第七章 一、初恋
第七章 一、初恋
私はルネとして、改めて国王に謁見する事になった。
その時にどこまで話すのかを、お義父様達と数日に渡って話をした。
リリアナは、遺跡の発見が実現出来そうな期待と、国王への貸しを作れるはずだと考えている。
シロエもおおむね、リリアナと同じ。
ほぼ、ありのままに報告しようと話している。
でも、お義父様は私が厄介事に巻き込まれるのを懸念して、普通の娘として謁見させるつもりだった。
ただ、現実問題として、やはり食料問題はいずれ来るだろうと誰もが予想している。
「娘をダシに使うなど出来るか」
お義父様は最初からそう言ってくれたけれど、私が説得し続けた。
なぜなら、遺跡を見つけていけば、いずれバレるからだ。
軍事的なものは眠らせておく。という意見は皆で一致しているけれど、生産施設がいくつも見つかった場合、結局は説明がつかなくなってしまう。
「後々、お義父様の立場を危うくするような真似は出来ません。
それに……私に何かしようとも、もはや人では、私をどうこうする事も出来ないのですから。ね?」
何度そう言った事か。
それでも頑として首を縦に振らないお義父様を、リリアナは少し怒っていたけれど……。
私は、とても愛おしかった。
嬉しかった。
(そんなに私の事を想ってくださるのなら、それに甘えてしまおうか)
そう思うくらいには、お義父様の意見を尊重しようかなと気持ちが揺れた。
けれど、私がお義父様のお荷物になるのも嫌だった。
そして……数日の間、平行線で終わりが見えない事に痺れを切らしたリリアナは、ついに私に委ねて、ファルミノに帰る事に決めた。
「遅れていた資材の積み込みがようやく終わっていたのに、お陰でさらに三日は遅れたわよ」
ファルミノの街を、少しずつ広げるための、第一歩。
リリアナはそれに注力したいのに、そういう時に限って新しい問題が湧いて出る。
今回は私のせいなので、申し訳なく思った。
「あなたのせいじゃないわ。おじい様が親バカ過ぎるのがいけないの。
それはそうと、出発前にガラディオと会っておきなさい。
彼は鈍感だけど……手合わせしたらさすがにバレるわよ?」
リリアナにそう言われるまで、以前までは頼りにしていたガラディオの事を、すっかり忘れていた。
誰かの武力に頼らなくて済むから。
逆に言えば、エラの中に居た時は本当に恐ろしかったのだ。
何もかもが。
「ええ……そうですね。ガラディオの前ではなるべく大人しくしています。
一応、バレそうな時の言い訳も、考えていますけどね」
「そうだといいけど」
そんな会話をしたせいか、翌朝彼に会う時は、無駄に緊張してしまった。
……本当なら、もっと上手く話せたと思う。
彼の顔を見て、顔を赤くしてしまったのをからかわれたせいだとも言う。
「……初めまして。この度、アドレー公爵の養子になりました。ルネと申します」
リリアナ達は朝の出発に向けて準備をしているし、手短に済ませようと思っていた。
朝日が、ガラディオの鎧に反射して眩しい。
それがどうにも、時間に急いているように見えたから。
「ああ、初めまして。ガラディオと申します。お初目にかかります。
見ての通りバタバタとしていて、愛想がなくてすみません」
珍しく丁寧な話し方と、よそよそしい態度。
それが寂しくもあり、新鮮でもあった。
「私にも、エラに話すように気兼ねなく接してください」
そう言ってしまった後で、大失言だと思っても遅い。
「……エラと話している所を、いつかご覧になったので?」
「い、いえ。その……エラが、あなたの事を教えてくれる時に……まるで兄について話すみたいに、慕っているものですから」
「……なるほど、そうでしたか。でも、ルネお嬢様はおしとやかなご令嬢だとお見受けする。
エラと接するようには出来ませんよ。きっとね」
最後のその一言だけを、気さくに話す騎士達特有の距離の詰め方。
彼がそうし出したのか、誰かがしたのを皆で真似しているのか、分からないけれど。
「……またお会いした時は、お茶をご一緒してください」
まるで令嬢みたいな事を言ってしまった。
「お約束は出来ませんが、いずれ。それでは、私は準備に戻ります。失礼を」
まるで別人のようだ。
彼に特別な想いを持っていたわけではない……はずなのに、初めてのふりをするのが、こんなに寂しいものだと思わなかった。
「ルネ……ガラディオにも、教えようか」
リリアナは、思いのほか寂しそうにする私を、見かねたのだろう。
「ううん……。これでいいんです。そもそも、それだと最初から話さないといけないですし」
「……そうだったわね」
「はい。別に、女の秘密というやつです。またきっと、仲良くしてくれます。彼なら」
「……そうね。ノイシュの令嬢にも?」
ミリアには、アメリアの発言も大きかったと思うけれど、バレてしまったので伝えた。
けれど、内緒にしてとお願いしたので、他に漏れる事はないだろう。
ただ、勘の鋭い人には今後も気付かれるかもしれないので、所作を変える必要がある。
それを伝えると、リリアナは抱きしめてくれた。
「……辛いわね。別人として生きるなんて……他に方法はないのかしら」
私は、首を振った。
だって、リリアナもシロエも、変わらずに側に居てくれるから。
アメリアなんて、前以上に懐いてくれているし。
フィナも、お作法を間違えると以前のように注意してくれる。
クセを変えるくらい、何という事はない。そう思える。
「大丈夫ですよ。寂しくなったら、しばらくはお義父様に甘えます」
「それは……あまり良くない気もするけど」
そう言って、リリアナは頬にキスをしてくれた。
「次からの運搬は、ルネにも手伝ってもらうからね? 行ってくる」
「……はい。お気を付けて」
私から離れると、リリアナも馬車の群れの中に行ってしまった。
――ミリア達令嬢の友達は、またきっと、すぐに同じくらい仲良くなれる。
でも……。
ガラディオは、何度も一緒に戦って、その度にひとりで突っ込むなと怒られて……。
私を護るために、片腕が使えないくらいの怪我を負わせてしまった事もあった。
そのせいで機嫌の悪いガラディオを初めて見たり、エラの剣で、その傷を癒したり。
色々とあった。
エラの中に居たせいで、女である事をこれでもかと感じさせられて、彼の強さへの憧れは確かにあった。
エラはもしかすると、恋心を抱いていたかもしれない。
私は……。
――私も、感覚を完全に共有していたから、同じ気持ちだったのだろうか。
初恋を失ったような、何とも言えない切なさが残る。
「ガラディオ……」
リリアナに、会っておきなさいと言われるまで、忘れてさえいたのに。
「ガラディオ」
私はもう、人間ですら、なくなってしまったから。
それに……エラは、まだ彼の事を気にしているかもしれない。
もしかしたら、はっきりと恋心を自覚しているかもしれない。
あの子は、本当に女の子らしくて、可愛い。
だから、年の差はあるだろうけど……彼も、エラを気に掛けているかもしれない。
(もやもやして、気分が悪い)
さっきまで、あれほど自信に満ち溢れていたのに。
オートドールの体なのに、感情まで備わっているのだろうか。
「エルトア……もしそうなら、悪趣味にも程があるわね」
こんな時は、お義父様の秘蔵の、エラも飲んだと言うあのお酒を飲みたい。
悪趣味ついでに、きっと酔えるだろうから。
――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」
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どうぞよろしくお願い致します。 作者: 稲山 裕
週に2~3回更新です。
『聖女と勇者の二人旅』も書いていますので、よろしくお願いします。
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