第六章 十八、回遊都市エルドルアにて
第六章 十八、回遊都市エルドルアにて
(ど、どのようにして帰るって……)
そういえば、翼は光線で破壊されたんだった。
「意地悪を言ったのではないんですよ? 他に帰る方法をお持ちなのかと思いまして」
エルトアは私の様子を見て察したのだろう。
「いえ……翼を失ったので、帰れません」
悲しい。知らずに振るった一撃だったとはいえ、まさかこんなことになるなんて。
「安心しました。まさか生身でも飛べる力があるのかと。それと、翼は明日にはほとんど直ります」
「えっ! 本当ですか!」
焼かれてしまったのかと。もう会えないのかと思っていたのに。
「さすがはダラス・ロアクローヴの遺品。当時の軍用モデルは、我々の技術でも及ばない所があるのが悔しいですが」
「ダラス……?」
「知らずに使っているのですか?」
「……はい。偶然手に入れたんです。古代の物だとは知っていましたが」
「そうですか……。それとは別に、その剣を見せて頂きたいのですが、よろしいでしょうか」
表情からは、その感情が読めない。
でも、危害を加えるつもりがあるなら、こんな風に私が無事なわけがないのだし。
「ええ。どうぞご覧になってください」
帯剣ベルトから鞘ごと外して渡そうとすると、壁だと思っていた所から人が現れた。
「わっ」
「ああ。驚かせてすみません。その子に預けていただこうかと。最初から並んでいると、物々しく感じさせるでしょう?」
エルトアがそう言った瞬間に、左右の壁から人が数人ずつ現れた。
みな女性で、さっきの医療用おーと……何某さんと同じような顔をしている。
「皆、オートドールです。危害を加えるつもりはございませんよ」
「オートドール……」
その会話をしている間にも、最初に現れた人が剣を受け取り、そしてエルトアの所に持っていった。
それなりの重さなのに、受け取った瞬間さえ重さへの驚きがなかったのが、何か違和感を覚えた。
「ダラスが作った戦闘用ドールを、真似て造ったものです。彼のデザインは角ばったものでしたが、私は極限まで人に近付けてみました。やり過ぎたせいで、人が減ってしまいましたけれどね」
「はぁ……」
言っている言葉が、何一つ繋がらなくて分からない。
「まあ……やはり見事な刀身ですね。これほど透き通っているとは……オロレア鉱をここまで自在に加工するとは、さすがはダラス・ロアクローヴ」
(オロレア鉱?)
そのまま、エルトアは剣に見入っている。と言っても、剣を持つのはさっきの人で、エルトアは目配せをしながら剣の角度を変えさせているだけ。
「あなたが驚くほど、すごい物なんですか?」
私は、この部屋やオートドールという人達が、造り物かもしれないという方が信じ難いほどにすごいことだ。
「ええ。彼の居た時代から何千年と経ちますが、ここまで極限に硬く、そして折れない頑丈さ……それが両立しているのが有り得ないのです。実は、エラ様が気を失っている間に検査はさせて頂きました」
「……そうなんですね」
捕らわれたのだから、仕方がない。無事に生かされているだけでも、文句は言えないのだから。
「それに――」
エルトアの顔が、急に険しくなったような気がした。その語気が、私を今から問い詰めようとしているのが分かる。
「――この中に、ゴーストが居る説明をいただけますか?」
カミサマのことだ。
そんなこと、誰にも分かるはずがないと思っていたのに。
「それは……理由は分かりませんが、私の中から剣に、移ったのです」
「エラ様の中から?」
そこで私は、経緯をかいつまんで説明した。
「……なるほど。ダラスはそこまで技術化していた訳では、ないのですね」
「そこまで、とは」
「物にゴーストを宿すなど、在り得ないからです。偶然そうなったと考えた方が良いですね。古代種のエラ様。その力が、おそらくはオロレア鉱に馴染みやすいのでしょう」
「あの。オロレア鉱とは……?」
「ああ、呼び方が違いましたか? この剣も修理中の翼も、オロレア鉱で出来ているのです。このオロレア星で最も重く、硬く、加工困難な白い鉱石のことですよ。エラ様は何とお呼びでしたか?」
この単純な質問の答えには、あまり興味がなさそうな顔だった。ただ共通認識のために、仕方がなく聞いただけ。そういう表情だった。
「なるほど。我々は、白煌硬金と呼んでいます」
「白く煌めく金属ですか。どうしてそのような?」
でも、私の答えに少しだけ興味を示して、その目に光が戻る。
「その……古代種が扱うと、白く輝くのです」
私の答えに、エルトアは一度だけ大きく目を見開くと、そっと目を閉じた。
「なるほど……。全て辻褄が合いますね。貴重な情報を感謝致します。ならば――」
エルトアは、一人で納得しながら右手を少し上げて、指先で何かを操作するような仕草をした。
すると天井から、大きなガラスの筒が降りて来た。
「それに、こちらのゴーストを移せるかもしれませんね」
フッ。と微笑んだエルトアは、もう一度指先で何かに触れたような仕草をすると、そのガラスの筒がまた上がった。
――そこには、一人の美少女が立っている。
「それにこのゴーストを移しましょう。きっとご不便なさっている事でしょうから」
「えぇっ?」
この人は何を言っているのだろう?
