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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第六章 一、公爵令嬢の生活(一)

  第六章 一、公爵令嬢の生活(一)




「パパ。もう私、社交界に行くの嫌です……」

 お義父様のことを、お屋敷内ではパパと呼ぶようになった。

 きっかけは、侍女達からのリクエストだったのだから、何がどう変わるのか分からない。



   **



「あのぅ……エラ様と公爵様に、お願いがございます!」


 ある日。

 朝食を終えて、溜まった手紙を読むため部屋に戻ろうと立ち上がった時、呼び止められた。


「た、大変ご無礼申し上げるのですが、エラ様に、公爵様を『パパ』とお呼びしてみていただきたいのです」

 どうかどうか、と祈るようにされては、困惑顔で無視してしまうわけにもいかない。



「えぇ……っと」

 そんな失礼なことが出来ようかと思って、何といえば傷付けないかなと考えていたら、何のことはない。お義父様は乗り気だった。

 執務室に向う仕事モードのお顔から、一気にほころんだ。

「良いな。新鮮だ」


 そして、少しだけ寂しそうな表情になった。

「そういえば、今までそう呼ばせたことは無かったな」

 その「今まで」というのは、声のトーンから、王妃も含めてのことだと分かった。



 王家と盤石の関係を築くためだったかは知らないけれど、結果的にそうなることも予見しての教育ともなれば、とても厳しかったのだろう。

「よかろう。屋敷内では、今後はワシをパパと呼べ。よいな? エラ」

「え、ええ~ッ?」

 でも私はというと、お義父様を仰ぎ見て、目を見開いて驚いた。



 この一連の流れは、全く予期していなかったのだから。

「なんだ、不服か?」

「い、いえいえ。とんでもありません。その……」


 私も、実の父親のことをそんな風に呼んだことなどない。

 殴る蹴るをする母親と、一緒になって私を蹴り飛ばした父親。

 そうでなければ、黙って見ていただけの、憎い父親。

 夜に少ししか会わなかったから、すっかり忘れていた。


(やだ。つまんないこと思い出しちゃった。あいつも、いつか……)

 ――いや。忘れよう。

 私はもう、お義父様の娘なのだから。



「……嬉しいです。おとう様のこと、そんな風に呼んでもいいなんて」

「そうか! エラも喜んでくれるとはな! どれ、今呼んでみてくれ」

「えっ」

「やはり、無理に言わせておるのか……」

「ちがっ、ちがいますよ? こまっ……恥ずかしいだけです。いきなりそんな、パパだなんて……」

「うん? もう一度。もう一度言うてみてくれ。なかなかだ。なかなかに良いじゃないか」


 混乱していつの間にか、パパと言ってしまったらしい。

「……ッ。パパ!」

 勢い余って、ちょっと声が大きかった。

「おお……なんとも、こう……胸に響くな」

 何やらお義父様は、わなわなと打ち震えていらっしゃる。



『あぁ……』

 と、声を漏らしたのは侍女達だった。

『尊い……』

 一体何が、尊いのだろうか。


「あ、あの。もうお部屋に戻っても……?」

 おずおずと、お義父様を見上げて言うと、少し寂しそうな顔をされた。

「う~む……。お部屋ではなくて、執務室で読みなさい」

「ふぇっ?」


 手紙読みに追われているのは、お義父様も知っているからだけど。まさかそんなことと言うなんて。

「ワシと一緒では、嫌か?」

 そんなことを言われて、断れるわけもないし……それに別に、嫌だとかは何もない。

「い、いえ。驚いただけです。おとう様…………パパ」

 呼び慣れないのと、改めて期待されると……とっても恥ずかしい。



 呼ばれたお義父様は、少しニヤついている。

「ふ。ふふ。よし、それじゃあ行こうか、エラ」

 これは、抱っこされる流れだ。


 そう思ったのが先か、お義父様が抱き上げたのが先か。

 抱えられた瞬間に、私はその厚い胸板に頭を預けた。

 お義父様にお姫様抱っこされるのも、慣れたものだ。


『ハァァ……』

 という、甘いため息を後ろに聞きながら、執務室に運ばれてゆく。

(お手紙……お部屋なんだけどな)



 侍女にお願いをするのもまだ慣れないから、取って来てもらうのも気兼ねしてしまう。

 そう思っていたのは、彼女達を侮っていたからだと反省した。

 ここには、気の利いた侍女達しか居ないらしい。

 すぐにお茶と一緒に運んで来てくれたのは、魔法みたいだと思った。







お読みいただき有難うございます!

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