第五章 七、カミサマが与えたもうたもの
第五章 七、カミサマが与えたもうたもの
カミサマが帰ってきてくれてから、一か月が経とうとしている。
冬の厳しさが増して、毎日雪が降る。
これまで過ごした二度の冬よりも、今年はかなり寒い。
それでも、私の心にはお日様が射したかのように、暖かさが宿っている。
カミサマが側に居るというただそれだけで、私はとても心強かった。
カミサマは剣の中に宿ったことで、本来持っていた力を遺憾なく発揮できたみたいだった。
その力はやっぱり凄くて、あのガラディオと同等に戦っていたのだから。
ガラディオ曰く、「当てる体が無いんだ。俺が不利過ぎだったろ」なんて、言い訳をしていたけど。
でも、私のカミサマの事だから、その時以上の奥の手さえ、持っているかもしれない。
――とにかく、私は安心した。
嬉しさはもちろんのことで、心が落ち着いたのだと思う。
そのせいか……それとも、そのお陰か……。
私は、今のところ気を張り詰めることが無くなった。
それに、エイシアのいじわるにも腹が立たないし、ガラディオのデリカシーの無さにもイライラしない。
リリアナには毎日、適度に甘えて幸せな時間を持てるようになったし、シロエにも少し甘えることで、彼女の過剰なスキンシップを減らすことも出来た。
漫然とした不安がある時はエイシアに延々とグチを聞かせて、それで整理できた不安をリリアナに相談する。
そうした良い循環が生まれて、私は今、本当に平和な気持ちで過ごしている。
暗殺の刺客は、二週に一回くらいの割合で送られてきた。
けれど、警備の騎士やエイシアがいち早く気付いて、ガラディオと私が万全の状態で対応した。
翼を着けた私に人の攻撃が通るはずもなく、そしてカミサマの剣が、刺客達を行動不能にして制圧する。
ガラディオは、私が討ち損なったり二手以上で攻めてきた時に、颯爽と処理するだけで済む。
そのくらい、今の私は安定している。
だから、こう思う。
落ち着いて冷静な私には、触れられるような人間はもはや存在しないのではと。
これは増長したわけでも、驕りや油断があるわけではない。
一度に十人の騎士達、もしくはそれ以上と同時に対錬しても、誰も私に触れられないのだから。
それに……私には、魅了の力もある。
私はただ、翼とカミサマの剣に護られながら、本当に危ない時には魅了も使えばいい。
それは、森での獣討伐でも変わらなかった。
どんなに巨大なクマでも、カミサマは大抵ひと薙ぎで倒してしまうし、オオカミどもに囲まれても、翼がその爪や牙を容易く防ぐ。
「私って、もう最強だよね」
ガラディオに言うと、調子に乗るなと言われる。
エイシアに至っては鼻で笑う始末。
でも、それに対して反抗したりしないのが、私の成長だと思う。
――もしも仮に、カミサマの剣と同じものが他にもあったら?
そう考えるようになって、私はカミサマと対錬をするようになった。
羽を着けていれば、致命傷を受けることもないし、光線も防いでくれるから。もちろん、手加減はしてもらっているけれど。
その中で学んだのは、光線の射線に入らないようにするということ。
剣先がこちらに向いたら、どんなに離れていても、体を僅かにずらす。これは、距離が近くても僅かであるのが重要で、避けようと思い過ぎると動きが追い付かなくなる。
体の中心を射抜かせないのが大切で、他は最悪諦める。という気持ちも必要だった。
でも、そうした私の注意の向け方で、翼の動きが格段に変化した。
射線に留まらないように、自分で気を付けなくても自動で動いてくれる。そのお陰で、私はもっと視野を広げることが出来るようになった。
弓兵を何人も置いて、それらの射線を同時にいくつか、把握できるようになった。
そうした訓練と成果は、さらに自信へと繋がった。
そんなことをしながらも、街の中をエイシアに乗って練り歩くという、『エイシア偶像化計画』も行った。
リリアナの思惑通り、半月もしないうちにエイシアと私の人気は高まり、ファンクラブや追っかけが出来るほどになった。
「言った通り、上手くいったでしょ?」
自慢げなリリアナに、ガラディオはため息交じりにも、頷くしか出来なかった。
「寒いからこそ、エイシアに埋もれられる時間はかなり人気が高かったですね」
私は、エイシアが内心は嫌がりながらも、私のグチを延々聞かされる方が嫌で、やむなく従っているのを思ってニヤついてしまった。
「エラも嬉しそうね。あの子も嫌がらずに頑張ってくれたのはすごいことだと思う。エラが言い聞かせてくれたお陰よ」
ある意味、言い聞かせではあったけれど……詳しい内容は黙っておこう。
「フフ。頑張りました。だから今日も、頭を撫でてくださいね」
時間がある時、眠れない時、何かのご褒美の時など、リリアナに撫でてもらうのが幸せだった。
「シロエにもさせてあげないと、またスネるわよ~?」
「シロエには、私から抱き付かないと……撫で方がまたいやらしくなってきてるから」
「アハハ。エラから抱き付くと、シロエってば感動して固まってるものね。先手を取るようになったのは、思い切ったなぁって思ったわ」
ずっと受け身だった私は、この一か月で変わった。
「カミサマが側に居てくれて、私が強くならなくても大丈夫だって安心できたので。逆に、図太くなれたっていうか……」
「いい事ね。図太くないと、貴族も王族も、やってられないもの」
そんな会話が出来るようになるほど、私の心は本当に安定していた。
エイシア偶像化計画は、半月で成功を収めたと言って良かった。
その上、ひと月も経った今では、エイシアのぬいぐるみや木彫りの置物、それに跨る私が付いた、高価な木彫りセットも売られて……。
果てはエイシアの型を焼き付けたお菓子や、もはや何も関係のない出店も並んで賑わうという、ちょっとしたお祭り状態だ。
「あとはこれで、王都への街道を安心して行き来出来ればね」
街の人が安全に移動できるようになるには、獣の定期的な討伐が必要になる。
「近くの森を、私の翼で伐採してしまうのは、何か影響が出ますか?」
「そうねぇ……狩猟の獲物まで居なくなるから、どうなんだろう。でも試しに、少しだけ森を削ってみてもらおうかしら……」
そう言うと、リリアナは考え込んでしまった。
もしかすると、近いうちにそういう計画も立てるかもしれないなと思った。
――私は……その意見が間違っていても何でも、自分に出来そうなことを発案できるのが嬉しい。
出来ることが増えたと思うし、何より、持てる力に対する自信がついたことで、年齢的な成人ではなくて、本当の意味で大人の仲間入りが出来たような気がしていた。
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『 オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』
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