またゴースト同士で、どちらが前に出るかという問題が起こるのに。
「また別の人に、カミサマを移すのですか? それだと、この人のゴーストはどうなってしまうんですか!」
「この人? フフフフフ。面白い事を言うのですね。いえ、それ程に、人間と差異なく感じて頂けたという事ですか」
私は、耳を疑った。
「これもオートドールです。ゴーストではなくネットワークリンクリーダー。今はリンクを切ってありますが。平たく言えば、最新型の人工知能を積んでいるだけの人形です」
「これが……人形?」
「ええ。これを……」
剣を持っていた人――オートドールが、カミサマの剣をその最新型というオートドールの足に掛け置いた。
「……思った通り。スペックが合えば移せるようですね」
(何が合えばと? この人の言葉を、あまり理解できないわ)
「動けますか? カミサマとやら。意識を、普段よりももう少し強く、体に巡らせてください。指令伝達が馴染んでいくはずです」
エルトアはそう言いながら、何やら満足気にウンウンと頷いている。
「疑似声帯もありますから、話せますよ」
彼女はそう付け加えた。
「あ……ぁ。ほんと、う、だ」
人の声と、何かの雑音が混じったような声。それが、目の前の美少女から発せられた。
そして、自分の手をしげしげと見ている。
「人工知能に半分預ければ、もう少し簡単に話せるはずです」
エルトアのアドバイスは、私にはさっぱりだけれど、カミサマには分かり易いようだった。
「……なるほど。こういう感じですか」
あっという間に、その容姿に似合った、可愛くて澄んだ声になった。
「古代種を兵器利用した意味が、ようやく分かりました。これほどの親和性を見せるとは、ダラスも知らなかったでしょうけれどね」
感情を見せなかったエルトアが、両手を胸の前で組んでまで喜んでいる。
「ダラスを、唯一超えたのです! 私が! 今この瞬間に! あぁ。科学者として何と、何と嬉しい事か……!」
両目を閉じて体をくねらせるエルトアは、まるで恋が叶った瞬間の乙女のようだった。
(いや……乙女というか、シロエの姿が浮かんだ)
「いいわ! そのオートドール、差し上げましょう。本当はエラ様を傷付けたお詫びを、別に用意しようと思っていたのですが。その代わり、時々検査させてください。この都市の位置情報は、都度お知らせしましょう」
「あ、あの。私は……この体、どう扱えば良いのでしょう」
本当に綺麗な声。
エルトアの様子を見ていたカミサマ……オートドールになったカミサマが、改めて口を開いた。
その長い金髪。青い瞳。整った顔立ちに白い肌は、絶世の美少女と言っても差し支えない造形で……。
程よく丸みを帯びた胸と、細い腰。続くラインも滑らかで、スラリと長い脚も美しい。
そして、人間よりも感情の乏しい表情は、まるで神秘的な生き物のようにも見える。
人に見えても無機質だったものが、今はカミサマが入っていて、ようやく本物の『人』として実感したような、不思議な気持ちだった。
だからか、今まで気にならなかったことがとても気になる。
(――裸のままなのよ)
「カミサマ、その前に服を……」
「あっ。本当だ」
――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」
と思って頂けたら、《《ブックマーク》》で応援して頂けると嬉しいです。
下にある☆☆☆☆☆にも、《評価》が入ると喜びます。
面白い!→星5つ。 つまんないかも!→星1つ。正直な感想を入れてくださいね。
もちろん星4~2つでも。
《感想・レビュー》も嬉しいです。
どうぞよろしくお願い致します。




