも、万が一にも護衛に斬りかかられては面倒だから、一人で居る事にしたのだ。


 それに、離れてはいても、おとう様が同じ空間に居るから、言葉だけでどうにか出来るだろう。




「ふむ……」


 案の定、ゲルドバ卿はおとう様の姿をチラと確認した。


「ならば……それとは別に、お茶のお誘いはいかがでしょう? 香りのよいお茶が手に入ってね。ルネお嬢様にぜひ、ご賞味頂きたい」


 普通に考えて、こんな誘いに乗る令嬢が居るとは思えない。


 誘う気が無いのか、それとも何かを試すくらいの知恵はあるのか。


「断れば、私に力がないから逃げた。とでも世間に吹聴するおつもりですか」


 そう言った後で、この言葉を待っていたのかと納得した。




「いえいえ。まさかお茶会さえも来れないほど、アドレーのご息女は弱腰だ。などとは、思っておりませんよ」


 なかなか上手い口上だ。


 アドレーの名を持つ者がこれを聞いて、行かないという選択肢は出せないだろう。


 けれど、そのようにアドレーを下に見られては、私も黙ってはいられない。




「無礼な。――下がりなさい。私はエラのように優しくはないし、おとう様のように寛容でもないわ」


「……厳冬将軍を、寛容だと?」


「そうよ? その言葉の意味を、よく考えるのね」


 作戦はもしかすると、今日この場では失敗したかもしれない。


 けれど……アドレーの名を(けな)されて、威厳を見せないまま引き下がるわけにはいかない。


 今ここで攻撃する事もいとわない。


 そういう目で、彼を冷たく見上げた。




「……なかなか、迫力のある目も出来るのですな。だが……言ったからには来て頂くぞ。お茶会に……ね」


「フ。お供を連れない方が安心出来ますか? アドレー家の騎士さえ恐ろしい事でしょう」


 ――許せない。


 許せないのだ。


 私のおとう様を、その名を侮辱する者が。


 私だけを侮ったのだとしても、それは即ち、私を選んだおとう様への侮辱だ。


「ルネお嬢様も言うものですな。ならば、恐れ多い事ですから、ぜひお一人でお越しくださいませ。――そのご自身の言葉、もはや戻せませんぞ?」


 ゲルドバ卿……己の、侯爵家としての矜持よりも、欲望を選ぶとは。



「当然です。アドレーがアドレーである所以(ゆえん)。ゆっくりと教えて差し上げます」


「……明日のご予定は?」


「いいでしょう」


「ならば、明日の午後に迎えを出します。それまでお待ちくださいませ……ルネお嬢様」


 そう言うと、ゲルドバ卿は一度頭を下げ、そして去って行った。




 社交界は、そういう一幕を誰かしらが聞き耳を立てているもので、早速ご婦人達が取り囲んで来た。


「気を付けるのよ? あの人は……よくないウワサを聞きますから」


「侍女に手をつけては、気に入らなくなったら……その、殺してしまうのだとか」


 社交界のウワサとは凄いもので、おとう様が調べた情報の半分くらいは皆、知っていた。


「えぇ……ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ? 私もアドレーの名を持つのですから」


 ――と、言ったものの。


 ご婦人達がそれで解放してくれるわけもなく……。


 時間にして二十分くらいは、心配を謳いつつも話のネタを増やすために、囲まれたままだった。


 どちらかと言うと、これが一番、疲労のたまる感覚がした。

 


   **



 おとう様には、帰りの馬車の中で事の顛末を伝えた。


「さすがにそれはならんぞ。五十は護衛を連れて行け」


 真顔で告げるその目は、本気だった。



「パパ……戦争するわけじゃないんですから。ね?」


「いや、これは宣戦布告だ。問題ない。あやつの首を刎ねて、それで仕舞いだ」


 おとう様は鼻息を荒くして、腕を組んで話を聞かないつもりの態度を取った。


「ちょっとパパ! 人身売買の証拠とルートを掴むためだったでしょう? すぐに殺してはいけません」


 その腕にしがみつくようにして、本来の目的を伝え直す。


「ルネが何と言おうと、ワシの大切な娘に悪巧みをしようなど許せん。今すぐ準備をして、夜襲をかけてやろう。腑抜けを落とすなど半刻もかからんだろう」


「もう……。こういう事件はルートごと潰さないと、すぐに別の頭をすげかえるからって。慎重にするためにって私に頼んでくれたじゃないですか」


 おとう様の腕をさすり、落ち着くように促す。


 本気で怒っているのが分かるから、さっきの言葉も本気に違いない。


「囮捜査のような真似は終わりだ。お前に何かあってからでは遅いのだぞ」


 目を合わせてくれない。


 怒りに満ちた目で、私を見たくないからと言う。




「えぇっと……そうだ。私の能力をお忘れですか? 放電、お見せしたでしょう? 私に触れようとする者は、皆丸焦げです。感電して中から火傷をして死んじゃいますから」


 言葉にすると恐ろしいけれど……丸太を使って実験してみせた時は、電撃を通したその中心から裂け爆ぜるように割れた。


 煙と、黒く焦げた匂いが立ち込めるほどに強烈な(いかずち)だった。


 だから本気で放電した時には、生きていられる人間は居ない。


「う~ん……。まぁ、あれは凄かったが……。でもなぁ」


 ――よかった。


 おとう様が少し軟化した態度になった時は、もう落ち着いてくれているのだ。




「彼の館を壊滅させても良いのでしょう? なるべく死人は出さないつもりですが、人身売買するような人たちは――私も許せませんから」


 最後は、自分でも驚くほど冷たい言い方になった。


「お……お前はその体になってから、随分と大胆になったな」


「フフ。自分でもそう思います」


 ――私にとっての、理想の体。


 オロレアに来て初めて……ご褒美をもらった子供みたいに、はしゃいでいると思う。



――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」

と思って頂けたらぜひ、この作品を推してくださると嬉しいです。


『ブックマーク』で応援して頂けると、喜びます。


  下にある『☆☆☆☆☆』が入ると、幸せになります。


(面白い!→星5つ。つまんないかも!→星1つ。正直な気持ちで気楽に星を入れてくださいね)

(もちろん、星4~2つでも)


どうぞよろしくお願い致します。  作者: 稲山 裕

週に2~3回更新です。



『聖女と勇者の二人旅』も書いていますので、よろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n4982ie/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