表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/295

第五章 九、出陣の準備

   第五章 九、出陣の準備



 準備に一週間というのは、長いなと感じていた。そのはずなのに、間際になると時間の足りなさに、皆は焦りを感じている。


 騎兵三百と、それを支える兵站を含めた、水食糧。その往復と、王都の手前で陣を取る期間が最長で二週間。これに不足があると兵の士気は下がり、ともすればつまらない負けを引き込む。

 兵数はたった三百であっても、街の貯蔵から用いるものだから、なるべく無駄のないようにしっかりと管理しなくてはいけない。


 ガラディオに付いて、実際の指示の出し方やチェック方法を学んだ。部下任せにして、ミスを見逃すと取り返しがつかないことには必ず、自分も確認した方が良いと教わった。



 後は、作戦についての会議が繰り返された。これに何よりも、時間を取られてしまっていた。

 なぜなら、攻め滅ぼしに行くわけではないから。本当に戦闘行為をするのか、それが決めきれなかった。

 私は何も考えずに、ざっくりと「攻めにいくのだ」と思っていたけれど、考えてみれば味方の所に攻める覚悟で向かうのだから。決められないのは当然だった。



 とりあえずとして、戦闘もやむなしとなっても、相手に先手を取らせる事。これが決まった。

 でもそれは、こちらに損害が出る可能性が大きい。

 その損害は、人命という代わりのきかないものだ。

 ならば、先手だの後手だのと言っていられないのではないか。

「だけど」「しかし」と、話はあまり進まない。




 じれったさもあったけれど、私は、自分が狙われる理由も、話し合いのために戦うかもしれない理不尽さも、いまいち理解出来なかったので聞いてみることにした。

「話をしにきたと言っても、戦闘になるんですか?」

 本当に素朴な疑問だった。私にしてみれば、話をして、「私を狙うのをやめてください」と言いたいだけなのに。



「それで話をしてくれる相手ならね……でも、あの根暗お兄様なら、きっと謀反だ何だと理由をつけて、私も含めてエラを殺そうとするわ。その口実を作らせない方法が見つからなくて、正面から行ってやろうと思ったんだもの」

 リリアナは結構、大胆だ。



「国王様を通して、止めてもらうことは出来ないんでしょうか」

「お父様に何を言われてようと、分かりましたと言っておきながら勝手に動くでしょうね」

「厄介な人ですね……なりふり構わないというか」

「国の暗部を動かしてる人だからね。一応」

「えっ? そうなんですか?」

 それは、私のお義父様がしていたはずなのに。



「ふふ。勝手に、やってるつもりになってるだけよ。本当はあなたの大好きな、あなたのおとう様が担ってくれているわ」

 それを聞いて、なんだか安心した。

「そうですよね。よかった……」

「良かったの? そういうの、ほんとは苦手でしょう? 怖くないの?」

「それは……怖いですけど。でも、その怖さは、おとう様の一部のような気がするので」



「アハハ。ほんっとうに大好きなのね。おじい様が聞いたら大喜びするわよ?」

 リリアナにとってのおじい様で、私にとってのお義父様。

 なんだか、リリアナから取りあげてしまったような罪悪感はあるけれど……それでも、お義父様は私の……と、思ってしまう。



 そのお義父様が暗部の統括であるからと、むやみに怖がったり毛嫌いしたりはしない。するわけがない。

 私にとっては、厳しくも優しい方で、そして私のことを本当に、大切に想ってくださっているから。



「そういえば、おとう様と連絡をとって、例えば相手よりも多い兵数で圧をかけたり……それで血を流さずに、話し合いだけすることは出来ないんでしょうか」

 これはきっと、とても良い案だと思った。なぜ、皆気付かなかったのだろうと。


「エラは賢いわね。でも、通信手段が限られていて、今は連絡が取れないのよ。鳥を使っているのは兄も知っている事だから、まず射殺されちゃう。こっそり伝達するために王都に忍び込もうにも、監視が厳しくなっていてまず無理なのよ」

