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【完結】なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~転移TSから幸せになるまで~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』  作者: 稲山 裕


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第一章 五、万全の環境(二)

 


 ――少女が手にしていたグラスは、空になっていた。


「……エラ様、飲み干さないでいいですと言ったのに、全部飲んじゃってますね」


「あ~……ブランデーを入れ過ぎたんじゃないの?」



 シロエとリリアナの二人は、ふわふわと揺れている銀髪の少女を心配そうに横目に見つつ、こうなってしまった過程を思い返していた。


「数滴しか入れませんでしたよ? お嬢様、足しました?」


「しないわよそんな事」


 疑いの眼差しを向けられたリリアナは、不満気に答えた。



「お酒、弱いのかもしれませんね」


 シロエは困ったなぁという顔をして、別室に連れ出そうかと思案しているようだった。


「ワシが少し足しておいた。気がほぐれると思ってな」


「えっ? いつの間に?」


「ウィンお爺様……どのくらい入れたのです?」



 リリアナとシロエは、公爵に非難の目を向けると同時に、いつ入れたのかが不思議だった。


 二人ともこれだけ近くに居て、グラスもシロエが用意して手渡したのだから、事前に入れる事など出来ないはずだった。


「なに、このスキットルからちょっとだ」



 スキットルを持っていた印象が残っているのは、少女だけだった。


 そう言えば馬から降りる時に手にしていた。と、少女には珍しかったので記憶に残っていた。


 だが、リリアナとシロエは、公爵のそうした姿に見慣れていたせいで、持っている事を見落としていたのだ。



「お爺様、それ、特別強い火酒ですよね?」


「ただでさえブランデーを垂らしていたのに、それを混ぜてしまわれたのですか?」


「しかも、お爺様のちょっとって……一口分は入れたでしょう……」


 二人は交互に、公爵を責めた。



「いや、せっかくの場だし、ただのジュースでは寂しかろうと思ったのだ……先に入れておるとは思わなんだ。すまん」


 この二人に怒られては、さすがの公爵もたじろいでいる様子だった。



「もう……。エラ様、大丈夫ですか? 気持ち悪くありませんか?」


 公爵から取り上げるように、シロエは少女を抱き寄せた。


「ふぁい。だぁいじょうぶ、えす」



「あぁもう、ろれつが……。少し眠そうですね。お部屋に行きましょうか」


「い~ぇ。はしめぇ、おやこ、なのえ。いっしょい~、いま、す」


 シロエは、酔った人の言葉も聞き慣れてはいるが、子供の酔っ払いには敵わなかった。



「何と仰ったか、お嬢様分かりますか?」


「……親子、とは言ったわよね。たぶん。それくらいしか……」


 少女は眠そうにしているので、半分は夢の中の言葉なのではと二人は思っていた。



「やはりお部屋に……」


 シロエが言いかけたところで、公爵が「待て」と言った。


「エラは今、初めての親子だから、一緒に居たいと言ったのだ」


 確信めいてそう告げる公爵に、二人は白い目でもって返事をした。



「な、なんだ。信じないのか。ならばもう一度聞いてみろ。ワシの膝の上が良いと言うはずだ」


「はぁ……エラ様、とりあえずこのお水をお飲みください。少しは落ち着くかもしれません」


 渡されたグラスを両手で持ち、少女はごくごくと水を飲み干した。



「ぷあ……」


 息をつくその姿は、十二歳よりもさらに幼く見えた。


 気を張り続けていた姿ではなく、今は酔っぱらった事で、本当の素の状態なのだろう。



 その愛くるしい容姿と宝飾のきらめきが相まって、いつまでも見ていたいと、シロエは言葉を失い見惚れていた。


 それと同時に、自分が今までお世話をしていた少女は、本当に緊張を強いられる状況で生きていたのだと、さらに胸を打たれてしまった。


 近頃はくだけて話してくれていると、そう思っていた。


 が、それも嘘ではないが心から安らいではいなかったのではと、悲痛な想いが込み上げてきた。


 本当はまだもう少し、幼かったのではないかと。



「うぅ……エラ様、あなたと言う人は……」


 異星からゴーストを転移された。という話は、シロエは半信半疑のままだった。


 しかし、そうではなくても、この少女はずっと虐げられて生きてきた事は事実だった。極度に衰弱もしていた。


