第六章 二十四、以前のエラ
第六章 二十四、以前のエラ
屋敷の門から庭を抜け、玄関扉までもうすぐというところだった。
何と言って謝ろうかと歩いていると、「エラ様!」という声と共に、扉を押しのけるように出て来たアメリアが、飛びつくように抱きついてきた。
「エラさまぁぁ!」
「アメリア……ごめんね。ごめんなさい。心配かけて、本当に……」
そしてすぐに、フィナとミリアも目の前に来ていた。
「ミリア、フィナ。遅くなって、ごめんなさい」
頭を下げたかったけれど、アメリアがしがみついて離れてくれなかった。
「エラ様。どこもお怪我はございませんか?」
涙を堪えているフィナが、震える声で、そして真っ直ぐ私を見ている。
「うん。大丈夫。服はその……破れちゃったんだけど……」
衣を上手く纏っただけの姿も、隠し事があるのだろうという目でじっと見られて、追及されている。
「お話は後でお聞かせください。とにかく、ミリア様がどれほど、お心を痛めておられた事か」
どうにも、フィナに怒られるのは本当に胸にくる。
それに加えて、とんでもなく大規模な捜索部隊を組んでもらったことには、お義父様からも補償を手伝って頂かなければならない程の大事。
「う……ミリア……。本当に、お詫びのしようもなくって……ほんとに、ごめんなさい。伯爵やお兄様方、騎士達も街の人達も、皆さんで捜索してくださって……」
だんだん、ミリアの目を見られなくなっていった。
視線を外して……下にはアメリアがくっついているから、さらに斜め下に目を逃がした。
「エラ様。ご無事だったのが何よりなのです。
私は……責任感の強いエラ様に、なんという事をお願いしてしまったのかと……私の方こそ、お詫びしなければなりません」
……そう言われるとさらに、自分の浅はかな行動がどれほど愚かだったのかと、心臓が圧し潰されるくらいに苦しくなった。
もう、どこかに逃げ出してしまいたい。
「エラ様。きちんとミリア様の目を見て仰ってくださいませ」
ものすごく怒っている時のフィナは、抑揚のない完璧な敬語を使う。
「……ごめんなさい」
言われたままに見ると、ミリアは涙を零していた。
「――っ! ミリア。許して。いたずらに時間を潰していたわけでは、ないんです。その……色々とあって……。ごめんなさい」
言い訳ではなくて、時間を戻したい。
……でも、それだとカミサマは体を得られなかった。
どうすれば、正解だったんだろう。
ミリアの役に、立ちたかったのに。
まさかこんなに……こんなことが起きるなんて、想像できなかった。
予測出来る人がいるなら、その予測法を教えてほしい。
「エラ様。私は、本当にご無事で、それだけで、嬉しいのです。もう謝らないでください。でも……きっとご無理をしたのだと。それは少し、怒っています」
そう言いながらミリアは、一歩こちらに寄ると、アメリアの横から私を抱きしめた。
「ミリア……」
私と同じような背で、同じように細い体。
その背に腕を回して、応えるように抱きしめ返した。
フィナもいつの間にか、アメリアと少しずれて私に抱きついている。
「フィナも……きっと、皆を励ましてくれてたのよね。ありがとう。ごめんなさい」
背の高いフィナは、私の耳元で首を振った。
しばらく。と言っても、ほんの数分だったと思う。
短い時間抱きしめ合って、ミリアが最初に離れた。
「そろそろお屋敷に入りましょう。お食事もお風呂も、ご用意してありますから」
こんな私を労ってくれることが、本当にありがたくて、そして申し訳なかった。
ただ、本当に気付いていなかったのか忘れていたのか、初めて見る様な目でカミサマを見ている。
凝視に近い。
「そちらの方も、ご紹介頂きましょうかエラ様。どこか、お会いしたような雰囲気の方ですが」
フィナは最初から聞くつもりだったらしい。
それにしても、どうしてそんなに勘が鋭いのだろう。
「この人は、その……」
さっきの設定を言うべきか、この二人……ミリアにも、本当のことを言うべきか……。
「私、この人知ってると思います。エラ様が、二人になったんだと思います」
アメリアの突然の言葉に、私は目を見開いた。
それを見逃さないミリアとフィナが、同時にこう言った。
『以前の、エラ様ですよね……?』
二人は自分達で言っておきながら、その二人で顔を見合わせては、首を傾げている。
「言っておいて何ですが……」と、フィナ。
「私は、何を言っているんでしょう?」と、ミリアも続けた。
「あ~……。あはは……」
こんなことが、あり得るのだろうか。
私は、誤魔化しきれない時はどうしたらいいのかと、カミサマに助けを求めた。
振り向くと、ちょうど夜明けの光が伸びたところだった。
カミサマは、淡く青い光と赤い日を受けて浮かび上がり、本当に神々しく見えた。
黄金色に輝く長い髪と、涼し気な青い瞳。白く透き通った肌は、それが造り物だとは微塵も感じさせない。
物憂げな顔で、少し横を向いていたその角度が、絶妙な艶っぽさを醸し出していた。
「カミ……サマ」
一瞬、何を言おうとしていたのかを、見惚れて思い出せなかった。
「うん……。ええと…………皆、正解です」
(ああ……言っちゃうんだ)
透き通る可憐な声も、そのすらりとした体に合っている。
理想の声。
さっきまでも聞いていたはずなのに、光の演出があまりに素晴らしいせいか、相乗された美を意識せずにはいられない。
告げられた三人も、どちらに言葉を失っているのか、分からないようだった。
「えっと……詳しい話は、お屋敷の中でしましょう? 良いですか? ミリア」
誰も言葉を発しないので、カミサマがミリアに問う事にしたらしい。
「あっ……。はい。ええ。どうぞお入りください……」
それから、ひとまずミリアの部屋に入った。
もちろんヘンリーや他の騎士も出迎えてくれたのだけど、「本当にごめんなさい。後でお話します」と、短く済ませて逃げるようにして。
彼らにも、改めてお詫びと説明をしなければならない。
そして、フィナがお茶を淹れてくれた後、私とカミサマが並んでソファに、ミリアが正面のソファに座った。
フィナとアメリアは、他家のお屋敷なのでと頑なに座らないので、真ん中のテーブルの横に立ってもらった。
私はお茶を一口飲むと、深呼吸をして……全て、話すことにした。
エルトアが話すなと言っていたけれど、この状況で隠しきることは絶望的過ぎる。
フィナとアメリアには話そうと考えていたから……ミリアにだけ、内緒にすることをお願いした。
伯爵達には、すでに嘘をついてしまっているから。
彼らには、そちらを信じてもらう。
……それにしても、この三人はどうして、すぐに気付いたのだろう。
私はそっちの話を聞きたい。
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どうぞよろしくお願い致します。 作者: 稲山 裕
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