第五章 十三、平穏な時間
第五章 十三、平穏な時間
あれから数日、私は平穏に暮らしている――。
黒いトラに破壊された、お義父様のお屋敷の修復が終わっていたので、私は新しくなった自室でのんびりとしていた。
朝の陽光がお部屋いっぱいに入って、暖炉とは別の温もりを感じさせてくれる。
葉の落ちきった枝が、少し強めの風に揺られているのを外に見ながら、自分は暖かい部屋でゆったりしている。
この穏やかな生活が、より際立つ瞬間だ。
――それを実感できるのが、この上ない幸せだと思いながら。
と言っても、鏡の前に座らされ、侍女達のオモチャになっているけれど。
シロエもフィナもアメリアも、皆ファルミノに置いてきたから、ここぞとばかりに他の侍女達が私の取り合いをしているのだ。
「エラ様、今日はアップにしてみましょう。編み込みをこちらにこう回して……」
「お召し物も、今日こそ三度は変えていただきますよ。何しろ、公爵様が随分と買い込んでおられましたから。寸法直しがほとんど必要なかったので、たくさん着れますからね?」
シロエやフィナと、されることはあまり変わらないのだと改めて実感した。
お小言が少ないのが、せめてもの救いだろうか。
ただ、気心の知れたシロエやフィナと違って、今日は寝ていたいなどのワガママを言い辛い。
「そういえばエラ様、アーロ王子は謹慎を言い渡されたそうですよ」
「ちょっと、そういう話は……」
侍女達は噂話が大好きだ。そしてその情報量は、侮れない。
「そうなんですか? お義父様もあまりその話をしてくれないので……他に何か聞いたことはありますか?」
私は、思い出したくない反面、やはりその後どうなったのかを知らない部分を、聞いておきたいと思っていた。
「それがですね、国王様に随分とお叱りを受けたらしいんですよ。公爵様にやられた時よりも、しょんぼりとしていたって話です」
随分と具体的な噂だなと思う。
「それって、どこから情報が入ってくるんですか?」
国王の側近くらいしか、知り得ないことだろうに。
「それは……謹慎処分という話を聞けば、誰かが尾ひれを付けて話すものですから。私も、使いで備品の買い入れに行った先の主人から聞いて、その主人は……誰かに聞いたらしいです」
結局、街中のウワサになっているということらしい。
「そうなんだ。でも、アーロ王子以外は、他の誰も処分されずに済んだんですね」
きっと、そういうことだろう。
そんな話で盛り上がっていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ?」
この部屋は、今や侍女が頻繁に出入りしている。わざわざノックに返事をするのが、少し面倒に思うくらいに。
「お手紙が届きました。その……王室から。アーロ王子からです」
「えっ?」
という私の声に重なって、他の侍女達も同じく小さな悲鳴をあげた。
「アーロ王子から……ですか」
「……はい」
読まないわけにもいかず、私は手紙を受け取り封を開けた。
王室の封蝋は、特徴的な花の香りと、王家の紋章が重く厳めしい。
皆が固唾を呑んで見守る中、その文に目を通していく。
「……召喚状だわ」
「ええっ?」
「そんな! まだエラ様に文句をつけるつもりでしょうか!」
騒ぎ出す侍女達は、私を想って口々に文句を言い出しかけた。
「こ~ら。ダメですよ? うっかり王室を悪く言うと、不敬に問われますよ? ここだけならともかく、と言いたいところですけど、どこで誰に聞かれるか分からないですからね」
扉の外には、護衛騎士も立っている。それが、王室寄りの人かどうかまでは、はっきりと分からないことだから、気を付けるに越したことはない。
ともかく、召喚に応じなくてはいけない。
「急だけど、明後日に王宮の、アーロ王子の自室に招かれたようね。お義父様とリリアナも一緒みたい」
護衛の随伴も、全員の武器の携帯も許可するとある。
随分とこちらに合わせた召喚だから、何か本当に話をしたいのだろう。
「とても誠意のある呼び出しだから、文句を言ってはいけなかったわね。面と向かって、お話をご希望されているみたい。だから、皆も安心して? ね?」
手紙の内容を知らない侍女達に、必要な情報を伝えた。
私も、アーロ王子と聞いて嫌な顔をしてしまったので、怒るような内容ではなかったことも。
けれど、私に、そしてリリアナにも危害が及ぶことをしたのだから、私と皆の反応は正しいものだと思う。
そんなことを考えながら、昼食の時にお義父様とリリアナに話すと、やはり二人にも、同じ内容の手紙が届いていた。
「面倒なやつだ。しつこい男とは関わりたくないんだがな」
お義父様は一蹴したかったようだけど、これで最後ということで、行っておきましょうと説得した。
なぜなら、これほど私を狙う意味を、少しでも知っておきたかったから。
それを張本人から聞けて、しかもお義父様もガラディオも一緒で良いという条件は、私にとっては魅力的にさえ思えたのだ。
罵詈雑言を聞かされるにしても、それならそれで、大した理由などないのだと思える。
であれば、私にとっては、この召喚は渡りに船。
皆から愛されていても良いのだという、免罪符を貰いに行くようなものなのだから。
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『 オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』
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