 そんな少女が、どれほどの忍耐を強いられてきたのかは想像がつかなかった。


 想像さえ出来ずにいた自分が恨めしく、そして、少女への愛情が足りていなかったのではと、悔いた。



「私は……これからも、大切に大切にお仕えしますので……どうかもっと、心を許して甘えてください。


私には、甘えていただく事でしか分からない、愚かな不肖者ですので……」


 シロエは涙こそ(こら)えたが、言葉少なく耐える少女を思うと、胸の奥が締め付けられた。



「しろえ、なかないえ……」


 シロエの頭に、そっと小さな手が触れた。


 彼女の頭を撫でる小さな白い手は、強くなりたいのだと木剣を欲しがっていた。


 マメが出来るからと、強めの口調で(たしな)めてしまった、その小さな手。


 一体、どんな想いでこんなに幼い少女が、戦おうと考えるのか。


 自分は何も理解できていなかったのだと、あの時に戻ってお詫びしたいとシロエは思った。



「エラ様……」


 公爵とリリアナは、ただならぬ雰囲気のシロエに声を掛けられずにいた。


 何が彼女を悔やませているのか、想像がつかなかった。


 献身的にお世話をする姿は、リリアナはもちろんよく知っているし、公爵もそのように聞いている。



 幸いにも、まだほんの数分の出来事で、周囲は何も気づいていない。


 和気あいあいと食事を楽しみ、メイド達は飲み物や食事の給仕で目まぐるしく動いていた。


 十人ほどとはいえ、思いのほか食事のペースが速かった。


 彼らはかなり空腹だったのだろう。



 ガラディオを含む警備の者は数名が気にしていたが、出る幕ではないと状況を見守っていた。


「……すみません。このような良き日の席で、取り乱しました」


 苦しいのはエラ様なのに、自分が落ち込んでどうするのだ。と、気を取り直したのだった。


「ええと、そうでした。エラ様? この方のお膝が良いですか? それとも、私と一緒にお部屋で休憩なさいますか?」



 公爵の戯言だと思いながらも、一応聞くだけは聞いておこうという気持ちでシロエは聞いた。


「おせきえ、いたぁきます。おなか……すきまぃた」


 水を飲んだお陰か、ほんのり酔いが醒めたのだろう。


 まだ少し拙い口調だが、先程よりは聞き取れる言葉だった。



「おお……そうか、自分で食べるか。しかし遠慮はいらんぞ? お膝も悪くなかろう?」


 取り上げられて悲しかったのか、公爵はもう一度、自分の膝に乗せたがった。


 その言動はすでに、親バカのようになっている。よほど愛くるしいと思ったのだろう。


 しかし、少女は首を横に振り、シロエにも降ろして欲しそうにしていた。



「二人ともフラれちゃったわね。エラの方が大人みたいよ?」


 なんとなく状況が掴めたリリアナは、気持ちを持ち直したシロエをフォローしようと、二人を茶化した。



「り……リリアナお嬢様は候補にもなってませんでしたけどね」


「何ですって? 二人は勝手にエラを取り合いしただけじゃないのよ。そんな二人よりも、エラは私の方が好きよね~?」


 せっかくのフォローをしっぺ返しにされた仕返しに、リリアナはいつものように少女の取り合いに勤しんだ。


 シロエも気を持ち直して応戦している。



「おい……お前たちはいつもこんな事をしておるのか?」


『――そうですけど、何か?』


 即答で二人からの攻撃を受けて、「エラの教育に悪いだろう?」という言葉を、公爵は飲み込んだ。


 もしも間を置かずに言っていたら、もっと酷い事を言われただろう。


 ゾっとしながら、我が娘となった少女をチラリと見遣った。


 こんな二人に挟まれて平気なのだろうかと。



 だが心配をよそに、少女はそれには慣れた様子で食事を進めていた。


 視線に気づいたのか、公爵を見て「おいしいえすね」と笑顔を向けては、またお皿へと集中している。


 お酒のせいか不慣れなのか、ナイフとフォークに苦戦している様子が、公爵にはそれもまた、可愛らしく映っていた。




――「面白い」 「続き!」 「まぁ、もう少し読んでもいいか」


と思って頂けたらぜひ、この作品を推してくださると嬉しいです。



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どうぞよろしくお願い致します。  作者: 稲山 裕

週に2~3回更新です。



『聖女と勇者の二人旅』も書いていますので、よろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n4982ie/

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