「どこからも、忍び込めませんか?」

「王都を熟知している同士だもの。忍び込めるような所は入念に見張りが立てられているわ」

「あぁ……」



 私の考え付くことなど、とうの昔に考え尽くされていた。

 だからこその、正面からだったのだ。

「でも、あなたが魅了してくれたあの三百騎は本当にありがたいわ。もし戦闘になっても、それは結局、兄の兵が削り合うだけだから。かといって、犠牲を出したいわけじゃないから、難しいのだけどね……」



 こちらを亡き者にしたいと考える人と、どうしたら話し合いだけで済ませられるのだろう。

「あの……私が翼で飛んで、そのお兄様の寝室なりに飛び込むのはどうでしょう? 兵が傷付くことは無くなりますよね?」


「……今は、無理かもしれないわね。行けばすぐに兵が雪崩れ込んできて、戦うか逃げるかの選択になると思う。もしも完全に囲まれてしまったら……あなたの望まない形になるかもしれないわ」

 どう転んでも……何人かは殺さないと、話が出来ないという状況らしい。


 だから、ガラディオもリリアナも、作戦参謀の騎士さん達も、ずっと唸っていて決められないのだ。



 ――(人間どもはいつもそうだ。身内で殺し合う)

 突然のエイシアの念話に、私は驚いて声が出そうになった。


 ――(エイシア……急に話しかけないでよ。ヘンな声出しちゃうとこだった)

 ――(知った事か。それよりも、貴様が出る兵全てに、魅了を掛けてしまえばよかろう)

 ――(あぁ~! そうね。それを提案してみるわ)

 ――(フフン。そうするがいい)

 なんて簡単なことを忘れていたのだろう。



(……でも、エイシアと話した記憶の中に、魅了を掛け過ぎて人魔は滅んだ、みたいなことを言っていなかったかしら?)

 これをエイシアに問いただしたところで、シラをきられるかもしれない。

 ……かといって、他に良い方法が思いつかない。



「あの……」

「うん? どうしたのエラ。また何か思いついた?」

 リリアナは普段と変わらずに、優しく聞いてくれた。会議は連日平行線のままで、皆少しピリついているというのに。



「えっと、もしも戦闘になりそうになったら、私の魅了で治めてはどうでしょう。相手の数にもよりますが……でもたぶん、何千人居ても大丈夫だと思います」

 きっと、この視界に入った者全てに、魅了を掛けることが出来る。何千人なんて試したことは無いけれど、自分の中の感覚が、そうだと言っている。



 でも、リリアナは少し、訝し気な顔をした。

「それは……エラは大丈夫なの? その力を使う事で、負担になったり倒れたりしない? 私はそれが心配よ」

「わぁ……ありがとうございます。でもきっと、大丈夫です」

 根拠を聞かれても、答えられないけれど。



「本当に? そうね……う~ん……」

 リリアナは考え込んだ。きっと、その作戦に穴が無いかを考えているのだと思う。


 そんなリリアナをじっと見つめていると、ガラディオが一度だけ大きく首を振った。

「待て。不確実な事を、戦闘寸前の作戦に組み込む事は出来ない。やるなら敵兵が出た瞬間、見えた瞬間から使え。それで出鼻を挫く方がいい。無理だとしても、無理だったと気付けるのは早い方がいいからな」


「なるほど……」

 さすがはガラディオ。言われてみれば、その方が絶対にいいと思えた。


「そうね。ガラディオの言う通りね。それじゃあエラ。悪いのだけど、魅了を使ってもらう事にする。で、それでもダメだった場合は、こちらも覚悟を決めましょう。他に手が無いのだから、戦うしかないわね」



 それに、考える時間がもう残っていない。

 出陣予定日は、もう明日なのだから。



 それで決定だという流れにしたかったのか、本当にそれしか無いと踏んだのか、ガラディオは話を進め出した。

「よし。そうと決まれば、あとは布陣を決めてしまおう。敵の数があまりに多い場合は撤退戦になるから、それに合わせた陣形がいい」



 そこからの会議はテンポが速く、一応ちゃんと聞いてメモも取ってあるけれど……私には少し難しかった。  


 この出陣が終わったら、ガラディオに教えてもらおう。

 いつかアドレーとして、戦場の指揮を執るかもしれないから。

(そんな事には、なってほしくないけど……)


挿絵(By みてみん)


いつもお読み頂き、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